転生したら駆逐艦娘の霞になっていたので、とりあえず司令官をクズ呼ばわりしようと思う   作:小雨乃小藪

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第三話 出撃

     〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 波を押しのけて、船は進む。

 

 私は船上にいた。

 

 振り向くと12.7cm連装砲が見える。艦娘が持っている小型のものではなく、本物の大砲だ。砲身の陰に私は立っている。

 その向こうに、艦橋が見える。煙突から黒い煙が昇る。

 

 ここはどこだろうか。私は思う。どこかで見たことがあるような気がする。

 

 前を向く。艦首に誰かが立っていた。だれだ。少女のようだ。特徴的な右サイドテールの女の子だった。

 

 少女が振り向く。勝気そうな顔をしているが、どこか寂しそうな表情だった。

 

 

 

 そこで、私の意識は薄れていく。

 

 

 

 

 

     ~~~~~

 

 

 

 

 

 目を開けると、見覚えのある浴槽に浸かっていた。ここはどこだ。

 

「霞……っ! 起きた……? 大丈夫……?」

 

 山風がいた。そこで、私は意識がはっきりしていく様子を感じた。そうだ、私は沖に出た深海棲艦を追って、そこで電の叫び声がして、後ろを振り向くと魚雷があって。

 

「あの、魚雷は一体……」

 

「とりあえず、浴槽から上がろ……? 入渠も、終わったみたい……」

 

 山風の言う通り、入渠時間はゼロになっていた。私は浴槽から出た。浴槽からあがると、ヒゲの妖精さんが心配そうな顔をしていた。

 

「心配させてごめんなさい。もう大丈夫だから」

 

 

 

 

 

 艤装を下ろして、工廠を出る。山風から訊くと、私は午前中ずっと入渠していたそうだ。電がいる司令棟へ向かう。2階にある執務室。初めて入る部屋。扉を開けると、女の子が椅子に縛られていた。

 

「あ、霞ちゃん、治ったのですね」

 

 電がこちらを振り向く。少女の目の前に仁王立ちしていた。私は思わず首を傾げた。

 

「その娘は?」

 

「駆逐艦娘の菊月なのです。霞ちゃんに魚雷を放った娘なのです」

 

 菊月は白銀の髪を揺らしながら、そっぽを向いた。月のバッチを腰につけている。黒い睦月型駆逐艦の制服。記憶の中にある『艦隊これくしょん』の菊月と特徴が一致する。

 あの魚雷は菊月が撃ったのか。つまり、菊月は助けようとした私達に牙を向いたことになる。

 

「海賊? それとも反乱軍?」

 

「わからないのです。気絶させて、縛ったのですけど、起きてから黙秘を続けているのです」

 

 私は菊月と顔を合わせるようにしゃがみこんだ。菊月は首を反対側に向けた。

 

「菊月、どうして深海棲艦に追われていたの?」

 

 菊月はだんまりで何も言わない。話し合いはできそうになかった。

 振り向いて電の顔を見る。電は首を振る。

 

「何を訊いても、何を言っても、同じ反応だったのです」

 

「そしたら、他に方法は?」

 

「拷問なのです」

 

 電の口からサラッと「拷問」という言葉が出てきて、困惑する。心なしか菊月も震えた気がする。

 

「流石にそれは、やりすぎなんじゃ……」

 

「拷問くらい常識、当たり前のことなのですよ。海賊や反乱軍に対しては」

 

 そう言って電は近づいて耳元で囁く。

 

「あなたの世界ではどうかは知りませんが、この世界では正当な手段なのですよ」

 

 世界が違えば、常識も違うということなのだろうか。私にはわからない。電が離れる。

 

「拷問って具体的にはどうするの?」

 

 それは、と電が私の後ろを見て、言い淀む。私は後ろを振り向く。山風がいる。部屋に入ってきてから、私の後ろでじっとしているだけだ。少し怯えている様子ではある。

 

「山風? どうかしたの? 少し震えているわ」

 

「……っ。……えっと、……拷問って聞くと、怖くなって……」

 

 なくした記憶に原因があるのかもしれない。虐待の痕もあった。無関係とは思い難いだろう。

 私は山風に近づいて手を伸ばす。山風がビクリと肩を震わせる。私は山風の頬に手を添える。

 

