※にとりのキャラ解釈が受け付けられない場合があります
私は葉月さんにとってどういう存在なのだろうか?
先日、鬼の酒盛りがあった。皆は余所者の私に対して、反応は様々だったが概ね受け入れてくれたように思う。一貫して共通していたのは『葉月さんの子ども』だと認知されたこと。
そりゃあ、個性的で変態で若干の少女趣味(?)があるとはいえ、彼の子どもだと思われることに悪い気はしない。むしろ嬉しい。
しかし、彼はそのことについては何も触れず軽く受け流していたように思う。別に嫌がっている訳じゃあなかった。飽くまでも私を『捨て子』として認識しているようで、そこがモヤモヤする。今の保護者は貴方なのだから胸を張って親ですと言えばいいのに⋯⋯
このままグダグダ考えてもしょうがない。直接彼に聞いてみよう。
「葉月さん葉月さん」
「どうしたメイデン萃香。他家への嫁入りの相談なら俺は認めないぜ」
今のところは貴方一筋だから安心して欲しい。
別にこれが好きという感情では無いと思うけど、家族愛なものだろうか。多分、そんな感じ。
「私って葉月さんの子どもなんですか?」
「うん?逆に俺と結婚してくれるとでも?そりゃあ胸を張って言うが、萃香は俺の子どもだぞ」
呆気なかった。どうやら彼はしっかり私を『自分の子ども』と思っていたらしい。
何いってんだ娘面してんじゃねぇって、真顔で言われるのなら号泣するだけだが。
「あと、酒盛りで射命丸さんが惚れ込んでいるどうのこうの言われてましたが、それについては?」
「ああ、あいつか?」
ふむ、と考えること数瞬。
へッと笑ったかと思えば、彼は言った。
「あいつも盛ってる年頃だからなぁ。たしか、あと数日で年齢は百⋯⋯」
この先を語らせるにはまずいと思ったから取り敢えずぶん殴っておいた。彼女の名誉を守った私の英断を褒めて欲しい。
「⋯⋯って、射命丸さんの誕生日が近いんですか?」
「ああ。たしか、最後に誕生日を祝ったのが十年以上前でアイツも心待ちにしてるだろうからな。ほら、デキる男は飴と鞭の使い分けが上手いんだよ」
「要するに単に面倒くさかったと」
「おや、勘のいいガキは好ましいが、世の中事実を述べることが正しいとは限らない。申し訳ないがここからは先の応答は黙秘させてもらうとしよう」
あ、逃げた。
「それで、私に言ったからには相応の祝賀を考えているんですよね?」
「もちろんさぁ!俺の頭の中には数百通りの未来が視えているからな」
もし本当にその通りなら、先程の会話だってもっと良い返しがあったはずだろう。嘘か?またこの男は嘘をついているのか?
「じゃあ、何か聞いても?」
「聞いて驚くなよ?」
そう言うと葉月さんはタンスの中をごそごそと漁り始めた。そして、彼の手に握られた物は紅葉をモチーフにしたような天狗の団扇。その手の道具に素人な私でも分かるほど、それからは圧倒的な妖力が放たれていた。
⋯⋯こんなものをタンスの中で封印していた葉月さんの胆力に驚きなのだが、まあそこはいい。とりあえずタンスの偉大さは理解出来た。
「全男性諸君の夢を叶える為、従来品の団扇を魔改造!鬼の妖力を豊富に含有することで脅威の威力と耐久性を実現!コレ一つに念じて仰ぐだけで突風を巻き起こし、林は薙ぎ倒れ山は傾き海は割れる!しかし、それを持ってしても突破出来ない壁というものがある!それが女性のパン⋯⋯」
「もういい喋るな」
呆れた。
この特級呪物は再びタンスに封印するとして、葉月さんにはしばらく家を出て頭を冷やしてもらおう。私の鉄拳制裁でもいいが、明鏡止水の扉(死への片道切符)をそう簡単に開いてもらっては困るのだから。
「桜色が似合う君と永遠の春を探しに行こう。⋯⋯口説き文句としては立派なものだと思わないか?」
現在、萃香による愛のムチ(暴力という言葉では表しきれない)を受けて家を追い出されたので、部下の河童の家にお邪魔している。あの団扇、最高傑作なんだけどなあ。
