「ほォ…ガラナウナギの焼酎漬けか…」
「ええ。丸二年漬け込んであります。美味ですぞ。」
「………。」
右を向けばムキムキのおじさん。
左を向いてもムキムキのおじさん。
そして両者とも相当酒臭い上に、謎の酒談義をしている。
なぜこんなむさ苦しい空間に放り込まれなければならないのか。
あなたは虚しくなりながらも振り返った。
事の発端は美食屋としてしばらく順調に活動を進めていたあなたに飛び込んできた一件の依頼。
美食を追い求めるあなたは自分のためだけに活動しているため、勿論断ろうとした。
しかし、依頼元と報酬が問題だったのだ。
依頼元はIGO…国際グルメ機関というこの世界を実質牛耳っている大型組織であり、睨まれればただでは済まないことが容易に想像づく。
あなたは旅糧を持ってきていない以上、飛行船なども頻繁に利用するのだがそういった組織も元を辿れば大体IGOに行き着く。
つまり実質的には断れない。
ただこれだけならあなたが依頼を受けるかどうかは五分五分、その時の気分だっただろう。
しかし報酬に選ばれていたそれを見て、あなたは迷いなく依頼を受けると言い張ってしまった。
それの名は
太古の時代では結婚指輪の代わりとして用いられることもあった肉の王様である。
あなたも噂だけは聞いており、虎視眈々と狙っていたのだが宝石の肉を持つ「リーガルマンモス」が生息する第1ビオトープへの入島許可がどうしても下りなかったのだ。
つまりこのチャンスを逃せばもう食べられないだろう。
そんなこんなでIGOからの依頼を受けてしまったあなただが、後悔はしていなかった。
物思いに耽っていたあなたに今回の依頼主でもあるマンサム所長が話しかけてきた。
「あぁエリン。ここからは依頼内容にもなる。聞いておいてくれ。
今回トリコら美食四天王の活躍で宝石の肉が手に入った。
しかしその過程で美食會が操るGTロボとの戦闘が発生した。」
トリコ。久しく会っていないがどうやら元気にしているようだ。
美食會やGTロボが何なのかよくわからないが、ニュアンス的に多分敵なのだろう。
「そして自爆していないGTロボをやつらは回収しに来るだろう。
誰が回収に来るかはわからないが、それらを迎え撃つのがワシらの仕事だ。」
なるほど、戦闘だけの簡単なお仕事である。
そういうのはあなたの十八番であると宣言しておいた。
ー
早速移動してきたあなた達。
少し離れた場所でコソコソ話をするマンサムと茂松を横目にあなたは足元の黒草をちぎり頬張ってゆく。
流石サラダとしても人気が高い黒草。
フレッシュな口当たりでシャキシャキとした食感は、酒臭い部屋にいたあなたの体に染み渡る。
…黒草を楽しんでいたところで、あなたの研ぎ澄まされた感覚がかすかな羽音を捉える。
どうやら件のお客様が来たようである。
黒光りする甲殻。象のように伸びた鼻。
そしてその背中から感じるあなたがこの世界で出会った大抵の猛獣より強力な威圧感。
なるほど、あなたを呼ぶ理由が一部理解できる強さだろう。
ところで、この世界の命名基準でいくとあの珍妙な生物は象クワガタだろうか?
「トミーかスターの奴が来ると予想していたが…
まさかこいつが来るとはな。」
「象クワガタ?あやつは…美味しくはなさそうじゃな。」
「ヒッヒッヒ。IGOのTOP二人にソッチのちっこいのは最近話題の美食屋かァ。
めんどくせェな…あと
大きなストローを腰に差し、趣味の悪いタトゥーを入れた男。
だがそれよりもあなたの目を大きく引く特徴をその男は持っていた。
第3、4の腕が生えているのである。
間違いなくカオスシェイプであろう。
この世界では初めて見たが、存在していたことに驚愕である。
「…あー何かどうでもよくなってきたなぁ。
くれてやるよ、GTロボ。
じゃ、あばよ。」
逃げるのであろうか。
それも戦略なのであなたは罵ったりしないが、現在は失敗できない依頼の途中なのである。
このまま逃がすとこれを理由に宝石の肉やっぱなし、なんて言われかねない。
そう考えたあなたはとりあえずカオスシェイプの男の”足”であるジャックとやらに照準を合わせ氷の矢を放つ。
「あ゛?」
ジャックによる回避行動をものともせず命中させる。が、一撃では仕留められなかった。
虫っぽい見た目なだけありかなり生命力が高いようだ。
「やっぱお前、ここで死んどくか。ん?」
「仕事なんでの。手早に終わらせるぞ。」
早く宝石の肉が食べたいという本音を隠さず、あなたは言い放った。