淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ふぅ……ようやく、一段落じゃな」
封印の間の座布団にどっかり腰を下ろしながら、銀狐がため息をつく。
面倒事も一通り片付き、地域の顔役たちへの挨拶も終え、しばしの安寧が訪れていた。
そして――ファミコンのスイッチが入る。
「よし、そろそろ決着をつけてくるとしようかの」
銀狐が握るのは、黄色く焼けた四角いコントローラー。
画面には『ドラゴンクエストII』のロゴが誇らしげに輝いていた。
「また挑むんすね、シドー」
「うむ、何度目かの挑戦じゃ。今回はうまくいく……かもしれん」
横で男はテレビに差したRFスイッチの接触具合を軽く調整しながら、遠い目でぽつりとつぶやく。
「ドラクエIIはな……結局、試行回数が正義だよ……」
「ふむ、儂もそれを学びつつあるのう!」
そして、運命の戦いが始まった――
──が、あっけないほどにシドーはベホマを使わず、そのまま討ち倒されてしまった。
「……倒した、のか?」
銀狐が画面を食い入るように見つめながら、ぽつり。
「うん、倒したな。ベホマ、使ってこなかったし」
「なんと……今までの苦労は、何だったのじゃ……」
ぽかんとする銀狐。
一方の男は「まぁ、そういうものでは?」と肩をすくめた。
「何度も挑んで、運がよければ勝てる。だから試行回数が正義みたいな所あるよね、ドラクエIIって」
「なるほどのぅ……理不尽を力でねじ伏せる、昔の世のようじゃな」
「ま、クリアはクリアという事で。おめでとう!」
「うむ! では――本日の記念に、酒宴と洒落こむとするかの!」
* * *
「ふむ、今日はこの前の残りから……この“ワイン”というやつにしてみるか」
銀狐が選んだのは、前回の日本酒・ビール宴から生き残っていた洋酒の一本。
細長い首のボトルに、渋いラベル。どことなく異国の香りが漂う。
「これがワインか……少し気取っておるが、楽しみじゃの」
男はグラスを取りに行きつつ、つぶやく。
「ワインはちょっと渋めだけど、香りはいいんすよねぇ」
「ふむ。前回はビールとカツカレーが相性抜群であった。今回は……何か、それに合う肴などはあるか?」
「うーん……俺、ワインはあんまり詳しくないんすよ。チーズとか、オリーブとかが定番って聞くけど家に無いし」
「なるほど……ならば、儂が色々と試してみるとしよう!」
封印の間に引っ込んだ銀狐は、しばらくしていくつかの小鉢を持って戻ってきた。
「燻製の魚、漬け物、胡桃の味噌和え、最近覚えた肉じゃがじゃ!」
「おお、見た目も華やかだな……」
銀狐がボトルからワインを注ぎ、グラスを掲げる。
「では……ドラクエII、クリア記念の――乾杯じゃ!」
「乾杯っ!」
グラスを合わせ、二人でひと口。
「……これは、華やかな香りじゃの。少し渋みはあるが、奥行きがある」
「俺はまだよくわかんないけど、なんかこう、ゆったり飲みたい味って感じ」
「ふむふむ……この肴はどうじゃ? ん……ぬ、これも良き! 口に広がる味の層が……」
「正直、食レポできるくらいに語れるのすげぇな銀狐さん……」
「ふふ、酒も料理も探究心が肝じゃよ。儂はその点、貪欲でな!」
「いや、ほんとに」
こうして、ドラクエIIの理不尽を乗り越えた夜は、
赤いワインと、手作りの肴と、ふたりの語らいでゆるやかに更けていった。