旧都陥落の日   作:IamQRcode

13 / 64
侵攻阻止

 

 アベルたちが地下鉄に市民を運んでいた頃―

 

 今だ大渋滞が起きている大通り、そこへと続く一番大きな道を機動隊は閉鎖していた。全身を守るアーマーを身に着け、バイザー付きヘルメットで怪我を防ぐ。手には大盾と警棒を持ち、三列になって道を塞ぐ。

 

 治安局から大規模なエーテリアス侵攻が確認されたのだ。ここを突破されでもしたら、大通りで足止めをくらっている民間人に被害が出てしまう。

 

 アベルの同期であり、機動隊員の星宇は震える手を何とかして抑えながらエーテリアスが来るのを待っていた。

 

 まさか⋯初めての実戦相手が人間じゃなくてエーテリアスだなんて。

 

「おい」

 

「は、はい!」

 

「落ち着け。訓練を思い出すんだ」

 

「⋯わかりました」

 

 そうだ。こんな日の為に血の滲む訓練をしてきたじゃないか。なんの為に治安官になったか思い出せ、家族と市民を守る為だろう。

 

「それに、エーテリアス相手なら力加減もいらねえ。思いっきりぶん殴れ!」

 

「はい!」

 

 今も色んな場所でみんなが戦っているんだ。俺も戦って、市民を守らないと。

 

「来たぞ! 大量だ!」

 

 燃える街からエーテリアスたちが現れる。アルペカにティルヴィング、ホプリタイにサテュロスなどの小型エーテリアスに少数ではあるがゴブリンなどの中型もいる。

 

「全員構えろ! そして、日頃の鬱憤を晴らす気で暴れろ!」

 

 小型エーテリアスたちが走ってこちらに向かってくる。第一列が盾を構えて、第二第三列がすぐに対処できるように準備する。

 

 エーテリアスの波が機動隊にぶつかり、機動隊員が必死に警棒や大盾で振るい、押し返す。

 

「うおおお!!」

 

「くたばれエーテリアスが!」

 

「ここは通さんぞ!!」

 

 星宇も第二列であるため、漏れて来そうなエーテリアスを抑え後ろから警棒でぶん殴る。何度も殴ればエーテリアスもさすがに倒れ、粒子となって消える。

 

 よし、最初の一番重い一撃は耐えた! このまま、訓練通りに押し返せば!

 

「アルペカの液化弾だ!!」

 

「盾で防げ!」

 

「撃てぇー!」

 

 アルペカから放たれたエーテルの液化弾を前衛が盾で防ぐ。後方からは支援組がバスの上から拳銃でエーテリアスを撃ち、擲弾発射機のM4を放つ。対人用の催涙弾ではなく、非致死性のゴム弾ではあるが怯ませるには十分だ。

 

「おらぁ!」

 

「鬼の機動隊舐めんな!」

 

 中には自身のアーマーを信じて、液化弾が撃たれる中、エーテリアスを殴る者もいる。機動隊の士気は十分に高い。

 

「ハァ! ハァ!」

 

 もう何体目だろうか。警棒を振るう腕は疲れ始め、汗がアーマーの中で噴き出る。だけど、ここで諦めたら自分も後ろの大通りにいる市民も終わりだ。

 

「ゴブリンが来るぞー!」

 

 中型エーテリアスのゴブリンが他の小型タイプを吹き飛ばしながら、機動隊に突っ込んでくる。それを見た体格の良い隊員たちは盾を構えて、ゴブリンの進路に立つ。

 

「グオオオ!」

 

 そして、ゴブリンは隊員たちに突っ込む。隊員たちも負けじと腰と足に力を入れて踏ん張り、ゴブリンを押し戻そうとする。

 

「ぬおおお!!」

 

「なんて威力だ⋯だが、押し返せええ!!」

 

「くたばれエーテリアス!」

 

 隊員たちがゴブリンの動きを止めていると、バスの上から支援していた隊員が拳銃を放つ。弾丸は頭部にあたるコアに複数発命中し、ゴブリンはよろけながら倒れた。

 

「今だオラァ!!」

 

 倒れたゴブリンのコアを警棒でぶん殴り続け、何とか無力化に成功する。他も小型エーテリアスの無力化に成功しているようだ。

 

