救いの宣教師   作:王朝万歳

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オリジナルに初挑戦!!


ある男の死

 ◇◇◇

 

「どうして、どうしてなんだ。なんで。なんで、俺がこんなめに。俺が何をしたんだっていうんだ!!」

 

 ここは東京。日本一の都市圏であり、日本中いやそれどころか世界中の各国から多種多様な人々がここに訪れる。町の一角、きらめく繫華街から道を一つ抜けた安アパート。

 その一室の住人である男が布団の中で、腕で頭を塞ぎこみ唸り声をあげていた。

 

「布団の中で、叫んだから大丈夫だろうが。苦情はいやだな。ただでさえ、普段からアパート住人からは俺にはどうしようもない苦情をよく聞かせられるんだから」

 

 真夜中、他の住人が寝ているだろう時間に叫んだことに。アパートの管理者である男は苦情が来ないか心配する。一様配慮して、布団で防音を図ったが。ここは築30年の木造のボロアパートだ。どれほど期待できるか。

 

「そもそも最初。子供の頃、小学生の頃までは幸せだった」

 

 男はそういって今までの人生を振り返る。

 

「あの頃は幸せだった。優しい両親、それに友達がいて。将来に希望があって、明日に対しての苦しみなんて一つもなかった」

 

 幼少期、優しい両親の下で。彼らからめいいっぱいの愛情を受けて育った。

 

『○○はすごいね! 将来は絶対□□だね!!』

 

『どうしたんだ? そんなしょぼくれた顔して。なに? 友達と公園で野球をしてたら、向かい側の家の窓を割ってしまった。それで、そこに住んでるおじいさんを怒らせてしまった。それでおじいさんが窓を弁償しろと』

 

『ああー。やっちゃったな。とりあえずもう一度誤りにいきなさい。何怖い。はあ、しょうがないな。お父さんもついていってやるから。ほら、いくぞ』

 

 彼らの言葉は、いつも温かみに満ちていた。

 

「でも、時間は残酷だった」

 

 年を取り、少年が大人へと成長していくにつれ。求める能力や責任は増えていった。

 

「求められることは素晴らしいことだと思った。事実、始めは人から頼られることは純粋に嬉しかったから。自分の価値を認められたようで。ただ、危険性も孕んでいた。任された仕事を失達成できなかった時、人はそれの評価を落とす」

 

「失敗を取り返すために、努力した。だが、それも失敗した。失敗のたび、俺は徒労を覚えた。評価はさらに落ちていった」

 

 資格、試験や案件、男の人生を通して、立ちはだかった壁たち。それらを乗り越えるのは一筋縄ではいかなかった。もちろん、全部上手くいかなかったわけではなかった。上手くいったときもあった。ただ、遅かった。落ち切った評価は簡単に覆らない。

 

『○○さん、今回の案件上手くいったみたいよ。珍しいよね~』

 

『嘘ー!! ○○さんが。まあ、まぐれでしょ。よっぽど相手側が息詰まってたんでしょ。どんくさいくて、仕事ができない。あの会社のお荷物が実力で成功するとは思えないし』

 

『それもそっか』

 

『でしょ』

 

『『ハハハハハハハハハハ』』

 

 会社の同僚や上司からの評判は最悪だった。会社内で、男は腫れ物のような扱いを受けるようになった。

 

『○○さん、暇でしょう。今、ちょっと重要な案件がありまして。この仕事やっておいてください』

 

『○○は本当に使えないな。この仕事も頼んだぞ』

 

『部長、そんな奴ほおっておきましょうよ。早く行かないと部長のお気に入り嬢が他の客に盗られちゃいますよ』

 

『おお、そうだな。急がなくっちゃな。ではな、我々は市場の調査に忙しいんだ。後は頼んだ。明日、俺が会社に来るまでにはやっておけよ』

 

 社内で扱いに弱っていった。そんな弱り切った得物を、会社に棲まうハイエナたちが狙いをつけた。ハイエナたちは存分に腐りかけの死肉を喰らい。存分に腹を満たしていった。

 

「まあ、奴ら調子に乗りすぎてたから。あっさり証拠が集まって反撃はできたが」

 

 得物が死んだと勘違いした同僚と上司の二人は、まだ息のあった獲物の抵抗にあい。あっさりと証拠を集められ、労基から社内いじめやパワハラが認定されたことで二人は首になった。賠償金も勝ち取った。

 

「少し疲れたな」

 

 戦いには勝ったものの受けた傷は深かった。

 

