旧都陥落の日   作:IamQRcode

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安全圏へ

 

「⋯機動隊もやられたか」

 

「⋯⋯よく⋯頑張ったと思います」

 

 アベルたちはトラックで安全圏へと向かっていた。その道中で星宇と機動隊の最期の無線を聞いたのだ。阻止線を突破されたということは、大通りにエーテリアスが雪崩込んでくるだろう。

 

 星宇は相変わらず責任感が強いなぁ⋯自爆だなんて⋯⋯君の死は絶対に無駄にしない。

 

 アベルは溢れ出そうになった涙を気合いで押し留め、軽く深呼吸をする。

 

「⋯軍の増援はまだ来ていない。このままだと、エリー都陥落は免れないな」

 

 シュヴァルツは苦虫を潰したような表情で言う。

 

「だとすれば、できる限り多くの人を助けないといけません」

 

「だな」

 

 裏道を進み、ホロウの外へと少しずつ近付いてくる。道中の死体も増え始めた。市民に仲間の治安官、消火活動をしていたであろう消防隊員、命を助けまわった救急隊員⋯みんな、職務を全うして逝った。

 

「たった一夜でこうなるとは⋯⋯」

 

 アベルは後部座席にいるアキラとリンを見る。どちらも、相変わらず表情は暗い。

 

 彼らもこの一夜で多くのものを失ったのだろう。子どもなのに⋯けれど、命だけは奪わせはしない。

 

 ホロウの外へと向かって進んでいると、上空をヘリが拡声器で避難指示をしながら横切る。

 

「こちら、消防局救助ヘリ。生存者の方は立体駐車場屋上まで来てください」

 

「聞こえたな?」

 

「はい、立体駐車場となると⋯ここを右ですね」

 

 シュヴァルツがハンドルを切る。立体駐車場に続く道は、廃棄された車両が多くあった。その隙間をゆっくりと進んでゆく。いつ、どこからエーテリアスが襲ってくるかわからない。周囲を警戒しながら、立体駐車場の前にトラックを停める。

 

 入口には車が止まっており、屋上までトラックでは行けない。

 

「徒歩で行こう」

 

「ですね。アキラくん、リンちゃん、徒歩で行こっか」

 

「はい」

 

「うん」

 

 トラックを降りて周囲を警戒する。エーテリアスがいないことを確認してから、トラックの荷台を開けてアキラとリン、ボンプたちを降ろす。

 

「かたまって動こう」

 

「はい⋯アキラくん、リンちゃん、絶対に離れないでね」

 

 ゆっくりとできる限り足音を立てないように進み、エレベーターの前に着く。

 

「⋯くそっ、やっぱり駄目か」

 

 ボタンを押すがエレベーターは降りてこない。ホロウの影響で壊れているらしい。

 

「階段ですね」

 

 階段で屋上に行くしかない。二人はアキラとリンを背後にして守りながら、階段を上る。五階建ての立体駐車場であるため、そこまで距離はないがゆっくりと進むため長く感じる。

 

 なんとか三階まで進む。

 

 四階に上った時に駐車場の方から物音が聞こえた。アベルとシュヴァルツは物音がした方へと、拳銃を向ける。

 

「⋯エーテリアスだったら、背後を取られるのはマズイ」

 

 シュヴァルツはそう言うと、アベルに目配せをする。

 

「お前はアキラとリンを頼む」

 

「はい」

 

 シュヴァルツは拳銃を構えながら、駐車場へと向かう。アベルもアキラとリン、ボンプを後ろに下げる。

 

 薄暗い駐車場をシュヴァルツは進む。焼け焦げた車に死体、溶けた鉄骨が不気味に伸びていた。息を殺し周囲を警戒する。数秒⋯いや、数十秒か。無限とも言える時間が流れる。

 

「⋯⋯」

 

 どこだ⋯人間なら俺の姿を見て治安官だと安心するはずだ。つまり、あの物音はただ何かが倒れたか、エーテリアスかだ。

 

「ガァアア!!」

 

「っ!」

 

 突然、柱の影からサテュロスが現れる。手に持った標識でシュヴァルツへと殴りかかる。だが、それよりも早くシュヴァルツは拳銃を向け、サテュロスのコアに向けて弾丸を放つ。

 

 バァン! バァン!

