彼方楽園のレチタティーヴォ―Interlude4   作:三文小説家

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 お詫び

 前回、最後で三世だけ合流したかのような書き方をしてしまいましたが、ミレーユさんも合流した形で進めさせていただきます。

 それと今更ながら、この作品には『彼方楽園のマルスプミラ』『彼方楽園のレチタティーヴォ』のネタバレが多分に含まれております。ご了承を。



魔法使いと科学者

 時は遡り、アヤメやリコが単独で動き回っていた頃。

 

「ここは……辺獄かしら」

 

 アヤメ達と同じく辺獄に引きずり込まれたWeyer String-IIIは現状を確認する。

 

「多分この空間、人為的に現世と繋がったと見えるわね。はあ……どこの誰よ。傍迷惑な」

 

 魔法使いとして、特に魔力操作や知識の面でアヤメ以上であるWeyer String-IIIは、この空間が人為的な魔法によってつながった事を看破していた。ならばやるべきことは黒幕を叩き潰す事である。

 

 なお、夢世界を通してアヤメがリンを探していたと知った時は、Weyer String-IIIはアヤメを叱った。夢とはいえ心停止もあり得る以上、妥当な措置である。

 

「……て、黒幕もそうだけど……その前に巻き込まれた被害者を探さないと」

 

 Weyer String-IIIは《戦琴:リーヴスラシル》というハープ型の魔道具を用いて索敵を行う。弦を弾くと音波によって周囲の状況が……

 

「どんだけ広いのよ!」

 

 あまり分からなかった。いや、地下鉄のような迷宮のような構造は分かるのだが、肝心の生存者もとい被害者の位置が遠すぎて分からないのだ。特に一緒に巻き込まれているであろうアイリスことアヤメの位置が。

 

「……まあいいわ。とりあえず、この先に一人いるみたいだから会ってみましょう。なんか魔法生物みたいなのも引き連れているみたいだし、戦闘も覚悟した方が良いかしら」

 

 Weyer String-IIIはその人物の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、その人物は敵ではなかった。ミレーユという人物で、ポケモン世界にて、リン達の冒険を発明品で支援する取引を結んだとのこと。曰く、発明家であるらしく、また、異世界の研究もしているのだとか。

 

「初めまして、私はWeyer String-III。呼びにくかったら好きに呼んでもらって構わないわ。魔導機構職人(マギウスクラフター)をやっているの。リン達に魔道具を貸し出したりもしたわね」

「あら、ご丁寧にありがとう。それにしても、魔道具、ね。リン君がやたらと発明品を使うのが上手いのはその影響かしら」

 

 二人はなんとなく分かった。この相手はかなり波長が合う。理屈ではなく、本能的に同類であると分かったのだ。そしてそれを証明するかのように、「それにしても」と呟いた。

 

「凄いのに乗って来たわね……」

「凄いの連れてるわね……」

 

 ミレーユはWeyer String-IIIが乗って来たハープ《戦琴:リーヴスラシル》に、Weyer String-IIIはミレーユが連れているマッシブーンを見て嘆息した。そして、お互いに情報交換をする事にした。あまりにも効率的な会話過ぎて、地の文を挟む余裕がない。

 

「これどうなってるの? 浮遊機構が見当たらないのに、宙に浮いてる……」

「魔法の道具だもの。物理法則は通用しないわ。まあ、浮いてるのは私が魔力で制御しているからだけど」

「術者と一体の装備なのね……原料は……木材!? でも、ものすごく硬いわ。まるで金属みたい」

「壊さないで頂戴? まあ、叩いたぐらいで壊れるような作りはしていないけれど」

「大丈夫よ。夢にまで見た異世界の技術。調べ尽くす前に壊したりなんかしたら死んでも死にきれないわ!」

 

 瞳をキラキラさせながらえらく興奮した様子のミレーユ。ポケモン世界とは違うどこかには、全く異なる時間と空間があることを突き止めたいと考えている彼女にとって、Weyer String-IIIの存在や、《戦琴:リーヴスラシル》の存在は正に自らの仮説を証明するものなのだ。

 

 そして、研究対象に対する情熱をある程度理解できるWeyer String-IIIはしばらく好きにやらせることにした。

 

