転生したら駆逐艦娘の霞になっていたので、とりあえず司令官をクズ呼ばわりしようと思う   作:小雨乃小藪

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お久しぶりです。
楽しんでいってください。




プロローグ 転生

 長い夢から覚めるように目を開けると、そこは大海原だった。目の奥が青くなった。波の地面が沈んだ。

 

 私はどうしてここにいるのか。記憶を探ると、驚くほど冷静に自分が死んだことを思い出した。空が青い。雲が白い。海は黒い。

 電車の光景が脳裏に浮かんだのを払って、現状を確認する。

 

 足場の海面が上がって、周りの海面が下がった。遙か先の海まで見える。水平線から白い雲が湧き出ては青空に広がっていた。夏の風景だと思う。暑いし、日差しが強い。

 再び海面が沈んで今更ながらに思う。私は海の上に立っているらしい。足元を見ると、船のような形の靴を履いて、不思議なくらい海の表面に浮かんでいる。波に上下されるのが心地よい。

 

 下を向いてわかったが、私は女性になっているらしい。スカートを着ている。海面に反射した自分の姿が、特徴的な右サイドテールのかわいい女の子になっている。背中にはランドセルのように、船の煙突や艦橋を背負っている。

 

 私はどこまでも冷静だった。こういった状況を私は知ってもいた。

 

 転生だ。それも『艦隊これくしょん』に出てくる、駆逐艦娘の霞に。これは憑依していると言ってよいのか、そこはわからない。霞本来の自我が感じられないから、憑依ではない、と思いたい。

 

 辺りを見回す。陸地はどこにも見当たらない。海ばかり。太平洋のど真ん中にでもいるのだろうか。目立つのは太陽と、雲と、波だけ。

 霞に転生したということは、この世界は『艦隊これくしょん』なのだろうか。アニメなのかゲームなのか、設定もどうなっているかわからない。そもそも違う世界に転生するというのも考えられる事項ではある。

 

 ここにいても、何もわからない。陸地を目指すべきだ。

 動くか、と思うと、頭の中に海の上の進み方が浮かんでくる。そのとおりに艤装を動かすと、難なく足は海の上を滑っていく。少しバランスが乱れそうになったが、後はなんの滞りもなく、大海原を進む。まるで氷の上を滑るフィギュアスケート選手のように両足を前後させる。ゆったりと焦らず。波に乗りながら。

 

 海面に波を立てながら、海と空だけの景色を眺めていた。

 

 海の上を上下しながら前へ進むと、遥か前方に黒い物体が見えてきた。近づくと向こうも気がついたのか、こちらに来る。

 私は何も考えずに近づく。

 

 どん

 

 音がした。黒い物体から火花と煙が上がる。何かが発射されて、私の前方に落下した。水柱とともに、腹に響くような爆発音。砲撃された、と気がついた。近づいてわかった。黒い物体は、深海棲艦の駆逐イ級だった。

 

 私は右腕に装着された砲を、駆逐イ級に向ける。それが当たり前であるかのように、構えた。このときもやはり私は冷静であった。

 

「砲雷撃戦、始め」

 

 砲撃の仕方は頭が勝手に導き出した。狙いの付け方も、感覚でわかった。だから、撃った。

 

 一発で当たることはなかったが、何度か砲撃を交えながら、反航戦ですれ違い、反転してまた砲撃。同航戦になって、並走。今度は狙いやすい。

 

 駆逐イ級も口を開けて砲口を向ける。互いに撃ち合って、私の攻撃が駆逐イ級に当たった。それもクリティカルヒットだ。感覚が教えてくれた。

 駆逐イ級は炎を上げた。一つ、大きな音を立てて、煙を上げると、海へと消えていった。

 

 私はただそれを眺めているだけだった。

 

 

 

 

 

 駆逐イ級を倒して、しばらく宛もなく、進む。相変わらず、陸地は見えない。もしかしたら、方向を間違えたのだろうか。太陽が真上にあるから、西も東もわからない。赤道直下だから、暑いのか、と呑気に考える。

