淫夢厨社会人と封印から出れない妖狐 作:狐耳大すこすこすこてぃっしゅふぃーるど侍
夜が深まり、部屋は静けさに包まれていた。
ちゃぶ台の上には、夕食後の湯飲みがふたつ。
もう冷めきってしまっていたけれど、なぜか片付ける気になれなかった。
男は、寝室にいる。
「先に寝てますね」と言い残して、静かに引き戸を閉めていった。
ワシはひとり、電気もつけず、薄暗がりの中でぼんやりとその湯飲みを見つめていた。
(……あやつが、ワシを選んでくれた)
信じられないという気持ちと、
とうとう来たかという納得と、
ずっと待っていたような安堵と。
胸の中が、まだ整理のつかない感情でいっぱいだった。
数百年前、ワシは“神格”として生きておった。
人の願いを聞き、力を貸し、祀られる存在。
それが当然だと思っていた。
だが今──
朝になれば、一緒にご飯を食べる者がいて。
夜になれば、「おやすみ」と声をかけてくれる者がいる。
ちゃぶ台を挟んで笑い合い、洗濯物を干して、「このドラマ、面白いのぉ」などと呟きながらテレビを見る。
それはどれも、かつてのワシが知る“神”の生活にはなかったものだった。
(……ワシが、知らなかっただけかもしれんのう)
神である前に、誰かと暮らすということ。
気配を感じ、呼吸を合わせ、共に季節を重ねていくということ。
それがこんなにも、あたたかいものだとは。
「好きです」
告白されたときの言葉が、今も胸の奥で響いている。
男はまっすぐだった。
飾りも脚色もない、ただただ実直な気持ち。
──だからこそ、胸に深く突き刺さった。
(ワシが望んでいたのは、神としての祈りでもなく、信仰でもなく──)
(たった一人に、たった一人として、選ばれることじゃったのかもしれん)
ずっと、そう思っていた。
けれど、言葉にできるほどには、整理できていなかった。
でも、今なら言える。
「……ワシは、あやつと生きていきたいんじゃ」
神としてではなく、ひとりの女として。
かつて祈りを受け、力を貸し、生きた“狐の神格”ではなく──
炊事をして、洗濯をして、おかえりと迎える日々の中に“ワシの幸せ”を見出したただの一人。
──それでも構わぬ。
それが、今のワシなのじゃ。
引き戸の向こうから、布団のこすれる音がした。
男が寝返りを打ったのだろう。
その気配を感じただけで、胸の奥がふっとあたたかくなる。
(まったく、お主は……)
こんなにも、ワシの世界を変えてしまったというのに、
それに気づいておらぬ顔で「おやすみ」と笑うのじゃから。
「……ふふっ、ずるいやつじゃ」
そっと立ち上がる。
湯飲みに手を伸ばしかけて、けれどやっぱり、触れずにいた。
このままでいい。
朝になったら、ふたりで片付ければいい。
「銀狐さん?」
寝室の中から、小さな声がした。
「……まだ起きてたんですか? 今日は……長い日でしたから」
「うむ、そうじゃな。今、行くぞ」
引き戸を開けると、布団の中で男が少し体を起こしてこちらを見ていた。
その顔に、心からの優しさがにじんでいた。
「そうだ、恋人同士になったんだし……一緒に添い寝しませんか?」
「……まったく、お主は……最後までそういうやつじゃの」
掛け布団の端に腰を下ろすと、男が手を伸ばしてきた。
ためらいがちに、けれど真っ直ぐに──その手を、ワシは受け取った。
互いの掌が重なり、指が自然に絡む。
何も言わず、何も足さず、ただぬくもりだけが伝わってくる。
この手のぬくもりと、
この空間と、
この生活を──
「ワシは、手放さんぞ」
ぽつりと呟いた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。
明日もまた、目が覚めれば、
ふたりで朝ごはんを食べて、
味噌汁の塩加減を確認し合って、
くだらないテレビを見て笑い合う。
──そんな日々が、ずっと続いていく。
それこそが、ワシの“信仰”なのかもしれぬな。
神と人間。
時を越え、想いを重ね、ちゃぶ台を挟んで──
今日も、幸せに暮らしておる。
めでたし、めでたし。
気が向いたら近いうちに消します。
プロット無し書き溜めは15話までで適当な見切り発車をしましたが、まぁ完結して良かった。
適当に書き散らかしたけど、まぁなんとか整合性取れたか?取れてなくてもええか。
元々人気も無いしラノベ一巻相当の10万字前後くらいでおはなしを終わらせようとは思ってました、8万字くらい……?ちょっと足りないけど、まま、ええか。
んでタイトル変えて中身を整えて6万字くらいにスリムに再構築して再投稿……気分が向いたらします。
江戸時代の神様を現代娯楽漬けにしてみた。とかになってるかもしれません。
良いタイトル思いつかないんだよなー俺もなー!
いいのあったら感想に至急メールくれや!
文章直すの面倒でこのまま放置するかもしれない、半々くらい。
ラスト5話が30分くらいで出来上がってるのヤバくて草、むしろあとがきのが時間掛かってる
今作は筆が乗ってむっちゃ書けたから楽しかった。
そんじゃ皆さんまた何処かでお会いしましょう。