淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
金曜日の夜、男は電気屋の袋を財布と一緒に握りつぶしながら、アパートの階段をのぼっていた。
今日も残業。会議三連続。上司に書類を投げられた。
「殺される前に…転職を…しようね!」
疲労と虚無感と上司への殺意に襲われながら部屋に入ると、押し入れからいつもの声が届く。
「おかえりじゃ人の子。飯はあるか?」
「冷凍パスタでよければ……」
銀狐は、今日は雑誌『ママのための出産と育児』を逆さにして読んでいた、だいぶ慣れてきたようだが、まだ左から右に読む癖が抜けないらしい。
「しかしお主がいないと暇でしょうがないのぉ、買ってきてくれた本も繰り返し読んで一字一句全て覚えてしまったし。」
出会って二日目だというのに買ってきた本の内容をそこまで覚えてしまったのか。
まぁでも考えてみれば日中はやる事がないから繰り返し本を読み返す事しかできないのだろう、そうしている間に自然と覚えてしまうのか。
そういう事であれば今日電気屋で買ってきたコイツは役に立ちそうである。
「暇つぶしにさ、いいもん買ってきたんだよ。」
そういって電気屋の袋から取り出したのはタブレット、ちょっと型落ちで安くなってたやつである。
「とりあえずこれで動画とか見られるから暇つぶしにはいいんでないかな?」
袋から取り出された箱を見てそれが何なのかを理解できない銀狐はきょとんとした顔をしながらどーが?ってなんじゃ?と言って聞き返してくる。
「こう、現代の動く紙芝居……って説明すればいいのかな」
「紙芝居が自動でめくられるからくりなのかの?」
ううん、説明が難しい…いやもう百聞は一見に如かずというやつでいけばいいと動き出す。
「箱から出てきたのは黒い板で…なんか光っとるの?そんで文字が浮かび上がってきおった…。」
黙ってWi-Fiをつなぎネットフィリップスを開いた。
画面に流れるのは現代のアニメである
銀狐はまばたきもせず画面を見つめていた。
その表情が次第に驚きに、そして興奮に変わっていく。
「な、なんじゃこの術式は!? 人が空を飛び、雷を呼ぶ!? これは……陰陽の秘奥義か!?」
「ただのアニメなんだよなぁ」
その夜、銀子はひたすら『NARUTO』を観た。
「この“うずまき”なる者、あまりにもうるさいが……嫌いではない」
「すげぇ感想が昭和のアニメ評論家みたいで草なんだ」
さらに実家から持ってきたアイテムをセットした。
「銀狐さん、これも置いとくね、これはファミコンっていうんだけど」
「ふぁみ……? こ、これはまさか、“対妖儀具”か!? この差し込み口、呪符の類か!?」
「違う違う! マリオやるだけ!」
「マリオってなんなんじゃよ!?」
もう何にでも驚く銀子さんに黙って自分がプレイしてる所を見せた、そしてそのままコントローラーを預ける。
最初、ジャンプすらできなかった。
だが、百年の暇を持て余していた妖怪の執念はすごかった。
「おぬし、この“土管”というのは……潜ってよいのじゃな!?」
「うん、それ隠しルート」
「ふふふ……これで儂はふぁみこんの覇者じゃ!」
気づけば、二人は同じ映像を見て、同じゲームをして、同じ話題で笑っていた。
――ほんの少しずつ、確かに心の距離が近づいていた。
「ねえ銀子さんこれ面白い?」
「……うむ。これが、儂の知らぬ“今”か。……悪くない」
銀狐が、初めて微笑んだ。
その笑顔は、何百年も押し込められていた孤独を、少しだけ溶かす光だった。