 艦橋を振り向く。そこにいる妖精さんを見た。駆逐艦娘の霞をちっちゃくしてヒゲをはやしたような姿。妖精さんは首を振る。

 

 駆逐イ級を倒してからボーッとしていたときに、頬を叩かれたことで、存在を認識した妖精さん。一人でなかったことにホッとする。妖精さんは喋れないようだが、いないよりはマシだ。それになんとなくだが、何を伝えたいのかもわかる。

 

 このまま進んでいたら、必ず燃料が尽きる。どこか陸地に辿り着かなければ、燃料切れで海上を漂うだけになってしまう。妖精さんはそう言っているかのようだった。

 

 それでも私は焦ってはいなかった。のんびりと海を進んでいく。

 広がる海と空の青さを眺めていた。

 

 しかし、5時間も経って考えを改めた。海の上にいると、疲れてくる。流石に燃料も心許なくなってきた。

 5時間も経って、日が傾いてきたおかげで、方角がわかった。日が沈む方向に進んでいる。ここが太平洋か大西洋かインド洋か知らないが、西に行けば陸地があるはず。赤道だから、どの海洋であったとしても、油田地帯があった気がする。……たぶん。それも前世の知識なので、地球とは全く違う地形なら万事休すだ。

 

 しばらくして、だいぶ日が沈んできて、星が見える頃になって、島影を発見した。なんとか海上で夜を過ごすことは避けられたみたいだ。夜は潜水艦も跋扈しているだろうから、危なかった。

 

 島に着くと、砂浜に上陸した。辺りはだいぶ暗くなった。島の捜索は明日にしよう。ふかふかの絨毯のような砂に腰を下ろして、艤装を脇に置き、仰向けに寝転がる。思ったよりも疲れていたのか、そのまま私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 朝、目が覚めた。すこしボンヤリしていたが、綺麗な朝日に頭がクリアになっていく。暁の水平線は自分に現状を思い出させていく。

 

 まず、辺りを見回した。砂地である。後ろに森があった。そんな島である。浜辺には波が打ち寄せ、朝起きたばかりの蟹が横歩きをしていた。

 次に、自分の姿を確認した。半袖のワイシャツに吊りスカートである。髪も右にまとめている。駆逐艦娘の霞で間違いないだろう。

 

 確認終わり。つまり、転生したのは悪い夢、とかではなかった。

 

 立ち上がり、背中やお尻についた砂を叩く。

 あまり考えたくなかったが、私は今女性のお尻を触ったことになるのだろうか。元男としては複雑な気持ちだ。これが憑依だったら、後で霞に殺されそうだ。まぁ、元に戻ったらの話だから、今は考えないようにしよう。そもそも憑依とは決まってない。憑依とは、身体に宿る前にその身体の本来の持ち主がいる場合のことを指す。本来の持ち主がいなければ、これは転生と言ってもいいだろう。詳しいことは覚えてないが、そうだった気がする。

 

 閑話休題。

 

 妖精さんを起こし、艤装を背負い、島の奥、森の中へと入っていく。森と言っても、さほど深くはなく。10分もせずに、向こう側の海が見えた。

 

「あれは……陸地? それも建物が見える?」

 

 海の向こうに島とは思えないほどの大きさの陸地が見えた。その一箇所に建物らしき白い物体が辛うじて見える。

 もしかしたら人が住んでいるのかもしれない。燃料を確認する。足りそうだ。ヒゲの妖精さんも親指を上げている。行って見る価値はある。

 

 

 

 

 

 人はいなかった。どうやら製油地帯らしい。ドラム缶が辺りに転がっていて、中には重油が入っている。燃料が手に入ったのは嬉しい。人がいないのは不思議だったが、製油作業は全てオートメーション化されていて、疑問は解消された。

 ここまで技術が発展しているのなら、生活水準も高いだろう。前世のときと同じくらい、もしくはそれ以上かもしれない。

 

