崩壊 : 恋愛古事記 ~愛は全て救うのかなぁ~   作:クロウト

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重傷を負って病室にぶち込まれたら、将軍がお見舞いに来ちゃった話。ほんで物凄く様子がおかしい話

 

 

貴方は夢を見ていた。

 

それは貴方が流浪人となってから暫く経った時、仙丹の演舞典礼の舞台での事だった。

 

貴方の腹部に鈍い感覚が迸る。其は痛み、蒼天色の風を纏う剣に貴方の臓器は血を滝の様に流すだろう。それによって貴方の五臓六腑は本来の温もりを無くし、緩やかに向かうはずだった死への道は、今や疾風の如く、死に向かおうとしているだろう。

 

───死が近付いて来ている。

 

腹部に刺された剣、流れる血、口に漂う濃醇な血の気配、先程まで闘いの時にはフル活用していた目が朧げになる。

 

朧げになり行く目が捉えたのは、深い藍色の瞳に紅蓮の様な赤い瞳孔を刻んだ一人の狐族の女性。女性でありながらも男性である貴方を容易にいなして無駄の無い所作で確実に命を奪おうとするその姿に、貴方はこの旅の中で初めて死を予感させた。貴方は初めて、歴然とした強さの差に辟易した。

 

 

 

──────.......いや。

 

 

 

だが、だからといって、目の前の勝利を諦めるほど貴方は愚かではない。

 

貴方の目の前で、狂気的な笑みを浮かべている雪の様な白い髪を持った狐族の女性は三無将軍、だとか天撃将軍だと呼ばれている正真正銘の強者だ。

 

そんな彼女はこの仙舟羅浮を守る為に、自らを顧みず、貴方たちに後を託した。彼女がそこで遺してくれた期待に貴方は全力で答えるが為に死へと完全に辿り着く前に貴方は彼女をここで足止めをする。足止めをする、という事はそれが貴方に課せられた使命、勝利条件なのだから。

 

腹部から迸る激痛に堪えながら、剣を握り締める。大地を踏み締め、身体がブレない様にする。視線は未だ戦いの悦楽に浸っている暴走した将軍へと向け、朧げだった意識を覚醒させる。

 

剣の刃を握り締める。当然、貴方の手からも其は血となって流れ行くだろう。だが今の貴方にとってその痛みは些細な物に過ぎなかった。

 

背後から少年と少女の悲痛な叫びが聞こえる。それと同時に貴方の背後からは凍りつく様な冷気と全てを破壊せんとする剣気が逼り始める。だが目の前にいる天撃将軍はそれを意に介さない。剣を握っていない方の手で今度は無から巨大な斧の様なものを召喚しては二人の攻撃をいなす。

 

暴走した天撃将軍の目に映るのは、文字通り、命を賭けた闘いに打って出た貴方だけだった。

 

地面がひび割れる。意識が薄れてゆく。だが手と腹に刻まれた痛みが貴方を死の淵に落とすのを堰き止め───天撃将軍との命の奪い合いへと突入する。

 

貴方は片手で武器を召喚し、それを将軍へと打ち込もうと振り下ろす。だが貴方は特別、戦いに関して天賦の才があるという訳でもなく、貴方の渾身のその一撃はあまりにも呆気なく将軍に弾き飛ばされ、虚へと舞う。

 

痛みによって鈍った貴方の身体は段々と死と混ざり合おうとしている。その証拠に、将軍だけを見据えていたその目には霞がかかったかの様に世界が灰色に包まれ始める。ただその場に立っているだけなのに貴方の身体は朽ち始めて行く。このまま貴方が意識を無くし、死を迎えれば、貴方が今必死に押さえ込んでいる将軍はこの演舞典礼の会場から飛び出して更なる厄災を振り撒くだろう。

 

 

───だからこそ、貴方は叫ぶ。厄災を防ぐ為に、目の前にある壁を乗り越える為に。死の試練を突破する為に。貴方は叫ぶ。魂から込み上げる咆哮を解き放つ。

 

 

 

「────! 」

 

舞い上がる疾風の中、天撃将軍の表情が変わる。赤い瞳孔は依然として変わらないままだが、それでも貴方の魂からの叫び声は確かに天撃将軍の心の底の何処かに届いた。

 

貴方と天撃将軍の一歩も譲らない殺し合いは続いていく。貴方の身体には風穴が一つ、二つ、三つ、と次々と空いて行くが貴方はその場から動こうとしない。将軍は貴方のその異常なまでの頑強さを見て、再び口角が吊り上がる。まるで自分と対等の獲物を見つけた喜びを示すかの様に、その剣はズブリ、と貴方の腹を侵食していく。