「安心して、山風。不安に思っても、怖くなっても、私や電がいるわ。一緒にいてあげる」

 

 山風の震えは少しずつ治まっていく。ゆっくりと、だが確かに頷いた。ひとまずは大丈夫そうだ。

 

「電、拷問は私にやらせてもらえない?」

 

「? いいですけど……大丈夫なのですか?」

 

 電がいぶかしげにこちらを見ている。私は振り向いて、自信あり気に頷く。

 

「私に良い考えがあるわ」

 

 

 

 

 

「ちょっと待て、お前達。何をしようとしているんだ?」

 

 菊月がやっと喋った。私と電は菊月の靴を脱がして、靴下を取ろうとしている最中である。

 

「何って、素足を晒そうと思ってね」

 

「………………………………なぜ?」

 

 菊月は冷や汗をかいているように見えた。私は微笑む。まるで菩薩のような笑顔だったと思う。顔を引き攣らせていた電は見ないことにしている。

 

「コショコショって知ってる?」

 

 私は鳥の羽を取り出した。

 

 

 

 

 

「やめろォおおおお!? 頭がおかしくなりそうだぁあああ!?」

 

 菊月が叫ぶ。目に涙をいっぱいためている。足の裏コショコショ開始して3分も経っていない。菊月はコショコショが苦手なようだ。

 手を止めて、菊月の顔を覗く。

 

「あなたの情報を教えてくれたら、開放するわよ」

 

「そ、そ、それは……」

 

 コショコショを再開する。

 

「うわぁあああああ!? わかったぁああああ!? 言う!? 言うぅうう!?」

 

「よし! じゃあ、教えてもらうわね!」

 

 電は頭をおさえて、ため息を吐いていた。菊月は息も絶え絶えだ。萎びた野菜みたいになっている。

 山風が目をキラキラさせて、こちらを見ている。

 

「すごい……! 霞、すごい……!」

 

「そ、そうかしら? ははは」

 

「そうだよ……! 暴力を一切使わずに、相手の口を開かせる……。すごい……!」

 

 山風が全肯定してくれる。ここまで褒められると、照れてしまう。

 

「さ、さてと、……菊月。まず、あなたのことから聞かせてもらうわ……もちろん、言わなかったり、嘘をついたりしたら、コショコショを再開するわ」

 

「……ああ、二言はない。訊かれたことはちゃんと答える」

 

 電に目配せをする。電は頷く。電が口を開く。

 

「まずは、なぜ魚雷を撃ったのですか?」

 

「簡単だ。私は燃料弾薬、その他食糧が尽きてた。お前達から奪うのに、戦力を削ろうとした。それが答えだ」

 

「なるほど。しかし、予想に反して、電が強かった。だから、捕まってしまった。そういうことね?」

 

 私の言葉に菊月は頷く。

 

「ああ、これでも、練度は高かったからな……過信してたんだな」

 

 自嘲気味な菊月。電が質問を続ける。

 

「なぜこの海域にいたのですか? ここらへん一帯は深海棲艦の拠点が最近までありました。いるのはおかしいのです」

 

 菊月が首を傾げた。

 

「知らないのか? ……ああ、表向きは戦況を誤魔化していたな。それなら知らなくても納得する」

 

「? どう言うこと?」

 

「なに、人類はこの海域を開放したんだ」

 

 私は電と顔を見合わせる。電は驚いた表情をしている。

 

「どういうことなのですか? 詳しくお願いするのです」

 

 

 

 

 

 菊月の説明を噛み砕くと、人類は現在、深海棲艦に対して攻勢に出ているらしい。菊月を含む、第91艦隊は第91鎮守府としてパプアニューギニア島を拠点にこの海域まで進撃していると言う。最近もこの海域の南東にある敵拠点を攻略したと言う。

 研究によれば、深海棲艦は人類の電波を読み取れる、つまりラジオや通信での電波で人類側の情報を知っていたそうだ。大本営ではそれを受けて、ラジオや無線などの電波では重要な情報を載せないようにしているらしい。そのため、ラジオでしか情報を得ていないこの鎮守府では、戦況がわからなかったのだ。

 

「なら、通信はどうしてるのよ?」

 