 しばらくはここを拠点に頑張るしかないのだろう。鎮守府か、少なくとも人がいる場所に行きたい。この世界の現状も知りたいのだが、それ以上に人肌が恋しい。早く会いたい。まだ見ぬこの世界の住人に。

 

 

 

 

 

 製油所内を探索する。

 製油所内は、機械の音だけがした。機械室からは、ガスが勢いよく抜ける音、石油を汲み出す音、ドラム缶に重油が注がれる音。

 

 工場の一角にドラム缶が乱雑に置かれている。側面を下にしているもの、積み上げられているもの、工場の外にはみ出ているもの。

 

 もちろん人の姿どころか気配すらない。

 

 工場内をくまなく探すと、給湯室と仮眠室があった。昔はここで人が寝泊まりしていたのかもしれない。ベッドが幾つかあったが、どれも虫食いで、とても寝れたものではなかった。

 給湯室には、ヤカンが1つと、包丁と俎板があった。底が焦げている鍋もあった。どれもまだ使えそうである。

 

 管制室が見つかった。しかし、ドアには鍵がかかっていて、開けられなかった。一応扉を叩いたり、呼びかけたりしたが、人の反応はなかった。少なくとも生きた人間はいないだろう。

 

 機械室に戻る。詳しくはわからないが、地下にある石油を汲み出して、石油を重油、ガソリン、灯油などに製油しているのだろう。天然ガスも貯めているらしく、小規模な火力発電に使われている。

 そんなことが書いてある説明板が機械室には貼ってあった。所々錆びていて読めないところもあったが、特に重要なことは書かれていなかった。日本語であった。

 

 機械室の扉から建物の外に出る。空は晴れている。海も穏やかだ。赤道直下の地域だから、モンスーン、つまり豪雨が頻繁にあると聞いていたが、今はその心配がなさそうだ。

 

 工場は他にも建物があった。そのどれからも機械音がした。製油しているのだろう。今出た建物は、8号機と書かれている看板があった。

 

 今日は、とりあえず、工場内を隈無く調べてみよう。ひょっとすると、万に一つ人がいる可能性があるかもしれない。今日は探索で終わりそうだ。

 

 

 

 

 

 陽がだいぶ上った。製油所内の建物は全部探し終わった。もちろんというか、やっぱり人はいなかった。せめて救いだったのは骸骨がなかったことだ。可能性としては、人類が滅びている、というのも考えられるからだ。この工場だって、人ではなく、妖精さんが造ったものかもしれない。前世で読んだ『人類は衰退しました』みたいに。

 

 くぉう

 

 突然お腹の音が鳴った。そう言えば、朝から、いや昨日から、もっと言うと転生してから何も食べていないことに気がつく。

 

 何か食べるものはないか。調理道具は給湯室にあった。食材はなかった。自分で調達するしかないだろう。

 

 最初の建物、8号機の機械があるところに戻って、ドラム缶を一つ開ける。燃料を満タンにしてから海に出よう。釣り道具はなかったから、砲撃を海に放って、衝撃波で気絶した魚を獲ろう。名前はなんて言ったか、石打漁だったか、ガチンコ漁だったか。それで今日のご飯にしよう。

 

 

 

 

 

 海に出て、砲撃を海中に放ったが、魚はなかなか上がってこない。昔どこかで、こうすれば魚が気絶して浮いてくる、と聞いたのだが、間違いだったのか。それとも周辺に魚がいないだけか。

 下に砲撃を放ったおかげで、体全体が水柱に飲み込まれた。つまり、濡れた。濡れ損だ。

 

「まぁ、2,3日ぐらいなら何も食べなくても大丈夫だと思うけど……」

 

 とりあえず、海の上にいても何もならないので、工場へ戻る。

 

 

 

 

 

 工場の裏手が森になっていた。そこで食べられるものを探す。野生に生えたキノコとか食べられる植物とかは知らないので、もっぱら動物狩りである。大体の動物は食べられるだろう。

