彼方楽園のレチタティーヴォ―Interlude4   作:三文小説家

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 初めましての方は初めまして。一介の三文小説家です。この作品はマルスプミラとレチタティーヴォの人物たちがすったもんだするお祭り企画となっております。また、私のオリジナル作品『月夜の森の従騎士』の要素も多少ございます。不定期更新の上、だいぶやりたい放題の作品となっておりますが、よろしくお願いします。

 念の為、これらの作品のネタバレ注意とさせていただきます。

 それではどうぞ。


辺獄

 目の前に広がる光景は地下鉄、だろうか。アヤメは()()()()()()()()()()()()()()夢の世界に警戒する。

 

(死の音がする。かつて戦場で聞いたものと同じ……)

 

 アヤメは今までの経験から、この場所が〝辺獄〟であると結論付けた。死は眠りの親戚であり、それはこの夢の世界のようでありながら現実感を合わせもつ空間が教えてくれる。要するに自分は死にかけているという事だが、間違いなく死んではいない。少しステップを踏んでみれば、身体は軽やかに動く。

 

 しかし、踊っていても始まらない。外部からの救助は望み薄であろうから。アヤメは歩き出した。幸い、魔法や剣技は普通に使える。ただ、ポチやヴィローサ、エコーズとは影ごとはぐれてしまったようだ。

 

そうして出口の見えない空間を歩き回り続けていたところ、

 

「あれは……」

 

 アヤメは見覚えのある姿を見かけた。

 

「キルリアさん! ヒトモシさん!」

「モシ!?」

アヤメ殿!?

 

 アヤメは駆け寄ると、音を聞いて本物かどうか確認した。幻影ではない。「ようやくツキが回ってきましたかね」と呟くアヤメに、キルリアは一瞬だけ動揺しながらも、冷静にアヤメに尋ねる。

 

それで、この世界はまたアヤメ殿の夢でござるか?

「いいえ。これは天然物の異界です。俗に言う、〝辺獄〟と呼ばれる場所かと」

 

 アヤメは辺獄について噛み砕いて説明した。人々の集合思念が作り出した異界であり、現世の何処にも属さない時間軸を持つことや、或る意味自分達は生と死の狭間に位置していることなど。

 

しかし、我々が認識すべきはただ一つ。早急に脱出した方が良いという事だ。辺獄についての詳しい概念はダンテの『神曲』について書かれている。尤も、書物の内容とは少々異なる様相だが。

 

「という次第です。脱出のため、力を貸してはいただけませんか?」

無論でござる。むしろ、こちらから申し出ようと思っていたでござるよ

「モシモシッ!(流石に恐怖を覚えていた所でしたが、アヤメさんが一緒に来てくれるのならば心強いですわ!)」

 

 一人と二体が同盟を結ぶ中、突如として空間が歪み、二体の敵が現れる。それは四足歩行の大型の犬のような外見をしており、身体には翼が生えている。そして鎧と、片方は炎、もう片方は冷気を纏っている。

 

 辺獄や地獄をうろつく大罪というカテゴリに属する悪魔、《強欲大罪:アヴィド》と《強欲大罪:アヴァリス》だった。

 

何でござるか!?

「悪魔、ですね。生者の匂いに引き寄せられましたか……」

 

 アヤメは剣を構え、アヴィドが飛ばしてきた火炎弾を弾く。キルリアとヒトモシも戦闘態勢となり、二体の悪魔と相対した。

 

「貴方方に悪魔の箴言を教えてあげましょう。〝澱んだ水は毒だと思え〟」

 

 アヴィドとアヴァリスは炎と冷気のブレスを吐く。炎のブレスを《もらいび》の特性を持つヒトモシが防ぎ、冷気をアヤメが剣で風を起こし霧散させる。

 

「ヒトモシさんはアヴァリスに《だいもんじ》、キルリアさんはアヴィドに《トリプルアクセル》を!」

「モシッ!」

「キル!」

 

 ヒトモシは冷気を操るアヴァリスに炎の攻撃を、キルリアは炎を操るアヴィドに氷を纏う回転攻撃をお見舞いする。

 

「モシモシ!」

「キル……」

 

 結果、ヒトモシの方は攻撃が成功したが、キルリアの方はアヴィドの宙返りによる尻尾攻撃で弾き返されてしまった。だが、

 

「ありがとうございます」

 

 アヤメがキルリアの背後から剣で斬りかかり、アヴィドに切り傷を負わせる。キルリアの攻撃を囮にし、アヤメが斬る作戦だった。

 

礼は受け取るが、次が来ておる!

