淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ふむ、なるほどのう……」
銀狐が神妙な顔で腕を組み、自分のタブレットをじっと覗き込んでいた。
画面にはAmazonの通販サイトが開かれており、「家具 セット 一人暮らし」などの検索結果がずらりと並んでいる。
「これが“あまぞん”……いわば、人の欲を集めた現代の神殿のようなものか。なんでも売っておる……」
「そうですね、最近は揺り籠からお墓まで……どころかお坊さんまで揃いますよ。銀狐さんも探したら好きそうな物の一つくらいあるんじゃないですか?」
男は横に座ったままのんびりと麦茶をすすっている。
押し入れの奥――封印の間と繋がった異界の空間には、粗末な段ボールが棚代わりに置かれている。男と合う前の本当に何もない物がそこに最新の4Kテレビがポンと置かれている様子は、どこか場違いで、滑稽ですらあった。
「さすがにこれは……って思ってですね。お守りも作ってもらったし、もうちょっと良い環境で過ごしてほしいなって」
「ぬぅ……感謝する。わらわも思ってはおったのじゃ、もう少し“暮らし”を整えるべきかとな。だが、こういう物は“選ぶ”のが難しいのじゃよ」
「だったら、一緒に探しましょう。予算は……ギフトカードで5万円分あります」
銀狐は目を丸くした。
「五万……!というのは多いのかの?ちょっと判断が付かんぞ?」
「まぁ絶望的に何も買えないって程じゃないですけど、多くも無いですかねぇ。安月給ですいません」
そんなやり取りを経て、いま二人は並んでAmazonを覗いている。
銀狐は慣れた手つきでスワイプしていく、像付きの商品の羅列を見ながら思案顔になる。
「ほう、この“ローテーブル”というやつ、悪くなさそうじゃ。これがあればお茶も置けるし、お守りを作る道具も並べられよう」
家にあったメジャーを取り出しサイズ感を確認する、ちょうどよさげな大きさだ。
「3,980円ですね。安いし、レビューもいい。カート入れときましょうか」
「うむ!」
次に選んだのは、座椅子だった。今までは床に正座していたが、長時間テレビを見るには向かない。
少しふかふかしたリクライニング式の座椅子を見つけると、銀狐は「これは……神々の座にふさわしい」と目を細めた。
「9,800円……これはちょっと高いけど、快適性が段違いっすね」
「高きには、高きなりの理由があるのじゃ」
「名言っぽいですね、それ」
さらに、テレビ台や布張りの収納ボックス、ちょっとした小棚も加わり、カートの中身は次第に増えていった。
「うむ……なかなか良いぞ。この“収納スツール”なるものは、中に物を入れられて座れるのじゃな? これなど神具や調味料の保管にも使えよう!」
「発想が完全に巫女か主婦のそれっすね……でも実用的でいいんじゃないですか?」
金額は合計で47,200円。
「これで残り2,800円くらいっす。何か小物とか……」
「うむ……あ、これなどどうじゃ?」
銀狐が指差したのは、あまりにも可愛らしい「狐のぬいぐるみクッション」だった。もふもふした姿で座椅子の上に乗せれば、まさに現代的な“癒しの神の座”が完成する。
「ここで狐人形なあたりキャラ付け狙ってます?」
「何を言ってるかよくわからんが、こういうのも悪くないじゃろ?」
「……入れときましょう。神様だって癒されたいですもんね」
それから数日後。Amazonから家具一式が届き、銀狐が楽しそうに一つひとつを開梱し、自分の部屋に組み立てて設置していった。
「おおお……! なんということでしょう……!」
銀狐は新しく整えられた空間に目を輝かせた。
テレビの下にはちゃんとした台があり、両脇には布製の小棚、座椅子に腰を落ち着ければ、ローテーブルには温かいお茶とお守りの材料。
足元には、狐のぬいぐるみがちょこんと鎮座している。
「素晴らしいぞ、ワシの住まいが……“城”のようじゃ……!」
「城というのにはいささか安っぽいような……」
「細かいことは気にするでない! これが現代の神の座じゃ!」
2人はしばらくの間、完成した“押し入れの間”の居心地を堪能していた。
その夜、またしても酒を交わしながら、整えられた部屋で新しい映画を観る約束を交わした。
「さぁ、次は何を観るかの。冒険ものもよいし、笑えるやつもよい……」
こうして二人の夜は更けていった。