旧都陥落の日   作:IamQRcode

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列車避難

 

 中央部に戻ったアベルとシュヴァルツを待ち構えていたのは渾沌だった。火災は広がり、街に銃声と怒号、悲鳴が響き渡る。今も各地で逃げ遅れた市民を治安官が助けに回っている。

 

 アベルとシュヴァルツは車を止めて、地下鉄の入口に避難誘導をしていた王明に話しかける。

 

「何が起きてる!」

 

「ホロウの拡大スピードとエーテリアスの増殖スピードが予想を遥かに上回ってます! 大通りに続く最も広い道にも、エーテリアスが侵攻してて!」

 

「軍は何を!?」

 

「各地で戦っていますが数が足りません! 今は駅員に地下鉄を動かしてもらい、電車で民間人を避難させています!」

 

 ホロウの影響で建物は燃え、崩れている。消防隊員と装甲ドーザー隊も必死の消火活動や瓦礫の撤去作業をしているが既にキャパを超えている。地上からの避難では間に合わないと判断し、会社に連絡して地下鉄と飛行機を使って、民間人を新エリー都に向かわせている。

 

 王明から状況を聞いていると、近くのビルに消防局の救助ヘリが突っ込み大爆発を引き起こす。爆発の影響で割れた窓ガラスが雨のように降り注ぐ。

 

「くそっ! まるで戦場だ!」

 

「エーテリアスが来たぞぉ!!」

 

 隣にいたもう一人の治安官が叫ぶ。

 

 見るとティルヴィングとハティがこちらに向かって来ていた。今の爆発で呼び寄せてしまったのだろう。ここを突破されれば、地下鉄にエーテリアスが入ってくる。逃げ場のない地下鉄にエーテリアスが来れば被害は甚大だ。

 

「戦闘準備!」

 

 避難誘導をしていた王明ともう一人の治安官はショットガンとサブマシンガンを取り出す。アベルとシュヴァルツも自身の改造拳銃を構える。

 

「撃て撃て! ここを通すな!」

 

 乾いた射撃音が響き渡る。ティルヴィングにはかなりの弾が当たっているが、犬のような見た目をしたハティは攻撃を巧みに避けて近付いてくる。

 

「ショットガンに近距離戦は禁忌だぜ!」

 

 ショットガンを持った治安官が対処するため何とか防げている。だが、戦っている彼らの死角であるビルから飛び降りたハティがアベルに襲いかかる。

 

「ぐっ!」

 

 アベルは何とか気付いて、回避したため頭を噛み砕かれることは無かった。だが、ハティは諦めず飛びかかる。

 

「はぁ!」

 

 伸縮式の警棒でハティの頭部を思いっきりぶん殴る。倒せはしないが、怯ませることは可能だ。

 

「ギャァ!」

 

 そして、怯んだ所にネルソンガバメントのフルオートを撃ち込む。エーテリアスと言えど、45口径の弾丸の雨には耐えられなかったのか、ハティは力なく倒れてエーテル粒子となった。

 

「アベル! 大丈夫か?」

 

「何とか⋯」

 

 ハティは全て倒した。残ったのはティルヴィングだけであり、これだけの数なら対処可能だ。すると、地下鉄から拳銃を持った警備員が登ってくる。

 

「第一陣の列車が出る! 市民の数は!?」

 

「まだまだいる⋯放送で地下鉄と空港に行くようにも言ったからな」

 

「わかった! 安心しろ、すぐに他の列車も来る!」

 

 幸いにも列車は問題なく動くらしい。列車であれば、渋滞も起きない。それに、一気に大量の市民を運べる。

 

「よし、俺とアベルは民間人をトラックを使ってここまで避難させる」

 

「わかりました。俺たちでここは守ります⋯アベル、死ぬなよ」

 

「ああ、王明も」

 

 トラックに戻り市民救助へと向かう。燃え盛る地獄となった街をアベルたちは走る。既に犠牲者も出ており、少なくはあるが民間人の死体が転がっている。あのまま、放置していればエーテリアスになるがどうしようもできない。

 

 だが、まだ今のところは崩壊にまでいってない。市民救助も進んでいる。

 

「航空会社と電車会社には頭が上がらねえ」

 

「ええ」

 

 道路だけからの避難ではここまで円滑には進まなかっただろう。

 

「先輩、あそこのアパートを調べましょう」

 

「そうだな」

 

 灯りが点いている部屋がいくつかあるアパートへと向かう。消し忘れの可能性もあるが、中に生存者が立て籠もっているかもしれない。

 

 トラックを止め、拳銃をいつでも撃てるようにしてからアパートの一階から一部屋一部屋調べる。ドアをノックして、声をかけて反応が無ければ次の部屋だ。

 

「治安官です。生存者はいませんか」

 

「ち、治安官⋯良かった⋯」

  

 ドアを開けて一人の中年男性が出てくる。

 

「避難しようとしたけど、エーテリアスが外にいて」

 