「量子技術で、電波を介さない通信技術が確立されている。詳しい仕組みはわからないがな。ただ戦略上、重要でない普通の通信は今まで通り電波を介した通信をしている」

 

「しかし、いくつか謎が解けたのです」

 

「そうね。南東の敵拠点って言うことは、泊地棲鬼がいた場所ね。突然いなくなったのは第91鎮守府が攻略したからなのね」

 

「その他にも、霞ちゃんを深追いしなかった理由もわかります。泊地棲鬼は霞ちゃんよりも第91鎮守府の方が脅威だと感じたのでしょう。この間の深海棲艦もその残党なのでしょう。前に、霞ちゃんが話してくれた空母機動部隊も残党で、おそらくそのあとに第91鎮守府によって殲滅させられたと考えられます」

 

 あれ? と山風がつぶやく。私と電、あと菊月も山風を見た。山風は急に注目されて、ビクッと仰け反る。後ろに倒れる。

 

「山風! 大丈夫?!」

 

「う、うん……。なんとか……」

 

 山風に駆け寄る。女の子座りになった山風は涙目になっている。

 

「どうかしたのですか? 山風ちゃん? 何か疑問があれば言ってほしいのです」

 

「え、えっと……。菊月は、なんで……、その鎮守府にいなかったの……? わざわざこの海域に一人で来た意味がわからない……って、疑問……」

 

 確かに。この海域が攻略されたとはいえ、1隻でうろつくにはまだ早計だと思う。安全な鎮守府から出て、深海棲艦に追われて、ここまで逃げてくる理由が必要になってくる。

 

 菊月を見ると、苦い顔をしていた。

 

「逃げて来たんだ。鎮守府から」

 

「それは、深海棲艦に襲撃された……という感じではないのですね?」

 

 電の言葉に菊月は頷く。

 

「ああ、深海棲艦に追われていたのは、逃げる途中の話だ。私は……司令官から逃げて来たんだ」

 

 司令官。もちろん人間だろう。司令官から逃げる理由が思い当たらない。

 

「虐待……なのですか?」

 

 電の言葉に菊月は苦々しそうに頷く。はっとして、山風を見る。山風は私に見られて、首を傾げた。私は菊月に顔を向ける。

 

「菊月……あなたの鎮守府に山風はいたのかしら?」

 

「山風? いや、わからない。あの鎮守府は艦娘を牢屋のような部屋に入れて、他の艦娘とやり取りができないようにされていたんだ。脱走防止だな。だから、どの艦娘が所属していたのか、同じ部隊にならないとわからない」

 

 牢屋。脱走防止。嫌な響きだ。

 

「菊月ちゃんだけ、そこの鎮守府から逃げ出したのですか?」

 

「ああ、そうだ。駆逐艦は弾除けとして捨て艦に使われていたんだ。私もそれで何度も出撃したが、戦艦娘や空母娘に庇われて、沈んだことにしてもらって、逃げた」

 

 執務室が静かになる。

 捨て艦。人類の救世主たる彼女達を、虐待、牢屋に入れる、終いには、轟沈させる。捨て艦など、戦術上最悪の方法論だ。

 

 肩に手をのせられる。電の手だ。顔を見ると、目を真っ直ぐに見つめられる。

 

「怒りを鎮めてください、霞ちゃん」

 

「っ! …………わかってるわ……でも! これだけは言わせて! そいつを一発殴りたい!」

 

 叫ぶ。菊月が私をじっと見ているのがわかる。山風は沈黙している。電は私の肩をポンポンと叩く。

 

「少し、気は晴れましたか?」

 

 私は頷く。完全に怒りが治まったわけではない。冷静かどうかもわからない。けれど、喚くほどの子供っぽい反応は我慢できそうだ。

 

「まぁ、ある程度話を聞かせてもらいました。菊月ちゃんを開放したいと思いますけど、よろしいですね?」

 

 私は山風を見る。山風は「霞に任せる」と言ってくれた。私は電に頷き返す。菊月が驚く。

 

「待て。私はお前達に砲を向けたんだぞ? それにそっちは大破までさせた。最悪、沈んでいたかもしれないんだぞ?」

 

「その本人が良いって言ってるのよ。大人しく開放されてなさいな」

 

