旧都陥落の日   作:IamQRcode

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Ver2.0の予告番組良かったですね。楽しみです。


ネメシスの生き残り

 

 エリー都はもはや機能不全に陥っていた。辺りには乗り捨てられたパトカーや救急車、消防車がある。それは、街を守る者たちも既に限界を迎えている証拠でもあるのだ。

 

 先ほどまでは無線機から、仲間たちの声がずっと聞こえていたが、今では時折聞こえるだけである。殉職者の数も多くなっており、生き残りも少ないのだろう。

 

 アベルとシュヴァルツは街に生存者がいないか、探し回っていた。

 

「⋯銃器対策部隊とも連絡が取れなくなりました。恐らく、全滅したかと」

 

「そうか⋯」

 

 次々と治安官が殉職していってる。機動隊と銃器対策部隊は全滅し、SATも既に三割の人員を喪失した。装甲ドーザー隊も壊滅状態で、騎馬治安官隊は連携が取れず、バラバラで行動している状態だ。

 

『こちら治安局、局内にエーテリアスが侵入した! 出動中の治安官は局に絶対に戻ってくるな!』

 

 治安局の方も厳しい戦いを強いられている。

 

 この静かな時間、アベルは死んでいった仲間たちのことを考えていた。

 

 昨日まで喋って、笑い合っていた友人たちが死んだ。この夜で多くの命が消えた。

 

 ホロウ災害って、こんなにも恐ろしいものなんだな。

 

 アベルとて何度かホロウ災害を経験している。だが、これ程のものは初めてであり、仲間の喪失という初めての経験を一日で何度も味わっているのだ。だが、彼はもう涙は流さない。それは、死に慣れたからではない。仲間の死を決して無駄にしないという強い気持ちあってこそだ。

 

「アベル、大丈夫か?」

 

「あっ、はい。大丈夫です」

 

「本当か?」

 

「正直、少し疲れました」

 

 無理もない。未曾有のホロウ災害で、多くの友を失い、夕飯も何も食べず動きっぱなしである。心身共に疲れ果てている。それは、聞いたシュヴァルツも同じだ。

 

「でも、そんなんで止まれませんよ」

 

 疲れたという言い訳は通じない。今も仲間や生存者が、生き延びる為に戦っているのだから。

 

『こちら⋯⋯ネメシス小⋯誰かいないか! こちら、エリー都防衛軍ネメシス小隊! 誰かいないか!』

 

「先遣隊の生き残りか!」

 

「こちら、治安局市民救助隊! どうしました!」

 

『良かった! エーテリアスに囲まれている! 救援を要請する!』

 

「了解! すぐに向かいます!」

 

「反応は⋯こっから近いな!」

 

 シュヴァルツはトラックのスピードを上げる。声の様子からして、危機的状況であることは間違いない。 

 

 彼らは軍人ではあるが、この未曾有のホロウ災害ではもはや誰もが救助対象なのだ。

 

 

 

 

 

 エリー都 中心部付近 ネメシス小隊

 

 瓦礫や車を盾にし、ネメシス小隊の生き残りである二人は必死にエーテリアスの波を押し返そうと応戦していた。一人は狙撃手でもう一人は突撃兵だ。

 

 狙撃手は中型エーテリアスのコアを正確に撃ち抜き、突撃兵は近付いてくる小型エーテリアスを、ライフルで撃ち、軍用剣で斬り裂く。

 

「くっ、数が多い⋯」

 

「上層部め! 私たちを見捨てたか!」

 

 二人は文句を言いながらも、必死に応戦する。エーテリアスたちは二人を殺そうと自らの命も顧みずに、突撃してくる。

 

「ぐっ!」

 

 狙撃手にタナトスが近づき接近戦を仕掛ける。何とかコアをゼロ距離で撃ち抜いたが、自身も腕に怪我をし、その痛みと衝撃で倒れてしまう。

 

 突撃兵の男は前に立ち、庇おうとするが今ので完全に防衛線が崩壊してしまった。

 

「くっ、囲まれた」

 

「はっ⋯終わりね」

 

 先ほど無線に答えてくれた治安官も来ない。自分たちは何者からも見捨てられたのだ。

 

「僕がコイツらの注意を引く。だから、逃げてくれ」

 

「何を言って!」

 

「頼む! 時間がない⋯」

 

「くそっ⋯」

 

 そうするしかないのか。仲間を見捨てて、逃げるしかないのか。狙撃手の女の頭に、そんな考えが浮かぶと奥から何かが猛スピードでやって来る。

 

「どけどけぇ! 治安官のお通りだ!」

 

「先輩スピード出しすぎです!! 応援に来ました!」

 

 シュヴァルツの操るトラックがエーテリアスたちを跳ね飛ばしながら、レーサー顔負けの運転テクニックで目の前に後ろ向きに止まる。

 

「早く乗ってください!」

 

 アベルの言葉にハッとした二人は急いで荷台に乗る。

 

「出るぞ!」

 

 エーテリアスの包囲を脱出する。タナトスやアルペカが逃さんと液化弾や矢を放つ。流石に防弾仕様と言えど、エーテル攻撃をくらい続けたら危険だ。ネメシス小隊の二人は銃を構えて、こちらを狙う遠距離型のエーテリアスたちを撃ち抜く。アベルも窓から体を出し、拳銃で応戦しながら道を指示する。

 

「先輩! 次の道を右に!」

 

「おう! ちっ、ハティが追いかけてくるぞ!」

 

 後ろから二体のハティが追いかけてくる。

 

「私が仕留める」

 

 狙撃手の女性がスコープを覗き、息を整える。揺れる車内から動く敵への狙撃は非常に難しい。だが、彼女のトリガーに触れる手は決して震えていない。

 