 

 そう言えば、砲撃は陸に上がっていても撃てるのだろうか。

 

 気になったので、森に艤装を着けて来た。

 森は鬱蒼としたジャングルである。あまり奥に行くと迷子になりそうで怖い。砲撃で、ジャングルを切り開いて進んだほうがいいかもしれない。まだ陸で撃てるとは限らない。艦娘は軍艦の生まれ変わりだ。海でしか力を発揮できないかもしれない。二次創作とかでは海でしか砲撃を放っていなかった気がする。もちろん陸でも撃てる設定の二次創作もあったが、ここでも同じとは限らない。

 

 とりあえず、と撃ってみた。

 

 あ、と思うと、背中に強い衝撃が襲い、私は気絶した。

 

 

 

 

 

 失敗した。

 気を失ってから、おそらく1日目に目が覚めた。私は森側に面する建物の壁にめり込んでいた。

 おそらく砲撃の反動で後ろに飛んでしまったのだろう。体がまだ痛い。

 

 砲弾は前に出ており、森にはクレーターができていた。これだけの衝撃がありながら、よく無事でいられたものだ。艦娘だからだろう。軽い筋肉痛程度でおさまっている。

 しかし、砲撃で近くの獣は逃げてしまっただろう。お腹が空いた。今日で3日目。転生してから3日でもあり、何も食べてないのも3日だ。

 前世では、3日も食事をしなかった日はなかった気がする。とりあえず、森に入るが、食べ物が見つかる気がしない。

 今度は艤装を建物内に置いて出発した。

 

 

 

 

 

 食べ物が見つかった。バナナだ。野生のバナナが、大量に木になっていた。

 味は、日本で食べたような甘さではなかった。どちらかというと苦かった。それでも食えないわけではない。

 何本かもぎ取って、建物へと戻る。

 

 さて、食事は終わった。真水は海水を沸騰させて蒸発した水を集めた。バナナは皮ごと茹でたら、ホクホクしてて美味しかった。バナナの味はしなかったが、確か外国ではバナナは主食として食べられていたはずだったから、これでいいのかもしれない。何にしろ食事は終わった。腹は満たされた。次は、人を探そう。

 

 人を探そう、と思っても、手がかりはない。地図の一枚でも工場内で見つかればよかったのだが、紙一枚すら見つからなかった。とりあえず、海に出て手当たりしだいに探すしかないのだろう。

 

 溜息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

     ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 5年という時間はどうも短いらしい。人探しばかりに海の上を滑っていると時間の感覚がなくなる。毎日工場に帰っては、包丁でコンクリートの地面に「正」の字を書いて日付感覚を保持していた。まだ人には会っていない。

 

 ちょうど365個目の「正」の字を書いて、365回目の溜息を吐く。

 

 一度に詰め込める燃料の量は限られている。それ以上に、深海棲艦の拠点が北にあるのか、北上する毎に敵が強くなっていく。

 おそらくこの世界は『艦隊これくしょん』の世界で、現在私がいる場所は赤道近くの産油地帯。ならば、人がいるのは北だろうと予測している。もちろんここが地球とは違う世界で、深海棲艦がいるだけの地形が全く違うエリアかもしれない。

 北以外のルートも大変だった。

 東も深海棲艦が強く、西は陸地が続いている。南は海ばかりで何もなかった。

 海での方が速く移動できるので、陸のルートは試していないが、山が海岸まで迫っており、艤装を担いで登るには険しい。それにこの製油工場があるのは大陸ではなく、大きい島である気がする。確証はないが、海から眺めたときに、陸の端が見えた気がする。陸路で進んだとしても、結局は海に出る。艤装が必要で、その艤装は重い。まぁ、最初から艤装を置いて行く選択肢はなかったので、陸路は意味がないと考えている。

 

 さて、先程も考えたが、この世界が地球と同じ地理をしているのならば、北に行くべきだ。東はおそらくオーストラリアだ。今いる場所はインドネシアとかフィリピンとかの場所。東南アジアだと予測している。この5年間で海を行き来して、海岸線や地形を観察した成果だ。