 私がそう言うと、菊月は唖然とした表情をした。電が縄を解いてもしばらくは椅子に座っていた。

 縄を解かれ、菊月は自由になる。ようやく手首足首の調子を確かめ自由になったのを理解するようにして、三人を見る。

 

「すまない。ありがとう」

 

「お礼なら、霞ちゃんに言ってください。今回被害にあったのは霞ちゃんだけなのですから」

 

「そう考えると、私ってドジね。まぁ、電や山風に被害がなくて良かったけど」

 

 菊月が頭を下げる。電が手を叩く。

 

「さてと、丁度いい時間なので、食事にするのです」

 

 執務室の時計を見ると、12時になっていた。四人は食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

「さてと、軽くですが、菊月ちゃんがこの第138鎮守府、通称ラバウル近海鎮守府に着任した歓迎会といたしましょう」

 

「いいわね」

 

「いや、そこまでしてもらうのは、ちょっと申し訳ない」

 

「何言ってるのよ? 私達がしたいからするのよ」

 

 食堂へと着いて、電が厨房に立つ。

 

「そう言えば、菊月は料理できる?」

 

「私か? いや、最初に配属されたのが、あの鎮守府だったからな……食事は向こうが用意した固形栄養剤だけだった。もちろん、料理ができるほど自由でもなかった」

 

「……ごめんなさい」

 

「何を謝っている? 私は気にしてないぞ。それより霞はできるのか?」

 

「私? ……お手伝いなら…………電、手伝うわ」

 

「それじゃあ、サンドイッチを作るので、ゆで卵とマヨネーズをかき混ぜてくださいなのです」

 

 

 

 

 

 昼食を食べ終え、私と電で食器洗いをする。電が食器を洗い、私が拭いてなおす。山風には菊月にこの鎮守府を案内させている。食事中に襲ってこなかった所から、菊月は敵対しないだろうと信頼した。

 私は電に話しかける。

 

「電、私は第91鎮守府の艦娘を助けたい」

 

「霞ちゃん……それは……」

 

「うん、わかってる。司令官は人間。それに菊月の話だと、他にも人間で艦娘を虐げる人があの鎮守府にはいる。憲兵もグルだ。多勢に無勢。無謀かもしれないわね」

 

 食器が洗い終わる。電から受け取った最後の皿を棚になおす。

 

「けれど、やっぱり黙って、見ぬふりをして、その娘達が被害に合うのは、……我慢がならないんだ!」

 

 電は私を見つめている。少女に見られながら、子供っぽく叫ぶ。恥ずかしいったらありはしない。けれど、どうにも腸が煮えくり返るような気分だ。

 電がため息をつく。

 

「たぶん、止めても、行くのですよ? 一人で黙って」

 

 驚いた。電に見透かされていた。

 

「なんでわかったんだ? そんなにわかりやすかったか?」

 

「勘、なのです。だてに、三十年は生きていません」

 

 その三十年は人と触れ合えなかったというのに、だ。電は直感も優れているようだ。

 

「霞ちゃん一人に行かせるわけにはいかないのです。電も付いていくのです」

 

「電……だけど、電は無関係だ」

 

「必ずしも無関係とは限らないのですよ」

 

 私は首を傾げてしまう。電は唇に指を当てて、考えてから口を開く。

 

「第91鎮守府が、南東の敵拠点を攻略した。つまり、この鎮守府に来るのも時間の問題なのです。その時に、艦娘を日常的に虐待しているのなら、私達も、この鎮守府も、同じ風に扱われるかもしれないのです」

 

 盲点だった。確かに、そうだ。第91鎮守府は遅かれ早かれ、ここに来る。第91鎮守府の艦娘を助けるということは、自分達を守ることでもあった。

 電が続ける。

 

「それに、一つだけ電に妙案があるのです」

 

「妙案?」

 

「ええ、あの二人が帰ってきたら話します。それと霞ちゃん」

 

 私は首を傾げた。

 

「男言葉になりかけてますよ。気をつけてください」

 

 私は口を噤んだ。

 

 

 

 

 

「なるほど、艦娘の開放……か」

 

 菊月が片手で口元を隠し、考える仕草をする。

 私達は執務室に戻ってきた。ここには、ホワイトボードもあるから、作戦立案の会議に最適だ。

 

