キヴォトスの"アオイハル" 作:刀は銃よりも強し
『──大分様になってきたね』
暴れる学生たちを鎮圧しきったあと、彼女は嬉しそうにそう言った。
『まあね。これも特訓の成果だな』
刀をさやへと戻しながらそんな言葉を返す。
でも、実践を経て課題点もそれなりに見つかった。
『かっこいいって理由で居合切りの練習詰んだはいいけど実践で使うとなると使い勝手が悪いなこの戦い方』
『……?というと?』
『腰落として構える以上、どうしてもカウンター主体になるからさ。警戒されて距離開けられたら厳しいねえ』
『普通に戦うのはいやなの?』
『嫌じゃないけど……こう、なんて言うの?せっかく練習したのに使わないの勿体なくない?』
そんなことを言うと彼女は顎に手を当て何かを考えるように唸った。
数秒後、何かを閃いたように片手で作った握り拳をもう片手の平手に置く動作をして嬉々とした表情で口を開いた。
『じゃあさ、靴にタイヤつけるとかはどうかな!』
『……た、タイヤ?』
『そうそう!足の靴底にタイヤ付けてそれで移動できるようにするの!』
『えー、子供が履くようなタイヤ靴ー?楽しそうだけどさ……』
そこまで言って、言葉を途中に頭で思い浮かべる。
腰を落として構えた状態。離れた敵に向かって後ろに下げた足を踏み締め前に出した足のタイヤで進む。
なるほど、これは──
『……案外アリかも?』
『でしょでしょ。じゃあ早速作ってもらいに行こ!善は急げだよ!』
『善なの?これって……』
『ついでに私も作ってもらおっかなー』
『いや、遊びたいだけじゃんそれ……』
そんな会話をしながらその場を立ち去り帰路へと着く。
ルンルンの彼女の背中を視界に収め、その後肩を並べて2人一緒に歩きだした。
▶▶▶▶▶
ここ、ゲヘナ学園。
現在この学園に俺は来ていた。
黒いローファーの足裏のかかとについたタイヤを転がし、滑るように廊下を闊歩。最初の頃はこんな靴恥ずかしいと思ってたが案外こうして使ってると楽しくて重宝している。
鼻歌混じりに廊下を進み向かう先はとある一室。
鼻歌なんて歌ってご機嫌に見えるがここに来た要件はお気楽な理由じゃない。
目的地のドア前まで来て、つま先で止まる。
そのまま、コンコンとノックをすれば──
『──入れ』
聞こえてくる女生徒の声。
その言葉に苦笑いを浮かべながらドアノブに手をかけ、そのまま開けばそこにいたの2人の少女。
「キキキ、よく来たな」
「ハルさん、久しぶりねー」
「──そんなわけだからどうにかできない?」
「「…………」」
こちらの言葉に目を閉じる2人。
その後、カッと目を見開いたかと思うと2人揃って気まずそうに目を逸らした。
「目を逸らすなー」
「だ、だが!それが原因だとは限らないだろ……」
「言葉尻弱くなってるぞ」
今回この場に来たのは個人的な用ではない。
連邦生徒会の副会長として来ている。
用件としては、ここ最近ゲヘナの不良が他地区やブラックマーケットで暴れすぎているということに関してだ。
しかも、このマコトがあたらしく議長になってから右肩上がりに被害が増えているのだ。
パンデモニウムソサエティとは、この学園における、いわば生徒会のようなもの。その議長になったマコトはこの学園のトップに君臨したということだ。
そう、このバカが。このバカがな。大事な事だから2回言った。もっと言っとくか。このバカがだ。
「サツキ、あんたそばに居るならもうちょっとどうにか出来ない?」
「……チラッ……メソラシー」
「チラッと見て目を逸らすな」
サツキもバカだがマコト程じゃない。なのになんでこうなるのか。
「被害が増え過ぎて連邦生徒会の仕事も激増だし、他の学園からの苦情もめっちゃくるし……ほんとに何とかならないのこれ?」
「「………っ」」
悩んでいる様子の2人。
なんとなく理由は察するさ。
おそらくは【雷帝】の失脚だろう。
雷帝、ゲヘナを牛耳っていた暴君。いわばマコトの先代のような存在。あの暴君が失脚して、抑圧されていた不良たちが一斉に活動を始めたってところだろう。
「………絶対的な武力を持つ人が必要ではないですか?」
「っ!?」
そんな中、聞こえてきた声に驚く。
この場には俺とマコトとサツキの3人しか居ないはず。
辺りを見渡すと……いた。
ソファの裏に隠れたように横たわる少女。
長いもふもふした赤い髪も相まって、おっきな赤いモップが置かれてるようなそんな見た目。
「い、イロハか。いつからいた?」
「ずっといましたよハルさん」
棗イロハ。パンデモニウムソサエティに所属する1年生。マコトやサツキと違ってしっかり者の後輩だ。
「なんで倒れてたの?」
「仕事量が膨大でパンクしてました。仕事が出来ない先輩が多くて」
「後輩に無理させちゃダメでしょうがあんた達」
「うっ…」
「うぐぐッ……」
正しくこの組織の良心。
もはやマコトとサツキよりも頼りにできる少女。
しかし、目の下の隈が酷い。
不良の被害抑えるために頑張ってるんだな。後で何かご褒美をあげないと。いや、ほんとにまじで可哀想になってくる。
「それで?さっき言ってたことって」
「はい。あの雷帝が居た時はよくもわるくもゲヘナの抑止力にはなってました。その存在が消えた今代わりが必要かと思います」
「……まあ、そうなってくるかあ」
連邦生徒会だっていつまでもゲヘナにつきっきりってわけにもいかない。俺が出ばるにも限界はある。ならばやっぱり内々で解決できるに越したことはない。