 詳しい場所まではわからない。というか、前世でも地理は苦手だったので楽観的かつ希望的な観測だ。しかし、どっちみち北と東、行くのなら北しかないと直感が告げている。

 

 北に行くことは決定しているが、さっきも言った深海棲艦の拠点があると考えられる。それでも北に行くには、3つ方法がある。

 1つは、深海棲艦にバレないように進む。しかし、これは難しい。敵には空母ヲ級を含めた機動部隊があり、もちろん索敵も向こうが上だ。燃料の関係もあって迂回するのも難しい。

 2つは、強行突破する。敵の拠点を素通り。強行突破自体はいいのだが、敵に背後を見せるのが危ないと思う。また、突破した後、どのような地形なのかわからない以上、製油地帯に戻れないのは痛い。最悪突破しても何もなくて燃料が尽きて終わりだ。

 そして、3つ目。というか、私はこれしかないと思っている。しかし、妖精さんは可愛らしい顔をして渋い顔をした。敵拠点の制圧だ。

 

 正直な話、先に進むには敵を倒すしかない。これはゲームでも同じだ。同じだ、と言う割には『艦隊これくしょん』のゲームは嗜み程度にしかしたことがないからなんとも言えない。たぶんそこまで異なってはいないだろう。

 敵を倒す。この5年間で、艦娘・霞としての練度は上がっていると思う。戦艦ル級を大破させたり、空母ヲ級から逃げることができたり、そもそも今の所、無傷だ。強さの尺度がわからないからなんとも言えないが、たぶん強い、と思いたい。

 

 しかし、問題もある。入渠施設がないのだ。

 

 今の所は、怪我一つなく戦って来れたが、この先もそうとは限らない。だから、早く北上したいのだが、これまた入渠施設がないため、敵地を突破するのは難しい。敵拠点制圧なんて、現実味がないかもしれない。

 更に、砲弾や魚雷の数も少ない。一応ある程度は倉庫のような場所に保管されていたが、それも5年間でだいぶ減った。かなり節約していたが、九割減した。残っているのは、戦闘20回分くらいだ。

 

「だけど、何もせずここで死ぬのは、嫌に決まってる」

 

 無理はしたくなかったが、ここは踏ん張りどころである。戦闘20回分で、敵拠点制圧をする。制圧が完了すれば、ある程度燃料をそこへ持って行き、そこを中心に捜索範囲を広げる。戦略としては、ボスを倒す事を中心に、他の敵は無視する。その他の敵はボスが消えれば、烏合の衆となる、と思いたい。

 

 私は艤装を背負う。深く息を吸い、大きく吐き出す。

 

「よし! 霞の水雷戦隊が出るったら!」

 

 験を担ぐように、ゲーム時の霞のセリフを吐き出して、海へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 最初の出撃は、5回接敵して、5回目で空母ヲ級が3隻現れた。流石に空母は沈めないと前に進めないため、戦闘をしたが1隻を取り逃がし、撤退することにした。

 

 

 

 2回目の出撃では初っ端から空母ヲ級が1隻、空母ヌ級が3隻、戦艦ル級が2隻で、豪雨のような爆撃機の嵐を無傷でくぐり抜けながら、撤退した。

 

 

 

 3回目の出撃は、接敵しなかった。運がいいと思ったのは、敵拠点を見るまでで、ボスを見てから舌打ちをしてしまった。

 

 大きな湾。その奥にいる。泊地棲鬼。鬼だ。

 

 あまり詳しくはないが、確か最初のイベントで出た鬼級だったと記憶している。

 最初のイベントボスがここにいるということは、この世界ではまだ最初のイベントも攻略できていないのか、はたまた泊地棲鬼が複数いるのか。ニワカだったのが仇となっている。判断がつかない。後者であってほしいと思うが、楽観的か。

 

