主人公がボーダー隊員とわちゃわちゃするだけ 作:シールドを信じろ
「いやー、お前達のその制服姿も板に付いてきたな」
「アンタは顔が異国情緒過ぎて全然慣れないけどね」
「おい菊地原⋯!」
「ハハハ!相変わらずパンチラインが鋭いな菊地原!」
「すいません平後園先輩⋯」
「気にするなよ歌川、からかった俺が悪い。菊地原を前にするとからかわずにはいられなくてな」
「それ病気だよ。任務より先に病院行って来たら?」
「菊地原⋯!」
5月1日。少し早い気もするが、雨の香りが梅雨が近づいている事を教えてくれた。
今は放課後、俺は先月から学校でも後輩となった歌川と菊地原と一緒に帰路へついていた。今日は風間隊と組んでの混成部隊として防衛任務を行うからだ。
本来なら俺は一人一部隊でカウントされる事が多いのだが、桜子ちゃんの経験の為に色々な部隊と混成部隊を組んでいざと言う時の連携が取りやすくなるように働きかけている。それが今日は風間隊という訳だ。
風間隊。A級3位部隊で、つい最近歌川が万能手になる迄は攻撃手3人という尖りまくった構成の部隊。体を透明化させるトリガー「カメレオン」と、体のいたる場所からブレードを即時展開できる「スコーピオン」を用いた、クロスレンジでの連携を主とするコンセプト部隊だ。
透明化した状態では視覚情報が消え、仲間の位置を把握しづらくなるが、そこを菊地原の副作用『強化聴覚』で聴覚情報を強化する事でカバーする事によって成立する強力な戦術を用いる。
先程菊地原を前にするとからかわずにはいられないと言ったが、これは騒ぎ立てる事で聴覚情報を増やしたり、うるさくする事で菊地原にダメージを与える目的が、いつの間にか常態化してしまった事に起因する。
「まだ任務開始には時間あるし、夕飯奢ってやろうか?何が良い?」
「じゃあ寿寿苑」
「おい!そんな高いところ⋯!」
「いいぞ。ただ、制服に匂いが付くのはアレだし、着替えてから行こうか」
「い、良いんですか⋯!?」
「気にしないでいーんだって歌川。どうせこの人普段お金使わないんだし」
「そうそう。菊地原の言う通りだ、気にするなよ歌川。どーせだし他の二人も誘ったらどうだ?」
「うちの隊長、年下に奢られるなんて絶対しないと思うよ?」
「なら風間さんは自腹だな!」
「本当に良いんですか⋯?」
「良いって良いって。歌川は心配症だな」
「今二人から行くって連絡来た」
「早」
「ただ、風間さんはウチの隊員の分は俺が払うってさ」
「誘ったのは俺なんだから無理しないで良いのに⋯あ、桜子ちゃんにも行くかどうか聞かなきゃ」
という訳で、一度私服に着替えてから寿寿苑に向かう。店の前には風間隊の面々がすでに到着していた。
「遅かったな平後園。その体たらくではこの先の戦いには付いてこられないぞ」
「ただの焼肉ですよね?」
「お疲れ様です三上先輩!」
「桜子ちゃんこんばんは。
「さっき学校でも会ったのに律儀だね〜」
「ウチのオペレーターだよ?律儀なのは当たり前でしょ」
「そりゃそうだ。風間隊は全員そうだったな、お前以外」
「ぶっ飛ばすよ?」
「お前達、何をしている。戦場を前にして私語とは随分な余裕を持っているらしいな」
「風間さんさてはめちゃくちゃ腹減ってますね?」
「「ち、ちょっと待ってください!?」」
「ん?どうした?」
「い、今なんかおかしい所ありませんでしたか!?」
「おかしい所?確かに焼肉は戦場じゃないからおかしいな」
「そこじゃなくて!今、三上先輩が隊長の事お兄ちゃんって呼んでませんでした?」
「ああ、それは闇のゲームの代償だよ」
いつだったかに諏訪隊室で行われた闇の麻雀での結果で、三上ちゃんが最下位だった為に、罰ゲームとしてお兄ちゃん呼びをさせられた⋯という出来事以来、俺はお兄ちゃんと呼ばれるようになった。
オサノちゃんに負けると着せ替え人形にさせられてしまう為頑張ったのだが、3人まとめて夏凜ちゃんにボコボコにされたのは良い思い出だ。
いやしかし、確かに菊地原も始めて聞いた時は驚いていたな⋯ちなみに風間さんはそもそも当時諏訪隊室に居て罰ゲームを知っていた為驚く事はなかった。
「まあそんな所だ」
「な、なるほど⋯びっくりしました」
「もういいか歌川?俺は腹が減って仕方ない」
「遂に隠さなくなった⋯」
風間さんの食欲が限界に到達した為、店の中に入る。空いている席を探していると、見覚えのある1団を見掛ける。
「二宮隊の皆さんじゃないですか」
「⋯平後園か」
「奇遇ですねこんな所で」
「犬飼先輩の誕生日肉なの」
「なるほど。おめでとうございます先輩」
「どーもどーも」
「⋯あ、あっちの方が空いてるみたいなんで行きますね。それじゃまた」