「よし⋯落ち着いてきたな」

 

 時間にして20分弱⋯体感ではとても短く感じたがエーテリアスと殴り合っていた。

 

「ハァ⋯ハァ⋯」

 

 勝った⋯エーテリアスを退けた。大通りの安全は何とか守れたんだ。

 

「被害は!」

 

「液化弾で負傷者は出ていますが、殆どが軽傷です!」

 

「よし、第二列は第一列と交代だ。また奴らが来る⋯少しでも体を休めろ」

 

 機動隊は何とかエーテリアスの侵攻第一波を食い止めることに成功した。隊員たちは一時の勝利ではあるが怪我の治療をし、水分をとって少しでも体を休め始める。

 

 

 

 

 

 

 エリー都中央部付近 ライアー小隊

 

 エーテリアスの大通りへの侵攻が始まった時、ライアー小隊はエリー都の中央部付近に来ていた。全員が装甲車から降りて、武器を構える。   

 

 ここは中央部に最も近いエリアだ。先程の治安官の通信では、防衛線が破られたという報告があった。

 

 実際、周囲には逃げ遅れ、エーテリアスに殺されたであろう市民の死体があった。特に、子どもの死体を見た時は隊員全員が悔しさと悲しさを混ぜた表情になる。

 

 他には、最期まで必死に市民救助を行い、戦っていたことがわかる治安官の死体もある。

 

「⋯治安官の手帳を拾うぞ。素早くだ」

 

「了解」

 

 カロンの命令を聞き、隊員たちは倒れていた治安官の手帳を素早く回収する。エーテリアス化して遺品も全て無くなるよりは、せめて手帳だけでも回収して遺族に届けなければならない。

 

「⋯よく頑張ったな。あとは俺たちに任せろ」

 

 ステュクスは労いながら、若い治安官の手帳を回収する。

 

 市民のものも回収したいが、それでは手荷物がいっぱいになってしまう。悔しいが今回は治安官の遺品に絞るしかなかった。

 

「終わりました」

 

「よし、進むぞ」

 

 周囲を警戒しながらライアー小隊は進む。トリガーもプレゲトーンを構えながら、いつでも小隊メンバー全員の背中を守れるようにする。

 

「隊長、エーテリアスが来るぞ」

 

 レテの報告に全員が銃を構える。銃口の先には盾と剣を装備しているのが特徴的なエーテリアス、デュラハンがいた。デュラハンもこちらに気づいたようで、剣を構えて猛スピードでこちらに迫ってくる。

 

「はぁ!」 

 

「もらった!」

 

 アケロンがブレードでデュラハンの攻撃を受け止め、蹴りを入れて押し返す。そこに、ステュクスのロケットランチャーが撃ち込まれる。

 

「ギュウア!」

 

 デュラハンは思わず膝をつき、剣を杖代わりにしてしまう。戦場で、敵の前で動きを止めるということは自殺行為だ。

 

「終わりです」

 

 トリガーの狙撃によってコアを撃ち抜かれる。デュラハンは背中からバタリと倒れて、エーテル粒子となって消えた。

 

 対エーテリアスの専門家でもある防衛軍の戦闘法は効率が良く、強敵であるデュラハンすらも一体だけなら一瞬で倒してしまう。

 

 隊員たちが周りを警戒していると、突然隣のビルから人が出てくる。全員が銃口を向けた先にいたのは、二人の治安官だった。片方の手には拳銃のE9が、もう片方の手にはサブマシンガンのMMP34握られている。

 

「おいおい、俺らは人間だ」

 

「⋯すまない。ここで何を?」

 

「ビルの屋上から状況を仲間に無線で伝えてた。そしたら、浮遊型エーテリアスの大群が仮設医療場のある基地前に向かっていたから、無線で伝えて俺らも応援に行くところだ」

 

「そうか。気をつけろ⋯ここらは中型エーテリアスが現れ始めてる。大型が来るのも時間の問題だろう」

 

「ああ、ありがとう。あんたらも気をつけてくれ」

 

 そう言うと治安官らは比較的安全なビルの路地裏を通って、基地のある方向へと進んでいった。

 

「状況は酷くなっているが、何とか耐えているようだな」

 

