淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ただいまー……はあ、今日もクソみたいな一日だった……」
玄関のドアを開けると押し入れの奥からひょこっと顔が出る。
「人の子よ、ようかえったな…働くとは、大変なことじゃな?」
「そういいつつマリオの手を止めないあたり中毒者になってない?というかやたらプレイが上手くなってる」
昨日もなかなか上手いと思ったが今日はそれ以上に冴えてる、かなり上手い。
「暇は、偉大なる師ぞ」
俺は学生の時に暇で暇でプレイしまくってもそんな上手くなかったぞと思いながら晩ご飯(コンビニのからあげ弁当)をレンジで温めつつこう聞いた。
「なあ銀狐さんや、今日の夜動画でも観ない?」
「また魔法の紙芝居か。よいのうよいのう、儂はあれけっこう好きなんじゃ」
「じゃあ…そうだなぁ、今日は時代劇なんでどう?現代の人間が銀狐さんの生きてた時代をどう描いてるか、見てみたいだろ?」
「おお……それは興味深いのう。」
選ばれたのは、『武士の一分』――
寡黙な下級武士が失明を機に己の尊厳を守ろうと立ち上がる人間ドラマだ。
銀狐は畳の上で正座をし真剣な面持ちで画面を見つめる。
男は畳に寝転がり、正面にタブレットを置いて再生。
「……ふむ、侍たちはこう描かれておるのか。口数少なく、礼儀に厳しく、心に一分を持つ……」
「ま、フィクションではあるけど、雰囲気はそれっぽいだろ?実際どうだった?」
銀狐は少し考えてから、肩を竦めた。
「……下級の者たちは、確かに黙って従うことに長けておったな。だが、心に一分を持つ者などそうそうおらなんだよ」
「そうなのか?」
「多くはただ生き延びるために従うしかなかったのじゃ。
声をあげれば潰される、だから生き恥を晒してでも生きる。……それが江戸の平穏の代償よ」
男は黙った。
映画の中で主人公が復讐のために刀を抜くシーン、白珠はふと目を伏せて呟いた。
「武士にとっての“一分”は、きっと誇りなのじゃろうな。……儂には、わからぬ感情じゃ」
「わかんない?」
「産婆は、ただ命を取り上げるだけじゃよ、戦うことは儂の仕事ではなかった。
名も残さず、礼も言われず、……それでよかった」
「それってさ――」
男が口を開く。
「それって、ものすごく凄いことなんじゃないの?」
銀狐は少しだけ微笑んだ。
「そう言ってくれるのは、お主くらいじゃよ。」
エンディングロールが流れ出す。
銀狐は感慨深げに呟いた。
「……人は、“誇り”のために戦い命を捨てる。儂は命のために誇りを捨てた、それだけの違いかもしれぬな。」
静かに映画が終わる。
部屋にはテレビの青い光だけが残っていた。
「なあ銀狐さん。」
「なんじゃ?」
「いつか、外に出られるようになったらさ。江戸の町じゃなくて、現代の町を一緒に歩こうぜ」
銀狐は少し目を丸くして、すぐに照れ隠しのようにそっぽを向いた。
「……暇つぶしにしては、悪くない提案じゃな」