「アレはもう梃子でも動かないわね」

『マッシ……(ワリい。ああなったミレーユは俺でも止められねえんだわ)』

「別にいいわ。まあ、暇だから貴方とお話でもしてようかしら」

『!?』

「あら、チェスでもいいわよ。それなりに、得意なの」

『マッシ!?(なんで言葉が分かるんだよ!?)』

 

 マッシブーンは自分の言葉が人間に通じている事に驚く。人間とポケモンは言葉が通じない。キルリアのようにテレパシーで会話できるケースもあるが、それはかなりのレアケースである。

 

「これは守り人(スプリガン)としての魔法よ。必要に応じて、動物の言葉を理解する事が出来る。ポケモンにも有効だと分かって安心したわ」

『へ、へえ……』

「驚いているわね。実際、制御できるようになるまでは苦労したのよ。それまでは余計な事ばかり聞こえるようになってしまったもの。さて、挑戦者、交渉相手、それとも、仲間。貴方は、私をどう解釈するかしら?」

 

 口元が笑うWeyer String-IIIに対し、マッシブーンは困惑していた。話せるだけでも驚愕なのに、初対面の相手にするような内容ではない質問をされてしまった。

 

「ふふ、冗談よ。そんなに警戒しなくていいわ」

『冗談にしちゃタチ悪いぜ……』

「ごめんなさい。でも、貴方が素直なことは分かったわ。リンやアイリスほど面倒な性格はしていないみたいね」

 

 褒められているのかどうなのか、よく分からないマッシブーンであった。しかし、マッシブーンには一つの疑問があった。それは他の人間やポケモンのように、自分を見て態度を変えない所である。マッシブーンは素直にその疑問をぶつけてみた。

 

 その疑問に、Weyer String-IIIは柔らかい声で答える。

 

「貴方が怖くないのか、ですって? ええ、別に怖いとは思わないわ。私だけとはいえ、会話が出来て、襲ってこない。恐れる要素がどこにあって?」

『見た目とかで怖がられたぞ』

「私もカエデの髪とエメラルドの瞳で怖がられた事が有るわ。だからというわけではないけれど、そんな愚かな人間と同じ轍は踏まないわよ。あとは、貴方よりももっと怖いものを知っているから、かしら」

『アンタも、色々苦労してんだな……』

 

 マッシブーンはWeyer String-IIIに同情した。彼女の世界では中々見ない髪色と瞳なのだろう。素直に綺麗だと思っていたマッシブーンは驚きもしたし、様々な髪色が存在するポケモン世界では違和感のある容姿ではなかった。

 

 なお、Weyer String-IIIの『怖がられた』という表現はかなりオブラートに包んだ表現である。実際は『赤毛のアン』で分かる通り、差別や偏見の嵐だった。

 

「臆病は残虐性の母だもの。恐怖の感情は生物にとって必要だけど、いきすぎれば悲劇を生む。私が恐怖を抱くものの一つは、〝恐怖〟そのものと言えるかもしれないわね」

『なんだか複雑な話になって来たな』

「とはいえ、恐怖に理由はない。それは感情ではなく本能だもの。だから、私は恐怖自体を否定はしない。でも、本能的に何も感じない相手を怖がるのは、恐怖とは別の物。真の恐怖とは、そんなものではないわ。理由も無く、際限も無く、ただただ身体を這いあがる夥しい虫のようなもの。それを人は〝恐怖〟と呼ぶ。少なくとも貴方からは、そんなものは感じない」

『……そんなものを感じられたら、流石にショックだぜ』

 

 マッシブーンは軽く引いた。Weyer String-IIIはマッシブーンに恐怖を抱いていない。少なくとも、彼女の定義する恐怖は。Weyer String-IIIは自身の経験から、〝恐怖〟という事象について研究し、考察したのだろう。自分を怖がる相手は、そんな感覚を感じていたのか……?

 

「貴方を怖いっていう人間はね、ヒグラシが鳴いても、ウミネコが鳴いても怖いと言うのよ。気にするなと言うのは無理かもしれないけれど、過度に気にする必要は無いと思うわ。というより、時間の無駄よ」

『なんでヒグラシとウミネコなんだとか、色々と聞きたいことはあるが、とりあえず礼は言っておくぜ。それよりも筋トレに精を出した方が有意義かもしれないな。というわけで、筋トレしようぜ!』

「魔力操作のトレーニングはしてるわ。こんなことも出来るようになったわね」

 

 Weyer String-IIIは自身の血管や神経に魔力を通わせる。皮膚に魔力の光が浮かび、見ようによってはグロテスクとも言えた。

 

