「よ〜し⋯おいでおいでー。怖くないよ〜」
「先輩笑顔下手ですね」
「うるせーやい」
今、僕達は木の上から動けなくなった猫を助けていた。飼い主からの通報で「飼い猫が下りれなくなった」らしい。飼い主も木登りが出来ないため、僕達が派遣されたのだ。
「もうちょい⋯もうちょい⋯」
先輩が木に登り、僕は猫か先輩が落ちてきた時のために下で待機している。だが、先輩が落ちてきても僕はキャッチできるだろうか⋯いや無理だ。先輩が落ちてきたら避けよう。
隣では飼い主の男性が心配そうに見つめてる。
「シャー!」
「おう、暴れんなよ⋯暴れんな⋯よし捕まえた!」
「おー、流石ですね先輩」
「だろぉ? よーし、下りるぜ⋯どうわ!」
先輩が下りようとした時乗っていた木の枝が折れる。猫を守るように抱えながら硬いコンクリートに背中から着地する。2メートル程の高さとはいえ痛みはあるだろう。
「大丈夫ですか?」
「な、なんとかなぁ」
先輩は埃を払いながら猫を飼い主へと渡す。
「ありがとうございます!! 俺の大事な家族を助けてくれて!」
「大丈夫だ。次からは目を離すなよ」
「はい!」
飼い主は嬉しそうな表情を浮かべながら猫を優しく抱えて自宅へと戻ってゆく。僕はタブレットに報告書として起きたことを打ち込む。
「木の上の猫を助けて⋯シュヴァルツ先輩は木から落ちて背中から落下したと」
「おい! そこまで書くなよ」
「後で言われたら面倒くさいんで」
「可愛くない後輩だな」
タブレットに打ち込み終え、折れた枝を片付けてからパトカーに戻る。時間を見ればそろそろお昼時である。
「もう昼ですよ」
「まじかよ。週初めは早く感じるな」
「ですね。ご飯どうします?」
パトロール中にお昼をゆっくりと食べている暇はない。緊急の事件が入ってくる可能性もあるからだ。そのため、車内でも食べられるハンバーガーやサンドイッチ、栄誉バーで済ませるのが殆どである。
「そういや、近くにボンプがやってるハンバーガーのキッチンカーがあったな。そこに行くか」
「はい」
パトカーのエンジンを入れて目的のキッチンカーへと向かう。窓の外を見れば街には大勢の人が行き交っている。スーツを着込んだサラリーマンらしき人に同じ治安官、学校が早く終わったのか高校生の制服を着ている者やボンプを連れている人など様々だ。
「この光景を見てると、ホロウ災害が嘘のようだな」
「ですね⋯⋯何でホロウなんてあるんでしょうか」
「⋯神様が作ったのかもな」
「酷い神様ですね」
ホロウのせいで亡くなる人は大勢いる。このエリー都が出来るまでも大勢の人が亡くなったはずだ。きっと、亡くなった人たちには色んな未来があったはずなのに。
「俺等は神からすれば被造物だ。何して遊ばれようが文句は言えんよ」
「先輩は神を信じるんですか?」
「まあなぁ⋯いると思えばいるんじゃね?」
「適当ですね」
「そんなもんさ」
そんなもんか⋯そうだな。誰も神様の姿なんて見たこともなければ神になったこともないんだから。信じれば存在するという曖昧な感じで良いのかもしれない。
「おっ、見えてきた」
「まあ、並んでますがハンバーガーなんですぐでしょう」
少し列が出来てるがハンバーガーだから注文して出てくるまで時間がかかるということはない。ここで買って、パトカーの中で食べよう。
「買ってきましょうか?」
「んー、メニュー見たいから一緒に行くわ」
近くの駐車場に止めてパトカーを下りる。しっかりと鍵が閉まっていることを確認してから列の最後尾に並ぼうとすると、見知った顔が前に並んでいた。
「あっ、やっほトリガー」
「おや、アベルですか。偶然ですね」
トリガー⋯彼女は防衛軍のライアー小隊に所属しているスナイパーだ。幼馴染であり、元々は僕と同じ孤児であったがライアー小隊の隊長でもあるカロンさんに引き取られたのだ。
「今日はアンパンじゃないの?」
「いくらアンパンが好きでも、毎日というわけにはいきませんから」
「こんにちは、トリガーちゃん」
「こんにちは、シュヴァルツさん。アベルはしっかりとやっていますか?」
なんて質問をするんだ。こちとら、毎日頑張って色んな雑用やら仕事、先輩の代わりに報告書を書いているのに。
「おーう、生意気だけど優秀な後輩だ」
「それなら安心です」
「そう言うトリガーはどうなの。防衛軍に入ってかなり経ったけど」
「少なくとも狙撃の腕は向上してますよ」
「そう⋯でもまあ、気を付けてね。僕が言えることではないけどエーテリアスは危険だから」
人間に比べてとても強い。特にホロウやエーテルなんて人間にとっては害の塊だ。そんなホロウ内で戦う軍人の人たちには頭が下がる。
「わかっていますよ。そう言うアベルも気を付けてください」
「僕は人間相手だから大丈夫だよ」
「だからです。人間ほど恐ろしい生物もいないですから」
まあ、確かにエーテリアスに比べて知能も遥かに高いから手を焼く犯罪者もいる。だけど、エーテリアスより危険というのは言いすぎなのではないだろうか。
トリガーと話しているとかなり列が進んでいた。やはり、ファストフードは急ぐ人の味方である。
トリガーが注文してから僕と先輩も注文をする。
「チーズバーガーセットを一つ頼む」
「ナチョスチリミートホットドッグセットお願いします」
「ンナナ!(かしこまりました〜!)」
「バーガー屋なのにホットドッグかよ」
「大好物なんですよ」
ハンバーガーも好きだが、ホットドッグの方がもっと好きだ。パリパリとしたソーセージの食感とそれを包むパンがたまらない。
しばらく待っていると紙袋を渡される。中には頼んだホットドッグとポテト、アイスティーが入っている。うん、間違いはないな。
「それでは、私はこれで」
「ああ、またな」
僕らもパトカーに戻り昼食を取る。ポンプがやっているお店だがかなり美味い。ここは行きつけのお店になるかもしれないが、キッチンカーだから移動もするだろう。後で調べておくか。
「トリガーちゃん、元気そうだったな」
「ええ、スナイパーは負傷は少ないとはいえエーテリアスと戦っていますからね。心配ですよ」
「機動隊や治安官から軍人になってる奴もいるぜ?」
「⋯何が言いたいんですか?」
「近くで守ってやらなくていいのか?」
「彼女は十分に強いですよ。少なくとも僕よりは」
彼女は強い。仲間の為に必死に戦い、仲間が傷ついたら自分ごとのようにショックを受ける。戦える力を持っているのに自らに酔うことはなく、誰かを守る為に使える人間の強さは凄まじい。
「僕は治安官が性に合ってます。それに、僕が軍人になったら誰が先輩の報告書を書くんですか」
「へっ、生意気だな」
「でも、優秀でしょ?」
トリガーは軍人に助けられたように、僕は治安官に助けられた。だから、僕は治安官になって、かつて助けてくれた人のように僕も多くの人を助けたいのだ。
「大通りで事故が発生、付近の治安官は現場に行き対処せよ。繰り返す付近の治安官は対処せよ」
車載通信機から事件の報告が流れる。
「こちらシュヴァルツ、アベルと共に現場に向かう」
軍はホロウを消すために戦い。僕ら治安官は人類最後の生活圏であるこの街の治安を何者からも守る。それが、僕らの役割であり戦いなのだ。