部下といえば射命丸もそうなんだが、他にも二人いる。射命丸は部下というか、アレだな。目付け役みたいなものだからな。そこら辺の事情はまた後で話すとしよう。
「その言葉もまた誰かの受け売りかい?まったくこれだから鬼というものは困る。知恵が無い癖に変に賢ぶる。お前に口説かれる女の身にもなってくれ」
なるほど。体による暴力も捨て難いが、言葉による暴力も心地が良い。先人による言語の誕生とは奥深いものだ。これをいわゆる尊厳破壊というのだろうか。
「へぇ、前々からだと思っていたがやはりそっちの気があるのかい。悪趣味なもんだ。それに、祖先を讃えるのなら、その辺の地蔵に供え物をして祈った方がよっぽど良い。世間はこれを敬虔というんだろうがね」
「鶏犬?悪いが畜生なんかに欲情はしないと決めてるんだぜマイハニー。世間はこれを硬派という」
なんという痩せ我慢。先程から鼻の奥がツンとして視界が滲むこの感覚が鬱陶しい。泣いてなんかないけど、自分の尊厳というものが傷つけられたのは確かなこと。
ま、ご褒美だからいいんだけど、こいつと話していると自分という存在が不安定になっているような気がしてならない。
言葉という愛の結晶を凶器に変えてしまうのがこの女、河城にとりである。
背丈は萃香より頭半分高い程度。透き通った空色の髪を後ろで短く束ねており、常に何かを軽蔑するような目つきに見下しているような口調。そしてこの山きっての毒舌家。
「ま、お前と過ごす時間はあっという間だ。私としてはもう少し話してやってもいいが⋯⋯今日の作業に支障が出てしまう。てことで早く要件を言え」
「ん?あぁ⋯⋯実はだなにとり。お前、機械について詳しいだろ?なんだっけか。カメラ?だったか」
先日、射命丸がボヤいていたような気がする。河童がせっかく新発明品を売り出したと言うのに、家計が火の車で買えたもんじゃない、と。
彼女も年頃なのだし流行には乗りたいのだろう。同世代たちがその新発明を片手にキャッキャと騒いでいる中、彼女は一人で疎外感を味わいながらテキトーに相槌を打つしかないのだ。それは彼女の上司として見過ごせないだろう。
「カメラがどうした?試作品は何個かウチにあるが、値段は高くつくぞ」
「いや、俺が欲しい訳じゃなくてな」
「じゃあ誰に?」
「まあ⋯⋯ね」
この一言で察してくれ。お前と共に開発したあの団扇は最先端を行き過ぎたんだ。今思えば綿もしくは麻の成分を感知したら、そこへの攻撃を緩める機能がダメだったのかもしれない。
しかし、あれが無ければ新たな必須タグが必要となるので避けられぬ壁だったのだろう。
「あぁ⋯⋯あの団扇、ダメだったのか。それは残念だ。残骸だけでも集めることにしよう」
にとりの中では既に射命丸によって破壊されたことになったらしい。
「安心しろ。破壊はされてないし、誕プレはあれにすると決めてある。でも、ほら。それだけじゃあ味気ないだろ?デキル男は常にサプライズというものを用意してるんだぜ」
「要するにあれか?カメラは日頃のねぎらいというものか。うん、納得だ。こんな変態野郎の部下だなんて、アイツにしか務まらないだろう。災難なものだ」
嘲笑っているのか、同情しているのか、はたまたその両方なのか。でもそれって、俺を全部理解しているからこその発言なんだよね。君と射命丸にだけなら俺の変態な一面をさらけ出せるんだ。
「感動的な場面に仕立てあげようとしているが、要するにそれはセクハラだぞ?知り合いの新聞記者にチクってやろうか?」
「なるほど!誤魔化せなかったか!」
「ああそう。自覚はあったのね」
射命丸のカメラの件は後日包装して郵送してやる。と色好い返事がいただけた。やはり持つべき者は有能な部下なのだ。
二話において、河童は鬼と無関係と説明されていましたが、中にはその技術力を買われて上下関係を結んでいる者たちもいます。
また、にとりがタメ口なのは相手が葉月だからです。もし他の鬼の場合は敬語を使います。