「心配無用です。《Zuben el fermata》」

 

 アヴィドとアヴァリスが炎と冷気の竜巻を放って来る。それをアヤメは同じく斬撃の竜巻を起こす剣技、《Zuben el fermata》で打ち消した。

 

「んで、サラッと火炎弾撃ってきやがりましてね……」

「モシ……(攻撃に間髪がありませんわ……)」

 

 ヒトモシの言う通り、攻撃に隙が無く、中々攻めに転じる事が出来ない。この一点だけでもエクスプローラーズ以上の強さを感じる上に、攻撃も中々に火力が高い。クリーンヒットしなかったキルリアもそれなりに痛みを感じており、アヤメが火炎弾を叩き落す時もやや重い音がした。エクスプローラーズ相手の時のような大立ち周りとはいかないようである。

 

む? 悪魔達が何かを飛ばしてきたようでござる。あれは……手?

「名は体を表すと言ったところでしょうか。掴まれたら厄介です。撃ち落としておきましょう」

 

 アヤメは剣を投げて飛来する手を迎撃した。しかし、アヴァリスがその隙を狙ってアヤメに食らいついてくる。それを間一髪で躱すと、体勢を崩したアヤメに今度はアヴィドがその身を食いちぎらんと襲い掛かって来る。

 

させると思うか! 《テレポート》、そして《トリプルアクセル》!

 

 しかし、キルリアが《テレポート》で瞬間移動し、《トリプルアクセル》で二体を牽制する。間一髪、アヤメは助かった。

 

「ありがとうございます……不甲斐ないところをお見せしました」

気にする必要は無い。淑女を助けるのは騎士として当然のことでござる。むしろ、これまで闘いを其方にほぼ任せていた此方こそ不甲斐ない……

 

 今回の敵達はアヤメ一人で戦うには不安がある。必然的にポケモン達と連携する必要があるのだ。厳密には一人でも倒せるかもしれないが、実はキルリア達と会う以前にアヤメは現実世界で換算して二、三日は歩き回っている。無論、何度も悪魔と遭遇しており、それなりに疲れがたまっていた。それが今回の事態を引き起こしたのである。

 

アヤメは一度冷静にブレスと突進攻撃を避けて作戦を考える。そして、一つの作戦を思いついた。

 

「ヒトモシさん、この作戦で行きます。内容は―――」

 

 それを聞いたヒトモシは二つ返事で了承した。ポケモンの特性を覚えるのにリンとそう変わらないレベルの早さを見せるアヤメは、やはりポケモン世界に来て欲しいとも思った。これまでの態度を見るに、かなり大切にしてくれそうであるし。

 

 そんなヒトモシの思考を他所に、アヤメは魔法を詠唱する。

 

「Qide rydulu ea resuvea. (沈黙は厳かに嘲笑う)」

 

 アヴィドとアヴァリスの周囲に帯電した無数の剣が突き立てられ、炎でも氷でもなく電撃が放たれる。そして、感電した二体に、

 

「ヒトモシさん! 《たたりめ》を!」

「モシ!」

 

 ヒトモシは敵が状態異常にかかっているときは威力が二倍になる《たたりめ》で攻撃する。この攻撃に二体の悪魔は大きく怯んだ。

 

「キルリアさん! 《トリプルアクセル》!」

 

 更に、キルリアの《トリプルアクセル》も追加され、アヤメも剣を斜めに一閃し遠距離から複数の方向に地を這う高速の斬撃を数本放つ技《Zuben es portamento》を放つ。この猛攻により、アヴィドとアヴァリスは沈黙した。

 

「ようやく、終わりましたね……」

 

 アヤメは膝から崩れ落ちた。突然の事態に驚くキルリアとヒトモシに、アヤメは身体を横たえながら言う。

 

「少しだけ寝かせてください。ポチ達とはぐれたせいで、この二、三日、寝てないんです……」

「モシ!?」

なんと!?

 

 言い終わらぬうちに、アヤメはスースーと寝息を立て始める。よく見ればアヤメの服は汚れており、相当歩き回った事が伺える。しかも、一人で悪魔達との連戦を切り抜けた影響で、顔は少しやつれていた。目に見える部分だけでそれであり、目に見えない部分、例えば魔力消費も激しいであろうし、未知の空間を歩き回る精神的な疲労は相当なものであろう。唯一の救いは、精霊たちとの契約は継続されているために魔法は普段通り発動できることだろうか。

 

……相当に無理をしていたようでござるな

「モシモシモシ……(二、三日不眠不休だなんて、普通なら先程の闘いの時点で斃れていてもおかしくありませんでしたわ。少しと言わず半日くらい寝ても許されますわよ)」

ヒトモシ殿の言う通りでござるな。わしは騎士の本懐を全うする所存。アヤメ殿の安眠と安全を守るとしよう

「モシモシ!(お供しますわ!)」

 

 そうしてアヤメが休んでいる間、二匹のポケモンは見張りを引き受けることにした。




 第一話目。軽くジャブです。物語の舞台が辺獄という事、そして、大罪というカテゴリの悪魔達が敵であることが示唆されました。

 そしてさらっと死にかけるアヤメ……
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