美味い!これは天にも昇る味だ!
炭火で炙られたパリッとした皮の食感から入り、少し薄いくらいの塩加減がより魚の旨味を引き立てている。
程よくのった脂は丘の民ではないあなたでもビアが飲みたい欲求が湧いてくる。
あなたの人生、いやエレア生で五指に入る逸品である。
この場にいないあなたのペットにも食べさせてやりたいところだが、この世界にいないのが口惜しい。
「ふむ。馳走になった。」
「いいってことよ。あんなにうまそうに食ってくれるなら奢ったかいがあるってもんだ。
オレはトリコ。美食屋をやってる。」
「我はエリン。ピアニストである。
改めて、世話になったな。危うく餓死するところであった。
して、美食屋とは何ぞや?
批評家のようなモノなのかの?」
美食屋。なんともいい響きの職業である。
冒険者作成の際には追加の職業として是非とも解禁してほしいと思う。
「批評家とはまた違うな。この世のうまい食材を求めて狩りをし、喰らう、食の探究者だ。
さっき食ったホネナシサンマみたいなうまーい食材を追い求めているのさ。」
驚愕である。
ネフィアに潜る理由がより良い品質の食材を手に入れるため、という旅するシェフでもあるあなたにとっては天職のようなものである。
「この美味なる魚類のような"うまい"食材がほかにも存在するのかっ!」
「あぁ。この世にはまだまだうまいもんが溢れてる!
そして自分だけのフルコースの完成を目指すのさ!」
自分だけの、フルコース…
「よし。決めたぞ!我は美食屋になーる!
ではさらばじゃトリコよ。達者でな。」
「いやいやいやちょっと待ったーー!」
そんなに焦って何事かとあなたは振り向く。
お代の請求だろうか。
この世界の金銭は持っていないのでオレンでよければいくらでもくれてやるのだが。
「ちげーよ!美食屋はめちゃくちゃ危険も伴うもの。
言っちゃあなんだが非力なあんたには厳しいぞ。」
「ほう。我の心配か。安心せい。
我はこう見えてもそれなりに修羅場はくぐっておる!」
すくつ廃人ほどイかれてる訳ではないが、すくつ1000層を突破したあなたである。
美食屋として実際に活動しているトリコよりも確実に強い自信はあるので、なんとかなるだろう。
そう伝えると、
「仮にあんたが強かったとしてもそれだけで何とかなるものじゃないんだがな。
索敵能力や見分ける力、最低限の怪我の対処法に人脈なんかも必要になってくる。」
…参ったものである。
見ず知らずのあなたをトラブル未遂から遠ざけたり、躊躇なく奢ってくれたり、今も危険に晒されようとしている(そんなつもりは毛頭ないが。)あなたを引き止めようとしたり。
この男はとんだお人好しである。
そしてだからこそやりにくい。
悪人、とまで言わずともティリスの民くらい価値観が壊れていればこっそり始末し、あなたの心のままに行動するのだが、男には恩がある。
あなたにとって一食の恩は大きい。
それこそ未だにエイシュランドとフィアマをホームの住人としているくらいには。
「…本当に問題ないのじゃがのう。
では、どうすれば我が美食屋になれると、納得してくれるかの?」
「……なら次のハント。オレに同行でもしてみるか?
オレはコンビもいねぇし、1人くらいなら問題なく守りきれる依頼もある。」
名案である。
てっきりこの場で手合わせを願う。をされるのかと思っていたあなたは拍子抜けであった。
あれは冒険者がおかしいのかもしれないが。
そして同行なら実力も大きく見せつけられるだろうし、あなたとしても異論はない。
あなたはそれなりに長くノースティリスで活動した、冒険者なのだ。
あらゆる技能で巨匠と言ってもいい。
この男を納得させるくらい容易いだろう。
「ではそれで決まりじゃな。」
「おう。じゃあ明日、出発する。
この辺にいてくれればオレが探すから、朝5時までには来てくれ。」
5時。随分早いものである。
まぁあなたはひどい眠気だろが生死には特に関係ないので徹夜していれば問題ないだろう。
「うむ。……ちなみに明日はどんな美味いものを狩るのじゃ?」
「あぁ、明日はオレの家の材料集めだ!」
…遂に狂ったか?
あなたは後でテントから紫の薬草を準備しておこうと考えた。