治安局
治安局は現在、多数のエーテリアスによる攻撃を受けていた。避難してきた市民を受け入れてすぐ後に、後を追うようにエーテリアスたちが来たのだ。
治安局に残っていた治安官はエーテリアスを中に入れないよう、必死の防衛戦を行っていた。だが、数の差は圧倒的であり、そこにタナトスやデュラハンなどの中型エーテリアスもいる。
「ぐぁ!」
「がはっ⋯」
中型エーテリアスの猛攻、そして圧倒的とも言える数の差で治安官たちが倒れてゆく。
「浩然とエルビンが殺られた!」
「押し止めろ! 後方には民間人がいるんだぞ!」
治安官の一人、バンはMMP34で迫りくるエーテリアスと応戦していた。正確な狙いで9mm弾を浴びせて、多くのエーテリアスを倒すがいくらでも出てくる。
「くっ、数が多いな」
塀の陰に隠れながらリロードを行う。隣では治安官育成学校を出たばかりの新入りのロンが、拳銃のM119で応戦する。怯えながらも、必死に戦っていた。
「うぅ⋯ぞ、増援は⋯軍の増援はまだなんですか?」
治安局はアサルトライフルはもちろん。ロケットランチャーや迫撃砲なんて装備はない。サブマシンガンやショットガン、拳銃といった軽装備でこの数のエーテリアスと戦うには無理がある。しかも、それら銃器は対人用でありエーテリアスとの戦闘は想定されていない。
このままでは、ジリ貧でバリケードも突破されてしまう。いち早い軍の介入が待たれているのだ。
「メトロゴブリンが来るぞー!」
屋上から援護射撃をしていた治安官が叫ぶ。どうやら、新しいエーテリアスが来たらしい。
「あー! どうして初仕事でこんな目に!!」
「諦めるな新入り!」
「わかってますよ! でも、このままじゃ⋯ひぃ!」
タナトスの攻撃が頬を掠める。あと少しでもズレていたら、頭に攻撃を受けて死んでいただろう。
今まで生きていた感じなかった"死"という感覚はロンの心を削るには十分だ。
「うぅ⋯」
治安官の大半は出動している。だからといって、ここに呼び戻しては市民への被害が増える。だから、ここにいる人間で対応するしかない。
警部や警部補も銃を持ち、戦ってくれているが被害が大きくなってくる。
「あっぶねえな! ちっ、虫のようにわいてくる」
くそ、せめて機関銃か迫撃砲さえあれば楽なんだがな。
無い物ねだりをしても仕方がないとはいえ、やはり文句は言いたくなる。戦い続けていると、予備の弾薬が少なくなってくる。誰かが、ここを離れて弾薬庫に取りに行かなくてはならない。
「新入り! お前は弾を持ってこい!」
「で、でも!」
自分がここを離れたら防衛線が薄くなる。そう思っているのを察したのか、バンは怒鳴る。
「俺のことを心配するなんて十年はえーよ! さあ、早く行け!」
「は、はい!」
ロンは急いで治安局の中に入り、覚えたての建物の中を走って弾薬庫へと向かう。ホールには戦いの負傷者がおり、派遣されてきた医者に治療を受けていた。
「ぐぅ⋯いてぇよ」
「誰か! 誰か娘を助けて! 血が止まらないの!」
「奥さん離れて! 誰か止血剤を!」
「エーテル阻害薬を持ってきてくれ。侵食を少しでも遅らせるんだ」
「おい! まだ動くなよ!」
「仲間が外で戦ってるんだ⋯こんな所で治療受けてられっかよ!」
初めて見る光景、初めてのホロウ災害、昨日まではここで先輩たちが仲良く駄弁り、市民の相手をしていたりした。そして、僕も入ったばかりなのもあって、この建物の中の構図を地図を使って覚えていた。
何も無い平和な一日だった。
それが一夜でこうなるのだ。
こ、これが⋯ホロウ災害なのか。そ、それより早く弾薬庫に行かなきゃ!