「⋯そこ」

 

 ハティが重なった瞬間、彼女は引金を引く。弾丸は一体目のハティを貫き、後ろにいたもう一体のコアを破壊する。狙撃手はハティを同時に仕留めたのだ。

 

「やるな!」

 

「二人は休んでいてください。安全な場所まで向かいます」

 

 数分ほどトラックを運転し、エーテリアスの反応が見られない大きな倉庫に入る。民間の倉庫であり、大量の食料品が置かれていた。

 

 倉庫内で手当てを行い、四人は休む。

 

「間に合って良かったぜ。あんたら、さっきの無線のネメシス小隊だろ? 俺はシュヴァルツだ」

 

「ああ、助けてくれてありがとう。僕はネメシス小隊突撃兵のハヤブサだ」

 

「私はヴァルチャーだ」

 

「治安官のアベルです」

 

 四人は自己紹介をする。

 

「悪いな。もう少し早く駆けつければ、あんたら以外も助けられたかもしれないのに」

 

「いや、いいんだ。隊長や他のみんなは⋯ずっと前に死んだ。僕らだけがエリー都を彷徨っていたんだ」

 

 ネメシス小隊は中心部で市民救助の為に戦い、そして大きな損害を出した。隊長含め仲間は死に、二人だけでエリー都のエーテリアスを掃討するために遊撃していたのだ。

 

「アベルだったか、これを」

 

 ヴァルチャーがアベルに注射器を渡す。注射器を見て、アベルは一瞬だけ体を震わせる。

 

「エーテル阻害薬、あんたの負傷した腕からエーテル結晶が生えてる」

 

「えっ、あー⋯本当だ」

 

 腕を見ると、弾丸で負った傷から小さな結晶が生えていた。エーテル侵食が進むと、エーテリアスになってしまう。特に耐性のない人間は侵食スピードが恐ろしく早い。このくらいなら、まだ問題ないが念の為に阻害薬を打ったほうが良いだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 注射器を受け取り、阻害薬を打つ。これで、侵食スピードは遅れるはずだ。

 

 ヴァルチャーは打ったことを確認してから、話し始める。

 

「補給物資すら無い状態で、ネメシス小隊を含め、軍の先遣隊は殆どが全滅よ。満足して活動できているのはライアー小隊くらいね⋯⋯それでも、どれくらい持つかわからないわ。それと、恐らく軍主力は完全に撤退し上層部は増援派遣を打ち切ったわ」

 

「はぁ⋯やっぱりか」

 

 元々、こんなになっても増援が来ない時点で期待していなかった。だが、やはり本職の人間から言われるとショックは大きい。先輩は頭を抱える。

 

 見捨てられたのか⋯⋯信じてたんだけどな。

 

「治安官の状況は?」

 

「機動隊、銃器対策部隊は全滅しました。SATの被害も少なくないです。治安官の殉職者も多く、治安局はまだ機能を維持していますが、エーテリアスの侵攻を受けています」

 

 無線が偶につながるので、僕ら以外の治安官が全員殉職しているということはないだろう。だけど、やっぱり

 

「⋯どちらも厳しいな」

 

 治安局も軍もどちらも、もはや街を奪還できる状態ではない。軍は先遣隊が壊滅し、基地は陥落、治安局も時間の問題だ。

 

「だけど、大通りは爆破され使い物にならなくなった。エーテリアスの侵攻は大きく遅れているはずだ」

 

 そういえば、ロバートやキャンベル、ヒロとも連絡が取れなくなったな。基地陥落や大通り爆破からして⋯⋯多分、殉職したのかな。

 

 アベルは手に力を込める。

 

 一人でも多く助けないとな。

 

「できることをまとめるか。とりあえず、ライアー小隊の救助だな。それと、道中で出会えた場合は市民救助もだ」

 

「そうですね。先輩、弾薬は足りてますか?」

 

「おうよ。お前は大丈夫か?」

 

「⋯少し心許ないです」

 

 今、弾倉にある分含めて2マガジンしかない。警棒はあるが殴打ではエーテリアスを中々倒せない。ここは、民間の倉庫だから武器も期待できない。

 

「なら、これを使ってくれ。同じ45口径だ。あとこれも」

 

 そう言って、ハヤブサは拳銃のマガジンと二本ある軍用剣の内の一本をアベルに渡す。

 

「いや、受け取れないですよ」

 

 ハヤブサさんだって、さっきの戦闘で弾を消費しているはずだ。

 

「いや、僕にはまだアサルトライフルがあるからね。この剣は元々予備のものだし⋯それに、君は命の恩人なんだ」

 

「いいじゃねえか。お前、元々格闘戦の成績も良かっただろ?」

 

「⋯ありがとうございます」

 

「柄のスイッチを押せば、炎を纏わせられる」

 

 マガジンをベストのマガジンポーチに入れ、剣を腰の後ろに装備する。

 

「よし、行くか」

 

「はい」

 

 四人は立ち上がりトラックに乗る。

 

「アベル、頑張ろうぜ」

 

「もちろんです。お二人も付き合わせて、すいません」

 

「問題ない。元々、私たちは貴方たちに救われたんだから」

 

「ああ、それに仲間を助けず見捨てる者はネメシス小隊にはいないよ」

 

 夜は深く、瓦礫に埋もれた街並みはまるでゴーストタウンのようだ。時折、遠くで爆発音や銃声が響くたびに、アベルたちは表情を引き締めた。生存者がまだどこかで戦っている証だ。

 

 トラックのエンジンが再び唸りを上げる。アベル、シュヴァルツ、ハヤブサ、ヴァルチャーの四人を乗せて、再び戦火のエリー都の中へと走り出した。

 

 

 

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