旧都陥落の日   作:IamQRcode

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負傷者救助

 

 エリー都 防衛軍基地前

 

 防衛軍の基地前には大量の救急車と救急隊員がいた。エーテリアスの攻撃をくらった者や、ホロウ拡大の二次災害である火災や交通事故にあった者などが、ここで治療を受けているのだ。

 

 アベルたちは基地前にトラックを停める。

 

「アベル!」

 

 ヒロが手を振りながら近付いてくる。左腕には血の滲んだ包帯が巻かれており、軽傷ではあるが怪我をしているのだろう。

 

「ヒロ、状況は?」

 

「何とか負傷者を治療してる。基地の警備隊と一部の対空砲部隊も助けてくれているんだ」

 

「待って、主力部隊はどこに?」

 

 よく見ると基地にいる人数が少ない。軍の主力は一体どこに行ったのか。少なくとも、道中では見かけなかったけど。

 

「主力は撤退した」

 

「えっ⋯」

 

 主力が撤退? じゃあ、トリガーを⋯ライアー小隊や他の先遣隊、そして僕らは――見捨てられたのか?

 

「いや、安心しろ。完全撤退じゃなくて再編の為の撤退だ。今回のホロウの拡大スピードは異常だ。だから、重装備部隊の再編成が終わってから戻ってくるらしい」

 

「なるほど」

 

 胸の底に引っかかっていた不安が取れて、少し和らいだ。

 

 良かった。僕らは見捨てられたわけじゃないんだ。 

 

「それはそうと、負傷者を運んでくれ。アベル以外にも小型トラックが二台来てくれたんだ」

 

 ヒロの指した方向を見ると、ゼレフたちが小型トラックの傍にいた。

 

「ゼレフ!」

 

「アベル! 無事だったか!」

 

「ああ、君も無事で良かった」

 

 そう言うとゼレフは少し暗い表情になる。

 

「⋯マルコフが殺られた。中央部で犠牲者がかなり出た」

 

「そう⋯」

 

 マルコフは僕らの同期だ。共に治安官として働き、格闘戦に長けた信頼できる仲間だった。まさか、殉職していたなんて⋯⋯くそっ。

 

「⋯すまん、今は市民救助だな。ヒロ、軽傷者はどれくらいいる?」

 

「合わせて三十人だ。足をやられて担架の人が三人いる」

 

 三十人⋯八人乗りのトラック三台じゃ足りない。詰めて乗ってもらうしかない。

 

「担架の人はそれぞれのトラックに一人ずつ乗せよう。足元に置くしかない」

 

「よし、運ぶぞ!」

 

 僕らが負傷者を運ぼうとし始めた時、基地の方からサイレンと軍人の声が聞こえる。

 

「浮遊型エーテリアス襲来! 対空戦闘用意! 対空戦闘用意!」

 

 大量の浮遊型エーテリアスがこちらにやって来たのだ。

 

「全員急いで負傷者をトラックに乗せろ! 空襲が来るぞ!」

 

 シュヴァルツの声に全員が一斉に動き出す。動ける負傷者を誘導してトラックに乗せ、担架の負傷者は荷台の足元に乗せる。全員が協力して、この危機的状況を抜け出そうとしている。もはや一刻の猶予もない。

 

 ヒロが最後の一人を乗せてから上を見る。空にはエーテリアスのアフリマンやセトリアが獲物を見つけた猛獣のように、こちらへと向かって来ていた。その時、基地から対空砲の重い発射音が鳴り響く。

 

 対空砲に体を抉られたエーテリアスたちは地上へと堕ちたり、空中でエーテル粒子となって消える。だが、全てを防ぎきれるわけではない。

 

 ここにいては、エーテリアスの攻撃に巻き込まれる。そう判断したシュヴァルツは叫ぶ。

 

「ここだと巻き込まれる! ゼレフ、地下鉄まで行くからついて来い!」

 

「了解! だけど、敵の攻撃が激しすぎるぜ!」

 