そう言い残して俺は離れた所にあった席に向かう。到着するとすでに風間さんが注文を始めており、俺も急いでメニューを開いて注文をした。
そうして食事をしている最中の事だ。
「ねえ、平後園先輩」
「ん?どうした?」
「鳩原先輩になんかした?」
「なんで?」
「鳩原先輩の心音が緊張してる時のそれだったから」
「マジ⋯?」
思わず先程二宮隊が居た方を見やってしまう。菊地原に配慮して個室にしている為見える訳が無いのだが。
「で、実際どうなの?」
「間違いなく怖がらせてはいるな⋯」
「うわサイテー」
言い返す事も出来ない⋯と思いながら、俺はどこか嫌な予感を感じていた。言語化は出来ないが、何か⋯
⋯もしも、俺があまり鳩原ちゃんに嫌われる理由がなければ、菊地原の聞いた心音の理由を正しく察する事が、出来たのかもしれない⋯
空腹も満たされた夜。風間隊と平後園隊合同の防衛任務が始まった。今日のトリオン兵は割と数が多く、俺達は大きく散開していた。
『今日はトリオン兵が多いですねぇ』
「そうだな⋯それに動きも人狙いの動きじゃない。偵察目的の可能性が高いな」
『偵察ですか?でも撃退したトリオン兵はこちらで回収してますから、映像なんかを撮っても意味が無いのでは?』
「トリオン兵を展開して、しばらくしてから帰還用ゲートを開ける。何体か戻ってくれば上々だが、一体も戻って来なかったとしても、広範囲に防衛網が敷かれているか、何らかの方法でゲートの位置が誘導されている事が分かる。それだけでも偵察になるからな」
『なるほどぉ⋯という事は、まだゲートが開く可能性が高いって事ですよね?』
「概ねその通りだ。だが、帰還用ゲートからも何体かのトリオン兵を出撃させて捨て駒にするだろうし、もしかすると既に開いた後かもしれないな」
『ははぁ⋯流石です、隊長!』
『伊達に近界民やってないって訳ね』
『おい菊地原!?もし武富さんがその事知らなかったらどうするんだ!?』
『言わずにチーム組める訳ないじゃん。その場合平後園先輩はスゴイアホって事になるよ?』
「およ?聞かれてたのか」
どうやら風間隊と共有したチャンネルのままで話をしていたらしい。後、桜子ちゃんに俺の素性は既に話してある。凄く驚かれたが。まあ当たり前か。しかも俺の素性はイコールでボーダーの重要機密だから、桜子ちゃんが辞める場合はかなりの確率で記憶封印措置を取られるようになってしまったので、かなり責任を感じる()
なんて話をして居た所、再びゲートが発生した。俺が一番近いな〜なんて思って立ち上がった瞬間、司令室の沢村さんから通信が入る。
『風間、平後園両部隊に通達!ゲート発生直前に同座標で開発室管理のトリガーのトリオン反応を複数確認!また、その場には鳩原未来隊員のトリガー反応あり!』
そこまで聞いた時点で俺は飛び出していた。使用者が決まっていないトリガー反応、遠征に行きたがり、しかしそれが叶わなかった鳩原ちゃん。偵察目的と思われるトリオン兵の展開⋯もしかして彼女は⋯
『聞いたな、平後園!鳩原が何のつもりかは知らんが、一番近いお前が止めろ!俺達も追いつき次第援護する!』
「もちろんですよ⋯!」
そう返事する頃には、俺は鳩原ちゃんを視認した。向こうもこっちに気づいているようだ。
全速力で走る、走る。しかし鳩原ちゃんはこちらを見やるだけで武器を出さない。両防御で凌ぐつもりか。
なら、防御力以上の攻撃力を押し付けよう。
俺は鳩原ちゃんから25m地点で立ち止まり弧月に手を掛ける。鳩原ちゃんの目が見開いた。俺が何をしようとしているのか分かったのだろう。
そう、旋空弧月だ。しかし、一般的な旋空弧月の射程は15m程だ。普通なら届かない。だが、旋空弧月の仕様を使えば射程を伸ばせる。旋空弧月は発動時間に反比例して射程が変化する性質がある。
そう、生駒旋空を再現するのだ。イコさん級の40mの射程は出せないが、25mなら出せる。
そのまま、俺は弧月を振り抜こうとした。そんな時、ゲートの向こうから光が見えた。
おそらく使用者がいないはずのトリガーを使っている、鳩原ちゃんの協力者の物だろう。おそらく通常弾であると判断し、俺はシールドを展開してその弾を防⋯
ガシャ!
「っ!?マジかよ!」
防ぐ事は出来なかった。それなりに集中したシールドが、推定通常弾1発で破壊された。これはつまり⋯
もちろん下はシールドを割られた俺だ。この割れ方⋯もしかすると鳩原ちゃんの協力者とやらは、一国の「神」レベルのトリオンを⋯遥かに凌駕する⋯
そして今の一撃で弧月を持って居た手を破壊されてしまった。俺が驚愕に染まっている隙に、鳩原ちゃんは、ゲートの向こうへと姿を消した⋯