カオスシェイプの男の戦闘は一風変わっていた。
ジャックに乗り、ストローを巧みに操り息を吐くことで空気の弾をこちらに向けて飛ばしてくる。
ノースティリスでもそうそう見ない一見ふざけた戦闘方法だが、相手にするとかなり厄介だ。
威力も無視できないが、何よりその射程が凄まじい。
あなたの魔法の有効射程が光源の届く範囲、すなわち10数メートル程度*1であるのに対し、カオスシェイプの男の射程はその倍、ないし三倍近いものを誇っていた。
あなたの本来の戦闘スタイルは霊符を用いるため陰陽師に近い。
故に最低限魔法で攻撃ができなくはない。
が、当然距離が遠すぎる上にリソース勝負になると先に尽きるのはこちらだろう。
ルルウィ信仰の妖精ならいざ知らず、回避技能も高いとは言えないあなたではジリ貧である。
「ヒッヒッヒ… 大言吐くほどじゃねぇなァ。
それともこの距離は辛いかァ?」
「ぬかせ。様子見じゃ。」
男へ言葉を返しながら体力回復の魔法を唱える。
今の詠唱でマナも残り2割を切っている。
どうしたものか。
近距離まで近づければあなたの愛刀+霊符で叩ききれる自信はあるが、飛行中のジャックの背中まで、その距離が詰められない。
…仕方ない。
運も絡むためあまり取りたい方法ではないが…賭けにでないと勝てない相手だろう。
あなたはとある魔法を唱える。
瞬間景色は切り替わり、カオスシェイプの男が先ほどまでより少し遠くなる。
失敗である。まぁこういうのは試行回数を増やすのが一番だ。
あなたは続けてショートテレポートを詠唱した。
ショートテレポート。
詠唱するとランダムな位置に移動する魔法である。
一般的には強敵からの逃走手段、あるいは立て直しのために詠唱することが多いが、あなたは今回少し違った目的を持って詠唱していた。
すなわち、接近手段である。
自身ですら把握できないランダムな移動先で相手の狙いを外しつつ、男の近く、ジャックの背中に乗ろうという魂胆である。
あまりにも運が絡む。
が、そうでもしないとあなたは男に近づけない。
回る回る。視界が回る。
…そしてついにその時が来た。
幾度詠唱を繰り返しただろうか。
数えきれないほどの試行の先、あなたは賭けに勝った。
ついにジャックと呼ばれた昆虫の背中に降り立つことができたのだ。
「やっと近づけたの。」
「…ッ!いつの間に!」
「では、さらばじゃ。」
回避を試みる男。
だがあなたの愛刀は命中補正、追撃に関しては高い数値を持っている。
男はストローを切られながらも一度はかろうじて避ける。
が、返す刀で体勢の崩れた男を追撃、一閃。
その刀身に刻まれた《地震》の霊符が発動し、半身を失った男は大きく吹き飛ばされた。
「腕二本。いただいたぞ。」
ただグラビティも使っていなかったのもあり、瀕死の重体ではあっても死んではいないだろう。
現にジャックとやらが男を丸ごと飲み込み、その巨体に見合わぬスピードで飛び立っていった。
まぁ、ここまですれば依頼は失敗ではないだろう。
一件落着である。
あなたは報酬の宝石の肉を想像してよだれを垂らしながらマンサム達のもとへ駆け寄った。
グルメケースに保存された報酬である宝石の肉を受け取ったあなたはすぐさまリーガル島を出発した。
その場、すなわちリーガル島で食べるのも悪くないと思いつつも、米や葉物野菜とともに食べたいと考えたからだ。
実際、あなたは宝石の肉の香りだけは既に楽しんだが、高級フレグランス顔負けの気品あふれる芳醇さ。
本能を撃ち抜くような濃厚で原始的な肉の香り。
香りだけでもおかずにして腹一杯食べたいと、そう心の底から思えた刺激的ものであった。
だから我慢。我慢である。
それにしてもこのグルメケースとやらは便利なものだ。
食品にあった保存データカードを購入する必要はあるものの、クーラーボックスとは比較にならないほど長期間品質を劣化させることなく保存できる。
流石に保存期間はノースティリスの冷蔵庫には及ばないが、電力テントや紙冷蔵庫を必要としないという点で見れば初心者のいい味方になってくれるだろう。
ノースティリスに帰る時用にこういった便利グッズをかなりの数買いだめし、テントにいれてあるのは秘密である。
グルメ中央卸売市場【
連日1兆円もの金が動く化け物市場。
あなたもたまに食材を卸し、お金を稼いでいる言わば拠点のような場所である。
様々な人やモノが集まるだけあり、食材の情報なども手早く入手できる。
あなたがここへ帰ってきたのは宝石の肉にあう野菜や米を得るため、トリコからの紹介もあり仲の良い卸売業者が一人、十夢を訪ねるからだ。
「おぉー十夢よ。久しぶりじゃな。」
「ん?お、エリンじゃねーか。
最近オメーもトリコも入荷してくんねーから大変なんだ。」
「ふふ。それは悪かったの。また今度手土産でも持参しようぞ。
それはそうと、今日は探し物があってのぅ。
とある伝手で宝石の肉を手に入れたんじゃがそれにあう極上物の野菜か米を探しておるんじゃ。
…何か心当たりはあるかの?」
「…!へぇ。流石エリンだな。オレでも仕入れられない一品じゃねーか。
ただそのクラスの肉にあうモノとなると…悪いが世界の台所にはないな。」
「むむっ。」
やはり、というべきだろうか。
あれほどのインパクトのある食材、中々手強いようだ。
「ただ、モノはないが情報ならある。
肉の王様が相手なら狙うは野菜の王様だろ。
なぁエリン。”ベジタブルスカイ”って知ってるか?」