彼方楽園のレチタティーヴォ―Interlude4 作:三文小説家
Weyer String-IIIとミレーユを襲ったのは太ったオークのような姿をした《暴食大罪:グラットン》と、それが従えている豚のような悪魔《暴食大罪:コヴェトスネス》だった。
「キモッ!!」
ミレーユが思わずそう呟いてしまったのも無理はない。何故なら、グラットンの姿は海外のゲームに登場するようなクリーチャーじみた見た目の豚人間であり、コヴェトスネスの方も顔に大量の目玉が付いている巨大な豚なのである。禍々しくも何処かカッコよさを感じたりするアヴィド・アヴァリスや、背徳的な美しさを感じさせるインディセンシーとは対極の悪魔だ。
「うわ何よコレ……」
「敵ね。殴っていい対象よ」
「簡潔な紹介ありがとう。マッシブーン、《ストーンエッジ》!」
『マッシ!』
その巨体を生かして突進してきたコヴェトスネスを地面から岩を生やして転ばせるマッシブーン。
「やるわね」
更に、リーヴスラシルに乗ったWeyer String-IIIが弦を弾いて斬撃を飛ばす。ついでに、大鉈を振り下ろそうとしていたグラットンにリーヴスラシルを飛ばして妨害した。なお、その間Weyer String-IIIは宙に浮いていた。魔力操作の成せる技である。
そして、敵の間にあるリーヴスラシルはひとりでに曲を奏で、音波で周囲を攻撃する。Weyer String-IIIはアヤメほど音に対して造詣が深いわけではないが、この程度なら可能だ。
しかし、豚二匹もやられているばかりではない。なんと、コヴェトスネスはこちらに向かって緑色の息を吐いてきた。嫌な予感がした二人とマッシブーンは即座に離れる。
「
ミレーユが鼻をつまみながら不快感を顔に出す。今回の敵は何から何まで不快感の塊だった。異世界の事象だというのに、ミレーユの好奇心は1ミリも動かない。
なお、コヴェトスネスはその息を煙幕代わりにして再び突進してきた。咄嗟に気付いたミレーユがマッシブーンに再び《ストーンエッジ》支持する。だが、近接戦に移ろうにも息が邪魔で近づけない。
「まずこの鬱陶しい息をどうにかしましょう。臭いったらありゃしないわよクソボケ」
Weyer String-IIIはリーヴスラシルに魔力を流し込んで変形させる。その様子をミレーユは思わず見入ってしまう。リーヴスラシルはハープの形から青黒い大鎌のような形へと姿を変えた。
「え!? どうなってるのよそれ!」
質量保存の法則やらを完全に無視した変形に、ミレーユは素で驚いてしまった。科学者としては有り得ない常識に驚愕三割、好奇心七割といった風情ではあるが。
Weyer String-IIIは宙に浮いた状態で大鎌を回転させながら投げる。すると、毒の息はあっという間に透明になり、その場から消えてしまった。
「やはり毒だったわね。あの息は無力化したわ。思う存分、叩き込みなさい」
「……! 分かったわ。マッシブーン、《れいとうパンチ》!」
ミレーユの指示でマッシブーンがコヴェトスネスに氷の拳を放つ。そのまま《インファイト》で連続攻撃を叩き込み、突進を掴んで止める。
「マッシブーン、避けて!」
嫌な予感がしたミレーユは咄嗟に回避の指示を出す。すると、コヴェストネスは毒液の玉を吐き出した。危うくクリーンヒットするところであったが、なんとか避ける事が出来た。
『マッシ……(まったく最高に汚え……)』
マッシブーンは不快感の塊のような相手にぼやく。だが、コヴェストネスばかりを気にしてもいられない。飼い主であるグラットンの方が大鉈で攻撃を仕掛けてくる。マッシブーンが応戦しようとしたところ、
「あら、貴方の相手は私よ?」
防御魔法《マギア・ヴェガ》を発動したWeyer String-IIIが右手で大鉈を弾く。そして、その隙に大鎌に変形したリーヴスラシルがグラットンの背後から回転しながら斬りつける。すると、グラットンは自分の体調が悪くなったことに気付いた。
「どうかしら。十二ある戦琴:リーヴスラシルの形態のうちの第二形態、《デスディーリング》の味は」
(第二形態にして随分と物騒な単語が出てきたわね)
Death-dealing。《致死的》を意味する言葉だ。リーヴスラシルの第二形態、《デスディーリング》は青黒い大鎌のような形をしている。その刃で斬りつける度に敵に有効な毒素や致死量を計測し、最終的に切り傷から致死量の毒に血液や体内組織を作り変え死に至らしめる恐ろしい形態である。何度か斬りつけなければ演算は完了せず、死に至らしめる事は出来ないが、持久戦においては圧倒的な強さを誇る。
「さあ、貴方は何回、もつかしらね」