 

風が、剣が、血が、その虚に散る。貴方が見た夢の中はあまりにもリアルでそれでいて忘れることのない、かつての死闘の記憶だった。

 

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

夢から覚め───死闘の記憶は泡となって消える。

 

貴方は辺りを見回すと、そこは見慣れた自分が良く利用している宿の一室だった。いつのまにか寝ていたのだろうか、と貴方は考えながら身体を起こそうとするが...。

 

───ズキリ。

 

痛み、特に腹部と手への鋭い激痛が貴方の身体の動きを鈍らせる。直後、鳴り響くのはポスン、というその静謐な空間とは不似合いな貴方の頭が枕へと落ちる音だった。

 

貴方は急いで今着ている服を捲って、自身の肌を見る。するとそこには腹中に巻かれた包帯に血が滲んでいた。じわり、と広がるそれは貴方につい最近あった出来事を思い出させ、少しだけ憂鬱な気持ちが頭を過る。

 

さて、こんな重傷であっては歩くどころかまともに動くことさえままならない。かといってこのまま床に着いているのも暇を極める。どうしたら暇を潰せるのか...と、貴方が思案していると。

 

 

───コンコン。

 

 

貴方の自室の唯一の入口である扉から軽快なノック音が聞こえてくる。それに反応しようと勝手に貴方の身体が反応を示すが、先の激痛で貴方の身体は完全に動けない事を認識し、結果貴方は床に着いたまま扉の向こうにいる客人を迎えることになる。

 

 

「入るわよ。 」

 

 

爽やかな女性の声と共に部屋に入って来たのは意外な人物だった。

 

ピコン、と頭上には狐の耳と白い長髪を携えて藍色の瞳を持つ美麗な顔を持った狐族の女性。彼女が纏う翡翠色の服はその美貌と合わさってさらにその服の価値を引き出している。

 

その女性はツカツカとブーツの足音を鳴らせば、貴方が横たわっているベッドに近付き、慣れた様子でその側にある丸椅子に腰をかける。

 

貴方は目の前の人物には覚えがあった。否、覚えしかない。覚えしか無いが為に貴方は目を丸くしてその人物の方を視る。

 

──その人物とは、仙舟曜青を若くして統べる将軍にして、憂いなし、悔いなし、敵なしの三無将軍の異名を持つ狐族の戦士、飛霄将軍その人だったからだ。

 

 

「やっと起きたのね......貴方、丸三日間は寝たきりだったのよ? 」

 

 

飛霄は貴方の安否を確認すると、口からそっと息を吐いて緊張を解脱させる。貴方はそんなに寝てたのか、と自分が昏睡してた時期を聞かされて驚きを口に出す。

 

「そんなにおかしい事でもないわ。だって貴方、あの時、あそこに居た誰よりも重傷だったでしょ? 」

 

 

あの時...あそこ......、貴方は起きたばかりの身体で思い出してみる。頭が霞掛かって上手く思い出せない箇所も数個あるが、貴方は飛霄の言っていたそれらは全て、仙丹羅浮にある演舞典礼の舞台で起こった呼雷との血戦である事を思い出す。

 

 

───それは、お互い様だろう。

 

 

貴方は飛霄にそう返した。実際、飛霄は呼雷が死ぬ時に遺した狐族を暴走させる紅月と呼ばれるものを呑み込んで被害者が自分一人に押し留めてるし、貴方はその暴走した飛霄将軍にギッタンギッタンにされつつも死ぬ気で阻止した。

 

無茶のベクトルは違えど、この場に居る二人はあの場で最も無茶苦茶な事をした二人なのだ。

 

 

「それは.....、そうね。貴方もあたしも皆も、あの場では全員が無茶をしたわ。 」

 

 

飛霄は少しだけ笑いながらそう語った。貴方は一番無茶したのは飛霄だろうに、と心に留め置きながらも飛霄の言葉の中に貴方が含まれている事に少しだけ嬉しみを感じた。

 

 

「...あたしが月狂いに堕ちた時、貴方が一人であたしと戦い続けたって彦卿と雲璃から聞いたわ。あの二人と来たら、貴方が重傷を負ってるのを見て半分泣いてたのよ? 」

 

飛霄はそう言いながら、自分の片手を貴方が重傷を負ってる腹部に添える。傷を負っている箇所に痛みは無く、唯ほんのりとした微小ながらの温もりがそこには確実にあった。貴方はまだまだ二人は子供だな、と泣きべそをかいている二人の姿を想像しては無粋な物だか少しだけ笑えて来る。

 

飛霄はそんな横たわりながら笑う貴方を見て、少しだけ苦虫を噛み潰したような苦痛の表情をする。そして、少しの沈黙の後、飛霄が再び口を開く。

 