 エーテリアスのエーテル攻撃が近くにあった車に当たり、爆発を起こす。

 

「うわぁぁ!!」

 

「ぐぁっ⋯!」

 

 その爆発で吹き飛んだ車の破片は軍人と救急隊員を巻き込む。ひときわ大きな破片が、救急隊員の首に刺さり致命傷となってしまう。

 

「今動いても、エーテリアス共に的を提供するだけだ!」

 

 この攻撃の中でどうやってトラックを動かすか、判断に困っていると連続した銃声を鳴らしながら、とある一団が近付いてくる。

 

「武流!」

 

 武流たち騎馬治安官隊だ。どうやら、無線を聞いて応援に来てくれたらしい。

 

「アベル、僕らがトラックの護衛につく」

 

「助かる。地下鉄まで市民を運んで、そこから電車で避難させる手はずだ」

 

「任せて。近付いてくるエーテリアスたちは僕らが対処するから」

 

「お前ら弾薬補給もついでにしていけ! 軍が備蓄を解放してくれてる!」

 

 ヒロの言う通りに弾薬を補給する。エーテリアスとの戦いで弾をかなり、消費していたからありがたい。

 

「行くぞ!」

 

「気をつけていけ!」

 

 シュヴァルツの声かけを合図にトラックが出発する。基地では未だに対空戦闘が続けられ、次々と運ばれてくる負傷者を救急隊が治療している。まだ、僕らは戦えている⋯エリー都を守れているんだ。

 

「王明、今からそっちに負傷者を運ぶ。三十人はいる」

 

「わかった! 今もカズキと一緒に地下鉄入口は確保しているから安心して来な!」

 

「了解!」

 

「火災に気をつけろよ!」

 

 トラックは基地前の広場を抜けて、地下鉄へと向かって走り出す。武流たち騎馬治安官が先導し、周囲に現れるエーテリアスたちにMMP34を連射して次々と撃退してゆく。

 

「クリア! そのまま直進!」

 

 武流の声を聞いて、シュヴァルツはハンドルを握り締める。荷台では負傷者たちが揺れに耐えながら、互いに声を掛け合い、慰めていた。痛みに耐える者、恐怖に泣く者、家族の無事を願う者、そしてみんなして共通しているのは「生き延びよう」という意思に満ち溢れていることだ。

 

 地下鉄まで半分まで来た所で、空から巨体な影が降ってくる。

 

「エーテリアス! 退避ぃ!」

 

 降ってきたのはエーテリアスのファールバウティだった。その巨体を生かして、拳から地面に着地する。着地地点の近くにいた騎馬治安官の一人が、衝撃波と飛び散ったアスファルトに吹き飛ばされビルに叩きつけられる。

 

「ダニエル! ⋯っ、撃て撃て!」

 

 騎馬治安官の一斉射撃は容易に防がれる。

 

 ファールバウティはアベルの運転するトラックへと狙いを定め、雄叫びを上げながら近付いてくる。あんな巨体の拳を受けでもしたら、流石に警察トラックと言えど耐えられない。

 

「下がれ! 下がれ!」

 

「き、来ます!」

 

 間に合わない!

 

 もう駄目だ。そう思っていた時、ファールバウティの腕が何者かに軍用剣で切断される。

 

「あれは⋯⋯アケロンさん!」

 

 ライアー小隊の突撃兵、アケロンさんだった。

 

「一斉射撃! 治安官たちを守れ!」

 

 ライアー小隊の面々による射撃、流石に軍の対エーテリアス装備でファールバウティは怯み、ステュクスの砲撃が致命傷となって倒れた。

 

「今のは危なかった。よし、進むぞ!」

 

 その後、ライアー小隊の護衛のもと地下鉄へと向かった。道中に現れたエーテリアスはライアー小隊と騎馬治安官が手早く処理してくれたおかげで、予想していたよりも早く地下鉄へと着いた。

 

