淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐   作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍

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また設定ばかり投下しますので本編は多分進みません、多分。


過去と未来と今

「というわけで、今日の映画は……『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です」

 

男がリモコン片手に言うと、テレビの前に陣取っていた銀狐がピクリと耳を動かした。

すでに部屋の照明は落とされ、テーブルの上にはコーンポタージュの缶スープと、コンビニで買ってきたフライドチキンが並んでいる。

 

「ばっく……ふゅーちゃー? なんじゃ、その舌を噛みそうな題名は?」

 

「未来へ行って、また過去へ戻ってくる話ですね。タイムマシンってやつに乗って、歴史を改変しちゃうみたいな……」

 

「なぬっ!? 時を行き来するとな!? それは、もう完全に“神業”ではないか!」

 

銀狐がぐいっと身を乗り出す。

その後ろには、ぬいぐるみクッションに埋もれた座椅子。テレビは50型、音響は男が少し奮発して買い足したサウンドバーから流れ出しており、アパートの一室とは思えないほどの臨場感が広がっている。

 

「じゃ、まずは一作目から行きましょうか」

 

「うむ、準備は万端じゃ! さあ、封印の間よりワシの目でその未来を見届けてくれようぞ!」

 

映像が始まる。

 

少年・マーティと、白髪の科学者ドク。

カッコいいデロリアン、アナログな時計台、時速88マイルの世界。

 

大画面のテレビが、ゆっくりと暗転からフェードインし、タイトルロゴが浮かび上がる。

 

 『BACK TO THE FUTURE』。

 どこかクラシックで、それでいてワクワクするようなロゴデザインに、銀狐はすでに目を輝かせていた。

 

 「ふむ……これが、“ばっく・とぅ・ざ・ふゅーちゃー”? 未来に戻る、とな……」

 

 「1985年の映画なんですけど、古臭さは感じないんすよね。むしろ今見ても面白い名作です」

 

 「む……始まったのじゃ!」

 

 スピーカーから流れるテーマ曲の序奏が部屋に響く。大画面に映る映像は、少年・マーティと科学者・ドクとの出会い、そして謎のタイムマシン“デロリアン”の登場とテンポよく繋がっていく。

 

 「むう、この車……ただ者ではないな……! これが“たいむましん”……! 車が、時を越えるとは、なんという発想!」

 

 「実際の科学では無理ですけどね、でも映画の中ではこの無茶な発想がロマンなんすよ」

 

 銀狐の視線は、映像の中で過去の1955年に転送されてしまったマーティの姿を追っている。

 

 「時代が違えば、人の服装も、言葉も、町の景色も違うのう……なんと面白いことか……!」

 

 場面が進み、マーティが自分の両親の若かりし頃に出会い、存在の矛盾から消滅しかけてしまうという展開に差し掛かる。

 

 「こ、これは……未来を変えるということが、過去の自分に影響を……なんとも込み入った……。だが面白いのう!」

 

 銀狐は眉間にしわを寄せながらも、その緻密なプロットの展開にすっかり引き込まれていた。

 

 「この、どくという男……随分と変わり者じゃが、信頼できる男じゃな。良い顔をしておる」

 

 男はその反応に、思わずふっと笑みをこぼす。

 

 「ドクは人気キャラっすからね。シリーズ通して、彼の信念と行動はブレないんすよ」

 

 その後も銀狐は、マーティがロックンロールを奏でるシーンで「なんと! この曲……気持ちが昂ぶる!」と乗り出し、雷が落ちるタイミングで電力をタイムマシンに流し込む壮大なクライマックスでは「うおおおおっ、いけ! 間に合えーっ!」と叫び声を上げた。

 

 そして、物語が終幕を迎えた時、銀狐は肩を落とし、深く溜息をついた。

 

 「なんと素晴らしき旅路であったことか……まさか一本の映画にここまで心を動かされるとは……」

 

 「ふふ、だから言ったじゃないですか。良いものだって」

 

