時代は平安〜中世あたりを想定していますが、細かい設定について考えていません。こまけぇこたぁいいんだよ精神で見守ってください。
俺は小さい子どもが大好きだ。
⋯⋯いや、決して自分が犯罪者予備軍だと明言した訳では無い。違うったら違う。俺のストライクゾーンはいつだって美魔女なんだから、ロリなんてものはクソボールにも程がある。
んで、話を戻そう。俺は子どもが大好きだ。
自分の感情に正直でワガママかつ自己中心。この文面だけ見ると、まあ社会不適合者のそれなのだが、それすら許されるものを彼らは持っている。
そう、愛嬌だ。お菓子を渡せば明るい笑顔で感謝を伝えてくれるし、高い高いをしてやればキャッキャッとはしゃいで喜んでくれる。
欲を言うのなら、一度は少女に「お兄さん大好き!チュッ!」なんてされてみたいものだ。しかし、それは俺が社会的に他界他界しそうなので全力で遠慮させてもらうとしよう。
まあ前置きはこのくらいでいいだろう。
なぜ俺が今「私子ども好きなんですよー。下心なんて無いですよー?」アピールをしているのか。それは至って単純明快。
捨て鬼(少女)を拾ったんだが⋯⋯
痩せ細ってもはや骨だけの四肢に、フケがついてボサボサの薄汚れた橙色の短髪。そして、鬼にしては珍しい捻じ曲がった二本の角。俺の拾った少女(しかし鬼である)の特徴を説明するとこんな感じか。
生まれながらにして生粋のフェミニストであるこの俺、葉月は助けを求めているマドモアゼルを見捨てることなんてできない。なので、家に持ち帰ることにした。
「そういえば、君の名前を聞いてなかったね。俺の名前は救世主メシア。女の子を助けることを使命とする鬼だよ」
「わたしの名前は伊吹萃香です。メシア⋯⋯?さん。拾っていただいてありがとうございます」
今の季節は冬。俺は丹前を着ているが、萃香というらしい少女は布切れ一枚だけ。俺は鬼だが鬼じゃない。タンスの奥底で眠っていたチャンチャンコを萃香に着させた。ちょーっとホコリっぽいけど、これがあるだけで随分違うだろう。
「あの、ありがとうございます⋯⋯こんな私なんかに」
「自分を卑下しなくていいよ。それよりも、何で萃香は大江山の郊外に独りで居たんだ?」
時刻も既に日没が始まっている頃。彼女の身体を見て健康状態が良好だなんてとても思えないので、今日は奮発して冬の蓄えを沢山使おうと思う。
「えっと⋯⋯それがよく覚えてなくて。でも、自分は捨てられたんだろうなぁとは分かっているつもりです。両親の顔は覚えてないし記憶もあまりないけど、最後にゴメンだなんて言ってた気がするから」
「そかそか。まあ、なんだ。強く生きてくれ」
蔵から取り出したのは魚の干物と肉の塩漬け、そして栗などの木の実を両手で掬えるだけ。せっかく美少女と二人きりの食事なんだ。アーンして精一杯尽くしてやりたいが、そうも言える雰囲気ではなくなってしまった。こういう時に機転の利くことを言えないあたり、救世主メシアだなんて嘘っぱちだと気づいて欲しい。
⋯⋯が、萃香は本気で俺をメシアさんだと信じているようで、二重に気まずい。自分が捨てられたって気づいてるあたり、聡明な奴だとは思うんだがなぁ。
「まあ、これでも食って元気出せよ。⋯⋯いやまあ、無理を言ってるってことは分かってるけどさ」
「うぷ⋯⋯すみません。こんなに食べれないです」
あらま、腹ぺこかと思っていたがそうでもないらしい。魚の干物を半分、そして肉の塩漬けを二口齧ってお腹いっぱいのジェスチャー。木の実に至っては手すらつけていない。
唾液がついたら傷むのも早くなるし、残りは俺が食べるとしよう。これ単体でも十分に美味しいのに、さらに美少女の唾液がトッピングになっているとかご褒美すぎる。美味すぎて涙が出てきた。
「んで、こっからどうするよ。萃香は。辛いことを言ってしまうが、お前は親に捨てられた。栄養不足のそんな弱っちい身体じゃあ、一人で生きていくことすらできやしない。毒キノコにあたって死ぬのがオチだろう」
できることなら俺だってこんなことは言いたくない。お母さんお父さんはいつか迎えに来るよ!とかお前なら一人でも大丈夫さ!とか、彼女にとって理想的で無責任な言葉はいつだって言える。むしろ、言って慰めてやりたい。
でも、それは余りにも萃香という一人の存在に対して失礼じゃないかなぁ、って思うんだ。理想と現実の差は残酷すぎるってことも知らなきゃならない。
「⋯⋯っ。はい。本当に、自分でも、どうしたら良いのか分からなくて。でも、ここだけが⋯安全だろうなって漠然と思っている自分もっ⋯居て⋯⋯ッッ。だから⋯⋯ウグッ、ひっぐ⋯⋯ホント、どうすれば、いいんだろうなぁ」
「あ──ー⋯⋯泣くな泣くな。すまん意地悪しすぎた。萃香、お前もう俺と一緒に暮らせ。うん。そっちの方が楽だろ。色々と」
いいい言っちゃった言っちゃった!美少女に対して愛の告白的なこと、しちゃった!!自然な流れで同棲を誘える自分の才能が恐ろしい。
心臓はバクバクするし顔が灼けるように熱い。こういうなんとも言えない気持ちは嫌だけど、勇気を出すこの瞬間だけはいつだって大好きだ。俺は過去を振り返るよりも、前だけを見て進み続ける方が性に合ってるんだから。
俺の言葉を聴いた萃香は、バッ!と真っ赤な顔を上げ、口をあぐあぐして大粒の涙をボロボロ床に落とした。⋯⋯感動的な場面だと思うんだけど、水気による床の傷みを真っ先に心配する俺はやっぱり可笑しいのかもしれない。
「本当に⋯⋯いいんですか?これから迷惑とか、いっぱいかけちゃうと思いますけど、もう私を捨てないって約束してくれますか?」
「心配すんなマドモアゼル。俺はいつだってお前の味方だぜ。世界中の奴らが敵になったとしても、ずっと俺がお前の味方でいてやる」
近所のおっさん共が美女のナンパで使っていたセリフをそのまま流用。冷静に考えて、世界中の奴らが敵に回るってお前は何をやらかしたんだよって話なんだが、まあそれはお約束として黙っておくべきなんだろう。
ちなみに、マドモアゼルとは処女という意味らしい。流石にないとは思うが、こんなナリで実は経験済みですって言われた日にゃ号泣する。いたいけな少女に貞操観念の再教育なんてしたくない。
「ありがとう⋯⋯!!ありがとうございます、メシアっっ⋯⋯!!さん!!!」
「いやすまん実は俺の名前は⋯⋯」
「本当に、ありがとうございます」
二本の角をグリグリと押し付けて俺に抱きついてくる萃香。
え〜⋯⋯今日からメシアとしての物語を始めていかないとダメなの?ちょっとした冗談のつもりが、ここまで膨れ上がってしまうと引くに引けない。
あと、こっそりベチョベチョの鼻水と涙を俺の服で拭ってますよね?いやまあ、いいけど。ご褒美だけど。洗濯が大変なんだから困ったものだ。
こうして、大きな爆弾(メシア笑)を抱えた俺と萃香の生活が始まる訳だが、もちろん爆弾はすぐに爆発した。