淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
久々に体調が良い――そう思ったのは、ここ一週間ほどのことだった。
朝、ちゃんと起きる。
昼、胃薬なしで済む。
夜、肌色がいい。目の下にクマがない。
体が軽く、朝起きても胃がもたれない。
顔のむくみも消え、目覚めのだるさもない。明らかに、調子が良い。
そして――
「最近やけにキレがいいな」
「いつになくバリバリ動いてるじゃないですか」
「最近やる気あっていいね!」
社内での評価も急上昇中。
理由はわかっていた。
塩分過多、肉まみれ、添加物の三連コンボから解放され、
銀狐の手料理で“整った”のだ。
毎日、銀狐が封印の間から作ってくれる丁寧で優しい手料理のおかげだ。
「外食とコンビニ飯ばかりだった俺の人生が、今や和食と出汁の香りに包まれている……」
白米、味噌汁、焼き魚、煮物、漬物。
たまに季節の野草や、豆腐の冷菜、蒸した野菜に香り高い出汁茶漬け。
そのどれもが、心と身体を労ってくれるような味だった。
そんな銀狐さんに、何か礼がしたいと思った。
「いやもう……銀狐さんのおかげだよ!」
仕事帰り、ちょっと奮発して買った日本酒やワインにウイスキー、ビールにつまみの詰め合わせを抱えながら押し入れの前で男は満面の笑みを浮かべた。
「今日はね、感謝の気持ちを込めて……酒だよ酒ぇ!」
押し入れに入った銀狐は、酒瓶と紙袋を見て目を丸くした。
「ぬし、これ全部……?」
「うん。辛口の地酒と、鶏のたたき、湯葉、燻製チーズ。あと甘酒も用意したよ。銀狐用に」
飲めるかすらわからなかったからねとほほ笑みつつつまみを差し出した。
小鍋で湯を沸かし、酒を少し燗にする。
銀狐が即興で作った肴は、塩昆布と胡麻和え、そしてさつまいもの甘煮。
チビリと口にした日本酒に、銀狐の頬がほんのり赤く染まる。
「……ぬしの酒宴、思ったより悪くないの」
「でしょ? 今日はお互いの労をねぎらう日ってことでさ」
ふたりで並んで膝を突き合わせ、杯を交わす。
「……わしの料理で、そんなに変わったのか?」
「うん。お腹も下らないし、顔のむくみもなくなったし、動くのが軽くなった。
そりゃもう、職場で“彼女でもできたか?”って言われたよ」
「ふふ……人が言いだす事は時代を経てもかわらんのう」
酒が進むにつれて、話はどうでもいい昔話や、最近見た映画の話に。
たまにタブレットで「面白料理」の動画を見ては笑い、
甘い湯気と、灯りの下でくつろぐ狐と男。
「これが、儂の祭りなのかもしれぬな」
「……ん?」
「誰かと、無事を祝って、杯を交わす。戦ではなく、日常の中で……こういうのも、好きじゃ」
酒が空き、湯気も薄れ、
夜は静かに、静かに更けていく。
でもその部屋には確かに、
誰かと生きているあたたかさが、残っていた。