『おう……それ、具体的に何のための技なんだ?』

「そうね……」

 

 Weyer String-IIIは近くの壁に手刀を入れる。すると、金属かコンクリートでできているはずの壁があっさりと抉れた。女性の細腕で破壊されてしまった壁を見て、マッシブーンは拍手をする。

 

「攻撃の他、防御に使うことも出来るわ。魔法使いにとっての筋肉、とも言えるんじゃないかしら」

『スゲエな、それ。俺のパンチなんかも防げたりするのか?』

「やってみれば良いんじゃないかしら? 私は怪我をしても治せるから」

『んじゃ、一発!』

 

 マッシブーンは強い相手が好きだ。要は、素手で壁を破壊するWeyer String-IIIの力に興奮したのである。そして、お互いの了解を得てマッシブーンはパンチを繰り出し、

 

 ガキィーーーーン!

 

『……人体から鳴るはずのねえ音が聞こえたんだが?』

「良いでしょう? これが魔法。まあ、ここまで使いこなしてるのは私くらいだけど」

 

 Weyer String-IIIは片手でマッシブーンの拳を止めていた。マッシブーンも本気を出していないとはいえ、女性の力で止められるようなものではない。おそらく、筋力の増強も同時に(おこな)っているのだろうとマッシブーンは当たりを付ける。

 

『なあ、アンタ、ちょいと組手やらねえ? 戦力の把握もしておきたいしよ……』

「構わないわ。リーヴスラシルも当分捕まってそうだし。アイリスも見つからないしね……まあ、あの子は死なないでしょうけど……」

 

 その言葉が合図となり、マッシブーンとWeyer String-IIIは組手を始めた。

 

「《マギア・アルタイル》」

『殺意高くねえかオイ!?』

 

 Weyer String-IIIは魔力を纏わせた手を突き刺すようにマッシブーンに繰り出す。先程の壁のようになりたくはないマッシブーンは咄嗟に回避するが、Weyer String-IIIは読んでいたかのように突き出したままの手を手刀のように振った。

 

 《マギア・アルタイル》

 

 体内外の魔力を同時に操作する事でその身を武器にする魔法だ。魔力操作という基礎的な技能だが、極めればこういう事もできる。

 

『舐めんなよ!』

 

 マッシブーンはその手刀を《れいとうパンチ》で弾き、更にもう片方の手でWeyer String-IIIを撃つ。しかし、

 

「《マギア・ヴェガ》」

『硬え!?』

 

 腹に一発入れたはずだが、その感触は超合金でも殴ったかのようなものだった。

 

 《マギア・ヴェガ》

 

 《マギア・アルタイル》の防御版とでも言おうか。攻撃のために鋭さを増す《マギア・アルタイル》と違って、《マギア・ヴェガ》は硬さに特化した魔法だ。血管と神経に魔力を通わせる事によってこれら二つの魔法を自在に使う事が出来るのだ。

 

「まだまだいくわよ」

 

 Weyer String-IIIは連続で刺突攻撃をする。そしてそれをマッシブーンが防ぎ躱しと膠着状態に入った時、

 

「何してんのよアンタ達……」

 

 リーヴスラシルを調べ終わったミレーユが二人を見て呆れていた。ここでWeyer String-IIIがマッシブーンを虐待しているという発想はミレーユには無かった。会話が漏れ聞こえていたのもあるし、明らかにじゃれ合いの範疇だったからである。

 

『マッシ!(ただのウォーミングアップだぜ!)』

「ちょっとじゃれてただけよ。言葉が分かったから会話もしたけれど」

「ポケモンの言葉が分かるの!? 魔法使いって凄いのね……」

「多分言葉が分かるのは、私を含む《守り人(スプリガン)》だけよ」

 

 《守り人》という言葉に興味を示したミレーユがWeyer String-IIIと更なる情報交換に及ぼうとした時、悪魔達が襲来した。

 

「もう! 空気の読めない連中ね!」

「落ち着きなさいな。むしろちょうどいいわよ。《守り人》の力、アイツ等で試してあげる」

 

 Weyer String-IIIはリーヴスラシルを呼び寄せ、戦闘態勢に入った。

 




 魔法使いと科学者と言うより、魔法使いとUBでしたね……まさか組手始めるとは思わなんだ。次回はリーヴスラシルも使った戦闘になります。
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