淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
夕暮れ時。
窓から差し込む陽の色が、部屋をほんのりと茜色に染めていた。
ちゃぶ台の上には、銀狐さんが用意してくれた夕食。
炊き込みご飯と、出汁のきいた卵焼き、そして冷たいお茶。
いつも通りの、いつも通りの食卓。
けれど今夜、俺はその“いつも”を、ほんの少しだけ変えようとしていた。
──言おう。
この気持ちを、ちゃんと。
けれど、タイミングが掴めない。
「ほれ、茶を飲め。気が急いても喉は渇くじゃろ」
「……あ、ありがとうございます」
銀狐さんは、いつも通りだった。
優しくて、少しお節介で、だけどどこか、今日の彼女は“待っている”ような気もした。
食事が終わり、後片付けも済ませた頃。
俺は意を決して、立ち上がった。
「銀狐さん。ちょっと、いいですか?」
「ん? なんじゃ、改まって」
「……座ってもらえますか」
ちゃぶ台を挟んで向かい合う。
銀狐さんは首をかしげながら座りなおし、静かに俺の目を見つめてくる。
その瞳の色が、なぜか少し柔らかく、そして少し──期待に似た気配を宿していた。
「……銀狐さん」
「うむ」
「……俺、あなたのことが好きです」
空気が、ぴたりと止まった気がした。
「ずっと一緒に暮らしてきて、毎日があったかくて、居心地がよくて……でも、それが当たり前じゃないことに気づいたんです」
「……」
「俺、これからもあなたと一緒に暮らしたいです。
だから──もしよければ、俺と付き合ってください」
喉が、からからに乾いていた。
言葉はなんとか出てくれたけれど、心臓がうるさくて仕方ない。
でも──銀狐さんは、数秒の間を置いてから、口元をふにゃりと緩めて、言った。
「……そうまで言われてしまっては、仕方ないのぉ?」
「えっ……」
「ワシのことをそんなに好きだというなら……まぁ、その、なんじゃ……付き合ってやらんでもない、ぞ?」
視線は泳ぎ、耳は赤く染まり、でも口調だけは誇らしげ。
「……ありがとうございます」
「ふ、ふん。まったく、お主は本当に……不器用じゃのう」
そう言って、茶を一口すする銀狐さんの手が、ほんの少しだけ震えていた。
だけどその姿が、何よりも愛おしかった。
その夜。
並んでテレビを見ながら、銀狐さんがぽつりと呟いた。
「……のう、男よ」
「はい?」
「今の生活が、続くというだけで、なんだか嬉しいの。……そう思ってしまうワシは、ちょっと変かの?」
「全然変じゃないです。……俺も、まったく同じ気持ちですから」
そう言って、ちゃぶ台の上で、そっと彼女の手に触れた。
銀狐さんは目を伏せたまま、声も出さずに、その手をぎゅっと握り返してくれた。