ある日の事、新人トレーナーである俺は今日行われる選抜レースの為にグラウンドへと足を運んでいた。
「フッ!フッ!フッ!フッ!」
「しゃあ!ブチかますぜ!」
(何故か欽ちゃん走りだが)しっかりとストレッチをするウマ娘や、余程自身があるのか、リーゼントを整えているウマ娘たちを観察しながら周りの先輩トレーナーたちの話に聞き耳を立てる。
「やはり今回の注目株はギンシャリボーイですね。フォームもしっかりしている」
「あぁ。それに気性に問題はあるがチョクセンバンチョーも中々の物だ」
欽ちゃん走りのウマ娘、ギンシャリボーイにリーゼントのウマ娘、チョクセンバンチョー。
確かに、俺から見てもあの二人は相当優秀だろう。
だが、そんなウマ娘たちだ。新人である俺のスカウトを受けてくれる訳がない、と他にはどのようなウマ娘が居るのだろうと見ていると、一人気になる娘が居た。
そのウマ娘はグラウンドに入ってストレッチをする訳でも無ければ走る訳でもなく、ゴール板の陰でちょこんと立ちすくしている。そして何といっても彼女の顔だ。
──────ダンボール?
ダンボールの被り物をしている。しかし、体操服を着ているということはレースには出るのだろう。
「あの、すいません。あの娘は?」
気になった俺は近くのトレーナーに声をかける。
端正な顔立ちだ。
「どうしたんだ?」
「えっと、あの娘について聞きたいんです。あのゴール板に隠れている娘」
「えーと?あぁ。彼女はハリボテエレジーだね。彼女が走るところは見た事が無いかなぁ。力になってあげられなくてごめんよ」
「あ、いえ!」
「何なら直接話してきたらどうかな?気になるんだろ?」
そう言われて俺はどうしようか、とハリボテエレジーに目を向ける。
『まもなく選抜レースを開始します。出走するウマ娘はゲートに集まって下さい』
「お、どうやら始まるみたいだ」
先程のイケメントレーナーが放送を聞いて言葉を漏らす。俺もそれに反応するように場所を開けてもらって最前列を位置取った。
それと同時にゲートが開く。
六人のウマ娘が一斉にスタートする中、先頭を走っているのはギンシャリボーイ。事前の情報によれば客足は自在らしいが今回は逃げで行くらしい。
もう一人の注目株であるチョクセンバンチョーは後方二番手。やはりこちらも事前情報通りの差しだ。
そしてその中で一際異彩を放つウマ娘が居た。
「エッホエッホ」
「………何だ?あのウマ娘」
誰がつぶやいたのだろう。そんなことは分からないがその中に込められた意味ならわかる。
何だ?あの遅いウマ娘。
今回の選抜レースは中距離。既に先頭とは半周ほどの差となっている。これではどんな鋭い末脚でも。追いつくことは不可能だ。
『ギンシャリボーイ!チョクセンバンチョー!もつれ込んでゴールイン!』
「あ、終わっちゃった………」
息を整えるギンシャリボーイとチョクセンバンチョーに一目散にかけて行くトレーナーたちを尻目に俺はようやくゴールしたハリボテエレジーに目を向ける。
息は絶え絶えといった感じだが、不思議と爽やかそうな顔をしている。
それが俺にはとても不思議に感じてしまったのだった。