そんな貴方が大好きです   作:饅頭こわよ

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薪にも名前があるように、君との暮らしにも名前があるんだぜ。愛って言⋯⋯

「うおおおっっ!!唸れ俺の両腕っ!そして斧っ!」

 

 そんなよく分からない叫び声を上げながら、薪を割る彼メシアさんはいつも通りの調子。

 共に暮らし始めて数日経ったから言えるけど、やっぱり彼はどことなく個性的な鬼だな〜って思う。名前もそうだけどクスッと笑える言動を繰り返すから、どうしても目が離せない。

 

「うおっ、ケンタ君いい音鳴ったね♡お前は焚き火要員だ。あ、タケシお前は論外な。虫に中身の大部分が食われてるとか軟弱者にも程がある」

 

 うん。やっぱり意味がわからない。一々独り言を呟くのもそうだけど、薪一つ一つに名前をつけるところに狂気を感じる。

 そんな彼を私はボーッと座って見つめているだけ。一度手伝おうとしたけど、「おいおい、俺に触るとヤケドしちまうぜ?」とか何とか言われてさせてもらえなかった。刃物は危ないから、彼なりの不器用な優しさだと受け取っておこう。

 

「しっかし、ずっと前から思っていたんだが『案ずるより産むが易し』って女性蔑視の諺だよな。下手すれば死んでしまう出産において、母親の不安や悩みをちっぽけなモノとして捉えているとしか思えない」

 

 絶対そういう場面で使う言葉じゃないし、それを意図して作られた言葉でもないと思う。やっぱりこの人って、若干ズレてるなぁ。

 

 

 

「あやや?葉月さんは今日も今日とて薪割りですか?」

 

 それは唐突な出来事。さっきの言葉と共に私の視界に舞い降りたのは、背中から生えた純黒の翼に、闇を象徴するかのような私と同じ肩にかかる程度の黒髪。そして何よりも特徴的なのは纏っている衣服で、着物自体はメシアさんのそれと変わらないのだが首筋にかけている梵天袈裟が強烈な存在感を放っていた。

 あと、ハヅキって誰だろうか?メシアさんはメシアさんだし⋯⋯彼女は私の名前も知らないはず。

 

「そして、貴方の隣にいるのは年端もいかない美少女!これは犯罪的な香りがぷんぷんとしますねぇ〜?」

「確かに美少女だ。だが未遂だ」

「未遂の意味わかってます貴方?一応犯罪に該当しますよそれ」

 

 は、犯罪?み、未遂⋯⋯?よく分からないけど、メシアさんはそんなことをする人じゃないと思う。だって自分は救世主だって語ってたし、私を助けてくれたし。

 というか、一体全体目の前の彼女は誰なんだろうか?

 

「貴女は誰ですか?」

「あやや!申し遅れました。私の名前は射命丸 文。見た所この山出身の者ではないようですが⋯⋯鬼様、貴女の名前を伺っても?」

「伊吹萃香です」

「成程、萃香様。名も申さずに発言した件、深くお詫び申し上げます」

 

 え、え、え⋯⋯急にどうしたのだろう。謝罪なんかして。

 そうやって畏まられるとどう対応していいのか分からない。こういう時こそ救世主さんの力を借りるべきなのだろう。

 

「あー⋯⋯射命丸。すまんが萃香にはこの山の組織関係についてあまり説明していない。だからまあ、なんだ。そんなに畏まるな」

「なんで一番重要なことを教えずに、女性蔑視の風潮について語っていたんですか⋯⋯」

 

 呆れ顔でため息をつく射命丸さん。

 鬼と天狗、組織関係。この数日でチョロっと言っていたけど、私も同感だ。少しは優先順位というものをわかって欲しい。

 

「美少女二人から責められるこの場面。なるほど、これが3Pか」

「最低だよ」

 

 さんぴー?という言葉はよく分からないけど、射命丸さんは理解したみたい。ゴミを見るような目でメシアさんを見つめていた。

 ⋯⋯にしても、分からないことだらけだ。彼女は急に現れてメシアさんとお喋りるし、私に恭しく接するし。私のことを見て犯罪だとか未遂だとか。後、さんぴーという言葉の意味も教えて欲しい。

 

「まあまあ、射命丸。萃香が混乱しているし、立ち話もなんだ。今日履いているパンツの色を教えてくれたら家に「死ねよ」ヤダ怖い⋯⋯。まあ家に上がってくれ」

「はあ⋯⋯致し方もないですね。話によっては萃香様は私の家で保護しますので、よろしいですか?」

「俺は綺麗な百合には挟まらないって、メシアに誓ってるんだぜ」

 

 胸を張って自慢気に応えるメシアさん。

 しかし、綺麗な百合に挟まるって何だろうか?そんなに大きい花があるとしたら、一度は見てみたいなぁ⋯⋯なんて。

 

