そんな貴方が大好きです   作:饅頭こわよ

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今回も短め⋯⋯




残念!どうやら君を攻略するには必須条件を満たしていないようだ。だが俺は決して挫けたり⋯⋯

「おい見ろよ射命丸。蜻蛉が交尾して飛び交っているぞ」

「おっカマキリの共食いじゃん。俺も雌に食われてみたいもんだなぁ。チラッ」

「キノコ調達完了!さあぜひ調理して食べてくれ!ただ生で食してもらいたいものがあるんだが⋯⋯」

 

「死ね」

 

私が葉月の部下となって数ヶ月。正直に言おう。仕事辞めたい。妖怪の山から亡命したい。

多分下ネタを聞かなかった日はないと思う。彼は何かしらある度にそれと結びつけてきて、もはやその執念に恐怖を感じる。

 

「おっと、やり残したことが沢山あるから死ぬに死ねないな。あれだ。お前なりの愛情表現ってやつだろう?」

「何をどう解釈したらそうなるんですか」

 

もはや頭痛がしてきた⋯⋯

最初の方こそはただの目付け役だと思っていたのだが、実情は彼の性欲の防波堤と言ったところだろうか。不幸中の幸いとしては、言葉だけで行動に移してはこないこと。

⋯⋯いや、時々股間にキノコをつけて顔に近づけてくるのは本当にやめて欲しいが、それだけだ。

 

「貴方ですねぇ⋯⋯。本当に毎日言ってることですが、次期四天王としての自覚を持った振る舞いを意識してください。そんなだから、いつまで経っても席が譲られないんですよ?」

「四天王なんか興味無いし、したいヤツがすればいいだけじゃないか。それに爺さんや婆さんの席を奪うのは倫理的にどうなんだ?それはいくら何でも憚れる行為だぞ」

 

席ってそっちの意味じゃないし、お前が倫理を語るな。

無責任。この一言に尽きる。なぜ山の上層部はこいつを四天王候補から下ろさないのだろうか。

実力は申し分無し。年齢も次世代を担うにふさわしい頃合。しかしあまりにも頭がちゃらんぽらんで話にならない。

 

「興味がなくたって、いつかは選択を迫られるのですよ?今は彼らが存命ですが、全員もう長くないと聞いています。それまでに一人でも継承者を見つけねば、と」

 

その一人が彼であるというのが正に絶望的なのだが、しかし他に適任者はいない(らしい)。席が空いたからって直ぐに穴埋めされるほど軽いものではないのだ。

四天王に相応しい実力、覚悟、性格。これらのうちどれか一つでも欠けていたら論外。過去には四天王が独りのことも頻繁にあったらしい。

 

「ふむ⋯⋯しかし爺さん達には、お前の好きにしろと言われているしな。俺はそれに甘えているだけだ」

「その甘えを直せと言っているんですよ。少しは自分の立場を自覚して⋯⋯って、はぁ。もう私も言い飽きました」

 

何百回も繰り返されてきた会話。だというのに、未だ進展はしていない。これからもそうなのだろう。

 

「まあでも、あれだ。もし俺が四天王になるとするならな⋯⋯⋯⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和だねえ」

 

萃香から家を追い出され、部下のにとりから爆撃を受け、家に帰って来たら射命丸が居て。

昨日はなかなか濃い一日だった。刺激的なのは良いことだが、それは平穏があるからこそ輝くのだ。そう昔の近所のおじさんが言ったのを覚えている。

 

「だから君を連れてお花を摘みに来たんだけど、どうかな?」

「貴方それラインギリギリですよ?野郎の用を足す姿なんて想像したくもないです」

 

おっと、俺としたことが見誤ってしまった。このイベントを起こすには好感度が足りなかったらしい。

射命丸が部下になって数十年。これからも好感度が上がる気配はないが、気のせいだろう。

 

「出会って年月は経った。関係もかなり近くなった。贈り物もした。⋯⋯何がダメなんだ?」

「その理由が発言全てに出てるんですよ」

 

はあ。と呆れた様子でため息をつく我が側近。見慣れた光景だ。

 

「ま、今日私が貴方のお誘いに乗ったのは、この団扇を貰ったからです。そうでなければ今頃にとりの家できゅうりの浅漬けをかじってましたよ」

 

紅葉を象徴とする古風な団扇。これは、俺とにとりが二人三脚で開発した渾身の力作。装備すれば妖怪としての格を何段も上昇させるが、並の妖怪が使っても力が暴発して扱うことはできない。

射命丸はこう見えても山屈指の実力者だ。こいつに匹敵する奴は両手で数えるに足る。

 

「誕生日なんだろ?そこは素直に喜ぶものなんだぞ」

「喜びよりも驚きが勝ってますよ。誕生日を祝ってもらうのは稀、その上に贈り物なんて久しぶりすぎて。どういう風の吹き回しですか?」

 

萃香が関係している。とでも濁しておこう。

守るべきものができたんだ。俺一人じゃあどうしようもないことだってある。そんな時に助けるのが部下の役目ってものだろう。

 

「⋯⋯ってことは、もしかして、貴方」

「おっとそこまでだユニコーン。それ以上は黙秘するぜ」

 

サアァと穏やかな風が吹いた。それは俺の肌を撫で、隣にいる彼女の大きく見開かれた瞳のまつ毛を揺らす。

 

「私は、まだ、貴方の部下でいたいです」

 

どこか苦しくて、切なくて、物悲しいその言葉。

これをもう一度聞くことになるのは、また未来のお話。






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