「でも……、上手く行くの……?」

 

「はい、電に案があります」

 

「具体的に聞かせてもらおうか」

 

 菊月の言葉に電が頷く。

 

「まず、電の交友関係から話します。大本営に昔お世話になった提督さんがいらっしゃいます。その方の力をお借りしたいと思うのです」

 

「大本営に知り合いがいるの?」

 

 菊月が手を挙げる。

 

「本作戦とは関係がないが疑問ができた」

 

「何でしょうか?」

 

「大本営とパイプがあるのに、なぜこんな所に今までいた? 救援を呼べただろ?」

 

 菊月の質問は尤もだ。しかし、ちゃんと理由がある。

 

「3つ理由があるのです。1つは敵陣営のど真ん中だと思っていたからです。人類が攻勢に出ているとは知りませんでした。そこから敵に居場所を知られないようにこちらからの連絡は一切行いませんでした。2つはその方、当時の階級は少佐ですが、少佐に迷惑がかかると思ったからです。彼は忙しい方でしたので。ただ、艦娘が虐待されていると知ったら動く方ではあるので、今回は頼りたいと思うのです」

 

「3つ目は?」

 

「……私が残りたかっただけなのです。司令官さんとの思い出の地ですので。それに深海棲艦に復讐したかったのもあります。まぁ、冷静ではなかったのですよ」

 

 なるほど、と菊月が呟く。

 

「だが、その少佐の力を借りるのはわかったが、本当に借りられるのか? 前に電が会ったのは何十年も前の話だろ? 電が生きていると思われていないんじゃないか?」

 

「そこも大丈夫なのです。電と司令官さんと少佐の3人しかわからない合言葉があるのです」

 

「合言葉?」

 

 私が首を傾げる。電は微笑む。

 

「これは流石に言えないのですけど、3人しか通じない暗号みたいなものなのです」

 

「もう1つ、その少佐は生きているのか? 昔の話だ。死んでいたら計画がおじゃんだ」

 

「生きているのです。ラジオで時々名前が出てくるのです。それに今は大将らしいのです。ラジオによれば」

 

 予想外な情報だ。大将が味方につくとなると、ブラック鎮守府の艦娘を助けることができるかもしれない。

 

「だが、大将となれば、動き辛くなるのではないのか? 階級が上になるとそれだけしがらみが多い」

 

「そこは、大丈夫なのです。彼は動く人なのです」

 

 電は信頼の顔をしていた。電が信頼していても、私達はその大将のことを何も知らない。菊月もそう思ったのか、渋い顔をする。電は苦笑いする。

 

「確かに、3人は会ったことがないので、信じられないかもしれませんが、電を信じると思って彼も信じてください」

 

「……うん……! 私は、信じる……。電のこと……その大将の人も……」

 

 山風が手を挙げて応える。私も頷く。まだ一週間の付き合いだが、電は信頼できる。電が信用している人なら、その人も信用できる。

 ただ、あとは菊月だけだ。菊月は腕を組んで、天井を睨んでいる。電は静かに見守る。私は菊月がどう出るか少し不安であった。

 

 菊月がため息を吐く。

 

「まぁ、他に何も思い付かない上に、敵はいつやって来るかわからない。先手を打てるときに打っておいた方が良いだろう」

 

 菊月が頷いてくれた。あとは、具体案を練るだけだ。

 

 計画はその日に話あわれて、準備は一週間。そして、私達は第91鎮守府へと出撃した。

 

 

 

 

 

     ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 洋上を3隻の艦娘が進む。所々、煙を上げていたり、怪我をしていたり、深海棲艦に襲われたような様子だ。3隻は近くにある港へと向かう。

 

 電波を飛ばして、寄港をお願いする。所属は第138鎮守府。第91鎮守府の司令官は報告を受けて、眉をひねらせた。聞いたことがない鎮守府だ。しかし、追い払うことはできない。軍法では、友軍が求めれば寄港は許される。海賊や反乱軍だという証拠がない限り。追い出した後、彼女達が自分達の所属している鎮守府に戻ったとき訴えられる可能性がある。