 

 銃声が二回鳴り響きサテュロスが倒れる。

 

 銃声を聞いたアキラとリンは体を震わせる。

 

「⋯先輩、無事なら返事してください」

 

「おーう、大丈夫だ。柱の影に隠れてやがった」

 

「⋯この一体だけですかね?」

 

「だろうな。だが、銃声を聞きつけて来る可能性もある。さっさと、屋上に行こうぜ」

 

 再び警戒しながら階段を上り五階の屋上へと到着する。屋上では救助ヘリが止まっており、既に二人の市民が乗っていた。

 

「こっちだ!」

 

 ヘリの元へと駆け寄る。

 

「何人乗れる?」

 

「頑張っても四人が限界だ! そこのボンプは置いていく!」

 

 ボンプを置いてゆく。そう聞いた途端にリンは目に涙を溜め、ボンプを抱きしめる。彼らにとって、ボンプは家族のように大切な存在なのだろう。

 

「どうしても無理か?」

 

「人命優先だ! ボンプを乗せたら、あんたらは乗れなくなるぞ!」

 

「ならいい。もとから、俺は乗る気はねえよ」

 

「僕もです。ボンプを乗せてください」

 

「お前ら正気か!?」

 

 救急隊員は驚いた表情を浮かべる。

 

「いいか? 消防局は陥落し、軍の基地と治安局にもエーテリアスが大量に侵攻し陥落寸前なんだ! 軍は増援を寄越さない⋯俺たちは見捨てられたんだ! このゼロ号ホロウから、いち早く脱出しなければ死ぬぞ!」

 

 この救急隊員の言う通りだ。軍の増援はまだ来ない。ゼロ号ホロウにいる者は、見捨てられた可能性が高い。その上で救急隊員や消防隊員の司令塔である消防局は陥落、治安局も攻められ効果的な指令を出せないでいる。今、ここにいる者たちは己の意思でここに残り、助け、戦っているのだ。

 

「治安局はまだ陥落してねえ。仲間を見捨てて、逃げられるかよ」

 

「せめて、撤退命令が出るまでは市民救助をしないと」

 

「ヘリの燃料は限界だ。戻ってくるのは無理だぞ」

 

 救急隊の表情は険しくなる。彼の役目は差別せず、等しく命を助けることなのだ。例え軍人でも治安官でも救助対象なのである。それなのに、目の前の治安官二人は救助の切符を命なきボンプにあげようとしている。

 

 もちろん、ボンプだって大切な存在だ。だけど、今みたいな状況には優先順位がある。

 

「俺たちにはトラックがある。いざとなれば、地上から脱出するさ」

 

「⋯⋯わかった。さあ、君たちは乗りなさい。そこのボンプたちも」

 

 アキラとリン、そしてボンプたちはヘリに乗る。だが、二人の表情には喜びと同時に罪悪感もあった。

 

「アキラ、リン、気にすんなよ。別に俺らが死ぬわけじゃない」

 

「そう。だから、二人は助かったことを喜んで」

 

「アベルさん、シュヴァルツさん⋯⋯絶対に生きてホロウから脱出してください」

 

 アキラの言葉に二人は笑顔を浮かべる。

 

「おうよ」

 

「もちろん」

 

 救急隊員によって扉が閉められる。そして、アベルたちの方に振り返り、救急隊員は敬礼をする。アベルとシュヴァルツもそれに応えるように返す。

 

 ヘリのローター音は一段と大きくなり、機体はゆっくりと屋上を離陸する。強い風が吹き付けるが、二人は見えなくなるまでヘリを見ていた。やがて、ヘリは見えなくなった。あの調子なら問題なくホロウの外へ逃れただろう。

 

「さて、俺たちも動くか」

 

「はい」

 

 二人は立体駐車場を降り、トラックへと戻る。トラックの無線からは断片的に様々な無線が入り乱れていた。

 

「こちら、大通り方面! 大量のエーテリアスが侵攻してる! これを聞いた者は絶対に来るな!」

 

「こちら、空港方面⋯⋯最後の通信だ。最後の飛行機は飛び立った⋯空港はエーテリアスに完全に包囲されている。できる限り立て籠もって注意を引く⋯⋯じゃあな」

 

 エリー都は渾沌を極めている。だが、それでも諦めていない者が大勢いる。

 

「エーテリアスの主力は大通りか⋯その間に裏道を通れば、残された要救助者を助けられるかもしれない」

 

「急ぎましょう⋯恐らく、大通りは長く持ちません」

 

 大通りにはロバートとキャンベルがいたはずだ。エーテリアスが侵攻しているとなると、恐らく⋯⋯いや、こんなことを考えるのはよそう。僕もみんなも覚悟して、治安官になったのだから。

 

 トラックのエンジンをかけて裏道を進む。燃え崩れた建物や死体、壊れたボンプ、全てがこの都市の終わりを告げているようだった。

 

 それでも⋯

 

 まだ救える命があるのなら。

 

 まだ「希望」と呼べるものが残っているのなら。

 

 絶対に見捨てない。

 

 絶対に手放さない。

 

 絶対に諦めない。

 

 

 

 

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