「ああ⋯だが、油断は出来ない。前に進むぞ」

 

 ライアー小隊は前へと進む。時折、エーテリアスと遭遇するが苦戦もせずに倒し、救助信号が出ていた建物の中に入る。

 

「軍の者だ! 救助に来たぞ!」

 

 カロンが叫ぶと近くのドアがゆっくりと開き、中から治安官と子どもが出てくる。治安官の方は腹を負傷しており、自分で治療したのだろう。手でガーゼを抑えて、止血しているようだ。

 

「良かった⋯来てくれてか」

 

「ああ、安心しろ。すぐに手当てをする。コキュートス」

 

「もちろん」

 

 コキュートスが医療キットを持って近づくと、治安官は手で制止する。

 

「待て⋯⋯わかるんだ。俺はもう駄目だ」

 

 そう言うと治安官は帽子を取る。頭部にはエーテル結晶が生えており、かなり侵食が進んでいるのは明らかだ。

 

「エーテル阻害薬が切れてな⋯はは⋯」

 

 ライアー小隊の面々は苦虫を潰したような表情になる。彼はもう助からないと、わかってしまったからだ。特に衛生兵のコキュートスは悔しそうな表情を浮かべる。

 

「死にかけの俺なんかより、助かりそうな奴に使ってくれ」

 

「⋯誰の命も平等だ」

 

「ははは⋯だけど、俺らは違う」

 

 誰の命も平等⋯確かにそうだろう。だが、今回のような事態で変わってくる。優先するべきは市民の命であり、戦う軍人や治安官の命は二の次だ。

 

「さっ、交代だ。今度は、この人たちに安全な所に連れて行ってもらいなさい」

 

「治安官のお兄さんは?」

 

「俺もすぐに追いつくさ」

 

 そう言いながら治安官は子どもの頭を撫で、余っていた拳銃の弾倉と、治安官手帳をカロンに渡す。

 

「いざとなったら使ってくれ。口径は同じだ。それと、手帳は家族に頼めるか?」

 

「⋯はっ!」

 

 ライアー小隊全員が敬礼をする。彼の勇敢なる行動を称え、これから死にゆく者への敬礼だ。

 

「ありがとう⋯」

 

 治安官は笑顔を浮かべながら部屋に戻り鍵を閉めた。エーテリアスとなった自身の死体が、誰にも迷惑をかけないようにするために。

 

「行くぞ」

 

 カロンたちが離れて数秒後⋯

 

 パァン!

 

 部屋から拳銃の音が一発だけ鳴り響く。そして、何も聞こえなくなった。

 

「⋯装甲車に戻りこの子を安全圏まで送る」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 必ず⋯必ずこの子をお守りします。

 

 トリガーは最後にドアの方を見つめて装甲車へと向かった。

 

 あの治安官が命をかけて守ったこの子を、私たちも命をかけて守らなければならない。それが、私たちのできるあの人への供養だ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 ゼン・ウィルソン(21) 巡査

 旧都陥落時にエリー都中央部でパトロールをしていた。エーテル侵食が進む中、子どもを保護して近くの建物に立て籠もる。救助に来た軍に子どもを預け、最期は人のまま自決し殉職。

 

 マルコフ・ヴィル(19) 巡査

 ライアー小隊に手帳を拾われた治安官。アベルの同期である。旧都陥落時に中央部でパトロールをしており、災害発生後すぐに市民救助を行っていた。二体のタナトスに挟まれ、内一体をSPA12で倒すも、もう一体のタナトスの攻撃を脚部と頭部に受けて殉職。

 

 李静(20) 巡査

 ライアー小隊に手帳を拾われた治安官。旧都陥落時はマルコフと共に中央部でパトロールを行っていた。拳銃のM119で多数のエーテリアスを倒すも避難する親子を庇い、アルペカの液化弾を胸部に数発受け殉職。

 

 ダナム・ディック(20) 巡査

 ライアー小隊に手帳を拾われた治安官。旧都陥落時に中央部でパトロールをしていた。市民を守る為に全ての弾を撃ち尽くすまでエーテリアスと戦い、その後は警棒で応戦するもデュラハンの斬撃を受け殉職。

 

 

 




一応、確認してますが誤字などあれば報告お願いします。今更ですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。