 この世界のことは今はいい。問題は、どう攻略するか、だ。

 

 泊地棲鬼。鬼級を駆逐艦娘一人で、つまり私一人で倒せるのか、ということに話は尽きる。

 イベントに参加してなかったからなんとも言えないが、他の人の話や二次創作を見る限りでは、何度か出撃しないと攻略できないみたいな感じだった。それも戦艦や空母を含めた6隻艦隊でだ。

 

 帰投してから色々と策を考えたが、勝てる想像ができない。装甲が硬いから、駆逐艦の砲撃では傷一つ付けられない可能性が高い。つまり、魚雷頼りだ。

 

 背後の島に上陸して、陸地から攻撃しようか、とも考えたが、前回の事を考えると、自分が窮地に立たされるだけだ。気絶して終わり。

 

 まぁ、心配しても仕方がない。魚雷を何度も叩き込んでやればいい話だ。話は単純な方がいい。

 こんなとき自分が霞ではなく、戦艦娘か空母娘に転生していれば、と思うが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 

 

 

 4度目の出撃は、駆逐イ級に1回見敵したが、無視して敵拠点へ向かった。

 泊地棲鬼は、やはりいた。いなくなっていたら、と思ったが、そんな弱気な思考を捨てよう。

 泊地棲鬼以外には、空母ヲ級が3隻、戦艦ル級が5隻。他は雑兵だ。

 

 島影に隠れる。このまま夜になるのを待つ。駆逐艦の十八番は夜戦だ。

 

 小一時間もしないうちに、日が沈んだ。敵にばれないように進む。駆逐イ級やら軽巡ホ級やら重巡リ級やらの脇を通る。今ここでバレたら、袋叩きになるだろう。波すら立てないようにゆっくりと静かに進む。

 もしかしたら眠っているのかもしれない。そうであれば一生目覚めないで欲しい。

 やっとのことで泊地棲鬼の後ろへと回り込むことができた。

 

「さてと……沈みなさい!」

 

 魚雷を全部ぶっ放してから撤退。背後で大爆発がしたが、気にせず飛ぶように駆ける。他の深海棲艦が動き出す。まだ何が起こったか理解してないのか、目の前を通っても見向きもしない。そんなことが考えられないほど、エンジンをフルに活動させ、敵拠点を抜け出した。

 抜け出した後も、駆けて駆けて、気がついたら製油地帯の近海にいた。

 後ろを振り返る。もうすでに敵の姿は見えない。

 

 その日は泥のように眠った。

 

 

 

 次の日、つまり5度目の出撃からは敵も警戒し始めたのか、夜に見つかることも多くなった。泊地棲鬼に当てられないと思ったら、雷撃は諦めて撤退。確実に狙えると思ったら、魚雷をぶっ放して撤退。これを繰り返した。赴くたびに泊地棲鬼を見れば、少しずつ損傷が大きくなっていくのがわかる。それでも沈む様子はない。

 

 そして、魚雷が残り4本となった。

 

 

 

 

 

 最後の朝が来た。

 最後というのは、魚雷攻撃最後の日、という意味だ。4本をいつも通りぶっ放してから撤退。次の日からは砲撃中心というか砲撃だけの戦術へとシフトしなければならない。今日で泊地棲鬼を沈めたい。砲撃では泊地棲鬼を沈められないからだ。嫌がらせしかできない。その砲撃ですら残弾が少ない。砲弾がなくなれば、後は製油地帯に籠もって人類か艦娘か助けてくれるのを待つしかない。

 もちろんそれは、この世界に人類や他の艦娘が存在する前提の話だが。

 

 私は両の掌で頬を叩いた。

 

「弱気になるな! 絶対これで沈められる! 心配するな!」

 

 しかし、泊地棲鬼を沈められたとして、他の深海棲艦が退かなかったら、新しいボスが現れたら、いやいやその前に最後に失敗する場合も考えられる。

 首を激しく振る。

 

「だから考えるな! 成功する! 今までだってできたじゃないか! うん! イケる!」

 