 

 

 私が大人として一皮むけるのはまだもう少し先のお話。そう濁しておこう。

 

 

 

 

 

 萃香と暮らし始めて数日。相変わらず身体はガリガリでメシアさんメシアさん呼んでくるけど、髪は大分サラサラになったし小綺麗な少女に変身したと思う。顔?そんなの会った時から可愛いに決まっているだろ。不変の真理をわざわざ言う必要は無い。

 そして運がいいことに、この数日は鬼同士の付き合いや酒盛りもなかったのでノンビリと過ごすことが出来た。しかし、それはまだ新入りの萃香を皆に紹介していないことを意味する。基本的に大江山の妖怪は排他的で余所者に容赦は無い。萃香は余所者といえど鬼なので受け入れてくれるとは思うが、それでも早いのに越したことはない。

 

 唐突だが、俺が現在住んでいる大江山について軽く説明しよう。

 大江山は別名妖怪の山と言われ、鬼、天狗、河童の縦社会が形成されている。鬼がヒエラルキーの頂点で、天狗はそいつらに仕え、河童は天狗と階級的な面では大差ないが基本的に自由で鬼とは無関係。天狗は鬼に仕えている⋯⋯と言っても、それは表面的なこと。裏では互いに罵っているし、不平不満を垂れまくっている。本当に仲がいい鬼と天狗の二組なんて、両手で数えるに足る。

 

 また、鬼にも四天王と呼ばれる奴らがおり、そいつらと天狗の長がこの大江山の妖怪社会を統制している。

 俺?もちろん鬼だが鬼じゃないくらい権力は弱いぜ!!ヒエラルキーの頂点と言っても、いわゆるパワハラやセクハラなんて御法度。そんなことをすれば上記の奴らから首をスパーンされる。大半の鬼はそんなことをしなくても、グレーゾーンなことはしているんだけどね。

 俺は過去にそれをめぐって仲間と喧嘩したので、まあ色々と察して欲しい。排他的な奴らと不和になったらどうなるかくらいは。

 

「はい。説明終わり」

 

 目をパチクリとして何を言えばいいのか分からない様子の萃香。

 

「え、えと⋯⋯鬼という種族がこの山を支配しているのはわかりました。射命丸さんが私に急に恭しく接したのも。⋯⋯ですが、じゃあ何故メシアさんと射命丸さんはそんなにも仲がいいのですか?」

 

 むぅ。早速痛いところを突いてくるな。

 しかーし、そこは既に対策済み。できる(笑)男はここが違うのだ。

 

「射命丸は俺が好きだから」

「な訳ナイでしょッッ!!」

 

 バチィン!と頬に一発張り手を喰らった。まったく、暴力ヒロインは愛情表現が過激で困るぜ。

 

「私は葉月さんの部下であり友達であり目付役であり⋯⋯まあ、そんな関係です。逆にこれほどの関係で仲が良くないのが不思議でしょう?」

「え、えと⋯⋯あと少しだけ。葉月さんって、誰ですか?私の名前は萃香だし、メシアさんはメシアさんだし」

 

 あ、まずいぞこれ。

 心臓がドキリとして冷や汗が止まらない。心の中で外れてくれ、外れてくれ!とは願うが、やはりいつだって嫌な予感は当たるものなのだ。

 

「うん?ああ、それはコイツが嘘をつきやがりましたね。救世主だなんて嘘っぱちですよ。都合のいい存在が近くにいるなんて、世の中はそんなに甘くないです」

「え⋯⋯」

「ホンットにすまない萃香!嘘だ!嘘をついた!本当にごめん!」

 

 長年の上下関係で培われたスライディング土下座を歳下の美少女に披露。これは羞恥プレイか何かだろうか。むしろそうであってほしい。

 

「あ、あの。葉月さん」

 

 涙声の萃香。それを見て、本人に悟られないようニヤニヤとゲスい顔で笑っている射命丸。

 

「何でしょうか」

「鬼だからこそ、あなたも分かっていると思います」

「はい。その通りです」

「私は嘘が嫌いです」

 

 ふええぇぇ⋯⋯なんて言いながら、彼女は顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。どうやら俺は救世主を騙った所で、少女一人を泣かせる最低な存在らしい。

 

「う、うぅ⋯⋯!信じてたのにっ!メシアさ「あの、葉月です」急に言われても分かるわけないじゃないですかっ!!」

 

 すみません。その通りでございます。

 号泣する萃香。慰めようとするが手で払われる俺。その光景を見てゲス顔で口をヒクヒクさせながら笑う射命丸。

 

 第三者から見たらあまりにも闇深いシーンがネタとして話せるようになるのは、萃香が大人としてもう一皮むけた頃のことだった。

 

 






メシア(笑)
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