 量子技術での通信は戦略的に重要な情報のみ。普段は今までの電波通信だ。怪しいところはない。

 第91鎮守府の司令官はいざと言うときのために、戦艦娘・金剛と榛名を呼んだ。

 まったく、大将閣下が視察に来る日だというのに、タイミングが悪い。

 

 

 

 

 

「改めまして、寄港を許可していただきありがとうございます。電は電なのです。この艦隊の旗艦を務めているのです」

 

「私は第91鎮守府の司令官だ。傷が癒えるまで、ゆっくりとしていくといい」

 

「お言葉に甘えるのです」

 

 司令官は憎らしく思った。駆逐艦ごときに大事な資材を投入しなければならないのか、と。しかし、もし追い出せば、後ろめたいことがあると、疑われたら駄目だ。

 司令官は傍らに控えた金剛と榛名を見る。

 

「金剛、榛名。3人に工廠まで案内してあげなさい」

 

「……はい、デース」

 

 司令官は金剛に怒りが湧いた。もっと元気に言え、と。他所の金剛は元気がある。個体差があるとはいえ、ここまでテンションが低いと、疑われるのは司令官の方だ、と。

 

「金剛さん、お願いするのです」

 

 しかし、電達が気がついた様子はない。司令官はホッとする。ここは穏便に何事もなく、3隻が帰るまで、気が付かれないようにしないといけない。

 電達は金剛と榛名についていって、執務室から出て行った。

 司令官は舌打ちをした。

 

 

 

 

 

 金剛は先行き見えないこの鎮守府に、暗い気持ちになっていた。

 艦娘は日常的に虐待されている。助けを呼ぶにも通信は最低限のものしか積まされず、通信室も提督の生体認証がないと使えない。金剛たちはせめて駆逐艦の娘たちでも逃がしてあげたいが、ここはまだ深海棲艦の本拠地が近い。一隻だけが逃げたとしても撃沈されるのがオチだ。この間、逃がした駆逐艦の菊月だって、金剛たちの引き留めもむなしく、逃亡を希望したため協力したが、本土に逃げられたとは思えない。

 

 そういえば、提督に案内を任された三隻の中に菊月がいる。逃がしたあの娘に似ているが、同名艦はえてして性格も似ているものだ。別人だろう。

 

「ここが、工廠、デース」

 

 金剛は後ろを振り向き、三隻に言った。榛名は三隻の後ろに付いていた。

 

「ありがとう、なのです。入渠施設はどこですか?」

 

「その先を曲がった先なのデース」

 

「それじゃ、山風ちゃん、菊月ちゃん。行きましょうか。金剛さん、榛名さん、ありがとうなのです」

 

 そう電が呼び掛け、二隻が応える。菊月が金剛の前を横切る時、手を出した。金剛は咄嗟に手を出して、菊月が渡したものを見ると、一枚の紙きれだった。そこにはこう書かれていた。

 

『菊月、帰投。2000に作戦開始。艦娘を洋上へ避難』

 

 

 

 

 

 私は陸地を進んでいた。電たちとは別れて、陸地から第91鎮守府へと向かう。

 

 今回の作戦はこうだ。

 事前に菊月から憲兵所を教えられていて、私が憲兵所を襲撃する。電たちはそれと同時に提督の拘束と鎮守府内の艦娘の安全確保をする。そこに電の知り合いの大将がこの鎮守府へと視察に来る。四隻だけで鎮守府を完全掌握し続けるのは不可能だ。私が憲兵の注意を引き、電たちが艦娘の安全を確保し、大将がすぐ来るのが望ましい。艦娘は艤装を背負わせて、洋上に避難させる。

 大将も何度かこの鎮守府に視察に来たようだが、提督が巧妙に隠したため、ブラック鎮守府であるということがバレなかったらしい。大将は組織の人だから、視察には事前通知が必要らしい。そのため、第91鎮守府には大将が来ることが分かっている。

 そこで私たちの出番だ。私が鎮守府の陸上戦力を引き付け、電たちが虐待されている艦娘の安全を確保し、大将に見せることで、艦娘虐待ということで軍法裁判を開ける。ここの提督は終わり、という訳だ。

