淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
封印の間。
白壁に囲まれた静寂の空間で、銀狐――白珠は、ぽつねんと座り込みながら、タブレットを閉じた。
「ふむ……外に出られぬ理由……」
ぼそりと呟く。
この空間は、外界と遮断された“結界”。それも、妖力を持つ存在を外に出させないための封印だ。
これまで何度も、指先を、腕を、毛先を結界にぶつけては、霊的な反発に弾き返されてきた。
だが、ふと――思いつく。
「……もし、儂の“妖”を神通力で隠す事ができたら……?」
封印は“妖力”に反応する。ならば、自分の妖の気配を“神格の気”で隠せれば――もしかして。
「……試してみるかの」
目を閉じ、呼吸を整える。
かつて山で祀られていた日々。拝まれ、頼られ、奉られ、命を迎えてきたあの頃の感覚を、心の底から掘り起こす。
――信じられ、敬われた存在の気配。
それは、神に近い“信仰された者が扱う力”だった。
銀の尾がふわりと揺れた。
ゆるやかに、掌の先に“光”が灯る。かつて祈りを受けた時の記憶をなぞるように。
「……これで、どうじゃろうな?」
ゆっくりと、その手を結界の“境界線”へと伸ばす。
いつもなら、そこには見えない壁のような拒絶の気配がある。が――
すっ。
――手が、抜けた。
「……!?」
まるで、風に手を伸ばしたかのように。
指先から手首まで、はっきりと“外”に出た。
「や……やった……!?」
銀狐は、嬉しさよりも、驚きと警戒でしばし硬直した。
だが、腕を引っ込めた瞬間――神通力がほどける。
その瞬間、再び結界の“壁”が手をはじいた。
「……やはり、全身を覆えねば無理か……」
だが確信した。
この封印は、妖を拒むだけ。
ならば、“妖であること”さえ隠せれば、出られる可能性はある。
しかし神としてふるまったのも今は昔の話である、信仰の無い今では全身を覆う程の力は無い。
とはいえ術で何某かに変化したとて妖力を使って変身したのでは意味がない、何か新しい発想が必要だ。
銀狐はふう、と大きく息を吐いた。
「だが……やれぬ話でもない、ということじゃな」
その後もあーだこーだと色々考えてたみたが解決策は浮かばず、結局諦めてドラクエを遊ぶ事にした。
「やっと……やっとじゃ……」
銀狐はモニターの前で肩を落とし、両手をぷるぷると震わせていた。
呪文でちまちまと回復する腐った死体、こっちのMPを吸ってくるダークアイ、
長期戦でベホイミを連発してくるオークキング、
そして一撃で仲間を叩き落としてくるバーサーカーとキラーマシンとザラキとドラゴン。
無限のフロアループをぐるぐる彷徨い、毒で瀕死になりながら抜けたこの地獄。
ついに、ハーゴンの神殿の前に辿り着いた。
「のう人の子よ……儂はよく……ここまでやったと思わんか?」
頷く男の手元には、水筒とチョコレート。そして、さっき淹れたての抹茶ラテ。
「ここが最後じゃ……もう、これで終わりじゃ……!」
そして現れるハーゴン様
神殿の奥、紫色の大理石の間に、ローブを纏った魔導士が現れる。
「いのりのじゃまをするとは わしを だいしんかん ハーゴン と しって の おこないか!」
「お主をぶっ飛ばしにきたんじゃから知らぬわけがないじゃろ!」
「ならば ゆるせぬ!」
そういって戦闘は始まった
銀狐の気合とともに開幕補助呪文をどんどん掛け、回復呪文を駆使し、ギリギリのリソースで仲間のHPを保つ。
そんな限界バトルの中、敵から放たれる爆発魔法のイオナズンでパーティ全員が削られていく、まさに……死闘であった。
しかしその中でも的確に回復を回し、少しずつ相手を削り、だんだんと有利になっていく。
「いける! これはいけ――」
ハーゴンが、手をかざす。
その名は――
ベ ホ マ
全 回 復 魔 法
「…………」
銀狐、無言。
「おぉいぃぃぃぃッ!?!?!?!?!?!?」
ついに堪忍袋の尾が切れた。
「な、なんでじゃ!? なぁんで今ベホマ使う!? 多分もうちょっとで終わりじゃったろうがぁぁ!!」
モニターを掴んで画面をぷるぷると揺らす銀狐。
「回復手段が無いのに!MPも尽きかけなのに! こっちは全部ギリギリでやっとここまで来たのに!!」
「なんじゃこのゲームは! こんなん卑怯じゃろうがッ!!」
男がコーヒーを差し出すが、それどころではない。
「クッ……うぅっ……この世の理不尽が詰まっておる……!」
「……銀狐さん、戻ってやり直すって手も……」
「だまらっしゃい!!」
「儂は今……感情で世界を焼き尽くせる気分じゃ!!」
モニターの中のハーゴンは、ベホマで何度でも笑って立ち上がる。
だが銀狐もまた、何度でも怒って立ち上がるのだった。