原作主人公が居ないオーバーロード   作:Revak

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第5話

 

「俺は……捕らえられたのか」

 

 ブレインはぽつりとつぶやいた。

 

 ブレイン・アングラウスが今居るのは洞窟の中だ。

 本来ならば盗賊達がたむろしている食堂だった場所は、血に塗れていた。

 その血の正体は言うまでもない。全て盗賊達の血だ。

 

「お、起きたか」

 

 ヴィルトはそう天幕を潜って出てくる。

 

「さて、ブレイン・アングラウス。お前には今二つの選択肢がある」

 

 適当な椅子に座り、ヴィルトはそう告げる。

 

「一つはここで死ぬこと。なにも成せぬ愚者として死ぬ事だ。もう一つは我の配下となる事だ」

「俺が……あんたの配下に?」

 

 冗談だろう、とブレインは言外に目で訴える。

 

 ヴィルトの戦闘力は人知を超えている。その戦闘力の持ち主が配下など必要とするだろうか。

 いや、身の回りの世話をする小間使いならいるかもな、とブレインは考えてしまう。

 

 正直言えば今すぐにでも逃げ出したい。だが逃げることは出来ないと思い知ってしまった。

 ああ、どうすればいいのかとブレインは考える。

 

 ──死にたくない。それがブレインの裏表ない思いだった。

 

「わかった……配下になろう」

「契約成立だな。お前を我が居城に連れて行こう」

 

 ヴィルトはブレインのロープを素手で引きちぎる。

 

「では着いてこい。我が居城まで連れて行こう」

「ああ。わかった。着いて行くよ……」

 

 ブレインは意気消沈しながら、大人しくヴィルトに着いて行くのだった。

 

 ■

 

 トブの大森林。

 人間達にとっての不可侵領域。人外の楽園足る場所に建造物が着々と作られて行っていた。

 その建造物は森の木々を伐採して創られたものである。

 

 この建造物を作るのは異形の者達。

 

 鋼鉄の塊を人型にした洗練したデザインの異形、アイアンゴーレム。

 小柄な体躯。だが顔には邪悪さがにじみ出ている。蝙蝠の翼を持つ悪魔、小悪魔(インプ)。

 肉も皮も無い骨だけの姿。ローブを纏った姿は正しく邪悪な魔術師。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。

 

 各種異形はたった一人の少女に従っていた。

 

 まだ少女と言える、小学年低学年程度の体躯。

 金の髪に両目で色の違うオッドアイ。突き出た長くとがった耳。黒い肌。

 ダークエルフと呼ばれる種族であるアウラ・ベラ・フィオーラだ。

 

 そしてもう一人、木の皮を片手に何か考える異形の男。

 

 長身、百九十センチ以上はある体躯。

 赤いスーツを見に纏った姿は敏腕サラリーマンを彷彿とさせる。

 臀部からは甲殻的な尻尾が生えており、眼鏡をかけている。

 

 最上位悪魔(アーチデヴィル)デミウルゴスである。

 

「デミウルゴス、本当にそんなのでいいの?」

「ああ。ヴィルト様からのご命令でもある。使えるか確認しないとね」

 

 

 ヴィルトはデミウルゴス牧場を阻止すべくデミウルゴスに一つの命令を下した。

 それは「巻物(スクロール)の材料となる物を探せ。正し一定以上の知能……対話が可能な程に知性が高い生物を使うのは禁ずる」と言ったものだ。

 最後にヴィルトは「木の皮なんかも使えるかもな」と露骨に人間を使うなと言外に伝えることで現状牧場の発生を抑えていた。

 その為にデミウルゴスは木の皮を取りにトブの大森林にまで来ていたのだ。

 アウラに下された命令は原作通り偽ナザリック件資材置き場の建造だ。

 

「これだけあれば大丈夫だろう。ありがとう、アウラ」

「どういたしまして、デミウルゴス」

 

 デミウルゴスは三十程適当な木の皮を剥いでからナザリックに帰還するのだった。

 

 ■

 

 それから暫くして。ヴィルトはトブの大森林に来ていた。

 日数で言えば一週間ほどが経っている。

 その間に様々な事があった。具体的にはエ・ランテルでアンデッド事変が起こりそれをパンドラが解決したのだ。

 ただそれぐらいであり、パンドラは森の賢王を連れて行っていない。その為にヴィルトが来ていた。

 

 トブの大森林のカルネ村近くの場所で。ヴィルトは森の賢王が来るのを待つ。

 アウラに命令を下し此方に来るよう誘導させている。その為にヴィルトは待つだけでよい。

 

「来たか」

 

 ヴィルトが言うが早いか、ヴィルトに向かって鋭い物が飛び掛かる。

 ヴィルトはそれを──鋭い鱗に覆われた尻尾を手で弾く。

 

「姿を現したらどうだ?」

 

 ヴィルトは鼻を鳴らす。

 

「やるではござらぬか。では望み通り某の姿を見るがよい!」

 

 木々の隙間から威風堂々と獣が出てくる。

 丸く可愛らしい黒目。白銀の体毛。小さな手足。しゅるしゅると伸び縮みする尾。

 それは尻尾の部分を除けばハムスター……それもジャンガリアンハムスターに分類される獣だ。

 ただし、サイズが違う。軽自動車程の大きさを持つジャンガリアンならぬジャイアントハムスターだ。

 

(かわいい!)

