原作主人公が居ないオーバーロード   作:Revak

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第7話

 

 

 ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間。

 其処でヴィルトは再び玉座に座り配下を見下ろす。

 

 其処にいるのはコキュートスだけではない。

 シャルティア、アウラとマーレ。デミウルゴスに第八階層の守護者ヴィクティムもいる。

 

 ヴィクティムは浮遊する赤子だ。背中から枯れ木のような枝の羽が生えた胎児である。

 

「さて……まずはデミウルゴス。お前の働きをねぎらおう」

 

 ヴィルトはデミウルゴスに話しかける。

 

「何をおっしゃいます。ヴィルト様に呼ばれれば即座に参るのは当然の勤め」

「そうか……お前の忠誠を嬉しく思う。さて、お前が集めた木の皮から第一位階の魔法の巻物(スクロール)の製造に成功したそうだ。安定供給は可能か?」

「はっ問題ございません。材料となる木は多数あるうえ、マーレの森司祭(ドルイド)系の魔法で木を癒す事により再採取も可能です」

「そうか……ならば第一階程度の魔法の巻物(スクロール)は問題ない訳だな。今後もより高位の魔法の巻物(スクロール)に成る物が無いか探してくれ」

「畏まりました」

 

 ヴィルトはそこで一旦言葉を終えると、コキュートスを見やる。

 

「次にコキュートス」

 

 ヴィルトがそう言うと、コキュートスが震えるように息を吐いた。

 

「敗北に終わったな、コキュートス」

 ナザリックの主となったヴィルトは、強い目でコキュートスを睨む。

 

「申シ訳ゴザイマセン。弁解ノ余地モ無ク。コノ度ハ私ノ失態、誠ニ申シ訳ゴザイマセン。ツキマシテハ──」

 

 顔を上げず弁解をしようとするコキュートスに強い口調でアルベドが話す。

 

「コキュートス。謝罪をするというのなら顔を上げなさい」

「ハッ。申シ訳ゴザイマセン」

 

「さて、コキュートス。話を聞かせてもらおう」

「ハッ。ヴィルト様カラ預カッタ兵ヲ失ッテシマイ申シ訳ゴザイマセン。コノヨウナ失態ヲスル事ナク──」

「あぁ。違うぞ、コキュートス。我は私は何故負けたのかが知りたいんだ。そして言うと、私は余りお前を攻める気はない。単にどうして負けたのかを聞かせてくれ」

 

 守護者たちの間に驚愕が走る。だがアルベドとデミウルゴスは最初から知っていたかのように揺るがない。

 コキュートスは一拍おいてから話始める。

 

「……ワカリマシタ。蜥蜴人(リザードマン)ヲ侮ッテイマシタ。奴ラノ兵力ヲ知ル事無ク攻メ入ッタノハ間違イデシタ」

「他には?」

「指揮官ノ不足モ問題デシタ。低位ノアンデッドナノデスカラモット現場デ指揮出来ル者ヲ配属スベキデシタ。マタ地形ニツイテモ蜥蜴人(リザードマン)ニ有利ナノデスカラ、アンデッドノ配置モ考エルベキでした」

「他には?」

「申シ訳ゴザイマセン。直グニ思イツクノハコノグライカト……」

「いやいや、いいぞコキュートス。実に良い」

 

 ふふ、とヴィルトは妖艶な笑みを浮かべる。

 

「今回ナザリックが失った兵力は何も無い。全てポップするアンデッドだ。守護者が学んだという事を考えれば利益しかない」

 

 だが、とヴィルトは続ける。

 

「敗北は敗北だ……その汚泥は拭わねば成らない」

 

 その言葉にコキュートスに緊張が走る。

 

 とん、とヴィルトは玉座の肘置きをついてから、声だかだかに言う。

 

「蜥蜴人(リザードマン)を一匹残らず攻め滅ぼせ。今度こそ誰の手も借りずにな」

 

 その言葉にアルベドが頬を赤らめながら言う。

 

「素晴らしい! コキュートスの失態を全て無かったことにしてくださるのですね!」

 

 ふしゅー、とコキュートスは冷気の息を漏らした。

 

「ヴィルト様ニ……オ願イシタイ義ガゴザイマス!」

 

 その言葉にヴィルトとアルベド両者の目が怪訝なものとなる。

 

