ところで、あなたは相変わらず一文無しである。
今回はトリコに食事を奢ってもらえたとはいえ、まさかこれからも奢り続けてもらうわけにはいかない。
つまるところこの世界で生きるためには金を稼ぐ必要がある。
あなたは当面美食屋として活動していくつもりだがどれほど稼げるかは不透明と言わざるを得ない。
それに金を稼ぐというのは大変なこと。
特に序盤、世界を始めたばかりであれば尚更である。
あなたも何人もの新人税金滞納者がガードに埋められる世界を見てきた。
しかし、あなたの職業はピアニストである。
すなわち小銭を稼ぐ能力においては、ノースティリスであろうと右に出るものはいない。
それはこの世界でも変わらない。
早速あなたは愛用しているグランドピアノを取りだし、演奏を始める。
楽器を取り出した時点では怪訝な顔をしていた観衆もあなたが演奏を始めた途端頬を緩め、リズムに乗ってくる。
通行人も足を止め、神秘的な旋律に耳を傾ける。
通りの屋台の店主が群衆が気になり顔を出すころにはあなたの周りは拍手喝采であった。
あなたも少額ではあるが円を稼げたのでご満悦である。
早速あなたは気になっていたグルメを買いに向かった。
翌日。
匂いを辿ってあなたを見つけ出したというトリコにドン引きしつつ、昨日の疑問について問う。
……曰く、トリコの家は食べられる素材で作られていたそうだ。
過去形なのは既に食べ尽くしてしまったから。
そこで今日は家の素材となる食材を探しに行くらしい。
家まで美食を極めるとは羨ましい限りである。
疑問が晴れたところで早速トリコがチャーターした飛行船?に乗り込み、目的地へ向かう。
この世界にナイミールはない筈だが、風には注意を払っておく。
船を沈められてはたまったものではない。
行き先の名前は何と言ったか忘れてしまったが、スイーツや甘味で有名な場所と聞いている。
あなたも12月になれば欠かさずノイエルに甘味を買いに行っていた手前、目標物を聞いた時から上機嫌である。
機中、いくつかの美食屋としての説明を受ける。
ありきたりで当たり前のことも多いが世界の差異ともいうべき部分は記憶に刻んでおく。
例えば捕獲レベル。
強さや捕獲難度、珍しさなどを総合的にみてレベル付けするそうだ。
基準となる捕獲レベル1は猟銃を持ったプロのハンターが10人必要だとか。
…最低レベルのくせに結構強そうである。
ノースティリスなら捕獲レベル1に対して機械兵が10体必要とかだろうか。
初心者、というか脱初心者でも普通に埋められそうだ。
まああなたは機械兵程度何百体いようが物の数ではないが。
その他にも特殊調理食材と呼ばれる調理が困難な種もあるようだ。
例として一か月の間にわずか数秒しか美味なる瞬間がない食材などが挙げられていた。
が、あなたの美食にかける熱意を舐めてはいけない。
極上品果物、野菜を手に入れるために年単位で不眠を貫けるあなたである。
それだけ手間が大変なら凄まじく美味であろう。
とよだれを垂らすのみだった。
目的地に到着したあなたは甘い香りに誘われ、移動用の飛行船のドアを開けるなり、大きく息を吸い込む。
シルバーベルの卵によって強化された感覚は様々な甘さが入り乱れるこの場でも、正確に幾つもの香りの源を嗅ぎ分ける。
幾つも気にはなるが、まずは丘の向こうから漂ってくるあなたもよく知った香りから向かうこととする。
「ゆくぞトリコよ!」
「おう!この香りは間違いねぇ。」
「「プリン(だ!)(じゃ!)」」
丘の向こう、開けたその空間にはプリンが生えていた。
いや、プリンというと想像しづらいか。
正確にはキノコの形をしたプリンが生えていた。
「プリンっ!プリンっ!ぷ・り…ん?
…いや、これキノコじゃろ。」
「珍しいな。キノコプリンじゃねぇか。
毎年違う場所に生えるから見つけるのが難しいんだ。」
なんとも珍妙な植物があるものである。
がその香りは本物だ。
早速一本いただこうと地面から引き抜こうとするもそれは叶わなかった。
「およ?」
「こいつは大きければ大きいほど抜くのに力が必要になる。
エリンのやつは中々大きいから厳しかったら他のを探してみたらどうだ?」
愚か。愚かである。
確かにあなたの腕はぷにぷにで、種族もエレアという力とは程遠い種だ。
しかしノースティリスでそれなりに長く活動したあなたはドラゴン霜降り肉を食べ飽きるほど食べたため、見た目よりも力には一家言ある。
「ふんぬー!」
「あっ!単純に力で引っ張るのは…」
ぶちゅ。
まるでブチを潰したような音で、キノコプリンは潰れてしまった。
あなたは悲しくなった!