 そう叫びながらも、脚は前へと進まない。まだ製油地帯を出るどころか、海にすら入っていないのだ。艤装は背負っている。補給も、燃料弾薬、魚雷4本もしっかりと装備した。行けるはずだ。行けるはずなのに、体は動かない。

 

 すると、ポンッ、と肩に何かが乗った。ほっぺを触るものがいた。

 妖精さんだ。

 肩にいる妖精さんはほっぺの後、頭を撫でてくれた。まるで、無理しないで、と言ってるかのように。

 

「無理しないと、先に進めないわ」

 

 妖精さんを見てから言う。妖精さんは首を振った。首を傾げる。妖精さんは何を言いたいのだろうか。

 

「励ましてくれてる?」

 

 ふりふり

 

「じゃあ、勝算でもあるわけ?」

 

 ふりふり

 

 妖精さんは飛び降りて、地面に降りる。そして、振り向いて、私に向かって両手を広げた。

 おそらく、こっちに来て、と言っている。私は膝を折って、腰を屈める。目を合わせる。つぶらな瞳がくりくりとしてかわいい。

 すると、妖精さんはウインクした。それから踊りだした。

 妖精さんが何をしたいのかわからない。

 踊りながら、ヒゲを両手で擦る動きをする。その振り付けが滑稽で面白くて、つい笑ってしまった。軽くだが、しっかりと笑った。転生してから初めて笑ったかもしれない。

 と、妖精さんは踊りを止めて、今度は、うんうん、と頷く。

 

「もしかして…………私を笑わせようとした?」

 

 こくこく

 

 今度は頷いてくれた。いつの間にか緊張していた体が、解れている。笑うだけでこれほどの効果があるのか、と感心した。うまくいく気がした。

 

「行くよ」

 

 妖精さんをすくい上げて、背中の艦橋に戻す。思考はクリアだ。

 

 私は海へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 泊地棲鬼はいつも通りそこにいた。緊張を覚える。しかし、先程の緊張とは違って、心地よい緊張だ。

 いつも通り、夜まで待とう。岩陰から観察しながら待っていると、不思議なことがわかった。

 他の雑兵が少なくなっている。私は泊地棲鬼だけを狙って攻撃をしていただけだ。他の深海棲艦には牽制目的の砲撃くらいで、沈めてはいない。

 

「まさか!」

 

 周りを見渡す。後方に敵の艦隊が見えた。いや、後方だけではない。水平線から湧いてくるかのように深海棲艦に囲まれていた。

 

 万事休すだ。

 

 息を吐き出す。深い溜め息になった。溜息をすると幸せが逃げる、と言うが、転生してからずっと溜息ばかりしていた気がする。その結果がこれなのかもしれない。

 

 ため息が終わると、私はにっと口の端を釣り上げた。

 

 夜戦前に片付ければいい。

 

 そう考えて、岩陰から飛び出す。泊地棲鬼へと向かった。

 砲撃が飛んでくる。場所がバレたのだ。当たり前だ。戦艦の砲弾が夾叉した。大きく海面が揺れる。それでもバランスは崩さない。無数の砲弾と、艦載機の爆雷撃。雨霰と降ってくる。

 しかし、

 

「当たらなければ、どうということもない!」

 

 湾内の敵群に突っ込んだ。敵は動揺する。これで攻撃ができないはず。同士討ちになってしまうからだ。

 進む進む。敵を掻き分け、奥へ奥へ。

 

 泊地棲鬼が見えた。邪魔な戦艦二人の間、針を通すかのように、魚雷1本を放つ。魚雷は当たった。

 

「イマイマシイ……」

 

 ゾッとするような声。でも、怯まない。前へ進む。

 戦艦ル級が邪魔する。そのまま突っ込むことはできない。目の前を横切るように、避ける。

 すると、背後から衝撃が来た。前につんのめりそうになるのを堪える。後ろを振り向く。被弾した。初めての被弾。痛い。それよりも妖精さんはどうなった。

 