「ドウカ蜥蜴人(リザードマン)ノ殲滅ヲ辞メテ頂キタク存ジマス! ドウカ!」

 

 その言葉にアルベドが声を上げる。

 

「コキュートス! 貴方自分が何を言っているのかわかっているの?!」

 

 声を上げるアルベドに対しヴィルトは待ったをかける。

 

「よせ。アルベド」

「しかしヴィルト様!」

「我は良いと言ったのだ……それでコキュートス。私が蜥蜴人(リザードマン)の殲滅を辞めたとして、何か利益があるのだろう? ナザリックにとっての利が」

 

 コキュートスは息を吐く。

 白い冷気が零れた。

 

「どうした? 無いのか?」

 

 数秒の沈黙が流れる。

 

「……残念だ。ならばやはり──」

「ヴィルト様。口をはさむ事をお許しください」

 

 そこにデミウルゴスが声をかける。

 

「なんだ? 申してみよ」

「はっ。蜥蜴人(リザードマン)共を使って統治の実験をしては如何でしょうか? 今後ナザリックが表立って動くに当たり必要な勢力となります。今後において恐怖によらない統治の実験は必要な事かと思われます」

「素晴らしい! ならばそうするとしよう。コキュートスに下した命令は撤回だ。コキュートス。蜥蜴人(リザードマン)共を支配下におくのだ」

「畏マリマシタ! ヴィルト様!」

 

 コキュートスは力強く、息を吐くのだった。

 

 

 ■

 

「なんだ……この寒い風は……」

 

 トブの大森林の沼地。蜥蜴人(リザードマン)の数ある集落のうちの一つ、鋭き尻尾(レイザー・テール)の集落にて。

 鋭き尻尾(レイザー・テール)の集落にはこれまで類を見ない程の蜥蜴人(リザードマン)が集まっていた。

 その蜥蜴人(リザードマン)の幹部クラス、各族長と蜥蜴人(リザードマン)最強と謳われる雄、ザリュース・シャシャは防衛の為に築いた泥壁の上から沼地の向こうを見ていた。

 

 沼地の向こう側には多数のアンデッドが居た。

 しかも只のアンデッドではない。マジックアイテムによって武装した、一流のアンデッドの軍勢だ。

 

「嘘……この風……まさか、第六位階魔法の<天候操作>(コントロール・ウィザー)?」

 

 第六位階は伝説とも言える領域だ。人類の中で唯一フールーダ・パラダインの身が使用を可能にしている。それだけ使用者が居ないという事は、危険であり実力が求められるという事。

 

「な、なんだあれは?!」

 

 そして森の奥から巨大な怪物が顔をのぞかせた。

 森の太い木々よりも更にデカい。蜥蜴人(リザードマン)の集落など踏み潰せるのではないかと思える程に大きい。

 全長三十メートル以上はある巨大な石の怪物の外見をしている。

 石で出来たような二足二腕の三十メートルを超える巨大な像の姿をしている。

 分厚い胸の岩盤からは心臓の鼓動のように赤い光が漏れている。

 これこそナザリック地下大墳墓の第四階層に付けられた戦略級攻城用ゴーレム、付けられた名はガルガンチュアである。

 

 ガルガンチュアは何か大きなモノを持ち上げる。

 そして──己の腕力をもって放り投げた。

 

「なぁ?!」

 

 巨大なモノが投げられた事で沼地から水が飛び散る。

 投げられたのは──石の玉座だった。

 

 いや、正確には玉座と石の板が着いた奇妙な形のものだ。石の板の上に玉座を付けた、奇妙な形のモノである。

 ガルガンチュアと同程度の大きさはあるのではないか、と思われるほどに巨大な玉座が投げられたのだ。

 そして直ぐにガルガンチュアの姿は掻き消えた。まるで幻術にでも欠けられたかのように。

 

 一体だれがこれに座るんだ? と蜥蜴人(リザードマン)一同一瞬疑問を抱いた。

 

 だが、直ぐにその答えが出てしまった事に蜥蜴人(リザードマン)達は後悔する。

 

 それは──デカかった。

 

