多くの車が捨てられた大通り、ロバートは廃棄車両に背中を預け休んでいた。
先遣のエーテリアスたちは倒したものの、相棒を失い、多くの弾薬を使った。もう、大通りは維持できないだろう。だからといって、逃げるわけにはいかない。
何かやれることをするんだ⋯大通りは陥落する。
幸いにも大通りにいた市民は新エリー都に向かって逃げた。エーテリアスが来て、全員が逆に車や荷物を捨てたからだ。だが、流石に徒歩ではエーテリアス追いつかれるだろう。
あいつらの侵攻を遅らせないといけない。
治安局への増援要請は無理だろう。SATや銃器対策部隊も離れている。
ロバートがどうするか悩んでいると、ビルの隙間からリュクとライフルを背負った治安官が現れる。
「あっ、ロバート!」
「ヒロ! 生きてたか!」
ヒロは軍の基地前に建てられた仮設医療場の護衛にあたっていたはずだ。なぜ、こんな所に?
「基地はどうした?」
「⋯大型エーテリアスとそいつに操られた無数のエーテリアスの攻撃で壊滅した。治安官や救急隊は負傷者を乗せて、パトカーや救急車で逃げたけどバラバラだ」
「操られた?」
「ああ、大型エーテリアスに糸みたいなもので操られててな。人間くさい動きで基地に攻め込んできた⋯不気味な奴だったよ」
「そうか⋯基地は壊滅か」
「俺も逃げた⋯臆病者だ」
「いや、仕方がないことだ。誰も責めねえよ」
こんな状況で混乱せず、市民救助を行えているだけでも奇跡なのだ。軍でも対応不可のエーテリアスが現れて、そいつから逃げたことを誰が非難できるか。
「お前も大変そうだな。そういえば、キャンベルは?」
「⋯⋯殉職した」
「⋯そっか」
「だが、敵は討った。今はどうにかして、エーテリアスの侵攻を遅らせられねえか考えてるんだ」
「それなら、これが使えるかもしれない」
そう言ってヒロは背負っていたミリタリーバックからある物を取り出した。
「エーテル爆薬だ。普通の火薬のものと違って、何倍も威力がある」
「大通りを使い物にならなくするわけか」
「ああ、大通りはエーテリアスに制圧される。奪還も難しいはずだ。それなら、あいつらに活用されないようにするしかない」
「さっそく仕掛けよう。もうすぐそこまで来てるはずだ」
「その前にこれを」
ヒロはロバートに軍用のアサルトライフルとマガジンを渡す。
「逃げる時に持ってきた。使い方はわかるか?」
「ああ⋯お前に火事場泥棒の才能があるとはな」
「治安官には要らない才能だな」
二人は共に爆薬を仕掛ける。車やトラックの影に慎重に仕掛けて、爆発しないなどの不具合が起きないよう何度も確認する。
「⋯エリー都はもう終わりだな」
「⋯だろうな。多分、軍はもう来ない」
これだけ待っても軍の増援は来なかった。エリー都に残った治安官や市民は見捨てられてのだ。この街を捨て、新エリー都に希望を託したのだろう。
「こんな時に言うのもあれだけど腹減ったな」
「夕飯食べずに、動きっぱなしだから。まあ、腹が減るってことは生きてる証拠だよ」
爆弾を仕掛け終わると同時に奥から足音と人ならざる声が聞こえる。エーテリアスたちがやって来たのだ。
「よし、退こう。ここだと巻き込まれる」
「ああ」
起爆装置を準備し爆発の時を今か今かと待っていると突然、大きな音が聞こえる。その音は鉄と鉄が擦り合うような、不快感を覚える音だった。そして、その音を聞いたエーテリアスたちも動きを止める。
「何だ?」
ロバートは不思議そうな表情を浮かべ、ヒロは緊迫した表情に染まる。
「くそっ、あいつが来る!」
「あいつ?」
「基地を壊滅させた奴だ!」
ヒロがそう言った瞬間、背後にそいつが現れた。無数のコアを持ち、この世の生き物とは思えない造形を持ったエーテリアスだ。
足元には操られているエーテリアスがおり、主に従い二人に襲いかかる。それと同時に、侵攻してきたエーテリアスの軍団も二人との距離を詰める。
「迎え撃つぞ!」
軍用アサルトライフルを連射し、襲いかかってくるエーテリアスたちを迎え撃つ。治安官の使う拳銃やサブマシンガンと違い、威力は明らかに高くすぐに倒すことができる。
ヒロは操られているエーテリアスを、ロバートは侵攻してきたエーテリアスの軍団を相手取るが、やはり二人だと数の差は明らかで徐々に追い詰められる。
アルペカの液化弾がヒロの持っていた起爆装置に当たる。
「っ!? しまった!」
起爆装置は吹き飛び、エーテリアスの群れの中に落ちてしまう。あれでは起爆できない。また、今の攻撃で起爆装置が壊れてしまった可能性もある。
「ヒロ! こっちだ!」
「起爆装置が!」
「いいから! あれはもう無理だ!」
追い詰められた二人はトラックの上に登り、よじ登ってくるエーテリアスたちに弾丸を浴びせ、叩き落とす。
