彼方楽園のレチタティーヴォ―Interlude4   作:三文小説家

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 タイトルの通りのお話です。


マッシブーンVSアヤメ

『マッシマッシ!(俺の筋肉が脈動してるぜ!)』

「異世界の戦闘力、しかと見せてもらうわよ」

「どういう状況なんでしょう。これ」

 

 アヤメとポケモン、Weyer String-IIIとミレーユとアヤメの妖精達は合流し、現在、サルビアが作り出した空間で、アヤメとマッシブーンは相対していた。何故こんな状況になっているかと言えば、まあ、だいたい推測できる流れである。

 

 合流した後の交流会で、マッシブーンがアヤメと勝負したいと言いだしたのだ。そして、異世界の事ならば興味津々のミレーユも賛成。Weyer String-IIIとの一件で、『異世界組は多少強めに殴っても死なない』と認識したのかもしれない。

 

 なお、単なる戯れというわけではなく、アヤメとミレーユのポケモン達の戦力把握という側面もあり、アヤメもそれを持ち出されると強く断れなかったのだ。百聞は一見に如かず。色々説明するよりも実際にやってみた方が早いこともある。幸い、闘いの後の休憩所は完備されている。

 

「ルールはマッシブーンとアイリスのどちらかが戦闘不能になる、もしくは降参したら終了。そして、ミレーユがマッシブーンに指示を出すのは有り。で、良いわね?」

『マッシ!』

「それで構わないわ」

「わかりました」

 

 アヤメはあまり乗り気ではないが、決まってしまったものは仕方がない。せめて全力でやろうと決意を固める。

 

「落ち着いてマッシブーン。まずは相手の出方を見極めるわ」

 

 試合が始まった。

 

 両者は攻撃せず、互いの出方を伺う。アヤメは剣を正眼に構え、視線もマッシブーンを見据える。そして、剣技を披露しようと―――

 

「マッシブーン! 今の動きはフェイクよ! あの子の左手に気を付けて!」

『マッシ!』

 

 ―――見せかけて、左手の指の間に挟んだ三本の投擲剣を投げる。

 

「嘘!?」

『マ!?』

 

 と、見せかけてアヤメは身体を半回転させる。そして放たれたのは右手の剣だった。《インファイト》で叩き落とすはずだった攻撃は飛んで来ず、さらに遅れた剣の攻撃にマッシブーンの拳は弾かれてしまう。

 

『!?』

 

 更に、アヤメは左手から投擲剣を二本放つ。マッシブーンは左手でそれを叩き落とすが、投げた剣に追いつくほどの速さでアヤメが接近し、逆手に持ち替えた投擲剣でマッシブーンを刺そうと肉薄した。

 

「マッシブーン、《ストーンエッジ》!」

 

 間一髪、地面から生えた岩によってアヤメの攻撃は防がれ、マッシブーンは距離を取る事に成功する。しかし、その岩は剣によって真っ二つに割られていた。

 

「……凄いわね。初手からフェイントの嵐じゃない」

「強そうでしたので……正面から殴り合うのは遠慮したかったのです」

『マッシ……(よく言うぜ……)』

 

 マッシブーンは割られた岩を見ながら呻く。間違いなくアヤメは火力も強い。

 

 アヤメは最初に剣の構えで視線を誘導した。そして、アヤメの目を捉えさせ、その視線で攻撃を読ませた。それは左手の投擲剣で奇襲する為。そして、そのための足運びで剣を投げようとする。だが、結果的にそれすらも囮であった。

 アヤメは動作を敢えて継続し、逆の剣、右手の剣を投げつけた。それによってマッシブーンの第一撃を阻止。更に間髪入れずに投擲剣を二本投げる事でマッシブーンの防御を剥がす。最後に逆手に持ち替えるフェイントで動きを攪乱した後に刺す。

 

 これがこの一瞬で起きたことである。仮にポケモンバトルで使われようものならたまったものではない。フェイントの山、そして攻撃の火力。厄介などと言うものではない。エクスプローラーズではまず、スピネルを除いて対抗できないだろう。

 

「凄い……」

 

 リコはアヤメの戦いを見て、素直にそう思った。基本的にエクスプローラーズや悪魔との闘いでは正面から圧倒的な火力を以て対抗する事が多かったため、策略の面は目立っていなかった。しかし、ある程度実力が拮抗すればこの有様である。まだ全てを理解できたわけではないが、リコがリンに近づくためには貴重な経験だ。

 

「じゃあ、次はこっちから行くわよ。マッシブーン、遠距離型の《ストーンエッジ》」

『マッシ!』

 

 マッシブーンは岩の塊を複数飛ばしてくるが、アヤメは軽く身体の向きを変えるだけで避けてしまう。だが、一瞬でも隙を作れればミレーユの計画通りだ。

 

