淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
「ほぉ……アマゾンほどではないが……中々の品揃えではないか!」
自動ドアの開閉音と共に、銀狐は高鳴る好奇心を抑えきれずに言った。
ここは、近所のコンビニエンスストア。
ごく一般的な店舗で、男にとっては見慣れた空間だが、銀狐にとってはまるで宝の山である。
店内に足を踏み入れた途端、耳がピコピコと忙しく動きはじめ、あっちを見ては「おお」、こっちを見ては「ほほぅ」と声を漏らしている。
「コンビニというのは、すごいのう。城の蔵の中でも、ここまで色と物が溢れてはおらんかったわ」
「まぁ、だいたいの物は揃ってますからね。ちょっとした文房具から食料、洗剤まで。今の日本人はここで暮らせるって人もいますし」
「そなた、それは言い過ぎではないか?」
「いや、マジで」
事前に紙幣と硬貨の種類、支払いの仕方、買い物の流れは教えてきた。
今日の目的は、銀狐さんの初めての自分での買い物である。
「これは……“ホットアイマスク”? 目を温めてどうするのじゃ?」
「目が疲れてる人にいいんです。温めると血流がよくなるとかなんとか」
「ふむふむ。これは……“ホッカイロ”? 懐に入れておくと暖かいのか?」
「使い捨ての小型暖房って思ってください。外で寒い時なんかに重宝しますよ」
「……これは?」
「ホットケーキミックス。甘くてふわふわの菓子が簡単に作れる粉です」
「菓子を粉から!? 便利な世になったのう……」
自動の扉、冷蔵棚に並ぶ色とりどりのペットボトル飲料、ATM、雑誌コーナーの並び、洗剤と柔軟剤、そしてコスメ用品――
店内を一巡するうち、銀狐の目はきらきらと輝き、耳は落ち着くことなくピコピコと跳ね続けた。
「……この“お菓子”とやらは、何じゃ? この袋の中に詰まっておるものは?」
「それはグミって言って、果物味の弾力あるお菓子です。子供から大人まで人気ですよ」
「ふむ……この“ラムネ”というのも気になるのう。小粒で、涼しげな色をしておる」
「じゃあ、いくつか買ってみます? ついでに会計の流れを見せますから」
「よかろう。まずは手本を見せてみよ」
男は飲み物とお菓子をいくつか選び、レジに向かう。
店員さんはいつものように、無言で商品のバーコードをスキャンしながら袋の有無を尋ねてくる。
「袋は大丈夫です」
「〇〇〇円になります。ありがとうございましたー」
いつものテンポであっさりと終了。
会計を終え、商品を手にしたまま銀狐の元へ戻る。
「どうです? 流れ、わかりました?」
「……見ておったが、あまりにも自然に進みすぎて、逆に不安になってきたのじゃが……」
「大丈夫ですよ。銀狐さんならいけますって」
「ふむ……ならば、わらわもやってみるぞ!」
銀狐が手に取ったのは、和風の茶菓子とブレンディというメーカーのお湯に溶かして飲むタイプのインスタントスティック、そして緑茶のペットボトル。
どれも初めての買い物にはぴったりの、シンプルなラインナップだった。
自信なさげにレジへと進む銀狐に、男はさりげなく距離を取りつつ様子を見る。
「……こちら、ポイントカードはお持ちですか?」
「ぽいんと……かーど……? ……そ、それは何じゃ?」
「……いえ、なければ大丈夫です」
「あ、う、うむ。では無い、ということで……」
少しテンパったが、銀狐は財布から小銭を取り出し、しっかりと支払うことに成功した。
レジ袋に入れてもらった商品を抱えて戻ってきた銀狐は、どこか誇らしげに胸を張って言った。
「ふふん、どうじゃ? ワシ、やればできる子じゃろ!」
「はいはい、よくできました」
帰り道、夕暮れに染まる町の空の下、袋を持って歩く銀狐の後ろ姿は妙に嬉しそうだった。
そしてその日の夜――
二人は封印の間に戻り、買ってきたお菓子を広げて、淹れたお茶と共にささやかな“戦利品パーティ”を開いた。
「……この“グミ”というやつ、弾力があって楽しいのう! これは癖になるかもしれん」
「こっちはラムネ。口に入れるとすぅっと溶けて気持ちいいですよ」
「ふふふ、現代のおやつ、侮れぬ……また行こうぞ、コンビニ!」
「ええ、今度は夜に行ってみましょうか。深夜営業なんで、24時間開いてますよ」
「に、じゅうよじかん!? 現代の人間はいつ寝ておるのじゃ……?」
その問いに、男は少し笑って言った。
「まぁ、みんな寝てないから現代病が増えてるんですかね……」
こうして、銀狐の“人としての第一歩”はまた一歩進んだ。
今度は、何を買いに行こうか。何を楽しませてあげようか。
その小さな背中を見つめながら、男はふと、そんなことを思った。