 妖精さんは、親指を立てていた。私は笑った。そして、進む。血が出ているようだ。中破というところだが、問題はない。アドレナリンが出ているおかげか、そこまでの痛さではない。もしくは艦娘には痛覚耐性があるのかもしれない。

 

 戦艦ル級2隻が衝突し中破。その横から魚雷3本を放つ。魚雷は綺麗な軌跡を描き、真っ直ぐに泊地棲鬼へと伸びていった。勝てる。

 

 そう思った。

 しかし、泊地棲鬼は砲撃を放った。海面に。

 

 爆発した。煙に突っ込んでしまった。方向を変える。煙から出る。後ろを向く。泊地棲鬼は、…………いた。

 

 舌打ちをする。最後の魚雷は尽きた。後は、砲撃でなんとかするしかない。しかし、燃料がない。帰るしかない。でも、どうやって。周りは深海棲艦に囲まれている。今は夜ではないから、闇に隠れることもできない。

 

 でも、逃げる方法はある。

 

 私は陸地へと逃げ込んだ。上陸し、砂浜を走る。深海棲艦の砲撃が始まった。辛うじて避けながら、森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 製油地帯に帰り着く。あのまま、なんとか陸地から違う海に出て逃げた。逃げてばかりだな、と思うが仕方ない。その後、追手に見つかったりもしたが、なんとかまいた。

 それよりも泊地棲鬼、敵拠点制圧ができなかった。悔しい。

 

 悔しいだけで済めばいいが。

 

 結構なダメージを与えたと思う。流石に敵も本格的に私を探そうとするだろう。今まで製油地帯まで追手が来なかったのは、本気ではなかったから。その他に、つまり私に構う暇がないほど、忙しかったから。色々と考えられるが、今回の戦いで向こうも本腰を出し始めるだろう。そう思う。ここには長く居られないかもしれない。いや、明日にはここを出よう。

 

 空を見上げる。偵察機が飛んでいた。

 

「見つかった!」

 

 ここを出なくてはならない。すぐさま。

 給油を急ぐ。最悪なことは続くようで、燃料タンクに亀裂が入っている。重油が漏れた。戦闘中に引火しなくてよかった。

 製油地帯を出たら、どこに向かえばいいのか。敵拠点を強行突破するしかないだろうか。敵拠点を越えた後は……考えたくない。後の話だ。今は考えないでおこう。

 

 ドラム缶を担いだ。満タンにできないのなら、ドラム缶ごと燃料を持って行く。とりあえず、早いほうがいい。

 

 敵の拠点を強行突破する。

 

 悲壮感はない。きっとうまくいく。そう信じて、私は抜錨した。

 

 




お久しぶりです。
覚えていますでしょうか?
そっか、初めましての方もいらっしゃいますよね。
改めまして、作者です。

以前のアカウントは消しました。
そのため、投稿作品が消えました。
今回、アカウントを作り直しました。
本作は再掲載です。

アカウント削除の理由は、私の書いた他作品が誹謗中傷を受け、怖くなったためです。
戻ってきた理由は、本作を読み直したら当時の記憶が蘇ったためです。
つまり、読んで欲しい、そう思ったのです。

恐怖はあります。そのため、匿名投稿とさせていただきます。
心の傷、と言ってよいのかわかりませんし、それが癒えた、と言ってよいのかもわかりませんが、覚悟はある程度できたのかなと思います。

これからも匿名投稿ではありますが、細々と執筆活動を再開しようと思っております。
もしかして、と思ったら、応援していただけたら嬉しいです。私ではないかもしれませんが、私が喜びます。
当然、読者のみなさまが楽しくなければなりません。良心に従って自分のために、楽しみ、その過程で応援していただけたらと思います。

長くなりましたが、本作は全7話になります。1話1万文字以上。毎週1話投稿のペースで編集作業を行おうと思います。
ゆっくりですが、おつきあい頂けたら幸いです。

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※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。