淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ああ……やば、もうこんな時間か……」
時計の針が深夜2時を指している、テレビではピーチ姫がマリオにキスをしていた。
「明日休みだからって夜更かししすぎたわ…」
男は、寝ぼけ眼をこすりながら、となりに目配せをする。
銀狐はまだゲームパッドを握ったまままじまじとマリオの画面を見つめていた。
「次は死んだら交代じゃなくてワシだけで遊んでみてもええかの!?」
「いやそろそろ寝ろ! 神様も健康第一で行かない?」
「神ではない。産婆じゃ」
「そこは譲らないのね……」
布団に潜り込んだ男に、銀狐がぽつりと言った。
「お主と、こうして話すの、かなり楽しいぞ?わし…笑えるようになった」
「ええやん」
「何百年もただ空間に閉じ込められて……最初のうちは怒って、泣いて……。でもいつからか泣くのも疲れてただただ時間だけが流れておった」
「かける言葉がねぇな?」
「でも…今は、違う」
その声は、ごく小さくて、けれどとても優しかった。
「おやすみ、人の子よ。」
「はいはい、お休みなさい。」
翌朝。
アラームの電子音で男は目を覚ました。
「うあー…眠い…」
顔を洗って、適当なシャツを羽織って一言銀狐さんに声を掛けた。
「銀狐さん俺行ってくるなー」
そういって近所のスーパーに冷凍食品の買い溜めに出掛ける。
「む…うむ、気をつけてな。弁当は用意しておらぬぞ。」
「期待してないから大丈夫!」
玄関のドアが閉まり、静寂が戻った部屋。
銀狐は、ぽつりと呟いた。
「ふむ…暇じゃな」
それからの数時間、銀狐は真剣だった。
テレビに映るマリオの画面と、両手に握られたパッド。
「おお……今度は、ここで甲羅を踏んで跳躍の飛距離を伸ばすのか…!なんと奥深い……!」
ゲームオーバーを何度か繰り返しながら、彼女は学び、挑み、覚えた。
Bで駆け足Aでジャンプと呪文のようにコマンドを復唱しながら、ついにはステージを次々とクリアし始める。
お昼過ぎ。
銀狐はマリオの画面で花火が揚がるたびに感嘆の声を漏らしていた。
「これは……成仏の儀ではないのか……?」
そしてふと気づく。
――自分が笑っている。
声を出して心から楽しいと感じている。
こんなに、夢中になったのは、いつぶりじゃろうな。
ぽつりと呟くその独り言は誰にも届かないけれど、封印の空間には確かに響いていた。
その日の夕方、玄関の鍵が回り男がが帰って来た。
「ただいまー……」
「おぬし……!」
押し入れから顔を出した銀狐の瞳は、まるでキラキラした子供のようだった。
「ワシ、つっかえずにクリアできるようになったぞ!」
「まじかよ!? 俺よりうまいんだけど!?」
「ふふん、今日は“修行”をしておったからな!」
マジかよ自分だけズルくねぇ!?俺も修行するわ!という男に対して1ミス交代じゃぞ!ワシもやりたいからの!と答える彼女は幸せに満ちていた。