「急げ!」

 

 トラックを止めて負傷者を運ぶ。エレベーターは危険なため階段を使って、負傷者を駅のホームまで急いで運ばなければならない。エーテリアスがいつまた、襲ってくるかわからないのだから。

 

「アベル!」

 

 負傷者の殆どを運び終えた時、トリガーが走ってやって来る。

 

「良かった⋯生きていて」

 

「トリガーも無事で良かった。それと、さっきはありがとう。助かったよ」

 

 あの時、ライアー小隊が来てくれなければ僕と先輩、そして負傷者たちはみんな死んでいただろう。

 

 トリガーは少し微笑んでいた。

 

「お礼は大丈夫です。私たちの仕事ですから⋯それよりも、状況はどうですか?」

 

「列車と飛行機や飛行船による避難のおかげで、かろうじて耐えてる感じだね。大通りは未だに渋滞でスムーズに避難できてない⋯それに、殉職者が増えてきた」

 

「軍の方もです。私たちはまだ誰も欠けていませんが、他の先遣隊では死者が出ているそうです」

 

「どっちも大変だね」

 

「ええ⋯ですが、私たちが頑張らないと」

 

「そうだね。そういえば、トリガーはどうしてここに?」

 

「救助した子どもを連れてきたんです。そしたら、偶然にもアベルの車列と遭遇しました」

 

 トリガーと話していると、駅のホームに電車がやって来る。負傷者や市民にとっては、この電車はまさにノアの方舟と言っても過言ではないだろう。警備員の指示のもと、落ち着いて規律よく乗車してゆく。

 

「アベルは?」

 

「僕らはまだ避難できない。まだまだ、市民が取り残されているだろうしね」

 

「アベル!」

 

 先輩が息を切らしながら駆け寄ってくる。

 

「無線だ⋯聞いてくれ」

 

「こちら治安局、現在多数のエーテリアスの攻撃を受けている!」

 

「本命を落としに来たんですか」

 

「そうらしいな」

 

 ならば急いで治安局へと戻らなければ、そう思い動こうとした時、再び無線が入る。

 

「ダーラン長官より全治安官へ。治安局の事は気にせずにそれぞれの任務を遂行しろ。治安局は簡単には陥落せん。我々が守るべきものは何だ? 建物か? 違うだろう⋯我々が守るべきものは市民だ。繰り返す。全治安官は己の任務を遂行せよ」

 

「⋯っ!」

 

 アベルは唇を噛み締めながら無線機を戻す。治安局が襲撃を受けているというのに、そこに向かうことを禁じられてしまった。それでも、長官の言葉はアベルと他の治安官全員の心に響いている。守るべきは施設ではない――人々だ。この言葉が、自分たちに何をすべきか明確にしてくれる。

 

「アベル、救助が遅れているヘーリオス研究所の方面に行くぞ」

 

 ヘーリオス研究所はエリー都の北部にある。ゼロ号ホロウに近い影響もあって、避難が遅れているようだ。

 

「はい⋯それじゃあ、トリガー」

 

「はい。また後で会いましょう」

 

 休憩の時間は終わり、再び命をかけた戦場へと戻る時間だ。守るべきもののために、そして死んでいった仲間の犠牲を無駄にしないために。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 ダニエル・アンダーソン(23) 巡査

 騎馬治安官隊に所属する治安官。旧都陥落時には愛馬と愛銃と共にエリー都を駆け巡り、多数のエーテリアスを撃破した。負傷者を運ぶトラックの車列を護衛していた際にファールバウティの攻撃をくらい、愛馬と共に吹き飛ばされ殉職。

 

 ピエル・ロベール(26) 救急隊員

 基地前で負傷者の治療をしていた救急隊員。旧都陥落時に少なくとも五名の命を救う。担当負傷者の為に薬を運んでいた際、エーテリアスのエーテル攻撃による車爆発の破片に巻き込まれ殉職。

 

 

 

 

 

 

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