あなたは美食家である。   作:なにぬぬこ

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美食屋、試行錯誤する。

蔓を上った先のその緑地は先ほどまでの氷点下であった雲の中と裏腹に随分と暖かかった。

日に近いからであろうか。

あなたも寒いよりかは暖かい方が好きであるし、この様子だと太陽光不足にはなっていないだろうから食材には期待ができる。

 

ふかふかした大地を進んで行った先にはあなたの予想通り、広大な野菜畑が広がっていた。

ここがベジタブルスカイ。

あなたの目的である野菜の王様が生息する天空の野菜畑であろう。

試しに大きく息を吸い込んでみると感じる焼いた肉や魚に負けない位強く深く濃い緑の香り。

あなたは我慢できず駆け出した。

 

大根やキュウリ。ネギに至るまで数々の野菜を堪能する。

道中の蔓の敵から感じたような青臭さは全くなく、凄まじいまでの瑞々しさを感じる。

生で味付けせずにでもぐんぐん食べれてしまう。

ノースティリスに居たころから素材食いも嫌いではなかったが、鮮度や爽快感が段違いである。

うまい!

 

様々な野菜を食べながら進んで行きしばらく。

進行方向の陸地が無くなっているのが見える。

終点であろうか。

ここから引き返すのもなんであるし、折角だから一面の青空と雲でも見ながら食べるか、と考え端に向かう。

 

なんとなしに周囲を見渡したところ、見慣れない植物が生えていた。

ベジタブルスカイで食した他の野菜が地上でも見られたものばかりなのに対して幾重もの葉が存在するそれは初めて見るものであった。

だが強く感じる存在感。間違いない。

これこそがあなたの目的である野菜の王様、とやらであろう。

 

では早速頂こうではないか。

あなたは外側の開かれた葉に飛び降り、中央のキャベツのようにくるまれた二枚の葉のうち片方に手をかけ、ゆっくりと葉を剥いてゆく。

最後の試練というべきか、中々葉は固いがあなたなら苦にならない程度だ。

勢いよく葉を引っ張ったと同時に感じる、わくわくとしたあなたの期待とは真反対の腐臭。

なんということだろうか。

 

どうやら腐ってしまったようである。

…一体何故であろうか。

ものすごく鮮度が命!な食材なのであろうか。

それこそ一瞬も空気に触れさせてはダメ、のような。

まさかそんな特殊なものではあるまいし…

 

特殊?

 

この世界に来てから確かそんな話を聞いた記憶がある。

一体なんの話であったか…そう、確かトリコから聞いた特殊調理食材であった。

一か月の中でわずか数秒しか美味ではない食材のように、特殊な食材のことを言っていたはずである。

 

葉を剝いた瞬間に腐ってしまった野菜の王様。

恐らくはこれも特殊調理食材なのであろう。

ふむ。なら困ったものである。

調理法が全く見当も付かないからである。

まぁ取り合えず特殊調理食材の例として挙げられていた食材のように1年くらい待ってみるとしよう。

あなたは時間だけはたっぷりあるのだ。

 

 

不眠不休でとりあえず一年。

ひと時も目を離さず観察してみたが全く様子は変わらなかった。

やはり時間が関係しているものではないのだろうか。

一応竹の花のように数十年、数百年に一度の可能性もあるだろうが、一年くらいならまだしも数百年単位になるとあなたでもきつい。

これ以上の時間経過は最終手段にするとしよう。

 

なら一体どういった手段が良いだろうか。

あなたは改めて野菜の王様を観察する。

開かれた葉は多数。包まれた葉は二枚。

恐らくは二枚の葉に包まれたこの中に目的のものがあるのであろう。

うーむ。この二枚の葉を剝く順序があるのだろうか。

もしくは二枚のうちどちらか、すなわち1/2の確立で腐ってしまうのか。

腐ってしまうのはもったいないが方法がわからないものは仕方ない。

 

……あれからかなりの数の葉を剝いてきたがついぞ腐らせずに葉を剝くことは叶わなかった。

半ば諦めかけていたあなたの脳裏にふとある考えが浮かんでくる。

そういえば一枚ずつ葉を剝いたことはあっても二枚同時に剝いたことはなかったな、と。

今までのやり方とそんなに変わることとは思えないが、ダメで元々。

早速挑戦である。

 

二枚の葉を掴むと同時に感じる違和感。

今までのそこそこ力を加えなければ剝けなかった葉と違い、ほとんど力を入れなくても良さそうな程軽い気がする。

これはもしやもしやであろうか。

久しぶりの期待に胸を高鳴らせつつ、あなたは二枚の葉を同時に引っ張る。

 

ついに葉に守られていた野菜の王様が姿を現す。

包まっていた葉が少し動くだけで飛び散る水しぶき。

なんという瑞々しさであろうか。

 

見た目は葉のようであるがパンクしそうな程肉厚を誇っている。

そしてそれほどの肉厚にも関わらず葉脈は光り輝き脈打つ様子がうかがえる。

ここまで久しぶりの長期間の努力をしたこともあり、あなたは我慢もできずに齧り付いた。

宝石の肉とはまた後で合わせて食べればいいのである。

 

途端に感じる腐ったような味。

いや、今までの様子から察するに腐ったのであろう。

思わず吐き出しそうになるが、あなたは一度口に含んだからには主能力が下がろうと絶対に吐き出さないと決めている。

感覚のズレを感じながらも飲み込み、改めて野菜の王様を見る。

 

まさかとは思うが…食べるのも二箇所同時でないとダメなのか。

なんとボッチ美食屋に厳しい食材であろう。

…仕方がない。道中のゴリラでもペットにするか。

あなたは来た道を駆け戻った。

 

 




作中で主人公一人で進んでしまっているため説明不足感があるので解説。
・オゾン草が小松と同じ状態最終一歩手前まで開いている
=主人公がクミロミ信者のため植物から好かれていた。
・腐っても「腐ったものを消化できる」で食べられるのでは?
=あくまで消化できるだけで味は落ちていると解釈しています。


です。
主人公の名前が名前なので調和のエリンを連想させてしまっていた方もいるかと思います。
申し訳ありません。
ちなみに主人公は調和のエリンとは何の関係もありません。
ここは分かりやすいように伏線を張って置けばよかったなと後悔しています。
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