淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
初心者講習の礼を兼ねて、今度ご飯でも奢りますよと社交辞令を話したら存外真面目にいつ行くのか確認された。
ええ、機会があれば是非と受け流される想定だったので驚いた、が、別にアリスさんとご飯に行くのが嫌なわけではない、むしろ学生であるアリスさんのが嫌がるかと思っていたくらいだ。
結局二日後に食事に行く事になった。
場所は駅前の洋食店。ボリュームのあるランチが人気の店で、アリスさんは運ばれてきた巨大な500g和牛ハンバーグプレートを見て、文字通り目を輝かせていた。
「こ、こんな分厚いお肉……贅沢の極みですわ……! わたくし、今この瞬間だけは貴族に生まれた気分ですの!」
フォークを握りしめながら嬉しそうに笑うアリスを見て、男はふと首をかしげた。
「……アリスさん、もしかして退魔師って、あんまり儲からない仕事なんですか?」
アリスはもぐもぐと咀嚼しながら、目を逸らすようにして言った。
「……普通は、儲かりますの。特にお寺関係の方々は、“檀家料”といった定期収入がありますから、経済的には安定している方ですわ。施設の修繕費なども、そこから出せますし」
「へぇ……じゃあ、教会は?」
「……教会は、基本的に“寄付制”なんですの。サブスクリプションのような仕組みはございませんし、定期収入という意味では非常に不安定。修繕費なども、予算が足りなければ牧師や修道士が自腹で工面することもございますのよ」
収入が不安定どころか寄付なんてほとんどありませんが、と呟いたのはなんと反応していいかわからずスルーしてしまった、とりあえず聞こえないフリをしておこう。
「なるほど……。となると収入がかなり不安定な感じなんですね」
「ええ、それに他にも問題がございますの。お寺では、トラブルがあった際には檀家のために問題解決に動きますわ。ただ各々寺社によって得意分野という物がございますので問題解決の力になれない場合もございます。その場合は自分達と関わりのある自社に救援を依頼するか、檀家料からお金を出し他所の社に解決を依頼するのです。ただ、わたくしの教会では、“それもまた神の導き”として、基本はわたくしどもの自腹で解決をする事になりますわ」
「ええ……?」
「つまりわたくしの力で解決できない場合は他所に依頼を出しますの、わたくしの自腹で。」
そんなお金ございませんので無理矢理わたくしがなんとしてでも解決してまいりましたがと言って笑うアリスさんの笑いは少し乾いた笑いだった。
「しかもわたくし、ミッション系の私立校に通っていますから学費が高額。現在も関係する宗教行事の準備や地域イベントの主催など、収入にならない活動にも多くの時間と資金を費やしておりますのよ。宗教は本来、地域を守るもの。そのために国から非課税の優遇措置を受けているのですけれど……まぁ、現場は常に火の車ですわ」
アリスはにっこりと笑った。だが、その笑顔にはどこか影があった。
「わたくしの教会はこの地域の霊的なセイフティーネットの最後の一線ですの。しっかり地元の寺社に属している一般の地元住民の方はわたくしの元に来られる事はありませんし、大きな寺社を頼りにしていらっしゃるお金持ちの方もわたくしの教会には用がありません。私の所に来られる方というのは頼れる場所の無い方だったり、地元のコミュニティに馴染めてない方が主になりますわ。そしてそういう方々は大体その……あまりお金をお持ちではありませんの」
彼女は困ったように苦笑しつつ続けた。
「そうした方々を相手に救済をしている背景をわかってくださる方々が、教会に仕事を回してくださるので、なんとか日々を繋いでいられるのですわ。でも、学費に活動費に、それに霊的備品の補充やら何やらで……毎日ギリギリですのよ」
「それは……大変ですね」
「ええ、死ぬほど大変ですわ。でも、それでも誰かを助けられるなら、それは意味のあることだと思っておりますの。……とはいえ、お食事を奢っていただけるのは、本当に心から嬉しいことですわよ。今日だけでわたくしの幸福度、200%増しですの!」
そういって彼女は今度は誇らしげに笑った、ドヤ顔というんだろうか?しかし彼女の行いを思えば微笑ましく思える。
次の瞬間には、嬉しそうに再びハンバーグへとフォークを伸ばす。
その姿を見ながら、男は思った。
──この人、見た目も口調も派手だけど……根っこは、ほんとに真面目で、頑張り屋さんなんだな。
なんだか彼女を応援したくなった男はほんの少しだけ教会への寄付をしようと思った。
まぁ申し訳ないけど、俺も安月給だし多くは包めないんだ、ごめんねと思いつつ偶然持っていた封筒に一万円を入れる。
そして別れ際に彼女に今日は楽しかったよありがとう、また食事に行こうと伝え、少ないけどこれ教会への寄付だから、良かったらこれで美味しい物でも食べて!と封筒を渡した。
それじゃ!と言って彼女と別れた後、ふと思った。
あれ……これって客観的に見てパパ活じゃね?と。