淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
…でなぁ、まぁ実際には威厳どころか酷いもんだったんじゃが!」
コーヒーを片手に、銀狐はいつになく饒舌だった。
男は笑いながらコップを片づけつつも耳はしっかり傾けている。
「妖かしにはな、だいたい何かしら特別な力がある。わしなら変化、鎌鼬は風じゃ。
……んで、鬼の力は何かというと、“強い”それだけなんじゃ」
「それだけって……」
「それだけなんじゃが、それが困るんじゃ! 桃太郎に源頼光、渡辺綱、碓井貞光、卜部季武、坂田金時、坂上田村麻呂、藤原秀郷、平維茂、安倍泰成、源頼政…
これらは全員鬼を倒して歴史に残った古強者よ、鬼を倒した奴は漏れなく英雄なんじゃ。
つまりな、鬼というのは“倒しただけで伝説になるほどのバケモン”ってことなんじよ!!」
「そんなのと喧嘩しないといかんと知ったとき、儂は――」
銀狐、両手で顔を覆って仰ぐ。
「うがーーーーーーーって叫んだわい!!」
「……マジで?」
「本当じゃとも! 行くも地獄、引くも地獄、ならもう突っ込んでくたばったほうがマシじゃと覚悟決めてな……」
「ただ問題はな、鬼の居場所がわからんことじゃ。だからな、そこらにいた嫌がる退魔師を引きずって行ったのじゃ!」
「おいおい……」
「そいつは臆病なんじゃが妖を見つけたり隠れたりするのが大層うまくての?鬼を見つけるのには絶対必要じゃった。
だから“お前も道連れじゃ”って言って連れだしたら泣いてたのう。いや儂も泣きそうじゃったが!!」
「流石にちょっとかわいそうになってきたぞ…」
「そうして二人で三日三晩探して鬼のねぐらを見つけたんじゃ、ただ正面からやって勝てる相手じゃない。だからな」
銀狐は涼しい顔で言った。
「生木に油まいて洞窟に投げ込んで、即席で作った丸太扉でで塞いで、術で外から火をつけて燻した」
「……ずいぶんこう……こう……えぐいな?」
「うむ! 扉を壊されそうになって二人で慌てて必死に押さえたりな! 足の裏が焼けそうじゃったわ!」
「で、なんとか鬼が息絶えたのを確認して、
“これは術で倒したのじゃ”と嘯いて、死体も見せびらかして回ったわけじゃ」
「……その話、めちゃくちゃ怖いんだけど笑えてくるのズルい」
「ふふん、まぁな。実力で倒したわけではないが、怖がらせたら勝ちじゃ。妖かしなんてのは“印象”がすべてなんじゃよ」
銀狐はにっこり笑った。
「ま、当時からして、今は昔の物語に出てくるような大鬼というのはもうおらんかった。
強い名の鬼なんぞというのは大昔に討伐されとるからの。
格の低い鬼をどうにかこうにか誤魔化して討伐したにすぎん話じゃ。
それでも当時からしたら武威が轟く話であった、わしの加護を受けてる証であるお守りを付けた者に手を出す輩はおらんかったよ。」
「そこでその名を子供に使うから神様扱いだったんだろうなぁ」
そんな話をしながら飲むお茶は銀狐のやさしさが溶け込んだのか少し甘い気がした。