「辞めたいなら自殺しろ」、「クビにするぞ」、「訴えてやる」「お前は無能だ」、「お前は給料泥棒だ」、「お前は仕事ができないから嫌われているんだ」など「お前はバカだ」、「お前はゴミだ」、「お前は人間じゃない」「死んでしまえ」、「消えろ」、「黙れ」「ムダな時間を返してくれ」、「いつでもおまえを飛ばせる」「つぎ失敗したらクビだ」「馬車馬のように働け」「死んでもやれ」「それで〇〇が務まると思ってるのか」、「ぶさいく」「キモい」「無能」「ダメ人間」「親の顔が見てみたいわ」「給料ドロボー」「役立たず」「オマエがタダ飯くうために、オレがどんだけ頑張ってると思ってんだ!」「オマエやめろ、クビ!」「何みてんだ!」「おまえは新卒以下だ」「小学校からやり直せ」「おまえ、部署内で評判わるいぞ」「どんくさいな」「オマエみたいな奴は会社にいられるだけ幸せなんだぞ」「会社を辞めたらどうだ」「はぁ? 有休とれるわけねーだろ」「休めると思うな」「もう帰るのか?」「俺がいいと言うまで帰るな」「仕事おそいのに、休憩はしっかりとるんだなぁ」

 

 今も受けた中傷は、男の思考の片隅に潜む病毒となって、男を蝕んでいた。

 

「うるさい! 少し黙れ!」

 

 頭を振るって、思考をかき消す。

 

「会社を自主退職した後、賠償金でアパートを買って管理人になった。退職金と合わせれば、贅沢はできないだろうが細々と過ごしていける予定だ。それで、少しずつでも傷を癒すつもりだった」

 

「だが、世界は俺に厳しかった。ある日、両親が交通事故に遭って死んだ」

 

 そう、あれは数か月前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 走馬灯が巡る。

 

「退職してから数か月」

 

『母さんから聞いた。会社を辞めたらしいな』

 

『ごめん。父さん』

 

『いや、謝らないでくれ。攻めるつもりはないんだ。それで。そ、そのだな、きょうお前を呼んだ理由、なんだが』

 

『もうお父さん。なに言い詰まってるのよ』

 

『○○ちゃん。私たち責めるつもりはないよ。むしろ、○○ちゃんを追い詰めた会社に怒ってるのよ。「私たちの大事な息子に何してるくれるのって」今でも、文句を言いに行きたいぐらい。でも、そんな必要なかった。○○ちゃんは一人で証拠を集めて、勝ちゃった。ほら、お父さんあの話伝えたげて』

 

『その、すまなかった、○○気づいてあげられなくて。俺はお前を自慢の息子だと思ってる。他人からの評価なんて気にする必要はない」

 

『そっか。ありがとう。父さん、母さん。それに会社のことは一人で決着をつけようって。俺が思ってたのが悪いから、気にしないで』

 

『そうか』

 

『うん』

 

『それでなんだが、お前が退職してアパートの管理人になって三か月たったわけで。遅くなったが会社の退職祝いに、久々に家族全員で旅行にいかないか。面倒な手続きなんかはこちらで済ませてるから、お前には何の手間もかからん。どうだ?』

 

『せっかくの誘いでありがたいけど。ごめん、まだアパートのほうが忙しくて。それに、父さんたちアパート探しの協力で、忙しかくて。30年目の結婚旅行に行けなかっただろ。その分二人で楽しんできてよ』

 

『本当にいいのか?』

 

『うん。大丈夫だよ』

 

『何かあったら、いつでも連絡をいれてくれて構わないからな』

 

『分かった。何もないとは思うけど。気遣いありがとう』

 

 数日後

 

『もしもし、○○さんですか。警察のものなんですが、交通事故がありまして。その事故にあなたのご両親も巻き込まれまして』

 

『嘘ですよね。俺の両親たちは別の場所にいたはずで』

 

 アパートに待機していた俺に両親の訃報が届いた。

 

『ご両親はお土産を買いに街へ繰り出していたらしく。そこで事故にあったそうです』

 

 両親は旅行について行けなかった俺に、お土産を買いに行っていた。そして、近くの道路で交通事故が起き、逆走してきた車に轢かれた。

 

 男にとって両親は希望だった。たとえ、人生が辛くてもだめな自分を支えてくれたこの人たちに報いたい。その思いが生きる意志に繋がっていた。

 

「お、俺がついて行かなかったせいで。父さんと母さんは……」

 

 ふと、頭に浮かんだif。有り得ない妄想。現実を否定したいがためのもの。

 

「全部俺のせいなのか」

 

 それが自責の念を起こしてしまった。男が必死に胸の内で止め続けた最悪のふたが開かれた。会社から暴言を投げかけられ続けたことで生まれてしまった。自己否定の念が。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「お前が二人を殺した。お前がついてきさいすれば両親生きていた。愚図、のろま。会社が悪いんじゃない。お前が失敗ばかりするから嫌われた。あれは当然の対応だった。あの言葉たちは正しかった」