「マッシブーン、《DDラリアット》! それから《れいとうパンチ》!」

 

 マッシブーンは両腕に闇のエネルギーを集め、回転しながら相手に突っ込み、氷の拳をアヤメに向けて放つ。アヤメは剣で《DDラリアット》を弾いた反動で距離を取り、《れいとうパンチ》を回避した。その時に剣を投げつけるが、マッシブーンは再び《DDラリアット》を使ってそれを防ぐ。

 

「Zuben el chorus」

 

いよいよアヤメが無数の飛剣を放つが、全て弾かれる。

 

「無駄よ。今のマッシブーンに遠距離攻撃は効かないわ!」

「さて、それはどうでしょう」

 

 アヤメは一回り大きな剣を召喚すると、タイミングを見計らってマッシブーンに飛ばす。その剣は回転する拳の隙間を縫ってマッシブーンに突き刺さる。

 

『マッシ!?』

「嘘!?」

 

 ミレーユはその光景に驚きを隠せない。《DDラリアット》の回転攻撃は遠距離攻撃を全て弾き返す程の速さで回転するはずだ。なのに何故。

 

「先程、飛剣の当たる音で旋律を計らせていただきました。そして、そのリズムの隙間に剣を撃ち込んだのです」

「そんな事が可能なの……?」

 

 アヤメは本来、敵に情報を与える事はないが、今回は戦力把握のための試合という事で説明する。リンならばアヤメの天性の音楽センスを把握できたかもしれないが、ミレーユにとっては、とんだ初見殺しであった。

 

「マッシブーン、まだいける?」

『マッシマッシ!(勿論! むしろ筋肉が疼いて仕方ねえぜ!)』

 

 だが、攻撃を喰らったマッシブーンは戦闘不能どころか、立て続けに出会った強者に寧ろ興奮していた。ミレーユはそれに安心した顔を見せると、次なる攻撃の指示を出す。

 

「防御は無意味……なら、マッシブーン、《インファイト》!」

 

 ミレーユは相手の懐に素早く飛び込み乱打を浴びせる格闘タイプの技である《インファイト》を選択する。マッシブーンは一気にアヤメに肉薄し、拳の雨を浴びせた。最初の一撃は剣で防いだものの、直ぐに追いつかなくなり、腕に攻撃を貰ってしまう。

 

(Zuben es allegretto!)

 

 だが、アヤメは体内の『音』、すなわち心音や血流などを加速させる事で疑似的に素早さを上昇させる『Zuben es allegretto』という魔法でなんとか食らいつく。時間操作ともなれば、本来はかなり大掛かりな魔法だが、アヤメは効果範囲を体内に限定する事で瞬時に展開したのだ。

 

 そして、速さについていけるのならば《インファイト》のリズムを見切るのも可能だ。しかし、この戦法は既に《DDラリアット》のときに使ってしまっている。耳をすませば、ミレーユが「速く!」「遅く!」と指示を出しているのが聞こえるし、マッシブーン自身慣れないながらも拳を不規則に動かしている。アヤメにリズムを掴ませないためだろう。

 

「それで攻略できると思っているなら、流石に舐め過ぎです」

 

 アヤメは遅くなった瞬間に斬撃を加え、後方に宙返りして攻撃から抜ける。ついでに剣も投げておいた。

 

「…………」

 

 《Zuben es allegretto》の負荷が身体を襲う。しかし、アヤメは一息で体調を整えると、マッシブーンに斬りかかった。

 

「マッシブーン! 近距離型の《ストーンエッジ》!」

「Zuben es allegretto!」

 

 マッシブーンが地面から岩の刃を生やすタイプのストーンエッジで止めようとするも、アヤメはそれを斬り、更に加速してマッシブーンに斬りかかった。

 

「Zuben el solo!」

 

 一振りで縦方向に無数の斬撃波を乱れ撃ちして敵を細切れにする技。一瞬のうちに前方の広範囲に放たれるこの斬撃は見切る事はおろか間合いの外に出る事すら困難という反則レベルの斬撃だが、マッシブーンは敢えてそれを受ける。

 

「今よ! 《れいとうパンチ》!」

「ガハッ!」

 

 そして、アヤメの後隙に《れいとうパンチ》を差し込んだ。咄嗟に《マギア・ヴェガ》で身体を防御し、吹き飛ばされるアヤメ。

 

(やり過ぎたかしら……)

 

 ミレーユが少し心配になるも、その心配が杞憂であった事はすぐに分かった。

 

「Zuben el chorus!」

 

 アヤメは瞬時に体勢を整えて無数の飛剣を飛ばしてくる。マッシブーンは《DDラリアット》で防ぐも、

 

「Zuben es allegro!」

 

 先程の《Zuben es allegretto》よりも更に速い加速を用いて、飛剣に混じってマッシブーンに肉薄。そして、

 

「Zuben es staccato」

 