 

 そしてヴィルトは獣……森の賢王を見るなりそんな感想を抱く。

 

「ふふ。某の姿を見て畏怖し言葉も出ないでござるか?」

「……いや、存外可愛くてな。気を取られていた」

「なんと! 某を見て可愛いなどと思うとは!」

 

 ぷっくりと頬を膨らませて森の賢王は怒りをあらわにする。

 

「それじゃあ、やるとしようか、森の賢王──我に負けたら我が配下に加われ」

「ふん、もし某が負ける様な事があれば、考えてやらんこともないでござるよ!」

 

 森の賢王は体を低く構え、突進の構えを取る。

 そして獣の脚力で突進。高速での移動だ。

 

「ふん!」

 

 その突進をヴィルトは両の腕を突き出す事で待ち構える。

 衝突──ヴィルトの腕に衝撃が走る。

 

「存外、柔いな」

 

 ヴィルトによって森の賢王の突進は完全に止められた。

 何か呻きながら森の賢王が力を籠めるも、一歩もヴィルトは動かない。

 ヴィルトは森の賢王を掴み、力を籠める。

 

「そぉれ!」

 

 それは投げ飛ばしだ。掌で毛を掴み森の賢王を投げ飛ばす。

 

 適当な木に当たり、森の賢王が情けない悲鳴を上げる。

 

「く、やるではござらぬか!」

 

 そう言い森の賢王は体表の紋様を浮かび上がらせる。

 行使するは第四位階魔法<全種族魅了>(チャームズピーシーズ)に<盲目化>(ブラインドネス)。

 精神系の魔法は魔獣系統であるヴィルトには聞きやすい。だが当然装備で対策はしてあるうえそもそものレベルの差がある故に通じない。

 

 それを知ってか知らずか、森の賢王は二足歩行で近づきその爪を振るう。

 例え鋼鉄だろうと容易く斬り裂く爪だ。その爪をヴィルトは何時かのように小指で弾く。

 

「なんと!」

 

 森の賢王は驚きの声を上げる。数度、爪を振るうもヴィルトには通じない。

 くるりと、森の賢王はその場で一回転した。

 何を、とヴィルトが思った瞬間森の賢王は尻尾で攻撃する。

 予想外の攻撃にヴィルトは一撃貰ってしまう。喰らったのは顎だ。

 速度も出ている攻撃。常人ならば頭部がそのままはじけ飛び、鍛えた戦士でも貫かれ、英雄ならば脳震盪を起こす一撃だ。

 だがヴィルトは高レベルであるという理由だけで耐えた。

 

「ふん!」

 

 ヴィルトは森の賢王の腹を気持ち強めに殴る。

 それだけで森の賢王は吹き飛び、またも木にぶつかった。

 

「ぐぬぬ……中々やるでござるな」

 

 森の賢王はむくりと立ち上がり、ヴィルトを称える。

 

「……そろそろ終わりにするか」

「ほう? 勝負はまだこれからでござろう──」

 

 ヴィルトは自らが多数保有する特殊技術(スキル)のうち一つを発動する。

 

 特殊技術(スキル)『威圧』

 効果は使用者のレベル半分以下の者を行動不能にするというものだ。

 正し精神系の攻撃に分類されるのでアンデッド系には聞かないし、<獅子のごとき心>(ライオンズ・ハート)でも無効化される。

 だが雑魚散らしには使える特殊技術(スキル)だ。雑兵はヴィルト・シュヴァインの前に動く事すら許されない。

 

 威圧を喰らった森の賢王の表情が青ざめ、恐怖で顔が引き攣る。

 冷や汗をだらだらと流し、身体を地面になすりつける。

 

 森の賢王にとっては効果抜群であり、森の賢王は頭を地面に擦りつける。

 

「某の負けでござる~降伏でござる~」

 

 森の賢王は敗者らしく命乞いをする。

 

 ヴィルトは威圧を解除し、森の賢王の顎に手を当てる。

 

「我の配下となれ。そうすればお前を生かして、使ってやろう」

「こ、この森の賢王、姫のシモベになるでござる!」

 

 良い子だ、とヴィルトは森の賢王の頬を撫でるのだった。

 

 

 

 

