原作主人公が居ないオーバーロード 作:Revak
「──何か来るな」
カルネ村に一晩泊った次の日。パンドラは不意にそんな言葉を漏らした。
情報の収集は面白いぐらい順調に進んだ。
この国の名前。冒険者という職業。魔法について。モンスターの概念について──
そういった情報を村人たちから聞き、農作業を手伝い、森から獣を狩猟したモモンは村人たちから好意的に受けいられていた。
「というと?」
隣に居たナーベラルがパンドラの問いかけに返す。
何か来る、といったパンドラは正しかった。ナーベラルの耳にも馬の足音が聞こえたのだ。
馬には騎士らしき男が乗っている。モモンと同じく全身鎧だが此方は白い。
顔もまた兜で隠されており伺う事は出来ない。
それが多数、接近してきている。
騎士は馬から降り、剣を手に近くに居た村人に剣を振り落とそうとし──
「やれやれ。危ないじゃないか」
──パンドラによって止められた。
「な、何だお前は」
「今は単なる旅人だよ」
そう言うとモモンは手加減して騎士の胴体を殴る。
それだけで騎士は吹っ飛ぶ。鎧の胸当てに拳状の後を残して。
「さて。やるとしよう」
結論から言えば。パンドラとナーベを前に騎士達は成す術が無かった。
パンドラはモモンの姿……モモンガの姿で魔法で鎧を作った状態とはいえレベルにして三十三相応はある。
その力をもってすれば、只の騎士等相手に成らない、成る訳が無いのだ。
■
「皆さん、無事ですか?」
騎士の襲撃から三十分。其処には変わらず無事な村と捕縛された騎士達が居た。
村の広間に集められた騎士達は反抗する気力もなく、項垂れている。
これはパンドラ──モモンの力を知ったからこそ。鎧など知った事かと両断する剣の鋭さと膂力。そして逃げようとしても逃がさぬと仲間のナーベラルが放つ
反抗する気力など無くなるというものだ。
「この度は私たちを助けてくださりありがとうございます!」
そう礼を言うのは村の村長だ。
「いえ。此方も振りかかる火の粉を払っただけです。そこまで感謝される様な事ではありません」
パンドラはそう謙虚に返す。
英雄に成れという命令が下っている以上ここで横暴な態度をとる事は出来ない。
「取り合えず、荒れた村を戻しましょう」
村には騎士達が畑など知った事かと馬で乱入したり、徒歩で荒らした結果そこそこ荒れてしまっている。
それを直そうとパンドラは提案する。
パンドラの提案に断る理由もない為、村人たちは多少荒れてしまった畑などの修復作業に取り掛かる。
パンドラは手伝い、ナーベラルは騎士たちの監視をする。
そうした諸々が終わった後、パンドラは騎士の一人を尋問する。
騎士の置場が無いため広間に放置しており、騎士達は窮屈そうにしている。
「さて、お前達は何者だ?」
パンドラは単刀直入に問いかける。
「……バハルス帝国の騎士だ。見てわかるだろう?」
騎士はそう答える。丸で決められているかのように。
その嘘をパンドラは見抜く。
村長から聞いた話では帝国と王国は戦争をしている。その状態で帝国兵が村を襲撃する理由が無い。
決まった戦争時機でないのに態々辺境の村を騎士に襲わせる理由が無いのだ。
その為に有り得る可能性は二つ。
何処かの国の偽装兵。もう一つは野盗等が帝国騎士の装備をしているかの二つである。
「嘘だな。帝国の騎士がこの時期にこんな暴挙をするわけがない」
パンドラは剣を構えようとする。
「今のうちに話した方が楽になるぞ」
「わ、わかった! 言う! 俺たちはスレイン法国の者だ」
「やはりその国か」
スレイン法国。バハルス帝国。リ・エスティーゼ王国の三ヵ国は国境が近い。
それを考えればスレイン法国の仕業だというのは実にわかりやすくてよい。