となるとゲヘナであの雷帝に匹敵する武力を持つ生徒……そんな都合のいいやついる訳──
「……ああ、いたわ」
「「「え?」」」
かなり強い生徒。まず負けないだろう人物。負ける姿があまり想像できない彼女。
掛け合ってみるか。
「そんなわけで久しぶり、"ヒナ"」
さあ、つづいてやってきたのはゲヘナ風紀委員会。
そこに居たのは3人の女生徒。そのうちの一人白いもふもふヘアーの小柄な彼女に声をかけた。
「ハル、来てたのね」
少し驚いたような表情を浮かべた彼女の名は"空崎ヒナ"。
小柄で可愛らしい見た目に反して、雷帝の武力に匹敵する実力を持ってると確信できるほどの強さを持つ少女だ。
「どうよ風紀委員は。忙しい?」
「見ての通りよ。私たち3人以外の人達は今日も不良たちの後始末に追われているわ」
「ヒナたちは何してんの?」
「書類仕事よ。みんなが外に出てて溜まりに溜まってしまって私たちで消化してるの」
「そっか」
「……そっちの調子はどう?」
「忙しいぞ。特にゲヘナ関連で」
「……ごめんなさい」
「いいよ、別に慣れてるしヒナが謝ることでもないって」
イヤミに聞こえる言葉になってしまっただろうか。最近の多忙さは存外、無意識にストレスを感じていたのかもしれない。これはちょっと反省だな。
「私があげたネクタイ、まだしてるんだ」
「んー?まあシンプルなデザインで意外と気に入ってるしね」
ワイシャツに緩く巻いたネクタイを触る。
彼女との仲は中々に良好だ。休日が合えば一緒に出かけたりするくらいには。その時に貰ったネクタイはお気に入りのひと品だ。
そんな時だった。
「〜〜っ!ハルさん!あなたまたヒナさんを誑かしに来たんですか!?」
耳をつんざく声が鼓膜を揺らした。
離れた場所で事務作業をしていた水色の髪の女生徒、"天雨アコ"。
重度のヒナファンでことある事に噛み付いてくる厄介な風紀委員の一員だ。
「誑かすって、人聞きの悪いこと言わないでよ…」
「何が人聞き悪いですか!事実でしょう!?」
久しぶりに会ったから会話しただけでこれだ。もうどうしろと。
そんな困り果てた反応をしていると横に座るヒナが口を開いた。
「アコ、静かに」
「で、でも──」
「今私が話してる」
「……は、はい」
そう言っておずおずと引き下がったアコ。すごく分かりやすく落ち込んでる。なんか悪いことした気になってきた。いやあっちが悪いか。あっちが悪いな。
「それでハル。要件は何かしら?」
「ズバリ、今のゲヘナの問題を解決しましょう、って話だ」
「それが出来たら今私もハルも苦労してないわよ?」
「まあそんなんだが、聞いてくれ。あの雷帝がトップ引きずり下ろされてからというものゲヘナの不良たちによる被害が増加した。これもひとえに雷帝っていう抑止力が無くなったからだ」
「……そうね、私もそう思う。それで?つまり風紀委員は何をすればいい?」
「今、急ぎでやるべきはあいつに変わる抑止力……つまり雷帝に匹敵する武力を持つ生徒が表に出ることなんだと思う。そんな生徒は誰だろうなって考えたらやっぱりヒナかなって」
「私?」
「そうそう。そんなわけで……ヒナ、風紀委員長にならない?」
「………」
そんな言葉に口を閉ざしたヒナ。
風紀委員会はパンデモニウムソサエティに次ぐゲヘナで権力を持ってる委員会だ。そんなとこのトップが実力者となればおいそれと暴れ回る生徒は少なくなるはず。
まあ、美食と温泉は大人しくなるかと言われれば首を傾げるが、それでも大半の不良は大人しくなるだろう。
ゲヘナ地区で暴れるならまだしも他地区での被害を先ず減らしたい。そうなるとやっぱりヒナが長になるのはいい案だと思うが。
「……私が風紀委員長になればハルは助かる?」
「助かるな、めちゃめちゃに」
「そう……なら、考えておくわ」
「……ま、すぐに答えを出す必要も無いしね。気持ちの整理着いてからで別にいいよ。その間は俺が気を配っとくから」
前向きな返答が貰えただけありがたいと思っておかないとな。
風紀委員の長ともなればかなりの激務だ。無理強いはできまい。
「んじゃまあ、そろそろお昼だしご飯食べに行こ。食堂やってるよね?」
「ええ、やってるはずだけれども……私達も?」
「当然。美味しい物食べて生気を養う。大事な事だよ。だからほら、そこで事務仕事してるふたりも」
一緒の部屋にいるアコと、も1人の銀髪をツインテールにした褐色肌の後輩に声をかける。
「わ、私もか?」
「……しょうがないですね。ぼっちが寂しいというのなら付き合ってあげます。なによりこれ以上ヒナさんが毒牙にかからないようにしなくては…!」
……やっぱりアコは置いていくべきか?
ワタワタする後輩と睨む過激ヒナファンを他所にヒナはササッとデスクを片し、俺の横に並んだ。
その後、ゲヘナの食堂に行けば美味しい料理を作ってくれる後輩が美食……"美食研究会"に拉致られていて、それを助けに行ったりと一悶着があったりなかったり。
帰ったら帰ったで、仁王立ちで待ち構えていたアオイやリンにくどくど言われながら事務作業する俺の後ろで会長がニコニコしていたりと、忙しくもたのしい一日を過ごした。
ここから過労が加速していくヒナちゃん。
先生の性別(参考までに)
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男先生
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女先生