Weyer String-IIIは楽しそうに大鎌を飛ばす。回転しながら右に左にと縦横無尽に斬りつける大鎌をグラットンは大鉈で弾き続け、口から蔓のような舌を伸ばしてWeyer String-IIIを捕らえようとする。
しかし、
「あら、また斬っちゃった」
その舌をリーヴスラシルは切断し、更に毒を流し込む。更に体調が悪くなり、膝をつきかけるグラットンそれでも執念でWeyer String-IIIを狙おうとする。せめて毒を解除しなければ……
だが、反撃したのは別の者だった。
『俺、参上!』
Weyer String-IIIと入れ替わりでマッシブーンが《れいとうパンチ》をグラットンに叩きこむ。更に、入れ替わった側でコヴェストネスにWeyer String-IIIが第一形態、つまり元々のハープの形態に戻したリーヴスラシルから斬撃と音の壁を飛ばして攻撃している。そして、瞬時に第二形態《デスディーリング》に変更し、まるで輪切りにするようにコヴェストネスを切り刻む。
血を吐いて動けなくなるコヴェストネス。そして、グラットンの舌攻撃を躱したマッシブーンと入れ替わりでWeyer String-IIIはグラットンに大鎌となったリーヴスラシルを突き刺す。
これ自体は致命傷ではないが、リーヴスラシルによって作り変えられた毒は凶悪である。グラットンはコヴェストネス共々血と泡を吹いて絶命した。
「リーヴスラシルだったかしら。凄いわね。その魔道具」
「あら、ありがとう。製作者冥利に尽きるわ」
「それで、その《デスディーリング》だったかしら? どういう形態なの? それは」
ミレーユがややおっかなびっくりとした様子でWeyer String-IIIに聞く。そして、Weyer String-IIIから詳細、すなわち、斬りつけた傷口から敵を侵蝕する致死性の毒に変えるという性質を聞いて、軽く、というか大分引いた。
「え、だって、その毒から逃れるにはその部分を切除するしかないってことでしょう?」
「もしくは私の気が変わって解毒するか。かしらね。さっき見せた通り、《デスディーリング》は解毒作用も持ってるの。これらを合わせて生かさず殺さず行動不能、なんて微調整もできるわよ」
「『できるわよ』じゃないのよ。なんてエグい発明品なのかしら……」
そこでミレーユはふと疑問に思った。毒を流し込むのではだめだったのか? と。その方が手っ取り早いのは確かである。何故体組織を作り変えるなどという回りくどい手段を選んだのか……
「その方が確実だからよ。最初はバトラコトキシンでも生成する武器にでもしようかと思ったし、実際にそうしたこともあったのだけど、悪魔や怪異相手には効かない事もあったのよね。だから、アップグレードしたのよ。斬りつける事で相手の耐性を計測するようにした。でも、古今東西の毒を全て武器に収めるのは流石に効率悪いのよね。VXとか、マスタードガスとかもあるし。だから、触れた体組織を毒に作り変える魔法に変えたの。何らかの方法で解毒しない限り、敵は自分の血に殺される」
ペラペラペラ。自分の発明品を語るWeyer String-IIIは物凄く饒舌だった。物凄く饒舌にエグい発明品を語っていた。発明品の効率を追求するその姿勢は見習いたいとは思うが、そんな殺傷性に特化したものは作ったことが無い。ジェットブーツ? アレの爆発は意図したものではない。
「勿論弱点もあるわよ。第一、他の形態で普通に殴った方が早い事だってあるし。《デスディーリング》を無力化する方法は幾つもあるわ。全体で見れば弱い方の形態ね」
「ツッコミたいのはそこじゃないわ。倫理観の方よ」
「手段を選んでいられるような相手じゃないもの。流血を厭う者は厭わないものに必ず征服される。私は己の全てを賭けて敵を殲滅するわ。そもそも、平和と言うのは核兵器を持ってお互いに睨み合っている事を言うのよ。永世中立っていうのも楽じゃない」
ミレーユは反論を諦めた。そもそも世界が違うのである。倫理観も、争いの価値も、全てが違うのだろう。リンの世界は、相当に闇が深いようだと思いながら。
とはいえ、ミレーユはWeyer String-IIIのことを嫌いになったわけではない。魔道具の作成に関してはスペシャリストであるし、ポケモン世界で自分を敬遠する人間よりは余程話が通じるからである。
同時に、ラプラスの一件の時にこの
備忘録
>デスディーリング
戦琴リーヴスラシルの第二形態。大鎌のような形態で、斬りつけた部分を致死性の毒に変える。何らかの手段で切除、もしくは無毒化しなければ自身の体組織に殺される事になる。凶悪な形態だが、当たらなければ発動しない、複数回斬りつけなければ致死量に達さないなど弱点も多い。
また、解毒、無毒化作用もあり、相手の毒攻撃に対するカウンターで使われる事が多い。名前に反して状態異常専門のヒーラーのような使われ方をする事も。