 

「.......貴方が一人で背負ったおかげで、死傷者は出なかった。呼雷との戦いでも、雲騎軍は想定以上の被害を抑えることが出来た。 」

 

突然、話を始めた飛霄のその言葉に貴方は良かったじゃないか。と、一言貴方は飛霄の顔を伺いながらそう言うが、飛霄はその言葉を首を横に振って否定した。

 

 

「死傷者は出なかった。雲騎軍も被害を抑えることに成功した。けど、そこに貴方の姿はいない。死傷者の欄にも貴方がいない。それじゃ、意味が無いのよ。 」

 

 

飛霄は貴方の腹部をなぞる様にして添えていた手を頭に置いて、そのまま貴方の頭を撫で始める。割れ物を扱うかの様な、余りにも丁寧で繊細な手付きで。

 

 

「...貴方があの場でもし死んでしまったら、きっと多くの人が悲しみに暮れる。彦卿も雲璃も、椒丘もモゼも...勿論、あたしもそう。 」

 

 

貴方は飛霄のその言葉を聞いて、少しだけ嬉しくもあり不思議でもあった。貴方はただの流浪人、流離の剣客に過ぎない。のに関わらず、旅の中で出会った縁が自分の死を悲しみ、涙を流してくれるとそう言ってくれるのは嬉しいものがある。

 

ただ、貴方はあの場の戦いでもし自分が死んでしまってもそこまで悲しむだろうか?という疑念があった。下手をすれば羅浮が甚大な被害を受けるかもしれない決死の戦いであるのにも関わらず、たかが流離人の小さな死一つを皆が悲しむのか。まずはまたもや羅浮の為に尽力してくれたナナシビトやそれこそ彦卿や雲璃に地面を揺らすほどの大歓声が付きまとう凱旋をするのが普通なのではないか。

 

───貴方は飛霄の言葉は嘘では無いと信じていた。だがどうしても貴方は自分の価値を余りにも低く見積もる癖があった。それ故に貴方は自分にかけられた価値をある意味甘く見ていたのだ。そしてその癖を、飛霄は見抜いていた。

 

 

「きっと、貴方は最悪でも自分一人が死ねば全てが解決する。ってそう思ってるんでしょ? 」

 

 

───「 でも、覚えといて。 」

 

 

そう言いながら飛霄は急にその美麗な顔を貴方の眼前へと近付ける。青色の琥珀の色をしたその吸い込まれる様な瞳に貴方は思わず意識を向けてしまう。

 

貴方の目に映る飛霄の顔は、とても辛そうな、そんな顔をしていた。

 

 

 

「大切な人が亡くなる勝利は、それは敗北と同じなのよ。 」

 

 

それは飛霄が将軍となった故に多くの者の死を見送って来たからか、それとも貴方と出会い、貴方を知り、貴方の過去を知った故か。どちらにせよその言葉は飛霄が貴方にかける感情の重さを指し示すものだった。

 

 

「..........貴方はあたしが護る。 絶対に大切な人を死なさせない。そう誓うわ。 」

 

 

その言葉に嘘偽りは無い。その言葉は真意だ。貴方は飛霄のその言葉に最初は天撃将軍の強さをそこに垣間見た、などと考えていたが次の瞬間にはその考えは霧散して消えていた。貴方はただ目の前に急接近してきた超絶クールビューティーなイケメンにただ心の中で悶えるばかりだった。

 

 

「...だから貴方は、あたしに護られるだけで良いのよ。 」

 

 

そう言いながら、飛霄は貴方の首筋に向かって顔を伸ばす。そしてその刹那、貴方の首筋に強烈だが一瞬の痛みが迸る。ぷはっ、という息を短く吐く音と共に飛霄の顔は離れる。

 

そして貴方は自分の首筋に手を伸ばすと、その指に小さな血が付着していた。そう、貴方は首筋に飛霄の印を刻み込まれたのだ。これは自分の物だぞ、という獣のマーキングの如き甘噛みを喰らい、俗に言うキスマーク的な物を付けられたのだ。それも結構目立つ位置に。

 

 

「今のは何かって?...そうね、強いて言うなら──── 」

 

 

飛霄は自分の口に付いた貴方の血を舌で掬っては、そのまま舐めては。

 

 

 

 

「あたしの物に手を出すな、って言うおまじないかしら? 」

 

 

 

飛霄の目付きは完全に獣のソレになってた。あーもう駄目だこりゃ。貴方はいつかのデジャヴを感じながら、その日は飛霄と一緒に過ごしたのだった。

 

 

 





ぷんぷん粉ぷんぷん。
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