「成るほど、成程──」
パンドラは尋問を続けたが、大した情報は得られなかった。
精々が何かしらの指令を受けた部隊であり、特殊作戦の一環としか知られていなかったのだ。
村々を襲えという命令しか受けていないと彼らは主張した。
これは幾ら脅しても情報を吐かなかった為本当に知らないのだろう。使い捨ての部隊という訳だ。
「さて、どうするか──」
■
村にある集団が来ていた。
それは統一感の無い武装集団だ。
各々各種好きな武器を腰に下げている。モーニングスターに剣に大剣等だ。
良く言えば傭兵集団。悪く言えば野盗に見える彼らは馬に乗りカルネ村にやって来る。
その者達を前にモモンの姿のパンドラズ・アクターとカルネ村の村長が立っている。
カルネ村の中央当たりに来た集団から一人の代表者らしき男が馬に乗ってやってくる。
鍛え上げられた筋肉を持つ男だ。黒い髪に黒い瞳をしている。
鎧を纏った姿は雄々しく勇ましい。
「私はリ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ! このエ・ランテル周辺の村々を襲う帝国騎士を打ち倒す為に来た者である!」
男──ガゼフは名乗りをあげる。
パンドラは村長の反応からそれを事実と仮定する。
そうでなくともこの男の戦闘力は高い方だとパンドラは推察する。最低でもレベル二十以上──村を襲った騎士等比べ物に成らない程には強い。
「この村の村長だな? 隣に居るのはいったい誰だ?」
ガゼフの問いかけにパンドラは一歩前に出て答える。
「始めまして。私はモモン。旅をしている者です。この村には偶然立ち寄っただけなのですがこの村に滞在中に帝国騎士らしき者達に襲われまして迎撃したものです」
言いながらこの村が襲撃される前にこの村に来たのは偶然なのかとパンドラは考える。
ヴィルト・シュヴァインの指示通りに動いた結果の襲撃だ。何か考えがあったのではないかと考えてしまう。
「なんと! それはかたじけない!」
ガゼフは馬から降りる。
「この村を救ってくださり、感謝する!」
ガゼフは頭を下げて感謝の意を示す。
その姿にパンドラは好感を示す。このように感謝を示してくれる人間は嫌いではない。
「ガゼフ戦士長! この村を囲うように複数の人影が!」
其処にまたガゼフ配下の戦士が叫びながらやって来る。
今日は厄日だろうか、とパンドラは遠い事を考えるのだった。
■
「確かにいるな……」
村長の家にガゼフとパンドラは隠れている。
ガゼフが村長の家の窓から覗き見た先には奇妙な男が一人とモンスターが一体浮いていた。
奇妙な男だ。顔を隠すフードにローブを纏っている。姿からして
モンスターの方はパンドラの知識にもあるモノだ。機械的な姿をした翼の生えたモンスター。
「彼らは何者なのでしょうか?」
はんば答えの分かっている問いをパンドラは言う。
「あれだけの
やはり、とパンドラは内心舌打ちをする。
国家単位の動きに巻き込まれるのはパンドラの目的ではない。
いや、最終的にはそうなるのだろうが今はまだ名声を求める段階だ。その名声が無い状態で関わるのは御免被りたい自体だ。
正直
「どうだろう。モモン殿。良ければ雇われないか? 報酬は望む額を用意しよう」
ガゼフはパンドラ──モモンに対しそう提案する。
「いえ。私が貴方に雇われる訳には行きません」
今の立場を考えれば仕方のない事だと、パンドラは言う。
何かを言いかけたガゼフを遮るようにパンドラは続けて言う。
「ですが……そうですね……偶然……私が何処かに行くかもしれません。その行く場所に誰かが居るかもしれません。その誰かは誰かを襲うかもしれない。私は自己防衛の為に戦うかもしれません。別の誰かが戦っていたとしても」
