いまだに渋滞が起き、避難民でごった返している大通りは混乱を極めていた。機動隊が守っていた阻止線からエーテリアスが侵攻して来たのだ。
「全員走れ! 車を乗り捨てて新エリー都に向かって走るんだ!」
このままでは、市民が殺される。そう判断したロバートは避難民に車を降りるように言い、走って避難するように指示した。
「荷物は捨てて早く逃げろ! 命を優先しろ!」
機動隊は壊滅した⋯SATや銃器対策部隊も市民救助中でこちらに来れない。なら、俺たちでこの大通りを一秒でも長く維持するしかない!
「ロバート!」
キャンベルが交差点の方から、こちらへと向かって走ってくる。
「状況は?」
「見ての通りだ! エーテリアスがこっちに向かって来てる! まだ、姿は見えないがいつ来てもおかしくねえ!」
「くっ、軍が来てくれれば」
軍の増援はまだ来ない。先遣隊も各地でエーテリアス相手に損耗し、治安官たちも殉職者が増えてきて、治安局は陥落しかけている。
軍の奴ら⋯⋯俺たちを見捨てる気か?
「とりあえず、市民を一人でも多く新エリー都に向かわせるんだ! 最悪、ホロウから出られればいい!」
「だな。ああ、そういや⋯これを」
そう言ってキャンベルはショットガンのSPA12を渡してくる。
「お前のは?」
「俺は射撃が下手くそだからな。お前が持っている方がいいんだよ」
キャンベルはショットガンのSPA12と、弾薬の入ったポーチを手渡してくる。
「念のために持ってきた12ゲージスチール弾。散弾じゃねえけど、エーテリアスのコアに当てりゃ一発だぜ」
弾薬ポーチを腰に付け、エーテリアスが現れたらいつでも戦闘可能状態にしておく。キャンベルも拳銃のE9の動作を確認して、いつでも撃てるようにしておく。
エーテリアスとの戦いは避けられない。そして、生き残れるかどうかはわからない。だけど―
「⋯朝日を見るまでは死ねねえな」
「だな」
「エーテリアスだぁ!」
誰かの叫び声が聞こえる。見ると、エーテリアスが少数ではあるがこちらに向かって来ていた。
「迎え撃つぞ!」
「ああ!」
迫りくるエーテリアスから市民を守る為に二人は銃を構える。
エーテリアスに向かって発砲するが、市民が混乱しながら逃げてくるため連射はできない。守る者が市民に弾を当ててしまえば、元も子もないからだ。
二人はそれでも、何とか避難民の間を縫って戦う。
「くそっ、下手って言ったそばからだ」
「落ち着いて狙え」
キャンベルは子どもを襲おうとしていた、エーテリアスに向かってE9を撃つ。放たれた9mm弾はエーテリアスの足に当たり、負傷したエーテリアスは地面に転ける。そして、狙いやすくなった所にコアへ撃ち込む。
「早く逃げろ!」
子どもは母親に連れられて、新エリー都に向かって走る。
いくら少数とも言えど二人だけの治安官で多くの市民を守ることはできない。何人かの市民は犠牲となってしまう。
悲鳴と銃声、燃え盛る街と崩れるビルは地獄を作り出す。
「ロバート! 二時方向!」
「くそっ、先遣だけでもこの量かよ!」
必死になって戦っていると、奥からトラキアンがやって来るのが見える。そして、手に持っていた槍を投げようとしていた。狙いはロバート、だが本人は気づいていない。
「ロバート!!」
キャンベルが叫んだ瞬間、トラキアンが槍を投げる。
「っ!」
だが、槍はロバートに刺さらなかった。ロバートが目を開けると、そこには胸部に槍が突き刺さっていたキャンベルが立っていた。
「⋯キャンベル⋯」
ロバートはありえないものを見るような目になる。
「⋯っごほぉ⋯」
「キャンベル!!」
血を吐きながら倒れるキャンベルに急いで駆け寄る。止血を行うが血は止まらない。
「へっ⋯へへへ⋯⋯やっぱ、防弾ベストと言えど限界はあるか」
「喋るな!」
ロバートの目に涙が溜まる。ずっと、一緒にいた相棒の命の灯火が消えようとしている。
「馬鹿野郎⋯何で⋯何で!」
「はは⋯泣くなよ⋯⋯お前の泣顔なんて見たくねえよ⋯」
「死ぬなよ相棒!」
「⋯バーカ⋯⋯無茶言うな⋯⋯それと⋯悲しむ暇はねえぜ⋯まだ⋯助ける人がいるだろ⋯?」
「⋯っ!」
⋯そうだ。まだまだ助けるべき人が大勢いるんだ。
「⋯ああ」
「⋯へっ⋯良い顔になったな⋯⋯」
ロバートは涙を拭い。覚悟を決めた表情になる。
「⋯あー⋯⋯悪いな⋯先⋯⋯逝く⋯わ⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯ああ⋯先に逝っててくれ⋯俺も追い付く」
俺も追い付くが、まだその時じゃない。せめて、一人でも多く逃がし、相棒を殺ったクソ野郎を殺さないと気がすまない。
キャンベルの目を閉じたことを確認してから、立ち上がってSPA12をリロードする。ポンプを引き、いつでも撃てるようにする。
「さあ来い化物共!!」
近付いてくるエーテリアスに向けスチール弾を撃つ。正確な狙いで放たれた弾丸は、エーテリアスのコアを次々と撃ち抜く。
「このクソエーテリアス共が!」
小型エーテリアスをほぼ掃討すると、二体のタナトスがやって来た。弓のようなものを使った遠距離攻撃と、近距離攻撃が特徴的なエーテリアスだ。
「っ!」
二体のエーテリアスに挟まれる。そして、同時にエーテルで作られた矢を放つ。ロバートは横に飛ぶように避け、車の間に隠れてリロードを行う。
車の窓から二体のタナトスを見ると、間にはトラキアンがいた。まるで、主人と主人を守る騎士である。
「あの野郎⋯三対一かよ卑怯者め」
胸の奥から燃え上がる怒りを抑える。三対一⋯不利だが、ここで引いたらキャンベルの死が無駄になる。冷静に戦えば勝てるはずだ。
真正面から挑んでも瞬殺されるだけだ。ここは、乗り捨てられた車が多くある。これらを、盾にして戦うしかない。
「⋯いくぞ!」
まずは、車の影から飛び出して、相棒を殺したトラキアンに狙いを定めて引金を引く。
ズドン!