 ■

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層、ギルドメンバーの私室の一つ。

 多数あるスイートルール農地の一つ、ヴィルト・シュヴァインの自室でヴィルトは書き物をしていた。

 部屋に人はいない。付き人のメイドどころか護衛の為のエイトエッジ・アサシンすらいない。

 人払いをして何をしているのか、となると原作の書き起こしだ。

 

 執務机でヴィルトは細々と羽ペンで本に書き込んでいく。

 

「……こんなものか?」

 

 覚えている限りの原作の内容を本に書いたヴィルトはアイテムボックスから二つ目の本を取り出し、書き込んでいく。

 今が原作で言うどのあたりに当たるのかを書き、どの程度原作に介入するかを書いて行く。

 

「ん-と、次は蜥蜴人(リザードマン)編か……」

 

 原作で言う第三巻の内容──vsシャルティア・ブラットホールンは起こっていない。その為すぐさま蜥蜴人(リザードマン)編となる。

 

「さて、原作通りに出来るかな?」

 

 モモンガさんいないから出来ないけど、とヴィルトはため息をつくのだった。

 

 其処に部屋がノックされる。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 部屋に入って来るのはホムンクルスのメイドの一人だ。

 

「お時間になったのでお部屋に戻りたく。それとアルベド様が入室の許可を求めております」

「アルベドが? ……許可しよう」

 

 ヴィルトがそう言うとメイドは一度外に戻り、再度ノックをしてから今度はアルベドにエイトエッジ・アサシンを連れて部屋に戻る。

 エイトエッジ・アサシンは蟲のモンスターだ。蜘蛛形のモンスターであり鋭い足を持つ名の通りアサシン系の能力を持つモンスターである。

 能力として不可知化を持つモンスターであり、隠密系統に属する。

 

「ヴィルト様。現状の情報の確認を行いたく来ました」

「そうか……ではするとしようか」

 

 アルベドはヴィルトの背後に着くと巻物を差し出す。

 ヴィルトが受け取り開く。それは地図だ。エ・ランテル周辺を描いた地図である。

 

「これは……パンドラの奴か」

「はい。パンドラズ・アクターがエ・ランテルの魔術師組合長と交渉し手に入れたもののようです」

「成るほどな」

 

 地図を見ながらヴィルトは考える。

 この地図は原作通りだ。

 まずUの字状に国が分かれている。左半分がリ・エスティーゼ王国。右半分がバハルス帝国。

 その中央。Uの字の空白部分にトブの大森林とアゼルリシア山脈がある。

 Uの下側にはスレイン法国が広がっている。

 

 これがこの地図である。

 

「では着いてこい。我が居城まで連れナザリックがある場所です」

 

 アルベドはアイテムボックスから適当な宝石を取り出し、地図に置く。

 

「……やはり近いな」

「えぇ。何かしらの対策をする必要があるでしょう」

 

 ふむ、とヴィルトはワザとらしく顎に手を当て考える。

 だがヴィルトの頭脳は一般人だ。そんな直ぐに答え等でない。

 

「パンドラズ・アクターの様子はどうだ?」

「順調とのことです。現在ではオリハルコンにまで等級が上がっており、アダマンタイトも時機に入るとの事です」

「それはよかった」

 

 やはりハムスケが居ないと上がりも違うのか、などとヴィルトは考える。

 

 その後も二人は細々としたことを話していく。

 最後にアルベドが言う。

 

「コキュートスが出陣するとのことです。その為ヴィルト様にお会いしたいと玉座の間で待っております」

「そうか、ならば向かうとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間。

 その玉座に、ヴィルトは座って居た。

 当初、ヴィルトは玉座に座るのを拒絶していた。この席はモモンガさんの物であり、自身の物でないと。

 だが至高の四十一人の纏め役、至高の主たるモモンガが不在の今ナザリックを動かせるのはヴィルトしかいないとアルベドが説得。

 結果、ヴィルトは玉座に座る事になった。

 

 ヴィルトの傍らには守護者統括アルベドが。そして眼下には第五階層守護者コキュートスが膝を付いている。

 

「コキュートス。準備は出来たか?」

 

 ヴィルトはそう問いかける。

 

「ハッ。万全ニ整ノエテオリマス。私モ間モナク現地ニ出立スル予定デス」

「うむ。全ての采配はお前に任せる」

「ナザリック初ノ戦争。ソノ責任者タル大役ヲ勤メサセテ頂クハ守護者トシテ、武人トシテモ望外ノ喜ビ。感謝申シ上ゲマス」

 

 歩シュート、コキュートスは口から冷気を零す。

 

「コキュートス。お前ならばきっと我の期待に応えてくれるだろう」

 

 ヴィルトはにやりとコキュートスを見る。

 

「期待しているぞ、コキュートス」

 

 

 

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