ロンは激しい胸の鼓動を感じながら、階段を駆け上がる。廊下や地面には血の跡がある。震える足を必死に動かして、ようやく弾薬庫の前に辿り着いた。
「お、重い⋯」
重い鉄扉を開けると、中にはまだ充分な弾薬があった。急いでサブマシンガンと拳銃のマガジン、12ゲージなどの弾薬を震える手で掻き集める。
は、早く⋯早くしないと先輩が。
両手いっぱいの弾薬を持って戻ろうと走る。その瞬間、廊下の窓ガラスが割れてエーテリアスのハティが入ってくる。鋭利な牙がロンを捉える。
「ひっ⋯!」
動けない。恐怖で体が固まってしまい足がすくむ。ハティが爪でロンの体を引き裂こうとした時、背後から重い銃声が鳴り響く。
「ギャバァ!」
ハティは吹き飛んでエーテル粒子となる。
「大丈夫か?」
そこにいたのは、ダーラン長官だった。手にはマグナムリボルバーが握られている。彼のおかげでロンは助かったのだ。
「ち、長官⋯」
「まったく⋯涙で濡れてるぞ。ほら、何の為に治安官になった? 早く動け。そして、仲間の所に弾を持っていくんだ」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
ロンは今度は全力で走り出す。未だエーテリアスへの恐怖はあるが、先ほどのような表情はしていなかった。
何の為に治安官になったか⋯そうだ。守られる側じゃなくて守る側になる。誰かに守られるのではなくて、自分が守り支える一人になる。学校時代にそう心に誓ったじゃないか。
再び戦場に戻った時、バンはMMP34をフルオートで撃ち続けていた。隣には頭に包帯を巻いた仲間もおり、SPA12で塀を越えようとするエーテリアスを撃ち殺す。
バンがロンを見た時、わずかに口元をほころばせる。
「おせーぞ、新入り」
「す、すみません」
ロンはバンともう一人の治安官に弾薬を配る。これで、少なくとも弾薬不足で戦えないという事態は避けれた。
「おーおー、お前が新入りか。派手な歓迎会になっちまったな」
「はは⋯」
「俺はケビンだ。こんな時だがよろしくな」
「よ、よろしくお願いします」
ロンは苦笑いを浮かべながら、拳銃を手に取り、しっかりと構える。もう泣いてばかりはいられない。
「さあて、どうするか⋯もう何人も殺られてる」
塀の外で戦っていた前衛は殺られてしまった。バリケードも突破されそうで、このままでは防衛線は持たないだろう。軍の増援もまだ来ない。
どうするか、どのようにしてこの窮地を脱するか。考えていると治安局から治安官たちが銃を持って出てくる。だが、全員がどこかしらに包帯を巻いている。
「バリケードから先に奴らを入れるな!」
「どうしたお前ら」
「こんな状況で寝てられるかよ⋯ヘリコプター部隊が今、市民を逃してる。市民が逃げるまで、ここを死守しねえと」
空を見ると治安局のヘリコプター2機がホロウの外へと向かって飛んでゆく。
「へっ、傷が痛むからって泣くなよ⋯よおし、全員でここを死守するぞ!」
再び絶望的な防衛戦を行う。けれど、治安官たちの表情に恐怖はない。決してあきらめないという決意と、死んでも守るという覚悟の籠もった表情だった。
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浩然(24) 巡査
旧都陥落時は治安局で負傷者の手当てをしていた。市民を収容後に迫ってきたエーテリアスの大群と戦う。塀の外でエーテリアスを押し留めていたが、タナトスの攻撃を胸部に受け殉職。
エルビン・スコット(25) 巡査長
旧都陥落時に治安局に残り、今回の災害に関しての書類作製を行っていた。避難してきた市民を収容する際に外に出て誘導を行う。その後、エーテリアスと交戦するが数に押されハティに腹部を食われ殉職。
その他殉職者多数