 陸上だから、艤装は使えない。私は艤装を近くの浜辺においてきた。電たちは拳銃と催涙弾だけで、艦娘を洋上まで護衛する。私も拳銃と閃光弾と少しだが重火器で憲兵を引き付ける。電たちが艦娘全員を洋上に避難させられれば、こっちの完全勝利。大将は明日入港する。

 事前に電たちは、深海棲艦に襲われたように細工をしてある。それで鎮守府内に入り込んでいるだろう。私は電たちを信じて、鎮守府の陸地側の入り口とその近くの憲兵所に重火器をぶち込み、注意を引き付け、撤退すればいい。

 

 そろそろ鎮守府が見えて来た。

 

 

 

 

 

 鎮守府の入り口が見える場所に身を隠す。憲兵所は鎮守府の入り口近くに見える。鎮守府は銀色のフェンスで囲まれている。憲兵所も見える。作戦は2000に行われる。憲兵は何人いるかわからないが、重火器で鎮守府の入り口を粉砕し、憲兵を誘き出して、拳銃と閃光弾と催涙弾で逃げる。失敗は許されない。

 

 

 

 

 

 日が沈んだ。腕時計を見る。そろそろ2000だ。作戦開始。

 

 私は重火器を鎮守府の入り口に向けた。ロケットランチャーは一発だけ。あとは自動小銃で威嚇、閃光弾でひるませるぐらいだ。

 ロケットランチャーは発射された。鎮守府の入り口は大きな音を立てて、炎が舞う。待っていると、音を聞きつけて、憲兵らしき人間がぞくぞくと集まって来る。私は重火器を捨て、拳銃を抜く。憲兵の少し離れた場所に向けて、撃つ。憲兵がこちらに気が付く。

 

 私は拳銃を撃ちながら、森の奥へと隠れながら後退する。憲兵がぞくぞくとこちらに寄って来る。憲兵に当てないように拳銃の向きを調節する。憲兵も銃を撃ちだす。銃撃戦になる。時々、閃光弾・スタングレネードを投げる。

 

 銃弾がなくなる。牽制目的だったから、なくなってもあまり関係ない。私は閃光弾を投げて、近くの浜へと向かった。後は逃げれば、いいだけだ。電たちはうまくいっているだろうか。電のことだから、成功させているだろう。腕時計を見る。2030。作戦開始から三十分経っている。充分時間稼ぎできただろう。

 

 銃声。鋭い痛みとともに、前へと転げまわる。木の根っこにぶつかり、木の陰に隠れる。

 

 脚を見ると、血が出ていた。脚を撃たれたのだ。湧き出るように血が流れていた。心臓の鼓動とともに血の流出が脈打つ。

 

「どこだ!? 出てこい!?」

 

「今確かに、当たった気がする。そう遠くないだろ」

 

 憲兵がいる。木の陰から覗くと少なくとも十人くらいはいる。木に空いた大きな洞に嵌るように私は隠れる。

 

 服や金属が擦れる音が近づく。私はじっと隠れた。手持ちには何も、武器になるものはなかった。見つかればどうなるだろうか。少なくとも私は抵抗できない。最悪、拳銃で撃たれる。殺される。

 

 私は考えた。殺されれば、前世と同じようにどこか別の場所で生き返るのだろうか。そうであれば、どれほど怖くないだろうか。

 

 いや、殺されるのは嫌だ。まず、痛い。前世での死因を考える。電車にはねられた記憶。

 

 前世は一般的なサラリーマンだった。独り暮らし。親からは結婚しろと騒がれていたのが、いい思い出だ。

 ある日、同僚と喧嘩をした。企画の内容で意見が合わなかったのだ。

 帰り。電車を待つ駅のホームで、その同僚から突き落とされた。そこまでされるとは思っていなかったが、その同僚も唖然としていたのを電車にひかれる瞬間見たのを覚えている。殺そうと思った方も、本来は殺そうと思っていなかったのかもしれない。

 

「血だ! 血の痕があるぞ!」

 

 憲兵の声だ。私は意識がもうろうとするのを感じる。脚の怪我を見る。かなりの血が出ている。艦娘の入渠で治せるのは、艤装装着時の怪我だけ。この怪我は治せないだろう。頭のどこかの、冷静な部分がそう言った。

 

「見つかったぞぉお!」

 

 私はその声を聴きながら、意識を失った。

 

 

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