弾丸は一直線にトラキアンの胸に当たるが、コアには当たらなかった。だが、コアに近いということもありダメージは大きい。
「もう一発だ⋯!」
ガチャッとポンプを引いて次の弾を装填する。だが、その隙をついてタナトスがエーテルの矢を放つ。寸前で倒れるように避けたロバートの腕を掠める。矢は後ろの車に当たり、ドアを吹き飛ばした。
「くっ⋯舐めんなぁぁ!!」
倒れる寸前に体を捻らせて、銃口の狙いを撃ってきたタナトスの頭部のコアへと向ける。そして、引金を引き放たれたスチール弾はコアを吹き飛ばした。
コアを吹き飛ばされたタナトスはエーテル粒子となって消える。
「「っ!?」」
エーテリアスに顔はないが驚いているように見えた。
その隙にロバートは再び車の影に滑り込み、素早く弾を込める。そして、匍匐前進で見えないように別の車の影へと移動する。息は荒く、視界はぼやけていたが、それでも彼は諦めなかった。
「キャンベル……見てろよ……!」
帽子を脱ぎ捨て汗を拭う。
タナトスは矢を構えトラキアンは周囲を警戒していた。
同じ手は使えない。奴らを分断、もしくはまとめて倒さないと⋯何か使えるものはないか。
周囲を観察しているとガソリン臭いことに気づく。どこからと思い、臭いの方向を特定するとタナトスとトラキアンの近くの車からガソリンが漏れていたのだ。
あれを爆破させればいいな。となると、火が必要になるな。
ロバートは自分が隠れている車の運転席の扉をバレないように慎重に開け、中から発煙筒を取り出す。そして、腰に付けていた警棒も取り出す。
チャンスは一度きり⋯失敗したら終わりだな。
自分から離れた車の窓に向かって警棒を投げる。警棒が当たった車の窓は割れ、盗難防止の為の警告音が鳴り響く。ロバートの目論見通り、エーテリアスはその音のした方向へと向く。
ロバートは音に反応したエーテリアスたちが一瞬隙を見せたことを確認すると、すかさず発煙筒に火をつける。そして、漏れ出しているガソリンの方向──タナトスとトラキアンの近くにある車の下へと、正確にそれを投げつけた。
「……燃えろ」
発煙筒がガソリンに触れた瞬間、激しい爆炎が炸裂した。
爆破はタナトスとトラキアン、車を吹き飛ばした。タナトスは車に潰され、トラキアンも窓ガラスなどの破片がコアに突き刺さり深いダメージを負う。
「―っ!?」
トラキアンは槍を杖に起き上がろうと顔を上げると、目の前にはSPA12の銃口を向けた、ロバートが立っていた。
「⋯じゃあなクソ野郎」
ズドン!
トラキアンは崩れ落ち、やがてエーテル粒子となって空中に消えていく。
静寂が戻った。
ロバートは立ち尽くしたまま、燃える街を見渡す。銃口からはまだ煙が立ち上っていた。
「……キャンベル⋯お前の仇は取った」
しかし、まだやるべきことは終わっていない。市民の避難は続いている。助けを求める声も、まだ後方から聞こえていた。
ロバートは痛む体に鞭を打ち、拳をぎゅっと握る。
「行かないと……まだ、終われねえ」
そして、再び歩き出した。崩れた瓦礫の間を、燃える車の隙間を縫って少し後ろに下がる。エーテリアスの侵攻をどうにかして止めるために。
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メイソン・キャンベル(19) 巡査
アベルの同期である。旧都陥落時に大通りで相棒のロバートと共に市民の避難誘導、及び交通整理をしていた。射撃が下手ながらも奮戦し、最期は相棒の命を守り、トラキアンの攻撃によって殉職。