「そうですか。表にトラックを止めてあります。そこまで向かってください」

 

「ありがとう」

 

 二階建てのアパートで生存者を三人見つけた。他の部屋には誰もいなかった⋯安全圏に避難したと信じたい。

 

「よし、まずは彼らを送ろう」

 

 トラックを発進させて地下鉄の入口へと向かう。

 

「王明、こちらアベル。付近のアパートで生存者を三名発見した。今からそっちに向かう」

 

「了解、こっちも落ち着いてきた。だけど、大通りに続く道はエーテリアスでいっぱいらしい。機動隊が何とか防いでいるそうだ」

 

「わかった。そっちには行かないよう気をつけるよ」

 

 通信を切って周囲を警戒する。街は燃え、煙と火の柱が立ち上りエリー都の空を赤く染めている。今が夜だということを忘れるくらいだ。

 

「っ! おいまじかよ!」 

 

 先輩の視線の先には、エーテリアスに追われている女性がいた。腕には赤子が抱かれており、必死に守りながら逃げている。トラックのヘッドライトに照らされたその姿は、悪夢としか言えない。

 

「僕が行きます!」

 

 トラックを急停車させ、アベルとシュヴァルツは即座に飛び降りる。アベルは女性を庇うように前に立ち、シュヴァルツは援護射撃を行う。アベルは一番近い、エーテリアスに弾丸を浴びせ、動きを止める。

 

「大丈夫ですか!? こちらへ!」

 

 女性は涙を浮かべながらトラックへと走り、その後ろを追いかける。背後には未だエーテリアスが蠢いていたが、先輩の援護射撃で何とか退けることに成功した。

 

 全員がトラックに乗り込むと、シュヴァルツはアクセルを踏んで地下鉄へと向かう。車内には安堵と恐怖の入り混じった静けさが漂っていた。

 

「こちらアベル⋯二人追加だ」

 

「わかった。地下鉄周辺のエーテリアスは掃討した。今なら大丈夫だから早く来い」

 

 数分かけて地下鉄に到着する。王明たちは銃を構えて、周囲を警戒していた。だが、先程と空気は変わって緊張状態ではあるものの、ほんの少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

 トラックを止めて民間人を地下鉄へと誘導する。

 

「ありがとうございました!」

  

 赤子を抱えた女性は涙を流しながら、頭を下げてお礼を言ってから地下鉄のホームへと向かった。

 

「よし、次に⋯」

 

 次に行こうとした時、どこからか鉄と鉄が擦れるような、おおよそ自然界に存在してはいけない不気味な音が鳴り響く。

 

「今の音は?」

 

 アベルとシュヴァルツ、王明とは空を見上げて辺りを警戒する。

 

「お、おい⋯⋯あれ⋯」

 

 地下鉄を守っていたもう一人の治安官のカズキが震えながらある方向に指をさす。そこにいたのは、花のドレスのような下半身と女性のような体を持つ巨大な浮遊型エーテリアスであった。

 

「何だあのデカ物は⋯」

 

「こっちに来るぞ! 隠れろ!」

 

 アベルとシュヴァルツはトラックの影へ、王明は地下鉄の入口に駆け込み、カズキはビルの間に体を入れて隠れる。

 

 巨大なエーテリアスは大量の小型エーテリアスを引き連れて、アベルたちの上空を通過した。誰も見つからなかったようだ。

 

「おいおい⋯ゼロ号から来たのか?」

 

「あんなの俺らじゃどうしようもできねえぞ」

 

「ますます、市民救助を早くしないとな」

 

 あんなもの、防衛軍や虚狩りしか相手に出来ないだろう。治安官では力不足だ。

 

「アベル、行こうぜ」

 

「はい」

 

 トラックに乗り込むと同時に通信が入る。

 

「こちらヒロ、救急隊と軍の基地前にいる。何とか仮設の医療場で負傷者の治療を行っているところだ。軽傷者を運んでくれる者はいないか?」

 

 軍の基地ならばここから近い。電車に乗せることも可能だろう。

 

「こちらアベル、地下鉄入口前にいる。直ちに、そちらに向かう」

 

「了解。ありがとう」

 

 トラックのエンジンをかけて、軍の基地へと向かう。道中で消火活動をしている消防隊員と、その護衛兼救助活動をする二名の治安官が見えた。まだ、何とかホロウから街を守れている。

 

「軽傷者の数はどれくらいでしょうか」

 

「さあな。だが、あの口ぶりからして多いだろう。最悪、詰め込んでも乗せないと」

 

 このトラックは座席は八人乗りだが、詰めたり立ってもらったりすればより多く乗せられる。地下鉄までの距離も短いから、最悪の場合はそうしてもらわないと。それに、あの巨大なエーテリアスとも会わないようにしたいとね。

 

「治安局より全治安官へ、巨大なエーテリアスの反応を確認した。警戒しつつ市民救助へとあたれ」

 

 エリー都を守れるのか⋯そんな不安を抱えながら僕らは基地へと向かった。

 

 

 

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