淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
夕暮れの歩道橋の上、制服に似た黒い外套の女が双眼鏡を構えていた。
風が金髪の少しカールした髪を揺らし、表情にはげんなりした色を滲ませている。
「まったくもう……なんでわたくしが、こんな……明らかに“霊的な圧”周囲にまき散らしてる変人の調査なんかしなくちゃいけないんですの……世の中、間違ってますわね……」
佐竹アリスは、愚痴混じりに呟いた。
双眼鏡の先にあるのは、ごく普通の住宅街に建つ、わりと古びたアパート。
だがその家からはオーラとでもいうべき霊的な圧力が常に放たれている、霊感のある術者や妖はその力に怯え近寄る物はいなかった。
依頼者はある大手企業の創業家の後継者。自宅近くにあるその家について、「霊的なものは分からないが、雇っている術者がみな“近づくのをためらう”」「いくら聞いても明言を避ける」と困惑し、調査依頼が地元の寺社仏閣教会の連盟団体 清明連を通じてアリスのもとに降りてきたのだった。
*** 回 想 ***
「断りますわ。そんな、ヤバそうなところに接近調査なんて、死にたいわけじゃありませんの」
霊的な圧力を常時垂れ流せるだけの相手となれば確実に力有る者だ、対処を間違えて不況を買えば良い結果にはならないのが目に見えている。
少なくとも金にならない仕事を命がけでするつもりはなかった。
相手は地元の中堅寺社の神主で、アリスの雇用契約上の形式的上司である。
ただ、清明連は地元の宗教団体の緩やかな互助組織なので上下関係が希薄だ、立場が上の人間だろうと命令の拒否なんかは簡単に出来る。
「うん、まぁ分かる。でもね、これ」
そう言って差し出された封筒。中を覗いた瞬間、アリスの目が輝いた。
万札、それも帯付きが複数入ってる、退魔師が儲かるとはいえこの金額は滅多に見なかった、清貧を良しとする協会所属のアリスには眩しい金額だった。
「……ちょっとだけ覗いてくるだけ、ですわよ。おーっほっほっほっ、別に本気で関わるわけじゃありませんわ~!」
*** 現在・監視中 ***
双眼鏡を覗き込むアリスの額に、一筋の汗が滲んでいた。
“それ”は、見えていない。何も感じない。ただ――確かに、“何か”がいる。
視界の先、家の前に出てきた男は、ごく普通の若者にしか見えなかった。
だがその周囲を包む空気は、まるで深い霧に満たされたように重く、ただ“存在している”だけで術者の本能を鈍らせる。
「……なるほど、これは確かに――近寄りたくないわけですわねぇ……」
アリスは防御札を一枚、そっと指でなぞった。
男自身に霊的な気配は感じられない。だが、“何かから守られている”のは明白だった。
しかもそれは、退魔師が近づくだけで危機感が警鐘を大音量で鳴らすほどの、**桁違いの“威”**だ。
一般人には感じられない。男も、依頼主の資産家も気づいていない。
だからこそ、その家の前には人が住んでいて、日常を送っている。
「……わたくし、こういう“理解不能”が一番嫌いなんですのよ……」
ぽそっと呟きながら、アリスは双眼鏡を再度のぞき込む。
その後も彼女はずっと監視を続けた、それだけの力ある存在に守られている男、何に守られているかくらいは確認して報告を上げねば依頼達成とは言えないからだ。
ただでさえお金がないのに依頼料まで取り上げられてたらご飯にすら困りますわ!