オゾン草の実食のため途中で懐かれたウミミミズのような生き物をペットにし、ベジタブルスカイに戻ってきたあなた。
しかし、1000層にも及ぶすくつを下る中で身につけた探索能力があなたの進行方向にその存在を捉えた瞬間、あなたは足を止めざるを得なかった。
鳥人、とでもいうのだろうか。
ドードーのような剛質の体毛。
手先が器用なジューアを想起させる指。
ペストマスクをつけているかのような口先。
そして何よりその強さ。*1
初心者に対するイスの彷彿とさせ。
玄人に対する裏切りの公子のように。
そしてイルヴァの民に対する神々のごとく。
あなたをしてペットがいなければ絶対に敵わないと悟るだけの力の差があった。
幸いにしてその存在は今すぐあなたをどうこうするつもりはないのか、こちらをじっと見つめているだけである。
「何の用かの?」
「……。」
「言葉は理解できておるんじゃろ。返答を寄越してはどうかの?」
あなたの問いかけにも関わらず、それは未だ黙ったままであった。
「用がないならもう行くぞ。早くオゾン草を食べたいものでな。」
得体のしれない鳥人の隣を通り過ぎたところでぽつり、と一言聞こえてきた。
「お前は…一体どこから来た。
少なくとも、赤でも青でもないだろう。」
赤?青?なんの話であろうか。
よくわからないが…とりあえずイルヴァ出身なのは間違いない。
「イルヴァから来たのじゃが…色?はよくわからんの。」
あなたが背後に一言返すと同時に一際強い風があなたを揺らし、鳥人の気配はなくなっていた。
相当な速度である。
エーテルの両翼でも生えていたのだろうか。
まぁ、よくわからない邂逅だったがどうでもいい。
あなたの食事に勝る事柄ではないのである。
ぷりっぷりの葉にあなたとウミミミズが同時に齧り付く。
今度は腐る様子もない。
あなたの見立てはどうやら間違っていなかったようだ。
歯が跳ね返されるほどの弾力。
ぎっちり詰まった繊維がほどける食感も含めて噛むのが楽しい!
口の中で暴力的なまでに伝わる程良い苦味にスカッとした爽快感!!
雲一つない、空気の澄み渡った天空で食べていることもあり、まるで天にも昇るようだ!
あなたは感覚が澄み渡り、世界をより身近に感じるようになった。
クセになりそうでどんどん食べ進めたいが、いったん我慢。
バックパックからグルメケースを取り出し、早速開封する。
噴き出す匂いは相も変わらずあなたの本能を撃ち抜く。
肉の王様と野菜の王様のコラボレーション。
まずは宝石の肉を一口。
オゾン草のコリコリとした噛むのが楽しい食感とは反対に、口に入れた途端溶けるようにほどけていく。
肉汁はどんどん溢れてくるが、あっさりしていていくらでも食べられそうだ。
滑らかな肉汁で口端を濡らしつつ、息を合わせてオゾン草をぱくり。
あなたは思う存分味と食感のカーニバルを楽しんだ。
ベジタブルスカイから帰還してしばらくしたころ。
あなたが拠点にしているグルメ中央卸売市場はなにやら大騒ぎであった。
あなたも心待ちにしている第50回クッキングフェスティバルに向けて騒いでいるのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
ここまで周りが騒がしいと流石のあなたでも気になるものの、あなたの情報源である十夢はあちこちを飛び回っていて行方がしれない。
まぁ分からないならいいか、と切り替えようとしたところで惰性で付けていたテレビから緊急の名を冠するニュースが流れる。
どうしたのだろう。なにか伝説の食材でも見つかったのだろうか。
もしそうなら何とか分けてもらえるよう交渉しよう。
あなたの交渉スキルならそれが可能なはずだ、と期待しながらモニターをのぞき込んだものの、そこに映し出されていたのは思いもよらぬものだった。
四獣、襲来。
テロップに映し出されたそれと説明を見るに、グルメ界の怪物「四獣」とやらが目覚めたようだ。
だがグルメ界の猛獣はこちらの世界、すなわち人間界にはやってこない筈。
グルメ界は過酷な環境であると同時に食材のレベルのアベレージも高いからだ。
誰だってうまいものがある場所に居たいと思うのは必然である。
あなたのその疑問に答えるように、続けて報じられたその理由を見て、あなたは察してしまった。
偏食家。人間の味が好きであるとのこと。
まごうことなきカンニバリズムである。
イルヴァでは残念ながら珍しくもなかったありふれた食性であった。
要するに、人肉が足りなくなったから集めにきたのだろう。
この世界も大概常識外れだと思っていたが、この程度で騒ぐとは。
やはりイルヴァにはまだまだ敵わないようだ。
人間界中央部に向けての避難指示も出ているようだが、あなたは気にせずダイヤモンドのベッドに寝転んだ。
寝心地は案外悪くなく、ひんやりとした感覚が気持ちいい。
あなたに影響されているのか、ウミミミズっぽい謎ペットも呑気に餌を食べていた。