それは遠回しに援護するという事だ。
そう。パンドラ──モモンという存在が王国の戦士長に雇われて戦う訳には行かない。そうなれば英雄モモンが王国に属する者という事になってしまうからだ。
まだどの国に所属するかも決めていない状態で一国に決めてしまう訳には行かない。だが英雄モモンが人を見捨てて逃げるわけにも行かない。
だからこその誰に雇われた訳でも無いよ、ただただ其処に居た不幸な通りすがりだ、という事にしての援護である。
「そうか……ならば仕方無いな、私も行くとしよう」
そのことを察したガゼフはあからさまに肩を落とし、溜息をつく。
「では私はこれで。もしまた会えたなら、家に来てくれ。私の方で再開を祝って何か用意するとしよう」
「えぇ。機会があればぜひ」
パンドラとガゼフは堅く握手をするのだった。
■
そこは戦場だ。
飛び交うのは矢ではなく魔法。戦うのは人間と魔法の生物。
王国戦士団と敵対勢力──陽光聖典が召喚したモンスター、
平野の中、太陽が沈みかける中王国戦士団は不利な中戦う。
王国戦士団の装備は王国らしい物……鋭い剣や頑強な鎧だが、それまでだ。何の魔法効果もついていない。
対し陽光聖典の者達は元の素材もさることながら全ての装備に魔法効果が付いた高級品、マジックアイテムだ。
その時点で王国戦士団が劣っていて、更に彼らが相手にしているモンスターもまた問題だ。
唯一武技という戦士が使える魔法にも似た能力で戦士長ガゼフが魔化された武器に近い状態にすることで倒す事が出来ているがガゼフだけだ。
他の者達は一体も倒す事が出来ていない。
このまま行けば勝てる。陽光聖典の隊長ニグン・グリット・ルーイーンが確信した時戦場に電撃が走る。
それは二つの龍だ。白く輝く龍の輝きが戦場に走り──空を飛ぶ天使たちを撃墜した。
「何事だ?!」
王国では有り得ない魔法行使にニグンは戦慄する。
其処に、黒い風が吹き荒れた。
何名かの陽光聖典の隊員が悲鳴と共に絶命した。
「な、何者だ貴様!」
其処に居たのは漆黒の鎧に身を包んだグレートソードを二つ持った戦士──言うまでもなくモモン扮するパンドラズ・アクターであった。
魔法の正体はナーベラル・ガンマが放った
ナーベラルは原作と違い第五位階までの魔法の行使を許されているのだ。
「旅人だよ。それ以上答えるつもりはない!」
パンドラは叫び、再召喚された天使の群れに突っ込んでいく。
それはまさしく死の嵐。モモンのグレートソードの一振りによって天使はただの一撃で倒されていく。
その戦力にニグンは恐れ慄き、切り札の使用を決意する。
「時間を稼げ! 最高位天使を召喚する!」
ニグンは懐から水晶の塊を取り出す。
ユグドラシルにもあったマジックアイテム、魔封じの水晶だ。
効果は輝きに応じ階位魔法を封じ込め、どんな職業の者でも任意のタイミングで使えるというものだ。
ニグンが持つアイテムの輝きからして超位魔法以外は使えるものである。
「させるか!」
パンドラは叫び、ニグンに向かってひた走る。
パンドラの脚力はレベル三十三相応──現実のどんな体操選手よりも優れた力を持つ。
その足をもってすれば高速で走る事など容易だ。鎧を着ているのか不思議なくらい早くパンドラは走る。
当然陽光聖典の隊員もパンドラを妨害しようと天使をけしかける。だが──
「<六光連斬>!」
ガゼフは武技を行使しモモンに迫りくる天使を斬り払う。
放った武技は<六光連斬>。六つの斬撃を放つガゼフオリジナルの武技だ。
その武技によって天使はただの一撃で倒される。
「オオオ!」
「しま──」
そして、ニグンはパンドラのグレートソードによって両断され、絶命するのだった。