「ええい、数が多すぎるんだよ! こっちは二人だぞエーテリアス共!」
「どうにかできないか⋯」
どうやってここから逃げようか考えていると、基地を壊滅させたエーテリアスに大量のロケット弾が降りかかる。
「なんだ?」
空を見るとそこには一機の戦闘ヘリがいた。軍のヘリであり、基地から逃げてきたものだろう。ヘリの攻撃を受けた大型エーテリアスは、操っていた小型エーテリアスを解放して逃げてゆく。
「こちらエリー都防衛軍戦闘ヘリだ!」
二人の無線機に声が届く。
「助かった!」
「礼はいらん! それよりも、早くここから逃げろ! 俺たちのヘリも急いで発進したから、弾も燃料も殆ど無いんだ!」
「弾も燃料も無いのに⋯来てくれてありがとう。だけど、それは無理だ」
「大通りを爆発しなきゃならねえ。けど、起爆装置が壊れちまってよ」
「⋯ヘリにロケット弾はまだあるか?」
「っ!」
それを聞いた戦闘ヘリのパイロットは息を飲んでしまう。何をして欲しいか、わかってしまったからだ。震えた声でパイロットは応える。
「⋯5発⋯残っている」
「⋯十分だ。あのタンクローリーが見えるか? そこに爆薬を仕掛けてある。あれが爆発すれば、連鎖的に爆発するはずだ」
やはりそうだ。あの治安官たちは自らを犠牲にエーテリアスの侵攻を遅らせようとしているのだ。
「無理だ⋯俺はエーテリアスと戦うためにパイロットになったんだ⋯人は撃てない」
例え直接ロケットを撃ち込む訳ではないが、撃ったロケットのせいで誰かが死ぬ事実は変わらない。
「それは⋯悪いな。だけど、君が撃つことで多くの市民が助かる」
「それに、俺とヒロはもう脱出できない」
トラックの下には無数のエーテリアスが蠢いており、二人を殺そうとトラックに登ろうとしていた。
「⋯⋯名前を聞かせてくれないか?」
「俺はロバート・シュタインだ」
「如月ヒロだ」
「⋯必ず覚えて帰る」
パイロットは冷静に落ち着きながら、タンクローリーに狙いを定める。狙いを定める視界がぼやける。パイロットは無意識のうちに涙を流していた。
二人は無線機を全体に届くようにする。
「こちら、ロバート⋯大通りは陥落した。爆破しエーテリアスの侵攻を遅らせる⋯⋯みんな、後は頼んだぜ」
「こちら、ヒロ。同じく大通りの爆破を行う⋯みんな、頑張って生きてくれよ」
無線機をオフにする。
「ふぅー⋯キャンベルの奴、ちゃんと見てたかな。まったく、苦労したぜ」
「まあ、苦労話はあの世ですればいいさ。先に逝った王明やカズキ、マルコフや先輩方もいるだろ⋯⋯惜しむべきは酒の味を知らずに死ぬことだな」
「だな⋯」
パイロットは引金に指をかける。その先にいるのは敵ではない。
仲間だ。
ロケットが放たれ、タンクローリーに命中する。タンクローリーの中にある燃料が爆破し、その爆発に連載してエーテル爆薬も爆発を引き起こす。周りに仕掛けられた爆弾も爆発し大通りに爆音が鳴り響き、炎が舞い上がる。
爆風に巻き込まれたエーテリアスたちは四散し、砕けてエーテル粒子となる。
大通りに設置されていた車両も爆発の勢いで吹き飛び、炎と煙に覆われる。大通りには穴があき、使えなくなった。それはまるで、この場所が二度と使われぬよう封印されたかのようだった。
戦闘ヘリの中で、パイロットは言葉もなくその光景を見つめていた。ロバートとヒロの最期を、その勇気を、脳裏に焼きつけながら。
数十分後⋯
新エリー都に近い難民キャンプ。生き残り、疲れ切った市民たちが焚き火のそばで身を寄せ合い、ささやかな温もりを求めていた。
そこに、一機のヘリが降下する。中から降りてきたパイロットは、足をふらつかせながら医療班のもとに向かい、酸素マスクを手渡される。
「無事でよかった……」
誰かがそう声をかけるが、パイロットはただ黙って頷くのみだった。その目には、まだ炎に包まれた大通りの幻影が残っていた。だけど、やる事をやらねばならない。
「すまない。記録を取って欲しいんだが」
「記録ですか?」
「ああ⋯二人の英雄の記録だ」
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ロバート・シュタイン(19) 巡査
アベルの同期である。旧都陥落時にキャンベルと共に大通りの交通整理を行う。相棒を失うがエーテリアスの侵攻を食い止めるために奮戦する。途中で合流したヒロと共に、大通りに爆弾を仕掛ける。爆発に巻き込まれ殉職。
如月ヒロ(19) 巡査
アベルの同期である。旧都陥落時に軍の基地前の医療場で負傷者の護衛を行う。基地陥落後、軍の装備を回収して大通りに行きロバートと合流する。大通りに爆弾を仕掛け、爆発させエーテリアスの侵攻を遅らせる。爆発に巻き込まれ殉職。