地下鉄
アベルたちがヘーリオス研究所に向かってすぐのことだ。地下鉄に向かって、エーテリアスたちが侵攻し入りんこんできた。そいつらは、アルペカやティルヴィングなどの小型エーテリアスなのだが、まるで何かに寄生されたかのように凶暴なのだ。
「民間人はホームのギリギリまで詰めるんだ!」
王明ともう一人の治安官のカズキ、そして駅の警備員は必死に応戦するがエーテリアスは止まることを知らない。
それこそ、奴らの強みなのだ。死を恐れず、相手が死ぬまで追い詰める。
「ちくしょう! タイミングが悪すぎる!」
カズキは思わず悪態をついてしまう。
無理もない。何故なら、こいつらが集まって来たのはさっきまでいたアベルやゼレフ、ライアー小隊が去った後である。まるで、タイミングを見据えて来たかのようだ。
まさか、エーテリアスたちは知能を持って行動しているのか? いや、あり得ない⋯こんな奴らが生命体であってなるものか。だとすれば⋯まさか、さっき見た大型の浮遊エーテリアスが操っているのか?
「ギャア!」
ティルヴィングが近づいてきたので、王明は銃床でコアを殴る。倒せはしないがよろけさせることには、成功した。
「ちぃ!」
王明はMMP34を連射しながら少しずつ後ろに下がる。だが、下がりすぎては逃げ場のない市民が蹂躙される。警備員たちの弾薬も残り少なくなってきた。
「警備員、列車はまだ来ないのか!?」
このままじゃ、みんな死ぬ。
「もう少しで来るはず⋯あがぁ!」
警備員の一人がティルヴィングの攻撃を受ける。首を斬られ、血を噴き出しながら階段を転げ落ちる。
「キャアア!」
「もっと奥に詰めろ!」
目の前で人が殺される光景を見た市民に混乱が広がる。
「くそくそ! なんて数で来やがる!」
カズキはショットガンをポンプアクションではなく、セミオートにして連射しながら後ろに下がる。散弾をくらったエーテリアスは吹き飛ぶが、一体倒せばもう一体来るのだ。
「くそっ、弾が切れた⋯」
警備員たちの弾が切れた。彼らは警棒といった近接武器は持っていない。今、ここで戦えるのは自分たちしかいないということだ。
「警備員は下がれ! 俺たちで止めるぞ!」
「わかった!」
王明とカズキが奮闘していると、列車の音が聞こえる。
「最後の列車だ! 荷物置き場でも、連結部でも何でもいいから全員乗れ!」
最後の列車、これに乗れなければ死が待っているのみである。扉が開くと市民は一斉に乗る。子どもを上の荷物置き場に乗せ、少しでも多く乗れるようにする。
駅員も必死に押し込んで限界まで乗せる。窮屈だからなんだ。暑いからなんだ。不愉快だからなんだ。エーテリアスに殺されるよりはマシなのだ。
このままいけば⋯ギリギリ間に合う。
運が良ければ自分たちも乗れるかもしれない。そう考えていると、その希望を打ち砕くような存在が現れる。
「デュラハンだ!」
地下鉄の入口からデュラハンが侵入してきたのだ。
「こんな時にっ!」
せめて、ライアー小隊⋯いや、何小隊でも良い。軍人がいてくれればこんな状況、楽に切り抜けられはずなんだがな。
「弾を防がれてる!」
デュラハンの盾で弾丸を防がれる。他の小型エーテリアスもデュラハンの後ろに隠れてしまい、倒せなくなった。エーテリアスはジリジリとこちらに詰め寄ってくる。
ホームにはまだ市民と駅員がいるのに、もう喉元まで来ている。
「もう駄目だぁ!」
市民の泣き叫ぶ声が聞こえる。
「くっ⋯⋯うおおおお!!」
カズキがショットガンを連射しながら突撃する。デュラハンは横薙ぎに剣を振るうが、カズキはそれを前に倒れるように避けて、懐に入り込む。
懐であれば盾も意味なく、守るものは何も無い。
「くたばれぇぇぇ!!」
そして、超至近距離でショットガンを弾が切れるまで連射する。
「ギイァァ!」
放たれた散弾はデュラハンの体をズタボロにする。デュラハンは力なく倒れ、エーテル粒子となって消え去った。
「へっ、やったぜ!」
カズキは立ち上がる。だが、この勝利は束の間の勝利だった。
「カズキ! 後ろだ!」
振り返ると、そこにはもう一体デュラハンがいたのだ。カズキが最期に見たのは、冷たい剣先が自分に向かってくる光景だった。
ズシャア!
切断音と共にカズキの体が吹き飛ぶ。血が舞い、ホームの床に叩きつけられる。
「カズキィィ!!」
王明はカズキの元に駆け寄る。ホームを赤く塗るほどの出血量、そして大きすぎる傷、彼はもう既にこと切れていた。
「⋯⋯」
「カズキ! カズキ⋯⋯」
既に市民は全員電車に乗り終えた。ホームに残っているのはエーテリアスと自分だけだ。
「カズキ⋯頑張ったな」
王明は覚悟を決めた目でMMP34を構え、迫りくるエーテリアスに撃ちまくる。
「来てみろ化物!!」
正確な狙いでエーテリアスたちのコアを撃ち抜く。だが、多勢に無勢で弾薬も底をつき、ついに今まで共に戦ってきた銃も沈黙する。
「弾切れ⋯か」
はっ⋯終わりか。アベルとシュヴァルツ先輩は無事だといいが。あー⋯ゼレフの野郎も生きてるかな。まあ、いつかあの世で会えるか。
そんな、王明の背後で電車の扉が閉まり始めた。
子どもたちは泣き叫び、大人たちは王明たちの名を呼ぶ。
王明は無線機をオンにしてから、最期に出発する電車の方に振り返り、微笑みながら右手の親指を立てた。
「⋯⋯こちら、王明とカズキ⋯⋯任務完了だ」
その瞬間、エーテリアスの波が王明に襲いかかる。そして静寂が訪れた。
列車は新エリー都に向かって暗闇を進む。生き延びた。あの地獄から生還した。喜んでいるはずなのに、誰もが悲しさと悔しさを籠めた表情だ。
彼らはずっと、後ろを見続けていた。
ーーーーーー
王明(19) 巡査
アベルの同期であり親友である。旧都陥落時に中央部を担当し地下鉄に誘導して市民を避難させる。エーテリアスから電車を守る為に、最後の一発まで撃ち尽くした。エーテリアスの波にのまれ殉職。
虹谷カズキ(19) 巡査
アベルの同期である。旧都陥落時に王明と共に地下鉄に市民を誘導していた。地下鉄へと侵攻してきたエーテリアスと戦い、小型エーテリアスとデュラハンを倒す。しかし、もう一体のデュラハンの斬撃を受けて殉職。
エルリック・リー(23) 警備員
地下鉄の警備員。旧都陥落には市民を列車に誘導していた。最後まで職務を全うし弾切れになるまで戦い続けたが、ティルヴィング(寄主形態)に首を切られ殉職。