 

「うるさい! 静かにしてくれ。お願いする。本当にお願いするから」

 

 深い森の中、ロープを持った男が叫ぶ。男はさらに奥へ奥へと進んでいき。

 

「ふう。やっと着いた。ここならいいだろう」

 

 目的地へ着いた。ロープが樹に固く結ばれ、首がロープの輪っかをとおる。

 

「今までいい人生だった。未練は多分ないだろ。さよなら」

 

 踏板が落ちる。首が締まる。

 

「ぐうう。かは、かは」

 

 首筋に血管が現れ。呼吸が乱れていく。

 

 そして

 

 

「辞めたいなら自殺しろ」、「クビにするぞ」、「訴えてやる」「お前は無能だ」、「お前は給料泥棒だ」、「お前は仕事ができないから嫌われているんだ」など「お前はバカだ」、「お前はゴミだ」、「お前は人間じゃない」「死んでしまえ」、「消えろ」、「黙れ」「ムダな時間を返してくれ」、「いつでもおまえを飛ばせる」「つぎ失敗したらクビだ」「馬車馬のように働け」「死んでもやれ」「それで〇〇が務まると思ってるのか」、「ぶさいく」「キモい」「無能」「ダメ人間」「親の顔が見てみたいわ」「給料ドロボー」「役立たず」「オマエがタダ飯くうために、オレがどんだけ頑張ってると思ってんだ!」「オマエやめろ、クビ!」「何みてんだ!」「おまえは新卒以下だ」「小学校からやり直せ」「おまえ、部署内で評判わるいぞ」「どんくさいな」「オマエみたいな奴は会社にいられるだけ幸せなんだぞ」「会社を辞めたらどうだ」「はぁ? 有休とれるわけねーだろ」「休めると思うな」「もう帰るのか?」「俺がいいと言うまで帰るな」「仕事おそいのに、休憩はしっかりとるんだなぁ」「お前が二人を殺した。お前がついてきさいすれば両親生きていた。愚図、のろま。会社が悪いんじゃない。お前が失敗ばかりするから嫌われた。あれは当然の対応だった。あの言葉たちは正しかった」

 

 ここ数か月間、頭の中で響き続け。男を苦しめた言葉たちは消えた。

 

「死って。いいものだったんだな」

 

 毎日の徒労感。希望が潰え、絶望が広がった日常。どうしようもなく、行き詰った彼を、万物平等の死だけが救った。

 

 虫の鳴き声だけが聞こえる沈黙の森。木陰から差し込んだ満月の光が、満足そうな顔を浮かべた痩せぎすの男を映し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 天界。裁きの間

 

「自殺は大罪だというのに。最近は自殺者が増えるばかり。嘆かわしいことだ」

 

 白髪の老人が喋る。脇には天使たちが膝を着き、主の決定を待っている。

 

「通例なら、大罪人は虚無に送りこまれ、そこで更生を試みることになっておる。だが、お前は虚無を恐れるどころか。安心感さえを覚える始末。これでは罰にならん。どうしたものか」

 

「失礼ですが、父よ。私に良き考えがあります。お聞きしていただきとう存じます」

 

 審議中、沈黙を貫いていた一人の天使が立ち上がり。提案する。

 

「ふむ。聞かせよ」

 

「では、どうやらこのもの……」

 

「ふむふむ。なるほど、よい考えだ。大罪人お前への罰が決まった。お前は生きるのが辛かったから、このようなことをした。ならば、記憶を保持したまま生命溢れる世界で生まれ、生きることの素晴らしさに気づくとよい」

 

「待ってください。俺はもう二度と生きたなんて」

 

 ここに連れてこられてから、ずっと黙りこくっていた男は、急に慌て始め、必死に神からの宣告を拒否する。

 

「待たぬ。ではな。再会したときには命の尊さに気づけていることを願っているぞ」

 

 だが、それは当然聞き入れられるはずもなく。主の力によって、男は主の管理する世界の一つへと飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

「夫人、もう一息です! ご主人様も夫人に何か声をおかけになって」

 

「ああ、わかった。カーミラ、俺がついてる」

「お前が死んだら、俺が何をしててでも生きかえらせる」

 

「あと少し。あと少しだけ、頑張るんだ」

 

「ご夫人!? 赤ん坊の頭が見えました。もう一息ですよ」

 

「私、頑張るわ。う────ーん」

 

「産まれました! ですが……この子」

 

「本当か! 見せてくれ!」

 

「っ。はい。こちらが奥様の赤ん坊になります」

 

「噓。この子、髪色が」

 

「……黒髪。悪魔の子だと」

 

 男は地球とは異なる別世界に転生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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