 強烈な刺突攻撃をお見舞いした。マッシブーンは一瞬動きが止まり、アヤメの更なる斬撃を許してしまう。

 

「マッシブーン、《インファイト》!」

 

 対抗するべく《インファイト》で拳の雨を降り注がせるが、アヤメは連続刺突攻撃《Zuben el spiccato》で拳を防いで後ろに下がる。更に、

 

「Zuben el diminuendo」

 

 剣を背中から前方に振るい、敵の頭上から降り注ぐような軌道の複雑かつ無数の斬撃波を放つ。

 

「《DDラリアット》からの遠距離型《ストーンエッジ》! そして、《れいとうパンチ》からの《インファイト》!」

 

 マッシブーンはまず斬撃波を《DDラリアット》で防ぐと、遠距離から尖った岩を飛ばすタイプの《ストーンエッジ》でアヤメに剣を振らせ、その後隙に《れいとうパンチ》を叩き込む。

 

(Zuben es allegro!)

 

 それをアヤメはかろうじて加速して回避すると、再び《Zuben el solo》を放つ。しかし、それは見越していたミレーユからの指示で《インファイト》による連撃で粗方の斬撃は消し去る。

 

 だが、

 

『マッシ……』

 

 流石に全ては防げなかったようで、痛烈な攻撃をマッシブーンは受けてしまった。しかし、まだまだアヤメもマッシブーンも戦闘可能。お互いに攻撃を構えたところ、

 

「はい、そこまで。お互いの実力はだいたい分かったでしょう?」

 

 Weyer String-IIIが試合を終わらせた。戦力把握と言う意味では充分であり、これ以上は続ける意味が薄いと判断したのだろう。

 

「ありがとうございます、Ms. String。今回は剣技とちょっとした魔法で戦ってみましたが、いかがでしたか?」

 

 試合が終わると、アヤメはミレーユとマッシブーンに問う。すると、ミレーユは少しふらついて答えた。

 

「久々にドキドキしたわ……バトルで冷や汗かくなんて、いつ以来かしら」

『マッシ……(すげえ強えな、お前。この上他の魔法まで使われたら、流石に俺だけじゃ無理だぜ……)』

 

 そんな一人と一匹に、アヤメを横目に話しかける存在がいた。

 

『な? 言ったろ? 戦力としては十分だって』

 

 《墓守犬(チャーチグリム)》ことポチである。彼としては契約主のアヤメの強さを再確認出来て嬉しいようだ。しかし、アヤメはそれほど楽観してはいない。

 

「いえ、マッシブーンさんの攻撃は私にとっては一撃一撃が致命的なものでした。咄嗟に《マギア・ヴェガ》で防御していなければどうなっていた事か。正直、『加速』無しでは遠距離から封殺、という手を取りたいほどです」

「それにしては随分と果敢に挑んできたじゃないの……」

 

 とはいえ、お互いに本気を出してはいない。マッシブーンはZ技を使っていないし、アヤメも使った技はほんの一部に過ぎない。それでもお互いの強さを認識するには充分だった。

 

 と、もう一人、様子の気になる少女がいた。

 

「リコさん?」

「…………」

「リコさん?」

「はっ!?」

 

 リコである。しかし、彼女は放心していた。

 

 アヤメの数回の呼びかけでようやく返事をする。

 

「どうでした? 今の試合は」

「なんか、その、凄かった。《かえんほうしゃ》みたいな派手な技は少ないけど、一つ一つの技術が……」

 

 リコの言う通り、今回のバトルはどちらかと言えば地味なもの。公式戦で好まれるような派手な技は少なく、殺法じみた地味な技の応酬だった。しかし、最初のフェイントに始まり、遠距離攻撃と近距離攻撃の使い分け、距離の詰め方、防御と攻撃の切り替えなど、バトルにおいて重要な要素がぎっしりと詰め込まれた試合だった。

 

「参考になったなら嬉しいわ。私は異世界の技に触れられた興奮とバトルの反動で心臓発作を起こしそうだけど……」

「悪魔に相対するならば、必要な技術です。そちらの世界では異端かもしれませんが」

 

 アヤメとミレーユはリコを激励する。なお、アヤメは暫くマッシブーンに『勝負しようぜ!』と話しかけられる事になるのだった。

 




 なんで身内戦ばっかり書いてるんだろう私(急に正気に戻る)。しかし、この試合は見てみたかったので小説にしてみました。まさか五千字近く行くとは思いませんでしたが。アヤメもミレーユさんのマッシブーンもかなり強いので、一方的な試合にはならないように書きました。エクスプローラーズや悪魔とはまた違った戦闘を書けて、個人的には楽しかったです。

 備忘録

 >Zuben es allegretto/allegro

 加速技。しかし、発動原理的に身体に負荷がかかる。ポケモンには使いません。
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