淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ただいまー。いやー……ついに実家の親から“いい加減持っていきなさい”って言われちゃいまして」
玄関を開けながら男が笑うと、すぐに封印の間のふすまが音もなく開き、銀狐が顔を出した。男の手には大きな段ボールが一箱、それとは別にビニール袋をいくつか抱えている。
「なんじゃ、今日はやけに荷物が多いのう」
「昔遊んでたゲーム機とソフトですね。実家に置きっぱなしにしてたら、邪魔だから早く持っていけって……」
「ゲーム機? というと、あれか。前に“ふぁみこん”なるもので遊ばせてくれたのと同じ……?」
「ええ、そうです。今回はスーファミだけじゃなく、プレステとかセガサターン、ドリームキャスト、PS2にゲームキューブ……まあ、古今東西の家庭用ゲーム機ってやつですね。昔の自分の財産です」
「……ふむ、ようわからんが、遊び道具がたくさんあるということじゃな?」
「はい。そのうちのいくつかは今でも遊べますから。せっかくなので、今日はちょっと変わった遊び方をしましょうか」
男はそう言って、スーファミやPS2、ドリキャスなどの箱から一部のソフトを取り出し、テーブルにずらりと並べた。ソフトの表紙が見えるように一枚ずつ置いていく。
「さあ、銀狐さん。今日はこの中から“直感”でひとつ選んでください。どれを遊ぶかは、あえて内容を説明せずに決めてもらいましょう」
「ふふふ……面白いではないか。そういう選び方、わらわは好きじゃぞ」
銀狐は身を乗り出し、一枚一枚、絵柄を見ながら、時折「ふむ……これは戦いか?」「む、これは恋……?」「これは……なんじゃこのゆるい絵は」などと呟きながらソフトを吟味する。
そして一枚のソフトに指を置いた。
「これが気になるのじゃ。“牧場物語”……なにやら、心が穏やかになりそうな雰囲気があるのう」
男はそのタイトルを見て、思わずにやりと笑った。
「いいセンスですね。これは農業したり家畜育てたりする、まったり系のスローライフゲームですよ」
「まったり……? 戦もなしに、ただ、のんびりと暮らすのみか?」
「ええ、そうです。日々畑を耕して作物を育てて、街の人と仲良くなって、理想の牧場ライフを送るっていうゲームですね」
「……それはまた、なんというか……平和すぎて逆に不安になるのう。でも、まぁよい。戦ばかりしていては心もすさむゆえのう。たまには、そういう暮らしも味わってみたいのじゃ」
男がスーファミを接続し、ゲームを起動すると、古めかしいドット絵のオープニングが静かに流れ始めた。画面には「牧場を継ぐ青年」の姿が映し出され、のどかな音楽と共にゲームがスタートする。
「ほう……これは、畑を耕すのか。ふむふむ、鍬を選んで……こうじゃな? おお、耕せた! ふふふ、耕しておるぞ、わらわ!」
「作物を植えるには種がいります。お金が貯まったら店に行って買いましょう」
「なんと、金が必要なのか。世知辛いのう……いや、しかし現代社会の縮図のようでよいではないか」
最初はおっかなびっくりだった銀狐も、次第に作物の成長を楽しみにし、毎朝ゲーム内でニワトリに餌をやり、畑の水やりに精を出し始めた。季節が変わるたびに訪れる収穫の喜びに、自然と笑顔も増えていく。
「見よ、男よ! この立派なトマトを! わらわが育てたのじゃ! このようにして、自給自足の生活というものはな……」
「完全に村の長老ポジションになってますよ」
「む……それはそれで、よいものじゃな」
夜、ゲームを終えて男が食事の準備を始めると、銀狐はふと、静かに呟いた。
「思えばのう……昔の世でも、こうして畑を耕し、村で暮らし、皆と共に年を重ねるような者たちが多かったのじゃ。わらわは……その村に、ほんの少し顔を出して、祭りで舞を披露したり、妊婦の面倒をみたり……それだけでよかった」
「……いいですね、そういうの」
「そうじゃな。牧場物語は、わらわに少し、忘れていたものを思い出させてくれた気がするのじゃ」
画面の中では、夕焼けが牧場を染め、プレイヤーキャラが家に帰っていく。
「この世界も、あの世界も、誰かが懸命に日々を生きておるのじゃのう」