 全長、三十メートル程。

 人型ではあるが、所々が異形。

 頭部は猪の髑髏のそれであり、眼孔が赤く光っている。

 腕は熊と人の腕を融合させたような歪な形。

 腹は特徴的だ。縦に割れた口がついており、牙が外側に突き出ている。

 足は蜥蜴のものであり、臀部からは蜥蜴と狐の尻尾が融合した様な甲殻的な尾が三つ生えている。

 

 ヴィルト・シュヴァインの真の姿こそが、これである。

 

 巨大な異形を歓迎するようにアンデッド兵が道を開け、盾を叩き歓迎の音を鳴らす。

 

 森の木々を踏み潰しながら、ヴィルトは歩みやって来る。

 

 その後ろには、従者たるナザリックの階層守護者達。この場にコキュートス以外の守護者が揃っている。

 

 ヴィルトは石の玉座に座り、守護者達が玉座の前に立つ。

 

「さて……。聞こえるだろう? 蜥蜴人(リザードマン)共! 我は話し合いがしたい! 代表者を連れてこい!」

 

 デカければ相応に声も大きくなる。ヴィルトの声は蜥蜴人(リザードマン)全員に聞こえた。

 

「仕方あるまい……」

 

 そして蜥蜴人(リザードマン)を代表して二人の雄が立ち上がった。

 緑爪(グリーン・クロー)の族長シャースーリュー・シャシャと最強の雄と名高いザリュース・シャシャだ。

 

 二人は揃って泥の壁から飛び降り、石の玉座へと近づく。

 

「そこまでです──"平伏したまえ”」

 

 そこにデミウルゴスが待ったをかけた。玉座の前で止まるよう支配の呪言を使う。

 支配の呪言はレベルにして四十以下のステータスを持つ者に対する絶対的な精神操作の能力だ。と言っても割りと対策は取りやすいが。

 

 強制的に頭を沼地に付けられた蜥蜴人(リザードマン)二人は呪いを込めた目でヴィルトを睨む。

 

「よせ、デミウルゴス」

「はっ──"顔を上げたまえ"」

 

 支配を一部緩められ、二人は顔を上げられた。

 

「さて。我こそがヴィルト・シュヴァイン。この沼地に攻め入った者であり、ナザリックの主の一人である。まずは我の実験を手伝ってくれたことに感謝をしよう」

 

 実験という言葉にザリュースとシャースーリューは奥歯を噛み締める。

 成るほど。これほどの化け物が相手ならばあの強者(エルダーリッチ)も実験の駒に過ぎないのだろう。

 

「さて、本題と行こう。我の支配下に入れ」

 

 上からの堂々たる宣言に、蜥蜴人(リザードマン)達は逆らう気にはなれない。

 

「だが貴様らも勝利を得た相手に服従などはしたくないだろう。故に再び攻め入ろう。時刻は……そうだな。今より二時間後だ」

 

「発言を許して欲しい!」

 

 ザリュースが懇願するように叫んだ。

 

「なんだ? いいだろう」

「攻めてくるのは……シュヴァイン殿なのか?」

「まさか。我が行けば一瞬で終わってしまう。それはつまらないだろう? 故に攻め入るのは一人、我の忠義熱き部下、コキュートスだ。無論我の部下として相応の強者だ。君たちの勝ち目は薄いと思うがね」

 

 この場の誰かなのか。それともこのうちの誰かなのかわからない。だが、それでもそれは絶望の知らせに相応しい。

 相手が複数ならばまだやりようはあるだろう。先日のように軍勢ならば蜥蜴人(リザードマン)全員で結託すれば勝機はある。

 だが目の前の化け物が信頼する怪物となると、勝機は無いに等しい。蜥蜴人(リザードマン)全てを相手取って勝てると思われる存在なのだから。

 

「降伏を……」

「戦わずに降伏等というつまらない事は言わないで欲しいな」

 

(……見せしめか!)

 

 畜生、と心の中で悪態をつく。

 

「さて、話は終わりだ、蜥蜴人(リザードマン)。シャルティア」

「はい。<転移門>(ゲート)」

 

 シャルティアが魔法を唱える。

 玉座の後ろにそれはそれは大きい黒い半球体の闇の扉が生まれる。

 ヴィルトは玉座を降り、<転移門>(ゲート)を潜る。

 

 それぞれ守護者は蜥蜴人(リザードマン)に別れの言葉を残し、その場を去るのだった。

 

 

 

 

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