 銀狐は改めて画面を見つめ、手を合わせて何かを言いたげに口をパクパクさせるが、声にはならない、少し時間が経ち、ようやくと話出した。

 

 「……あまりに良い物を見ると、全てが完璧に見えて、何が良かったのかを語れなくなるのじゃな?」

 

「ただ、ただ、名作……って感じですね」

 

 映画の余韻を残したまま、2人はテレビを消すことなかった。次なる物語へとディスクを入れ替える。

 

 

1作目を観終えると、すでに夜の10時。

 

「ふむ……一作目にして、すでに神話級の出来栄えじゃ。だが、続きを見ぬ手はない」

 

「ですよね」

 

「続けて『2』じゃな。先ほどの未来、さらにその先が描かれるのじゃろう? 見せてもらうぞ!」

 

 その声に、男も頷く。

 

 「お付き合いしますよ、まだまだ夜はこれからですから」

 

 静かな室内に、再びテーマ曲が流れはじめた——。

 

と、男がリモコンを操作し、第2作目が始まる。

未来の街、ホバーボード、空飛ぶ車。1980年代の人々が夢見た未来が広がる画面に、銀狐は再び驚きの声を上げる。

 

「な、なんじゃこれは! 空を飛ぶ車に、靴が自動で締まる!? 未来とはここまで進んでおるのか……いや、進んで“いた”のか?」

 

「いやまぁ実際はこの時代の人たちの“想像した未来”なんですけどね。実現は……してません」

 

「それでも、この想像力はまるで妖怪の幻術のようじゃ!ああ、もしわらわがこんな未来を見せる幻を見せられたなら……きっと信じてしまうであろうな」

 

途中、マーティが自分の子孫になりすましたり、過去の出来事に未来から干渉する複雑な展開になると、銀狐は少し混乱したように首をひねる。

 

「んん? さっきの彼は未来からの彼で、あれは別の時点の彼……いや待て、それでは今のこれは“過去から見た未来である現在”ということに……?」

 

「まぁ、考えるな感じろってやつですね」

 

「むう……現代の映画は、頭の体操じゃな」

 

第2作目を終え、時刻は深夜1時を過ぎた。

 

男は少し眠気を感じつつも、銀狐のきらきらした目を見て、言葉を飲み込んだ。

 

「ふふ、続けて観たいのであろう?」

 

「……はい。三作目も、この勢いで行きましょう」

 

「よし、わらわも覚悟を決めた。こうなったら最後まで見届けるのじゃ!」

 

第3作目、舞台は西部劇。

 

「おお……馬に!銃じゃ!という事は西部劇じゃな!? これはまた違った趣き!」

 

「銀狐さん、テンション高いですね」

 

「当然じゃ! 時代の香りがたまらぬ。馬車が走り、汽車が爆走し……なによりドクが“恋”をするとは……!」

 

時間の旅の終着点、シリーズ完結の瞬間、最後にドクが愛した人と去っていく場面、銀狐はしんみりと目を細めていた。

 

「終わってしまったな……」

 

「いい話でしたね」

 

「うむ……ワシ、初めて映画で“旅”というものを味わった気がする。異なる時代を渡り歩き、同じ人々と絆を結ぶ……これはまさに現代の神話じゃ」

 

「神様にそう言ってもらえると、映画業界も喜ぶと思いますよ」

 

午前3時を回っていた。

押し入れの中の封印の間では、テレビの明かりだけがぼんやりと灯っている。

 

男はあくびをしながら毛布を取りに立ち上がり、銀狐の座る座椅子にそっと掛けてやる。

 

「ふふ、ありがとな。今日は……実に良き夜じゃった」

 

「ですね。また面白いの見つけておきますよ」

 

「約束じゃぞ?」

 

「はい、もちろん」

 

神と人と、未来への夢。

一夜限りの映画マラソンは、静かに、温かく終わりを迎えた。

 

 

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