淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐   作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍

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まごころを、君に

 その日は、珍しく男の足取りが軽かった。

 

 いつものように疲れた顔で帰ってくるのではなく、まるで足元に羽が生えたかのように浮き立っている。

 

 スーツの襟元を緩めながら、部屋のドアを開けると、ほんのりと畳と香の匂いが混ざった、いつもの安らぎが彼を迎えた。

 

 「ただいまー!」

 

 「おかえり、よう帰ったの、今日もご苦労さんじゃ」

 

 ルンルン気分で自然と鼻歌を歌いだす、鞄を下ろし、上着を脱ぐと、男はお茶を飲み一息ついた。

 

 毎日のように温かく栄養のある食事が出て来るようになった。

 

 そしたら体調が良くなる。

 

 前に比べて体が重くて動けない日がずっと少ない。

 

 銀狐さんがくれたコーヒーを飲めば頭はモヤモヤとした何から解放され思考はクリアになった。

 

 そうなれば仕事もはかどり、上司からも評価された。

 

 そのおかげで職場では「最近すごく調子いいね」なんて褒められる始末。

 

 こんな自分が評価されるなんて、ちょっと不思議な気持ちだった。

 

 疲れた顔で終電に揺られていたかつての自分と比べて、今の生活は格段に充実していた。

 

 

 

 

 少し前とは全然違った日々を過ごしていた今日、さらに良い事があった。

 

 会社のボーナスが出たのだ、しかも今回は予想よりずっと多い金額だった。

 

 最近の仕事ぶりを評価されての事だった、ボーナス増額も嬉しいけど、職場の人に評価されたほうがもっと嬉しいかもしれない……嘘だな、やっぱりボーナス増額のが嬉しい。

 

 ここは自分へのご褒美にちょっと大きな買い物でもしてやるかな~とAmazonを見る。

 

 ポチポチと色々な物を見ていると目を引くセール品があった。

 

 50型・4Kスマートテレビ/セール価格:29,980円

 

  「マジで……!? これ本当に3万切ってんの? ……安すぎない?」

 

 そういえば銀狐さんの所にあるのはファミコンを遊ぶ為のブラウン管テレビと10インチのタブレットだけだ、最近二人で映画を見る時が何回かあったが、流石に二人でだと見辛かった。

 

 うん、この値段は今だけだろうし……奮発して買っちゃうかな!

 

 衝動的にポチってしまったが後悔は無かった、むしろ二人で映画をみたりゲームをするのが楽しみで待ちきれないくらいだ。

 

銀狐さんに買った事を報告しよう、そう思い押し入れの襖を開けて封印の間に繋がる空間をのぞいた。

 

そのとき、ふと気づく。

 

 ——家具、なにもないじゃん……。

 

 段ボールを棚や机の代わりに、その横に座布団を置いて、銀狐さんは質素な空間に身を置いていた。

 

食器も段ボール箱の上にちょんと並んでいるだけ、まるで仮住まいのような必要最低限の生活空間。

 

 テレビより家具とか食器が先だった……

 

そう思ったときには、テレビの購入ボタンはすでに押されていた。

 

 あーやったな……

 

 だが、すぐに気持ちを切り替える。

 

銀狐さんは毎日俺のために食事を作ってくれている、おかげで体調は良くなり仕事でも結果を出せた。

 

ボーナスの増額だって実質銀狐さんのお陰だ……だったら、このくらいの恩返し、二倍でも三倍でもするのが筋だろう。

 

 男の意地ってやつをみたけりゃ魅せてやるよ

 

 男はその勢いのまま、Amazonギフトカード5万円分もカートに追加した。

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 

大きな段ボールが玄関先に届いた、50インチのテレビは想像以上に存在感があった。

 

封印の間に設置し、初期設定を済ませ銀狐さんを呼ぶ。

 

 「銀狐さんちょっと来てくださいよー、いいもの持ってきましたよ」

 

 「ん? なにごとじゃ?」

 

 封印の間からぬっと顔を出した銀狐は、目の前の巨大な黒いフラットスクリーンに思わず目を見張る。

 

 「な、なんじゃこれは……? か、鏡?ではないな…あっYOUTUBEの広告で見たテレビというやつじゃな!」

 

 「そうです、50インチの4Kテレビ。今の時代の“すごいやつ”です。銀狐さんのおかげで仕事もうまくいってボーナスがたくさん出たんですよ。で、お礼も兼ねて」

 

 「ほほぅ……そなた、良い心掛けじゃのう。ふふ……で、これ、なにができるんじゃ?」

 

 このリモコンを使うと今までのタブレットみたいに使えますよ、実質大きいタブレットみたいな?

 

 リモコンを手に取り、スイッチを押すと、スクリーンが輝き出す。色鮮やかな映像が部屋いっぱいに広がり、銀狐は目を丸くする。

 

 「おおおお……!? う、動いとる……!? ワシがYOUTUBEの広告で見たテレビは、こんなに綺麗ではなかったぞ……!?」

 

 「今のは4K画質ってやつでして……ま、簡単に言うと、タブレットの4倍くらい綺麗なんすよ」

 

 「ほぅ……では、映画も……?」

 

「前みた映画を見比べてみるのも楽しそうじゃないですか?」

 

「お主は天才じゃのう!」

 

そうして再生されるコマンド―、飲み物とおつまみを完備しての映画鑑賞が始まった。

 

「大迫力じゃな!前とは全然違うの!?音も腹の底に響くような感じがするぞ!?」

 

「いやー……大画面と爆発と筋肉の相性はここまで良かったんすねぇ…」

 

大満足の映画を一本見終わり、二人でテレビの良さと映画の迫力について話す。

 

「最高の映画じゃったな!もうタブレットで見るのには戻れんぞ!?」 

 

「いや、それ褒めすぎですよ……でも、そう言ってもらえると、奮発したかいがありました」

 

 こうして映画を楽しんだ後、男は用意していたもう一つのプレゼントを取り出す。

 

 「それと、こちら。Amazonギフトカード5万円分です」

 

 「……?」

 

 「実は家具とか全然無いのが気になってたんですよ、いつも封印の間は殺風景で……。だからタブレットで家具とか好きな物を買えるように引換券……みたいな物を買ってきたんです。」

 

そういってタブレットでのショッピングの仕方を教える。あまりに大量の商品に最初は目を丸くしていた銀狐さんだったが、操作を覚え、次第に慣れてくると、自分でも商品を探せるようになった。

 

 「家具とか、銀狐さんが好きに選んでください。俺が選んでもよく分からないんで……家具だと五万円分じゃ全然足りないかもしれませんけど」

 

 銀狐はしばし呆然と男とテレビとギフトカードを交互に見つめ――

 

 「……わらわ、泣きそうじゃ」

 

 「泣かないでくださいよ」

 

 「銀狐さんのおかげで、今の俺があるんです、ほんの気持ちですよ。……ま、俺も一緒に使うんで、よろしくお願いしますね」

 

 銀狐は一瞬、何か言いたげに目を細めたが、やがてふっと笑った。

 

 「ふふ……礼はきちんと受け取っておくとしようかの」

 

 「喜んでくれたならよかった。じゃあ、今日はもう一本、映画見ますか」

 

 「うむ、もはやこれ、わらわの中で神器じゃ。そなた、また一歩、信仰に近づいたのう」

 

 男は苦笑しながらリモコンを操作し、次の映画を再生した。新しいテレビの大画面の前、ふたりの笑い声が深夜まで響き続けた——。

 

 

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